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二章【転生令嬢に至る為には<Ⅷ>】

 始業を知らせる鐘の音が聞こえたのは少ない荷物を全て、自分で定めた場所へ配置し終えた直後だった。

 さて、記念すべき一日目の始まりなのだが、廊下へ出るや否や見るからに『天上天下唯我独尊』と、顔に大きく書いて主張しながら不可思議にも私ではなく、待ち構えていた当人が目を丸くするという、奇行を行う少年が一人。

 まあ出て来たのが、思っていたより大きくそして、異様な外観だったから驚いた様子だ。


「おい、お前が新入りか?」

「フフッ、そうだよ。名前はカーラ・ケッペル、生まれはロンディニオンのスラム街、育ちはアルヴィオンの各地を、スリ窃盗置き引きと犯罪行脚、あれやこれやのそれやでここへ流れ着いたカーラさ。以後お見知りおきを、で?私にここまで言わせた君はだ~れだい?」

「お、おう……おっ俺は、イーサン・ホルバイン、養子候補の筆頭だ!」


 フフン、まくし立てるように自己紹介をしてやると、勢いに押されて次の言葉が口から顔を覗かせるのに随分とかかった。つまり咄嗟の出来事に対処するのが苦手、と考えられる。

 体格は良い、特徴的な大きく余裕を持った服装と、顔のほりは深く瞳の色は金だから…エァルランド人、いや少し瞳の色に濁りがあるから混血だね。髪色は特徴的で、鬱陶しく、忌々しい事に赤毛だ。あと重ねて言うが、面倒臭さを醸し出すボス面。


「それで、養子候補の筆頭が新入りに何のようだい?差し支えるから早々に教室へ向かいたいんだが?」

「要件は一つ、俺は養子候補の筆頭だ、なら挨拶に来るのが礼儀だろ?だのにお前は来なかった、どういう了見だ?」

「今知った、ここで聞いた、そんな規則は初耳だから挨拶にも行けない。以上だ、授業に遅れる、初日から遅刻の減点は大きいからそれじゃあ教室で」


 おっといけない、話の流れでそのまま行きそうだったよ。シスター・ヴェロニカの言っていた事はこれか、確かにこんな面倒臭いの塊がいるなら、常時部屋の鍵は掛けるべきなのは得心の行く話だぜ。

 ガチャリと音を鳴らして自室の部屋に鍵をかけて、私はそのまま教室の方へ…と思ったら進行方向に、イーサンの無駄に太い腕が…元孤児の割にはよく太った腕だね。


「おい!まだ話は終わってないぞ、いいかここでは俺が筆頭で敬うべきだ、分かるよな?」

「……分からないから教えてもらえるかい?金持ちなら、懐の財布がどれ位ふくよかなのか?で敬うけどさあ~」


 喜ばしくもない壁ドンだけど、確か本来の壁ドンは威嚇とかが目的だから、これは用法要領を正しく守った使用例か。品性の欠けた者を割と見て来たけど、これは初体験だ、勉強になる。

 ただ、それを教えてくれたイーサンは顔を真っ赤にしている辺り、中身は見た目通りの幼稚な男だ。年齢は私と同年代の割には、自分を自制するという発想がないのかな?私より少し上程度の体格はお飾りなのか?と、私が呑気に観察していると不機嫌な声が響いて来た。


「あらあら、そこのお二人、何をしているの?初日の授業が始まりそうなのにいない子がいたり、筆頭の割にマナーのなっていない子がいたり、このままだと体罰と体罰と追放のどれかだけど…どれが良い?」


 ハープの音色の様な女性なのに、口にするのは少々物騒なブラッドレイ夫人が、教鞭をバシン!バシン!としながら現れる。おお~怖い、恐ろしい恐ろしい~、私は割とあのディランとその腰巾着に叩かれて慣れているけど、恐ろしいねぇ~~。


「チェルシー先生!ごめんなさい、彼女が場所が分からずに迷っていたので探していて、今から教室まで案内するはずのところだったんです」

「あらあら、そうなの?それなら早くしてね、寄り道とか、しなくても良い気遣いとか、減点の対象だからね」


 ブラッドレイ夫人はそう丁寧に、噛み終わったガムを紙に包んで捨てるように言うと去って行った。あと、うわっ…て思う豹変ぶりだ、声色まで変わったぜ?トーンが二つ分くらい上かな?

