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六章【彼氏彼女と狂言廻し<Ⅱ>】

 活動報告でも報告しましたが序幕【彼氏彼女と狂言廻し<Ⅰ>】の文章の中で自分の中ではちゃんと変更していたつもりが、変更していなかった箇所がありその修正をしたことをお知らせします。

 「濃い色のスカート」から「濃い色のズボン」に変更しました。

 それと「無骨に実用性のみが滲み出でiるブーツ」という文章を追加しました。

 なおズボンの事をトラウザーズとプロローグで書いていますが、今後は基本的にズボンで、時にはトラウザーズ等の言葉を急に用いる事もありますがどうかお気になさらずに。

 さて、私がブラッドレイ卿より承りし課題、それはとある伯爵家のご子息とその婚約者の接待だ。場所は?残念ながらブラッドレイ家の本拠たる仰々しく堅牢な外観を誇るかのマナーハウスではない。

 とするならば他に所有する屋敷か?いやいや、他のブラッドレイ家の方々が住まう屋敷に招待するには、今回の接待は毛色が違い過ぎてダメだ。可能な限りブラッドレイ卿とその伯爵家に関係する以外の視線は避けなければならないのだから…ではどこで?

 フフッ、第六感のよろしい諸氏にならば薄々感付くだろう。

 そうヴィクター博士の工房を隠す為だけにとなっているマナーハウスで、件の接待をする事になった。これが本来の正しいお屋敷の使い方、つまり面目躍如という事でその日に備えて今日も今日とブラッドレイ夫人の指示の下、清掃という名のおめかしの真っ最中。

 では、今回接待するその伯爵家のご子息と婚約者とは?

 フィッツジェラルド伯爵のご子息、エリオット・ダリル・フィッツジェラルド。

 その婚約者であるマティルダ・ストレンジ。

 私は驚天動地!攻略対象と悪役令嬢の接待役を仰せつかったのだ!

 なので二人について、エリオットルートの説明だ。


 エリオットルートにおけるこの二人は、カムラン学園へ入学した段階で破局寸前のギスギスした二人で、エリオットに関しては優しく接すれば中世ヨーロッパ風ファンタジーの数多のヒロインと同じく堕ちる。問題はエリオットに執着するマティルダで、いかにして彼女の心をへし折るのか?が思いの外とても大変なルートだ。

 難易度はウィレムルートより難しい程度だが。

 何故かと尋ねられると既に両家はエリオットという少年を見放しているから、マティルダが諦めるか、諦めるしかなくなるのは幸いと、あっという間にエリオットの代わりを用立てて、どうぞさし上げますからさようならエリオットという流れになる。

 あまりにもそれはエリオットが不憫では?と思うが理由はあるのだ。

 ヘタレ、腰抜けで臆病者の三つ揃えのエリオットを鍛え直しつつ、上流階級へ仲間入りを定められたマティルダに礼儀作法を教える為の合宿が物語開始以前に行われた。だがエリオットは耐えられずに逃げ出し、最後のチャンスを自らの愚行で棒に振ってしまう。

 物語開始時点でマティルダと婚約関係が維持されているのは、マティルダの執着心が故。

 そしてこれは裏設定資料集にのみ書かれている話だが、マティルダの父親である…名前の詳細は設定されていなかったので分かりやすくストレンジ教授は、マティルダの男を見出す目が致命的に欠陥を抱えし節穴だった事に呆れ果てている。

 実はマティルダ自身に対しても最後のチャンスが件の合宿。

 ダメならエリオットは縁に恵まれなかったのだと諦める。そう最後通牒を受け取っていたにも関わらず、逃げ出したエリオットを庇うものだから、激怒してしまったが父が、母と兄の仲裁が無ければ縁を切っていた、と裏設定資料集に書かれている。


 長々と説明を語って聞かせたのは察しが良い者なら筆舌の必要も無く合宿をする場所が、陸軍の中将の所有するマナーハウスっておかしくない?という疑念を、胸の内に抱いているだろう。

