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二章【転生令嬢に至る為には<Ⅱ>】

 意気揚々と今後の予定を思い描きつつ、船酔いに耐え忍んだ船旅が終わったのは翌日。

 そこから今度はホワイト・シティまで駅馬車の乗り継ぎ旅となった訳だが、まあ目立つね普通に。

 手足が無いのだから。

 朝靄の立ち込めるケルト音楽の響いてきそうなエァルランドの原風景とだるま状態の少女……シュールだ。まあいいさ、今日中にはヴィクター博士の工房があるという、パトロンから貸し与えれれたマナーハウスに到着する予定だ。

 そこで仮組みの状態だとは言え、魔工義肢を取り付けが行われる。

 生身の感覚を完全に再現する義肢。まだ試作段階で触覚や圧覚だけ、部分的にだけ再現されている程度だが、ようやく自分の足で歩けるのなら仮組みでもありがたい。地獄で蜘蛛の糸だ。


 そう思いを馳せ完全に定位置となっているエドガーの膝の上で、今度は未舗装の悪路を突き進む馬車に揺られ、船酔いの次は馬車酔いと戦い続け数時間。お尻を悪路で打ち続けた末に辿り着いたのがホワイト・シティの郊外。

 静かに小鳥の(さえず)りだけが木霊する中に、ひっそりと建つマナーハウス。

 それはそれは立派だった。とても隣に立つヴィクター博士においそれと貸し与えられる物件じゃない。素朴で簡素な外観ながらも、細部に職人の誇りが素人目にもはっきりと分かる、二階建てのマナーハウス。

 これをあっさりと、平気で貸し合えてられるヴィクター博士のパトロンは、相当な資産家のようだ。


「ようこそクソモルモット、もしくは今日からここが新たな地獄の舞台だ、楽しみだな?」

「フフッ、それじゃあご期待に応えない訳にはいかないね。前回の地獄は個人的に物足りなかったから、とても楽しみだね」

「いい生意気っぷりだクソモルモット」


 フフッ、しかしだね、外観と内観の落差…酷くはないかい?

 埃臭い。それはもう埃臭い。

 何日っていう話じゃない、何か月もまともに換気されていない埃臭さ。少し歩くだけで埃が宙を舞って、口で息を吸おうものなら咽返り、ケホッ!コホッ!鼻で吸おうものならくしゃみが…くちゅん!?もうさっきからくしゃみが止まら―――っくちゅん!?


「おいクソモルモット、言っておくが意図して掃除をしてない。もしくは無人の屋敷が綺麗さっぱり掃除されていたら、不審丸出しだ。本命は地下、秘密にしておきたい事柄は地下と言うのが物事の基本だ」

「師匠、それは悪の秘密結社だと……」

「おい馬鹿弟子、錬金術師が奥義を暗号にしたら独り歩きを始めて疑わしい詐術に化けたような事を言うな。もしくは秘密は地下に隠す、財宝然り墓所然りだ。ロンディニオン校卒の秀才?」


 要するに工房は地下室と言う事…で良いのかな?

 だけどまあ、SF小説でも冒険小説でも、この世界でも確かに世界征服とかを目論む秘密結社や秘密教団は、大方が地下室に拠点があるのは共通しているんだよな~だから…何故ヴィクター博士が二階へ上がって行くのかが分からない。

 地下室へ行くなら一階のどこか、暖炉とかじゃないのかい?

 そして何で書斎?

 と、疑問に思っているとヴィクター博士は壁掛け時計の前で立ち止まり、ポケットから巻き鍵を取り出して、時計に差し込みネジを巻いた。すると壁掛け時計からカッコウが飛び出してざわめきだす。


「おいクソモルモット、前世の前世のが男だったのなら胸が熱くなる展開が始まるぞ?もしくはこの屋敷(マナーハウス)を作った奴は熱狂的なフェルマンの愛読者だ」


 どや顔でヴィクター博士が振り返るとゴゴゴッ、という地響きと共に壁掛け時計が壁の中にはめ込まれて行く!?そしてガチャッ!という音がすると今度は振り子時計が時を告げる際のボーン!ボーン!という低い音が響く。

 するとまたまたゴゴゴッ!という音が響き、壁掛け時計が壁にはめ込まれた場所が二つに割れ、中から回転し動く無数の歯車が!次第にそれも左右に割れて行き地下への階段が現れる。

