表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/101

二章【転生令嬢に至る為には<Ⅰ>】

「ねえエドガー、次のページ」

「カーラは読むの早いね。読めない単語があったら聞いていいんだよ、これでも僕はロンディニオン校卒の秀才だからね!」

「そいつは凄い!フフン、ただ私は諸事情で速読が得意なんだ。流石に目にも止まらなぬ速さで開かれたら読めないけど、新聞なら数分で読み終えられるぜ?」


 二日程で私の体調は万全になったと自己判断をし、それが本当なのかホーエンハイム先生か注意深く診察を行い、長旅に耐えられると診断を下しその日の内に旅支度を終え、ヴィクター博士のパトロンが手配したエァルランド行きの船に飛び乗ったのが、昨日の夜。

 ホーエンハイム先生は私の様態がこれ以上急変しないと確信して放浪の旅を再開、なんでも本来の用事を済ませる為に、ロンディニオンへ向かうとの事。

 なのでエァルランドへは行くのは私、ヴィクター博士、そしてエドガーの三人。

 今私がいるのはエァルランド海を突き進む貨物船の船内。客船ではないので、まあ揺れる揺れる。慣れていないとあっさりと、胃の中の物を床中に広げてしまう状況だ。

 幸いにして、私の三半規管は強靭だから耐えられているが。ただ…こうゆったりとする時間があると、改めて自分の状態を実感出来る。


 かつて手足があった所に取り付けられた器具。

 肩の付け根と膝の付け根より少し上には、黒鉄色のようでありながらどこか、銀のような光沢を放つ不思議な、黒銀色の金属で作られた器具が取り付けられている。金属だけに重い、と思っていたら存外に軽い。冬に着込む防寒具程度にしか重さを感じないのだ。

 エドガーが言うには重要な部分は魔法合銀(ミスリル)という特殊な金属で、それ以外を廉価品のブリキのような質感を持ち、普通の金属よりも圧倒的に耐久力のある廉価魔法合銀(ブリキル)で作れているらしい。

 なので軽い。生身の手足と変わらない、違和感を感じない重さ。


「カーラ、次の新聞は…やめた方がいいよ?ここ一週間で発刊された新聞で…内容が内容だから」

「ご都合で内容が二転三転する低俗紙かい?いいよ、私がそうするつもりなら、まずは安い早い信用ならないの低俗紙を使うぜ?大衆紙以下の大衆紙でも、噂話を広めるには勝手が良い」


 船内にため込まれている露骨で下品で、大衆の目を引き付け為だけに、品性をかなぐり捨てた表紙の新聞を手に取りながら、エドガーはやめた方が良い言うが、私はもう慣れてしまった。

 船に乗り込むまでの道すがら、まあ酷かった。

 誰もが口を開けば楽しげに『ジェインは悪魔の申し子』という話題で花を咲かせていた。新聞や途中途中で聞き耳を立てた内容から察するに、事件直後は身元が身元だけに高級紙は慎重に取材を進め。

 大衆紙は出来るだけ早く発刊しようと出来るだけ丁寧に、低俗紙は勇み足でその日の内に、最初は私を庇う声もあったらしいが、二日、三日、高級紙とラジオ放送と重ねるうちに『ジェインは悪魔の申し子』『キャスリンはその家の善き令嬢』という印象が固着した。


 唯一の幸いは、写真を撮られると魂が抜き取られる!?という時代錯誤な迷信を信じるディランとキャロルの両名の計らいで、私やキャスリンの写真は一枚もない。なので新聞に掲載されるジェインは『え?ゴブリン?オーク?』みたいな顔に、いやー本当に笑えて来たよ。

 まあそのおかげなのか、キャスリンは上手く流布される印象を操作をして、私の築き上げた評価を根こそぎ自分の物にした訳だが。

 ただし!同日に起こった強盗殺人事件、私まったく関係ないだろ!

 まったく、そんなんだから発祥の地である自由共和国では黄色新聞、手法が輸入されたアルヴィオンでは低俗紙と呼ばれるのだ、ただ何で本場だと黄色と呼ばれているのかは分からない。

 今度、暇があればエドガーに聞いてみよう。


 さて、話を戻すがするとだ。

 キャスリンは五歳のあの冬の日に前世の記憶が蘇った。ホーエンハイム先生の話を参考にすると、キャスリンは前世の人格が上書き、侵食されてもうこの世にはいない。

 まったくの別人。別人格と言う事になる。

 その上でキャスリンはこの世界が【転生令嬢の成り上がり】の世界だと認識し、逆ハーレムエンドを目指している。

 ではここで問題となるのは、何時からなのか?

 何時からジョナサンとロベルタと結託し、ジェインを殺す算段を付けていたのか?

 短絡的に考えれば最初から。

 あの二人との出会い方はゲームと大幅に違う、なら六歳の時点で既に計画されていたと考えるのが自然ではある……いや証拠がない。この世界がゲームそのものなら断定は出来るが、あくまでゲームによく似た同質だが同一ではない世界。

 まあそれが免罪符にはならないがね、あの二人へ復讐する流れは変わり様がない。

 

 次に問題になるはキャスリンはどの時点から攻略を開始するのか?

