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13、漆黒の宝箱

明日5/16(日)からは1日1話ずつ投稿します。

朝7〜9時の間に更新する予定です。




 いつものようにダンジョンから宝箱を運び出し、俺たちはギルドの地下室へ転移魔法で移動した。

 今回は漆黒の宝箱だ。形は一般的なものだが、どこから見てもすべて黒く塗装されている。


「今回は順番でいうとレイだな」


「よっしゃ! じゃぁ、開けるよー?」


 そう言ってパカリと真っ黒な蓋を開けはなった。


「あれ? 何にも起きな……うっわ!!」


 宝箱をのぞきこんでいたレイさんが、突然後ろに飛びのいた。漆黒の宝箱に全員の視線が集中する。すると、宝箱の側面からトロリと液体がこぼれおちるように、何かがあふれ出した。


 それは真っ黒なジェルのようなもので、プルプルと震えながらも俺たちに向かって来ている。動きは緩慢なので、あわてることもない。宝箱の体積に見合わないくらい、あふれ出たそれはやがてひとつの塊になっていく。こ……これは!


「これって……スライム?」


「そうみたいですね。しかし、ただのスライムだとは思えません」


「ふむ、ちょっと(つつ)いてみるか」


 そう言って、マリナさんがちょっとというか、かなり強めの一撃を黒いスライムに叩きこんだ。


「雷撃一閃!」


 バチバチッと躍り出る雷はスライムの表面をすべるように走り、地下室の壁へ飛んでいった。壁にぶつかった瞬間、爆音と共に弾けて消える。


「む、攻撃が効かぬ」


 ここでアカシさんが、スキルで鑑定を試みた。トラップ付き宝箱はかなり特殊で、俺たちの常識が通じない事なんてざらにある。だからスキルを使ってもダンジョンと違って効果がない場合も多々あるのだ。


神の鑑定(オール・アレイザ)


 アカシさんのピジョンブラッドの瞳が光り、黒いスライムを解析する。数十秒後、紅く光っていた瞳はそっと閉じられた。


「あー、ダメだ。コイツは視れない。レイ、試しに魔法打ってくれる?」


「了解ー!」


 鑑定ができないなら、いろいろと試してみる他ない。レイさんは「何の魔法にしようかなー」と楽しそうに魔力を練りながら掌に集めていた。


「んん、決めた! アイスドラグーン!」


 軽いノリで放ったとは思えないほどの、魔力を込めた氷の龍が黒いスライムに襲いかかる。

 だが、それもスライムの表面をツルリと滑り、今度は左側の壁に当たって氷塊を創り上げた。


「魔法も効かないな……」


 アカシがポツリとつぶやく。シェイドさんも難しい顔をして考え込んでいる。


「物理攻撃も魔法攻撃も無効ですか……」


「えー、そんなんどうやって倒すんだよー! もうさ、とりあえず飯食わない? オレ腹減った」


「そうだな、腹が減っては戦はできぬと言うな」


 そういえば、朝早くからダンジョンの攻略をしていて、お昼の時間はかなり過ぎていた。そこに意識を向けると、途端に空腹感に襲われる。あ、お腹すいたと思ったら、もうムリ。他のみんなも同じみたいだ。


「わかった、コイツは地下室に閉じ込めておいて、作戦会議しながらご飯食べようか」


「では、私が結界を張っておきましょう」


 シェイドさんが地下室へ通じる扉に結界を施して、俺たちは食堂へと向かう。食事当番も順番で今回は俺の番だ。ちなみに一番の料理上手はシェイドさんで、プロですか? っていうくらいの腕前だ。必ずおかわりしてしまう。


 そして、俺は調理場にこもり料理を始めた。マリナさんと約束したオムライスだ。

 食材をトレーに並べて下ごしらえをしていく。鍋を火をかけて、野菜スープを煮込んでいる間にチキンライスの調理にとりかかった。

 使う調味料は、胡椒、塩、それから————


 その時、バキバキバキッとイヤな音が聞こえる。

 うん? なんだ今のなにかが壊れるような音は? 振り向いたハルの目に入ってきたのは、ついさっき地下室に閉じもめて来た黒いスライムだ。

 プルプルと震えながら、ウネウネと形を変えまっすぐに向かってくる。


「っ! スラッ!! 何で!?」


 驚きのあまり、言葉がうまく出てこない。破壊音とハルの叫び声に、アカシたちが調理場に駆け込んでくる。


「ハル! どうした!?」


「って! なんでスライムがここいんの!?」


「くっ、結界も無効だったのか……」


「む、ハルが食べられる」


 マリナさんの声に一斉にハルは視線が向けられる。


「こ、これ!! どうしたらいいですか!?」


 俺は黒いスライムに取り囲まれていた。音もなく忍び寄り、気づいた時には真後ろにいたのだ。もう逃げるしかないけど、狭い室内で道は塞がれている。

 仕方なく背面のラックによじ登った。


「うん? あれ、食材が消えてる?」


 そこでスライムがテーブルの上の食材を、全て取り込んでいることに気づいた。どうやらこのスライムは食欲旺盛なタイプみたいだ。もしかして料理の匂いにつられて来たのか?