 奇天烈な事に、フィッツジェラルド家とブラッドレイ家は犬猿の仲で出会えば拳と拳で謗り合う海軍と陸軍の名門という家柄同士でありながら、古くから馴染み深く交流があり、現当主でエリオットの父であるフィッツジェラルド伯爵は、ブラッドレイ卿を「兄貴」と呼んで慕っている。

 要するに兄貴と慕うブラッドレイ卿に、息子とその婚約者の今後を頼み込んだという訳だ。


「まあまあ!思っていた通りにカーラちゃんは引き締まる意匠の服が良く似合うわ。しなやかな筋肉で縁取られる健康的な、彫刻の女神像も裸足で逃げ惑う黄金比!迷うわ、本当に迷ってしまうわ!」

「奥様!でしたらこの次はあちらとこちらの!」

「いえ!意外性を求めるのが必要では?奥ゆかしさもしっかりと合わさると」


 心を虚空へ、さも第三の壁へ語りかける様に独白しながら、私はイーストウッド夫人と愉快な従業員達に、持ち込めるだけ持ち込んだ衣類を次から次の次へと着せ替えられる拷問に、ヴィクター博士の工房になり果てたマナーハウスの一角で耐えていた。

 上等な服に包まれることは男であろうが、女であろうが、少年であろうが、少女であろうが羨望し憧憬の念に焦がれる事だ。しかしそれは、自らの着たいという意思に突き動かされた時だけだ。

 着せ替え人形にされる事への喜びなんぞ、私の心境には1グレインも含まれていない。

 されども接待役を仰せつかったのならば、相応に相応しい身支度という道理がある。

 基本とするのがワンピースドレスであるが、飾り立てるレースやフリル、色合いの明度、重ねるジャケットの種類、細々と小物にと…一つ変えれば全てを一から振り出しに戻す。

 脱がされ、着せられ、また脱がされて…揉まれ。

 もう既に明確に時間を口にすれば一時間を通り過ぎて半も越えようとする頃合いだ。


「黒は…いえいえ、やっぱり普段は避けたがる明るい色合いが良いわね。軟弱者を寄せ付けない様こそ清純な色合いが映えるわ」

「顔立ちからは…ここはジャケットの色を空色などに?鳥さんのように凛々しいですから」

「それだと奥様、見せコルセットはお止めになった方がよろしいかと。古式に倣った肌着の上に着用で、流行の柔らかく伸縮性に富む素材を用いたコルセットを使いましょう」

「まあまあ良いわね!あと下着は可愛いので一揃えにしましょうか、外と内との差異は心が思わずキュンってしてしまうわ」


 フフッ、どうやら間もなくこの心労に恵まれるお着替えも終わりが近いらしい…いいや、女性のお着替えというのは、終わりそうになり始めてからが本番だ。あとは一塩で完成という一寸の寸前で新しい発想が蠢きだす。


「いえ、ここはもう少し…一から仕立て直しね」


 ほらね!

 まあいいさ、もう少し心を虚無にして思わぬ展開に胸をときめかせておこう。

 なにせカムラン校へ入学してからが本番だとろくろ首と張り合える程に首を長くしていた矢先、まさかのまさで、あちらからエリオットルートが舞い込んできたのだ。

 これぞ所謂棚から牡丹餅、私的には棚からマカロン……と浮足立っているのは危ういな。確かにブラッドレイ卿にはヴィクター博士を挟む形だが、私の前前世の記憶に関して伝えている。当然、【転生令嬢の成り上がり】につても包み隠す風呂敷を全て取っ払って、だ。

 つまりエリオットルートも聞き及んでいて今回の事だ。

 かのブラッドレイ卿がそんな甘く優しい口当たりのお膳立てをするのは、アレマラント人が酸っぱいキャベツを未来永劫、国民食から外すのと同じくありえない。

 何か多分に含みがある、そうでなければ思わせぶりな事を口にする筈の無い程に、あの御仁は合理主義の軍人思考だ。

 すると春休みと同時に始まる合宿は、波乱に満ち満ちた艱難辛苦が待ち構えていると断言出来るが、それはまだまだ先であり前準備を滞りなく終わらせる必要がある。

 されども気分は今から上々だ。

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