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11、エレボスの塔

 



「マリナ、次のダンジョンは塔だけど……どうする?」


「む……そうか、いや。大丈夫だ。もう克服している」


「そうか、じゃぁ、今回もよろしく頼む」



 いつもみんなが集まる食堂で、アカシさんが心配げにマリナさんに話しかけていた。

 次の目的地がわかったら、食堂で発表がすでに定着していた。つい先ほどその発表があったばかりで、俺も準備に取り掛かるところにあの会話が聞こえてきた。


「……? マリナさんエレボスの塔で何かあったんですか?」


「うーん、そうだなぁ、ちょっと調子悪くなる時があるんだ。詳しいことは本人から聞いてみな」


 レイさんに聞いてみたら、もっとな意見を言われた。

 そうだよな、勝手に何か聞きだすのはちょっとマナー違反だ。かといってそれを聞くためだけに、声をかけるのもなんだかなぁ……。

 気にはなりつつも、王都エスリンの西にあるエレボスの塔に向かった。




     ***



 エレボスの塔は8階建ての白亜の塔だ。フロアはそこまで広くはないが、入るたびに変わるトラップが厄介なダンジョンだ。

 一度攻略しても、その知識が次回に役に立たないのだ。塔に入るたびトラップに警戒しつつ、進まなければならなかった。



「この塔は最上階にボスがいるから、そこはノータッチで。マッピングはできてるけど、トラップの場所は入るたびに変わるから、ハルのスキルでどこまでできるか試してみよう」


「わかりました」


「はい、気配遮断」


「この塔は魔法を使う魔物がい多いので、マジックバリアもかけましょう」


「…………」


 レイさんとシェイドさんがいつものように下準備をしてくれる。だけどマリナさんがいつもより口数が少ない。

 ……ここで何かがあったんだろうか?



 エレボスの塔に入ると、白いレンガの壁に等間隔で明かりが灯されていてとても進みやすかった。


「あー、やっぱり前とはトラップが変わってるな」


「あの、アカシさんって何のスキルでトラップ探してるんですか?」


神の鑑定(オール・アレイザ)だ。このスキルは隠されているものも全部視れるからね。トラップ付き宝箱だけは詳細が視れないんだけど」


「あ、あのスキルですね……」


 最初に俺を鑑定したと言ってたもんな。だけど、そのスキルものすごく魔力使うって聞いたことがあるような……そっか、アカシさんだからできるんだろうな。

 最近はこの規格外のボスに、アカシさんだからと納得するようにしてる。


「知ってると思うけど人間にも有効だからな。私に隠し事はできないと思いな」


「はい、隠し事なんてしません」


 本当にとんでもなく恐ろしいスキルだ。俺は誠実に生きよう。うん、そうすれば問題ない。


「よし、まずはトラップ破壊しながら一周回るよ」


 途中気配遮断していてもたまに襲いかかってくる魔物はいる。匂いで感知する奴らだ。そういうのはレイさんとマリナさんが片付けてくれる。シェイドさんは常にバフの効果が切れないように魔法をかけ続けてくれる。


 本当に今までは雲の上の人たちだったので、いつもその力に圧倒されていた。俺なんて完全即死とトラップ破壊しか使えないから自信をなくす。

 せめて、俺の役割はしっかりこなそうと、アカシさんが見つけたトラップは片っ端から破壊していった。




「うん、これで一旦完了だな」


「一度外に出てみましょう。もう一度回って問題なければトラップ付き宝箱の回収ですね」


「それなら、ここから飛び降りる? 補助するよ」


「そうだな、それが手っ取り早いか」


 え、何の話をしてるんだ? 飛び降りる? 手っ取り早い? まさかとは思うけど————


 俺がマゴマゴしている間に、他の3人はポッカリ空いている窓からヒョイッと飛び降りていった。


「ほら、次はハルだよ。オレは補助するから最後なんだ。早く飛んじゃって」


「いや、ちょ、心の準備がっ! うわあああ!!」


 問答無用で窓から背中を押された。真っ逆さまに落ちていく。レイさんはニコニコしながら風魔法で補助をする。俺を押し上げるようにフワリと風が吹きあげた。

 やがてそっと大地に足を下ろす。


 レイさんを信用してないわけじゃないけど、ちょっと心臓に悪くない!?