 その間も食材と次々と飲みこんでいく。ハルはますます追い詰められて、天井を背にして梁にしがみついていた。多分、暗殺者の俺でなければ黒いスライムに飲み込まれていた。

 俺が調理当番でよかった。みんなが無事でいられる。


「このスライム、食料を取り込んでます!」


「なんだ、コイツも腹減ってんのか?」


「とりあえず食料を与えてみますか?」


 ハルの決死の叫びに、アカシとシェイドがちょっとずれた答えを導き出している。

 その隣では、レイとマリナが食料をガンガンスライムに与えていた。次々と飲み込んでいくスライムは次第に体積を増して行く。


 ハルは限界だった。

 空腹で力が入らない。しかも、スライムが現れた時に手にしていた塩のビンも、まだ手の中にあるため梁をつかむ手に余計に力が入らない。

 さらにスライムが迫ってきて、梁をつかみなおそうとした時だ。塩が入っていたビンを手放してしまった。

 そのままスライムの上に落ちて飲み込まれてゆく。


 だが、そこでスライムの動きが止まった。


「キュ————————!!」


 甲高い声をあげて、スライムが小さくなっていく。


「え? 何? ……小さくなった?」


「ハル! 今何をした!?」


 アカシさんが鋭い視線を黒いスライムに向けている。


「今……塩を落としました」


「お前ら! 塩だ! 上からぶっかけろ!!」


 その言葉に、レイさんたちが黒いスライムに大袋ごと塩をぶちまけた。




「キュ! キュ! キュ————————……」




 最後はか細い声で鳴き声をあげながら、黒いスライムは小さくなり干からびて動かなくなった。

 まさか、塩が弱点だとは思わなかった。……ナメクジかよ。



 黒いスライムが干からびたので処分しようと手にすると、それは仮面のような形状になっていた。


「アカシさん、これ……鑑定できますか?」


「んー? んんん!?」


 アカシさんの瞳が紅く光って、俺の持つ黒い仮面をジッと見つめている。今度は鑑定できるみたいだ。


「これは『黒耀の仮面』だ! 売ったら5000万ゼルになる!」


「5000万ゼルですか!? そんなに……ちなみにどんな効果が付与されてるんですか?」


「これは魔道具だな。この仮面をつけると、相手が過去に犯してきた犯罪が視れるんだ。防御力は皆無だから売り一択だ。まぁ、国王なら即決で買い取るんじゃないかな? こういうの好きだし」


 そんな魔道具聞いたことないけど……トラップ付き宝箱から出てくる物って、本当に規格外のものばかりだ。次の宝箱……早く開けてみたいな……どんなものが入ってるのか気になる。



 ここにトラップ付き宝箱の魅力に気付いた冒険者が、ひとり増えたのだ。

 そして、この黒いスライムの討伐に成功したのも、ハルの幸運9999があったからこそだった。




     ***




「聞いたか? エレボスの塔もトラップが消えたんだってよ……」


 王都エスリンの酒場でいつもの冒険者たちが、酒の肴に情報交換を始めた。ネタは前回も話題になっていた、トラップが消えた謎に言及するものだ。


「はぁ!? あんな入るごとにトラップの場所が変わるダンジョンで!?」

「そうなんだよ、俺も自分の眼で見るまでは信じられなったよ」

「だから、そんなことできる奴いたか?」

「ユートピアが王命でダンジョンに潜ったって事しか……」


 そうなのだ。前回もやはりユートピアの話がでたけど、それ以上話が掘り下げられなかったのだ。



「もうさ、直接アカシさんに聞いた方が早くないか?」



 伝説級の冒険者を取りまとめる女大盗賊アカシ・パウエル。盗賊職の彼らにとっては、神にも等しい存在だ。それでも、確かめずにはいられない。一体誰が、こんな離れ技をやってのけたのか。



「次アカシさんが国王陛下に報告に来るのはいつだ?」

「それなら、オレが————」


                 

 ハルが『完全無欠の鍵屋』と呼ばれ始めるのは、この後のことだった。

                           

                               

                               

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