 まあいいか、取りあえず案内するとか言った癖に、ブラッドレイ夫人がいなくなると筆記用具一式を抱えて、イーサンはスタスタと歩きだしているから、後ろをついて行って教室に向かおう。

 ただ……少し引っ掛かりをおぼえたのだけど。

 というのもだ、一応、現時点でこの程度の男が養子候補の筆頭、最初は自称とかその予定だと思っていたが、ブラッドレイ夫人の言葉から驚愕にも真実であると判明した訳だが、多角的な視点から見てトリスタン中尉と比べると雲泥の差だ。

 雲泥とか以前に国花たる薔薇と塵芥を比べるような事だ、つまり無意味。

 そう考えるとだ、アシュトン中尉という明確な見本を前にして、何故あの程度が筆頭になれるのか?今だけ?期間限定?いいや、それならアシュトン中尉から後ろが絶えるのは説明がつかない。

 辟易しそうな予感がして来た。

 この教室への扉を、開きたくなくなってきたがもう開いたから席に着こう、で私は席はどこかな?


「あらあら、もう20秒程遅れてくれたら体罰だったのに残念、カーラさんの席は一番右端、筆記用具一式と教科書は置いているから自己責任で管理してね」

「それはそれは感謝と感激だね、それじゃあ今日からよろしく、皆々様?」


 個室を与えられている成績上位者が8名、遅れる一歩手前で駆け込んで来たくせに、さも最初からいましたという、素知らぬ顔で座るイーサンを含めて9人の少年達に一瞥をして、私は自分の席に座る。

 10人もいたら手狭になる程度の広さしかない教室の一番右端、まあイーサン以外は年相応の背丈しかないから、私が前に座ると黒板を背伸びして見ないといけなくなるので妥当な位置か。

 さてそれでは筆記用具の確認を……おや、おやおや?これって羽パンだけど、何だかとても雑な作りをしている。下手な握り方だとぺきっ!といくぜ?もしかして私だけ…ではないようだ。

 筆頭を嘯くイーサンの握っているペンも、同じような粗悪品の羽ペン……いやいやいや、忘れていたがそう言えばつけペンは一般的に羽ペン、金属の部品を使ったつけペンは庶民にはお高い品だった。

 昨今は自由共和国から安価で金属部品を使ったつけペンが、労働者でも手の届く値段で入って来てはいるけど、以前のジェインの愛用品も安価な舶来品だったけども。

 まあ、本来なら上流階級だけど実質中産階級の家の感覚で、物事を見てはいけないね

 それにここは一応、救貧院学校だから支給される消耗品の値段は、一般よりも下でないとやり繰りに苦労する、粗悪品でも支給されるだけ天のお恵みだ。


「さて授業を始めるはね、そうそうカーラさん、教科書は貸出なので丁寧に扱ってね?あと授業に無関係な質問は即座に減点だからね」

「フフッ、心得たよブラッドレイ夫人」


 さてと内容は…数学だけど、幸いにも既に私は習っている範囲だね、幾ばくの遅れがある事は覚悟はしていたけど、予習復習だと思えば絶好の機会でもある。それと隣の部屋から声が漏れ聞こえてくる。

 ここにいる人数が10人という事から察するに成績毎に10人前後1クラスで分けてあるようだね、教室は全部で幾つあるかは知らないけど、30名がここで生活をしているのなら4つか5つの教室は確実にある。

 それはそうと、探偵ごっこは一旦終了して黒板に書かれた事をノートに書き留めようと、私は粗悪だけどたぶん一般からしてみれば十二分な紙に、件の羽ペンの先をインク瓶に浸してから……、


「あっ……」

「あらあら、初日から支給品の破損?減点対象だから折り過ぎないようにね、再支給するけどそれもまた減点だから」


 何と脆い!?

 軽く力を入れた程度で折れるとは!いや、心では適度だけど実際には相当な力を出してしまっていたね。どうにも、この仮組みの魔工義肢は力加減が難しい。

 工房で使っていたのはリハビリ用の、ヴィクター博士が用意した頑強なつけペンだった、対してこれは一般的な粗悪品で、だけどこの程度も満足に扱えないのなら、軍用の義肢として価値は無いと証明する事になる。

 私はブラッドレイ夫人から数本の羽ペンを受け取り、今度は細心の注意を払って、ノートへ黒板に書かれている事を書き写すが……クソ!また折ってしまった!

 シャーペンの芯か、この羽ペンは……。


 授業の内容を書き写す事に悪戦苦闘している間に、時間は砂時計のように過ぎて行き気づけば最初の授業が終了する。席を立ち移動する列を追いかけ次の授業でも、同じように羽ペンを折らない事に細心の注意を払う。

 授業を受けているのか、受けている授業の内容を覚える為にノートに書き写しているのか、黒板に書かれた事をノートに羽ペンを折らずに写す為にここにいるのか、さっぱりわからなくなるくらい、私は最初の半日から精神を摩耗し午前中の全ての授業を終える。

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