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名探偵と一億円おにぎり

「うわあ!見てくださいよ。素敵な眺めですねえ」

 助手のマルコは窓に額を張りつけて、眼下に広がる大海原にため息を漏らした。

「マルコくん、君はじっとしていられないのかな」

「だって先生。一体どうして宝石みたいにきらめく白波に興奮しないでいられるでしょうか」

 通路を向かってくる添乗員にマルコは手を上げた。

「すいません、食べ物はあります?」

 帽子を目深に被った添乗員が頷いてバックヤードに戻った。

「マルコくん、じっとしていたまえよ。君がそわそわするとろくなことが起きない」

「ライス、オア、ブレッド」

 添乗員が平坦な口調で呟いた。

「どうしようかなあ、先生はパンにします?」

 二人はパンをチョイスした。すると添乗員が真っ赤な唇で微笑みながら、

「いいんですか?一億円あっても食べられなくなりますよ」

 と言った。それからくるりと踵を返してコックピットへ向かっていった。

「あれ、どういう意味ですかね」

 パンをかじりながら怪訝な顔でマルコが呟く。

「高級米を使ったおにぎりでも千円しないでしょう。せいぜい三百円とか、ね、先生」

「マルコ、少し黙っていなさい」

 先生は常客の身なりを仔細に観察している。金の指輪のマダムに、顎のシャープな大男。

「何ですか、じっとしているじゃありませんか」

「窓の外を見てごらん」

 言われた通りマルコが窓にへばりつく。

「えーっと。変わったことはありませんよ。小さな島があるくらいで。うわっ」

 突然足元が揺らいだ。二人は椅子にしがみつく。

 パンを運んできた添乗員のアナウンスが入る。

「デッド、オア、アライヴ」

 常客らはざわめき、悲鳴を上げた。乱高下する機体は凄まじい音をたててやがて軋み始める。

「マルコくん、さっきの答え合わせをしよう。これから我々が向かう、君の窓から見た小さな島々は恐らく地図に載っていない。つまり無人島だ。そこでは金は何ら意味を持たない。たかが米粒ひとつとっても、命よりも価値は重くなるだろうな」

「先生、これはどうなっているんです。飛行機が墜落していますよ!助けてください!」

「落ち着きたまえマルコくん。ボクもパンを最後の晩餐にするつもりはないさ」

 この会話の数分後、百余名を載せたジェット機のレーダーは、カリブ海上空でプツリと途切れた。

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