10、勇者パーティーのダンジョン攻略③
「ここがベイラ遺跡か……父上の進言だったが……このような場所は私にふさわしくないな」
「そうですよぉぉ! そんな気味悪いところ止めましょうよぉぉ」
「でも、国王陛下からのお話であれば無視はできません」
「さっさと片付けて次に行こう」
霧の立ち込めるベイラ遺跡は昼間でも薄暗く、レイスなどのゴーストタイプの魔物もいるせいで、不気味な泣き声や叫び声も聞こえてくる。
前回のヘラクレート洞窟で苦戦したと父上の耳に入ったのか、次はここへ来るように指示されてしまった。いい加減父上も子離れしてほしいものだ。
兄上たちはすでに父上の元で政治的手腕をふるって、国の発展に役立っている。
私は第3王子ということもあって、勇者として国に貢献するように父上から役目を賜ったのだ。そのような特別な存在の私が、このような薄暗い遺跡など……早急にボスを倒して帰還したいものだ。
「来たぞ! レイスが3体だ!」
「ゴーストなら、私が行きます!」
ゴーストには僧侶の使う聖魔法が弱点だ。クララが両手に魔力を込めて魔法を放つ。
「ホーリーライト!」
神々しい金色の光が、天から降り注ぎレイスたちを清めていく。か細い女のような悲鳴を最後に消えていった。
これなら難なくクリアできそうだ。父上の進言は的確であるな。
「よし、これなら、問題なさそうだな。クララ、頼むぞ」
「はい! 任せてください!」
「なによ、クララだけ誉められてズルイ!」
ここでロザリーが頬を膨らませて拗ねてくる。どうやら私に褒められたクララにヤキモチを焼いたようだ。ふむ、今なら余裕もあるから相手をしてやってもよいな。
「何を言っている、ロザリーはいつも愛くるしいではないか」
「そ、それなら私は……?」
「ソニアはスタイルが良いし、剣の腕も立つからな。ずっと側にいてほしい」
ソニアとロザリーはジェレミーの両側からしなだれかかり、いちゃいちゃしながらクララの後をついて行く。そんな状態が2時間ほど続いていた。
「なんで私だけ戦って、他のみんなは遊んでるのよ!」
「あぁ、すまない。クララがあまりにも華麗にゴーストたちを倒すから見惚れていたよ」
文句を言わずに黙って倒していればよいものを……だが、このダンジョンで攻略の要となるのは確かだ。
「次はちゃんと手伝うよ」
「私も、炎魔法ならいけるかなぁ」
そして、遺跡の奥へと進んでいくが、余裕があったのは最初の方だけだった。
「クララ! まだ魔力は回復しないのか!?」
「さっき、無理して使ったからまだかかります」
クララが魔力切れを起こしてしまったのだ。魔力の回復薬は値段が跳ね上がるため、すでに散財していたジェレミーたちは2本しか用意することができなかった。
もちろん、すでに使用済みだ。
「あー、もう、炎魔法いくら打っても倒れないぃぃぃ!」
「一体ずつ順番に倒せばいいんだよ!」
ソニアがバラバラの敵に攻撃しているのを見て、苛立ちに声を上げる。
「まずは私の目の前にいるレイスからだ!」
勇者のジェレミーも聖属性の適性はあるが、まともに戦闘をこなしていなかったので、スキルが育っていない。聖属性で使えるのは初級の回復魔法だけだった。
「くっ! よし! 1体倒したぞ! 次だ!」
こうして、やっとの思いでボスを倒して宝箱を開けると、出て来たのはホーリーブレードだった。聖属性の付与がついた片手剣だ。
「このタイミングで出ても意味がないであろう! ふざけているのか!?」
髪は乱れ、いたるところで防具は壊れ、回復アイテムも使い果たし、やっと倒したボスの報酬がこれだ。
ジェレミーの苛立ちは募る一方だった。
「街へ戻るぞ!」
他の3人も、限界に近い状態でベイラ遺跡を後にした。
***
ベイラ遺跡からほど近い街にジェレミーたちは宿をとっていた。普通は勇者が来ればどの街も歓迎ムードで迎えてくれるのだが、この街は他の冒険者と変わらない対応だった。
そのことが余計にジェレミーの神経に触る。宿屋の女将にその苛立ちをぶつけていた。
「まったく何なのだ! この町の住民は第3王子で勇者でもある私が帰還しても、出迎えもないのか!?」
ジェレミーの剣幕に真っ青になっている女将は、誤解のないようにと街の現状を伝える。
「あぁ、大変申し訳ございません。今は冬支度に備えてこの街の男たちは山にこもっておりまして……女手だけでやりくりしているので手が回らないんです。本当に勇者様に来ていただいたのに申し訳ございません」
「そんな言い訳はいらん! 今すぐ私をもてなすのだ!!」
「は、はい……出来る限りのことを致します! 少々お待ち下さい!」
そして宿屋の女将は自分だけではどうにもならないと、領主の妻に相談した。領主の妻は街中の女たちにも協力を仰ぎ、出来るだけ多くのものに声をかけて宴を開くことにした。
限界まで食材を使い酒を用意して、翌日の夕方には全ての準備を整えて勇者一行を宴の会場へと案内する。
この街の住人たちはジェレミーたちに精一杯のもてなしをした。
「なんと貧相な……このような物しか用意できんのか!? 私は勇者であるぞ!」
「申し訳ございません、今の食糧事情ではこれが精一杯なんです。勇者様、どうかご理解いただけませんでしょうか?」
領主の妻が丁重に謝罪する。それでも、ジェレミーの目の前に並べられている料理や酒は、街中からかき集めて、その中から最上級のものを用意したのだ。精一杯のもてなしでは、満足できなかったらしい。
領主の妻は勇者様のためだからと、笑顔で協力してくれた街の女たちに、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
それでも、謝ることしかできない。なにせ相手はこの国の第3王子で国を救う勇者なのだ。
「なんていう街なのだ……勇者の帰還に合わせて食材くらい用意しておけ!」
「……申し訳ございません」
歯を食いしばり、深く頭を下げるしかできない領主の妻だった。
そんなジェレミーを見つめる眼があることに誰も気づいていない。
そして、密かに飛ばされる書簡が誰にわたっているのかも当然知るよしもなかった。