 ニヤニヤしたレイさんが最後に飛び降りてきて、俺にポソリと呟く。


「いい顔してたな、ハル」


 くっ、レイさんに弄ばれた……イケメンだからって何でも許されるわけじゃないんだからな!!


「頑張ったから、コレやるよ」


 そう言って俺に渡してきたのは、好物のマカルミアナッツの入ったチョコレートだった。前にレイさんからもらった差し入れを食べてから、俺のお気に入りのお菓子になっていた。……仕方ない、今回は許すか。




 そして俺たちはもう一度1階から入り直し、もれがない確認していく。


「こっちは大丈夫だな……あとは、このフロアの北側————」


 アカシさんがそう言って振り返った瞬間だった。

 隣にいたマリナさんが壁にもたれかかろうとして、そのまますり抜けていく。俺は瞬間的に手を伸ばして、残っているマリナさんの手をつかんだ。

 そして引きずられるように壁をすり抜ける。最後にアカシさんの叫ぶ声が聞こえた気がした。




     ***




「うっわああああああ!」


「くっ!!」


 壁をすり抜けた俺とマリナさんは、そのまま斜傾しているツルツルした床を滑り落ちていく。つかんだ手を決して離さないように、力を込めた。

 やがでスピードはゆっくりになり、薄暗い部屋に放りだされた。


「いって!!」


 勢いがついていたので、思い切り尻もちをついてしまう。マリナさんは床を転がり、そのまま動けないでいた。


 え? マリナさん動いてないけど大丈夫か? いつもならあれくらいの衝撃なんてすぐに起き上がるのに。もしかしてケガでもしたのか!?

 あわててマリナさんに駆け寄り、声をかけた。


「マリナさん! 大丈夫ですか!?」


「……お願い、ひとりにしないで……」


 そう言って俺の腰に抱きついてきた。いつもはあまり表情も変えずに、高潔な武人のマリナさんだったので訳がわからない。


「あの……マリナさん? ひとりにしませんから、安心してください。ただ、これだと身動きとれないので、ちょっと体勢を変えてもいいですか?」


「いや……怖い……」


 うーん、困った。確かに怖いと言って震えてるから、無理やり離れるのもかわいそうだ。


「じゃぁ、手をつなぐのはどうですか? それなら俺も動けるし、側にいるってわかるでしょ?」


「……わかった、それでいい」


 しっかりと手を握ったら、ゆっくりと離れてくれた。それでも腕にはしがみつくように寄り添ってくる。ここまで怖がるなんて、余程のことだ。

 身体の自由がきくのでトラップ破壊を試みるが、今いる部屋には何もないのか効果がなかった。多分アカシさんなら探しに来てくれる。どこにいるかわからない以上は、動かない方が見つかりやすいか。


 マリナさんをみると、もう一方の手で膝を抱えて小さくなっている。


「あ、マリナさん、これ食べます?」


 さっきレイさんからもらったチョコレートだ。こんな時は甘いものを食べて落ち着くのがいい。もしかして、これも幸運9999のなせる技かもしれない。


「ありがとう……」


 半分渡したら、静かに食べ始めた。こんなマリナさんは新鮮だ。チョコレートを食べてホッとしたのか、いつもの様子を取り戻してきたようだ。


「ハル、すまない。ちょっとフラッシュバックにやられていた」


「フラッシュバックですか?」


「みな知ってるから、ハルにも話しておこうか————」

           

 そしてマリナさんは、俺にその過去の出来事を話し始めた。

                               

                                 

                                

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