 舞台となるカムラン校へ入校してからなのか?それとも既に攻略対象へ接触しているのか?もしも後者なら私は詰んでいる。

 となると、この時点で知りうる情報を整理しよう。


 まずこの世界は【転生令嬢の成り上がり】と同質の異世界。

 既に攻略されたジョナサンを含む5人の攻略対象と結ばれる為に、既に排除されたジェインを含む5人のライバルである悪役令嬢を陥れ必要がある。


 攻略難易度から順に。

 まずはエリオット・ダリル・フィッツジェラルド。

 父親は帝国海軍大佐でフィッツジェラルド伯爵スティーブン・アダム・フィッツジェラルド。エリオットは、フィッツジェラルド伯爵の三男で子犬のような可愛らしく、幼さの抜けきれない気弱な少年だ。

 彼のルートでの悪役令嬢は、一歳年上の婚約者マティルダ・ストレンジ。

 父親はオクサンフォルダ大学で教鞭を振るう教授、母親は植物学を研究する学者で植物園に勤務する。つまり学者一家の令嬢だ。なので気が弱く腰が抜けているエリオットに対して厳しく接する。

 

 次はウィレム・リュフト。

 このキャラクターに関してシナリオのボリューム不足、説明不足で不明瞭な点が多い。分かるのは移民で父親は貿易会社の社長、知的で温和、紳士然とした面立ちの少年という説明だけだ。

 このルートでの悪役令嬢はシンシア・ヘイゼル。

 帝室御用達(インペリアルワラント)のジャムを製造するアルヴィオン随一のジャムメーカー『ヘイゼル&バートン社』の令嬢で、ゲーム開始時点では多額の負債を抱え、秘伝のジャムのレシピだけを頼りに生計を立てる没落令嬢だ。

 このルートでは、シンシアからジャムのレシピを盗めば即攻略と言う事から、最も人気のないルートで、ウィレムの影の薄さも相成ってジョナサンと不人気首位を争っている。


 次は最も人気のあるキャラの一人、ハロルド・オーウェン。

 エァルランドの北側に住む準男爵(バロネット)のにして大地主一族の長男。父親は皇太子の親友で騎士爵(サー)の称号を与えられ、アルヴィオン人に反感を抱くエァルランド人から、絶大な信頼を寄せられるクエンティン・オーウェン。

 ハロルドは大地主の息子だが異端にも根っからの百姓気質な人物で、筋骨隆々な若者だ。

 そんな彼のルートでの悪役令嬢はレンスター公爵メイナード家の令嬢フィオナ・マージョリー・メイナード。

 ゲーム内随一の美少女で『白銀の氷像』と称されているが、自分の人生は家の為にあると人生を諦めてはいる。それでも幼い頃にハロルドと将来を誓いあっている。


 そして最後は最も攻略が難しいこのアルヴィオン連合帝国の皇太子の第二子。

 フレデリック・アンソニー・フィリップ・ルイ・アルトリウス。

 王子然とした美男子で頭脳明晰、文武両道の秀才とまさに乙女ゲームの花形『王子様』である、まあ実際は皇子が正しい。

 彼のルートでの悪役令嬢はこれまたすごい身分の人だ。

 若きエァルランド大公の長女にして人狼の姫。

 リサ・アイリーシュ・アルスター公女殿下だ。

 ゲーム内では設定だけされて特に生かされなかった人狼族の姫で、フレデリックとは違う意味で公女然とした少女。

 ただし婚約はカムラン校へ入学する直前だ。


 以上がゲーム内での攻略対象と悪役令嬢だが……まあ八歳からの干渉はほぼ不可能だ。

 いくらロンディニオン銀行の創業家の令嬢でも、本家というだけで先代総裁から『ディランに継がせるくらいなら本家は断絶させ、分家であるヴィンセントのフロスト家を本家とする』と遺言を残す程に信頼されている人の娘だ。

 門前払いどころか門前に行きつく前に祓われるのは自明の理。

 ならばキャスリンは前者。

 カムラン校へ入学してから動くしかない。


 それにだディランの経済状況、ウィン=リー家の財力を鑑みればまず、入学金を用立てるのに腐心しなければならない。私立学校(パブリックスクール)の学費は高い、カムラン校は特に高い。

 政財界の重鎮、歴代首相、高級将校に各界の重鎮、国を動かす重要な立場を任せられている者を数多く輩出した実績と、その為の教育機関としての側面から、他の私立学校(パブリックスクール)と比較しても学費は高い、文字通り目玉が飛び出る、いやそれを越えて弾け飛ぶ。

 だからキャスリンには入学金を用立てる時間が必要だ。

 それは転じて私への追い風となる。

 エァルランドにあるヴィクター博士の工房で義肢を取り付ければ終わり!て訳じゃないからね。それどころチュートリアルの最中、長い長いリハビリが待っている。

 まずは日常生活に戻る。そこから更に新しい戸籍を得て学校に通い、結果を積み重ねつつ金策に励まないといけないのだ。

 今の私には時間の猶予は、金塊よりも価値があるという事。

 そうだとも、私は復讐の為にカムラン校へ入学する必要がある。キャスリンが目的とするのがそれだというのなら、徹底して妨害をして破滅へと導く…アッハハハハ!目指せ、断罪エンド!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