 秘密の扉が開ききると、ヴィクター博士は壁に掛けられているカンテラを手に取り、マッチで火を点ける。


「それでは馬鹿弟子、足元に気を付けてついて来い」

「はい師匠。それじゃあ行くよカーラ」


 目の回りそうな螺旋の階段を降り切ると、再び扉が。

 ただし今度の扉はさっきのような隠し扉!という物ではないらしい。その代わりに、ダイナマイトどころか大砲の直撃にも耐えられそうな堅固な、そして堅牢な扉だ。秘密を隠す為ではなく秘密を守る為の扉。

 何だか浪漫に溢れるね!さあこの奥にヴィクター博士の工房があるという訳か。

 ヴィクター博士はポケットから今度は複雑な細工を施された、目の前に扉がなければ鍵とは認識出来ない、奇妙な鍵を取り出す。それを目の前の、鍵を持っていなければ鍵穴とは思えない彫刻の部分に差し込み、捻る。

 するとガチャンッ!音が響いて扉が開く、開くが……地下室だけに扉が開いても中が真っ黒で、カンテラの灯だけだとはっきりと分からないね。分かるのは地下室と言うより地下空間という広さを、薄っすらとだけ感じられる程度だ。

 

 「おいクソモルモット。灯を付けるがかなり眩しいから、目をやられないようにしろ。もしくは一度瞑れ」

「どういうい――のわっ!?」


 眩しい!閃光だ!一瞬、目を瞑るのが遅かったら目が駄目になるところだった。

 だけどこれは……電球?驚いた。

 自由共和国の方で白熱電球が発明されたというのは、新聞で知っていたが実物を見るのは始めてだ。

 アーク灯ならロンディニオンを歩いている時にチラッと見かけた、真昼間だったが。

 しかし近くに電柱や電線あったかな?無かった。地下室のどこかに発電設備でもあるのかな?それと白熱電球と言うのは、LEDより明るさで劣るというイメージがあったけど、予想以上に眩しい!?


「おいクソモルモット、もう目を開けても良いぞ。もしくはお休みの時間か?」

「いいや、何分白熱電球は時雄の記憶だと骨董品、ジェインだと異国の発明品で、その灯は上流階級の特権だったからね。フフッ、しかし思いの外、明るいね?」

「イヒヒヒッ!クソ忌々しい自由共和国の訴訟家が改良した、という点を除けば実に素晴らしい文明の利器。部屋の隅々まで埋め尽くさんとする光量は、新時代を告げる福音だ!数年内には電力会社が乱立し、普遍的な灯になるだろうな!」


 白熱電球によって露になった地下室は、やはり地下空間だった。

 それも何も知らされなければ地下室だとは思えない。よく地下の部屋と言えばもっと無骨、地面剥き出しか床は石造りというのが相場。しかしこの地下空間はホテルのロビーのような立派な造りをしている。

 入り口前のエントランス、奥へと続く二つの道と左右に三つずつの扉。

 奥へ行くと先程の入り口付近と似たような空間が、違いは突き当りには大きな扉が一つ。流れからしてあそこがヴィクター博士の工房という事か。どうやら上のマナーハウスはここを隠す為に存在している、というのも明らかにこの空間から感じられる質感は、上の建物よりもずっと古い。


 そしてエドガーに抱き抱えられながら私は工房の中へ。

 するとまたまた光景は一変した。

 洒落たホテルのエントランスのような佇まいはどこへやら、端から端まで徹底して、けたたましい笑い声を上げ蒸気香るマッドサイエンティスト然とした光景が、目の前に広がっていた。

 壁中には私の無くなった部分を埋め合わせるように取り付けられた接合部の、特に重要ではない外装などに使われている廉価魔法合銀(ブリキル)が使われているであろう。仮組みの魔工義肢が幾つも飾られている。

 ただしそれらは明らかに、ざっと見ただけでも未完成の、お粗末な物だというのが一目で分かった。

 中身が空っぽのブリキのジョウロ、もしくは中身がほじられた後の空っぽの甲殻類……いや流石にこの表現だとヴィクター博士が機嫌を損なてしまうね…適当な表現になると…ああ!ブリキ細工の、ガラスの包みの無いティープレスだね!

 その中を白金色の鉄線が幾つか機織り機のように通い、複雑に入り組む歯車やその他の部品がとても良く観察できる、つまり中身が丸見えなのだ。

 たぶん強度面は問題ないと…思いたい………強度、足りてる?

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