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 久しぶりに、自分の生まれた屋敷に戻ってきた。

 豪邸と云う程ではないが、家族と使用人を住まわせても、パーティーをするには充分な広さがある。

 父が生きていた頃には、何かと云うとパーティーを開いて今はひっそりとしているこの屋敷も、ずいぶんにぎやかだったと記憶している。


 俺は今、使用人の女性に客間に通されていた。

 母が、入ってくる。

「あら、マルセルさん。1人なの?」

「彼女はまだ夏休みに入ってませんから……」

「客間で待っているって聞いたから、アリスさんも一緒だと思ってたのに……」

 ずいぶん他人行儀なのね……ため息交じりに小声でつけたした。

 母は、使用人に下がるように言って、優雅に俺の前のソファーに座る。

「…本題に入って良いですか?」

「アリスさんの事ね。……調べたんでしょ?」

「調べると云う程の事でもなかったですが……。お母さんの秘書のルフォールが知っていたので……」

「ルフォールに聞いたのなら、付け加える事は、なさそうね」

「どうして彼女を護ろうと思ったのかは、分かりませんが……。彼女を取り込んでも何のメリットも無いでしょう?

 貴族の出と云うだけで、遺産だって…まぁ、大した額ではありますが、あちらの会社の経営権は親せきの方にあるようですし…」


「友達だったのよ。アリスさんのお母様、ナタリーとは……。

 すごく仲の良かったお友達だったの。私が困っている時は、いつも助けてくれたわ。

 だから、駆け落ちの時は、手を貸したし…今回の事も」

 どこか懐かしそうに、切なそうに母は言った。


「だけど、あんな狭いアパートメントに男と2人きりにして、危ないと思わなかったんですか?」

「危ないの?」

 ……危ないです。口に出しては、言わないけど。

「マルセルさん、ロリコンじゃ無かったと思ったけど…。

 でも、そうね。襲っても良かったんじゃない?」

「はぁ~っ!?」

 何、言ってるんだ?

「ーで、こんな分かり切ってる事実を確認しに来たわけじゃないんでしょ?」

 まだ、くすくす笑ってる。


「そろそろ、婚約パーティを開こうかと思いまして、その許可と準備をしてもらおうと思いましてね。

 婚約って言っても、今のままじゃ、当人同士しか知らないわけですし…」

「そうねぇ~。私は、構わないけど……いいの?」

「かまいませんよ」

「………そうじゃなくて」

 マルセルさん…あなた、本当にアリスを愛してるの?


 母は、言いかけた言葉を飲み込み、少しため息をついて言った。

「アリスさんも、了承してる事なんでしょうね」

「もちろんです。

 今回の婚約パーティーの意味も、そして断る事が出来る事も話しました」

「そう……。

 それで、パーティーが終わったら、アリスさんはこちらの屋敷に住まわせるの?」

 俺は、言葉に詰まった。

 少し、顔が赤くなってるかも…。

「………いえ。

 彼女が、俺のそばが良いというので……」

 本当は、夏休みから、こっちの屋敷に住まわせないと、彼女の準備が進まないのは分かっているけど……。

「あら……でも、マルセルさんはダメなんじゃないの?」

 目が笑ってる。意地悪だなぁ~大概に……。

「確かに…。俺は、他人と同居するなんて、まっぴらだと思ってます。

 それは、今でも変わりません。」

 母の目が、何かを見極めるようになってきてる。

「だけど…、彼女は……アリスは、他人じゃありませんから……」

 鋭かった目が、きょとんと変わったのが見えた。

「え?マルセルさん?それって………」


 焦ってる焦ってる。

 俺は、心の中で笑ってしまった。

「パーティの件は、お願いしましたよ。日にちが決まったら知らせて下さい」

 焦っている母を、尻目に立ちあがって、ドアに向かう。

 ふと、思い立って振り返り

「ああ、ルフォールをパーティの日まで、借りても良いですか?」

「ええ…構わないけど……マルセルさん?」

「じゃぁ、また……」


 今度こそ、ドアを開けて部屋を出て行った。

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