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1週間もすると、必要なものがそろってくる。
無機質だったゲストルームも、彼女の手によってそれなりに可愛く女の子らしい部屋になってた。
学校の方は、下位貴族と平民が普通に通う…でも、いわゆるお嬢様学校と言われるところに通っていた。
オフィス街に近く、元の自宅よりこちらの方が近いくらいらしい。
アリスは、結局家事全般やってくれている。
しなくていいと言ったのだけど、やらないと気持ち悪いらしい。
こちらに気を遣っているのだろうか。
自室は、各自やるように約束をして、無理をしないように約束させた。
今まで、付き合った女性ですら、家に呼んでない。もちろん、家事もさせた事なんて無い。
俺は、自分のことは自分で出来るし。プライベートな空間まで、他人に踏み込まれたくないんだ。
……プライベートな空間は、アリスの出現によって、アパートメントの一室まで減ってしまったけど。
「マルセル?どうなさったの?」
「あ…ああ、いや…失礼」
つい、家でのことを思い出して、苦笑いしてしまっていた。
ここは、ホテルの一室。
さっきまで、ホテルのレストランで食事をして、部屋を取ってあるからと、連れてきたんだっけ。
彼女は、うちの会社の従業員で…まぁ、今まで大人の関係を続けてきたわけだが…。
相手が子どもで。お互いそういう気持ちが無くても、一応婚約者が出来た訳なので。
そんな関係でも、今まで二股だけはかけていない俺としては、この関係もきちんと精算しようと思っていた。
邪魔が入らないように、ホテルの一室をとったに過ぎないんだが。
「セシル…いえ、ナヴァールさん。
もしかしたら、社内でも噂になっているから、知ってるかも知れませんが…。
私は今、婚約者と暮らしてます」
「知ってますわ。ずいぶん可愛らしいお嬢さんのようね」
「ええ。
ですから、申し訳ないのですが、あなたとの関係は、これっきりにして頂きたいのですが」
「嫌だと、言ったら?
だって、嫌よ。愛しているのよ」
少し動いただけで、キスでも出来そうに顔を近づけて、しなやかな腕をまわしてくる。
「……でも、あなたにも、本命の彼がいるじゃないですか」
終わらせるのは、勿体ないけどね。仕方ない。
色っぽく迫ってきてたのに、彼氏の話を出すと、案の定、ぱっと身を離す。
「知ってたの?」
「当たり前じゃないですか……彼は、事業の大切なパートナーですよ」
仕事用の顔で、にっこり笑う。
「今、出向している彼を、本社に呼び戻すって云う事で、手を打って頂けませんか?
もちろん、新しい企画のリーダーとして」
悪い条件じゃないでしょう?
「……いいわ」
「では、私はこれで失礼。
ここの支払いは、済ませてるので、朝までどうぞご自由に…」
そう言って、部屋を出た。
時計を見ると、夜の9時……
早く帰らないと、アリスは、寝ないで待ってるんだ。