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「ただいま」

 扉を開くと、大して長くも無い廊下をぱたぱたとアリスがやってくる。

「おかえりなさい」

 本当に嬉しそうに俺を見て笑うから、つられてこちらも笑顔になる。

 時計を見ると夜の10時。

 なんとかこのくらいの子どもが起きていても大丈夫だろう時間に帰って来れた。

「学校からの連絡事項とか、何か無かった?」

 仕事の習慣で、まず連絡事項の確認をしてしまう。

 たしかこのくらいの歳の子って、そろそろ次の進路を決めないといけないんじゃなかったろうか。女子校は分からないけど。

「はい。今日は特に…」

 なんだろう。言いよどんでいる。

「なに?」

 言いやすいように、笑顔で先を促す。

「……三者面談が。私、おばさまの連絡先知らなくて……。

 学校に登録してある連絡先もここですから」

 言いにくそうに……本当に、言いにくそうにアリスは言う。


 こういう時にならないと、気付かない…。


 婚約者といっても、それが例え形だけだとしても…。この子はまだ、親元で保護されているはずの子どもで…。

 こんなことくらいで、気をつかわなくてもいいはずなのに…。


「いつなの?」

 え?って感じで、アリスが顔を上げる。

「大丈夫だよ。仕事の都合付けて行くから」

「え?でっ…でもっ……」

「今は、俺が保護者なんだから、遠慮しないで」

「あ…7月14日の14時半からです。私の番……その前に授業参観があって、それが10時からで」

「14日ね。10時…と」

 スケジュール帳に、書きこんだ。

「あ…のう…成績が、ちょっと下がってしまって…。怒られるかも」

「いろいろ、あったんだから、仕方ないよ。

 それに、成績に関係なく、俺のところへ来る事は決まっているんだから、大丈夫」

 ぽんぽんと頭を叩きながら言うと、ありすは真っ赤になっていた。

 本当に、可愛い。

 いっそ、婚約を本当の事にしてしまっても、良いって思うくらいだ。




 学校の行事と云うのは、自分の学生時代は、あまり好きではなかった気がするが…。

 保護者として行くのは、なかなか面白い。

 授業参観でも、後ろから見ていると、アリスもちゃんと学校になじんでる、当たり前か。

 保護者会で、学校での注意事項を聞いたり、これから必要になる物をメモしていくという作業も、仕事と違って新鮮だ…。


 なぜか、他のお母さん達の視線を感じてたが。


 三者面談も、先生に怒られず無事終了した。

 つくづく、会社の決算が終わって暇な時期で良かった。



 一段落して、考える。

 俺は、アリスをどうしたいのだろう。

『成績に関係なく、俺のところへ来る事は決まっているんだから、大丈夫』

 なんて言ってしまって、アリスが本気にしたらどうするんだ?っていうことすら思い浮かばなかった、あの時の俺。


 それに、そもそも、アリスは、どう思っているのか……

 俺の母から、明らかに、緊急避難的に俺の所に連れて来られて。



 あれから俺も、アリスのことを調べてみた。

 アリスの母親はエルヴェシウス子爵家の令嬢だった。父親は、そこの使用人。

 そんな組み合わせたが、許されるはずも無く。2人は駆け落ちするように家を出て結婚をした。

 そして、娘が産まれたのをきっかけに、お母さんの実家と和解して、結果として莫大な財産を受けついでしまった。

 そして、ご両親のお葬式で、遺産の全てを受け継ぐアリスの争奪戦が繰り広げられた。

 そこで、母が俺がアリスの婚約者と云うのを理由に連れてきたってのが、真相だろう。

 本来、アリスが成人するまでご両親が生きていらしたら、この婚約は適当な理由を付けて破棄されるハズのもの。


 俺は、俺の役目を果たすべきだって、分かっている。


 だけど……アリスが、いずれ離れていく時に、冷静でいられる自信が今の俺にはなかった。


誤字脱字報告ありがとうございます。

反映させました。

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