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不死少女と晶樹の竜  作者: いちごのタルト
33/42

第32話

 ペルディナス城の上層中庭にあった、水が出る水瓶はエヴァの根城にしている屋敷の裏庭に置くことにした。

 裏庭は使用人たちがかつて洗濯をしていた場所らしく、その設備が残っていたのだ。

 雪が溶けてから生え始めた草もセンモルタで焼き払い、今では再び洗濯場として使えるようになっている。


 水瓶から水が出続けるのは素晴らしいが、出た水の行方を考えると、どうしても室内に置くことはできない。

 だから水の処理に困らないここがいいだろう。


 普段使う水はこれまで通り中庭の井戸で問題ない。

 もちろん水道のように自在に出し入れできる水瓶は便利であるが、水量が調節できないのが難点だった。一度に噴水のように水が出てしまうとちょっと水が欲しいときには困りるのだ。

 そのうちうまく使える方法を思いつけると信じて、今はここでその日を待ってもらう。


 それからエヴァはマクスのなわばりにある廃墟ペルディナスを探索するのが日課となった。

 お腹が空けばアルバと共に狩りをして、狩った獲物を解体して日持ちするように加工する。たまにオリゼが差し入れしてくれることもあった。

 シムドから竜狩りの片づけを頼まれることもある。

 春が終わり、夏に差し掛かる頃になっても、エヴァは遅々として廃墟ペルディナスの探索が進まなかった。

 それは廃墟が広すぎることと、エヴァ一人で行っていること、さまざまな理由があったからだった。


 魔法の品の回収も行いたかったが、アルバに付き合ってもらわないとそれは見つけられない。だがアルバは自分のなわばりもあるし、東の山脈の雪が溶けることもあって、彼はそろそろ自分のなわばりを警戒し始めないといけない季節になっていた。

 急ぐ用事でもないし、魔法の品はエヴァしか興味がない。

 だから焦る必要もない。

 それに魔法の品だったらシムドを始めとした外周の竜たちが片付けた竜狩りの遺物のことも忘れてはいけない。

 エヴァは自分のできることをまずこなしていくことにした。





    ○  ●  ○





 エヴァや竜たちの穏やかな日常に不穏な陰が差したのは、初夏からいよいよ暑さが本番になり始めた頃だった。


『ふむ……』


 その日、エヴァはオルガの下を訪れ、彼から竜の故郷について話を聞いていたときだった。

 不意にオルガは眉を潜める。


「どうしたの?」

『いや、何でもないよ。さて、どこまで話したかね』

「本当に何でもないの?」


 オルガの様子がエヴァは引っかかった。何でもないという彼の声音が何か大きな懸念を抱えているように思えたからだ。


『何、大丈夫だ。竜たちが対処してくれるだろう』


 それはつまり竜たちの、オルガの身を危うくする者が現れたということ。

 竜狩りの人間だったなら、オルガが気にするまでもなかっただろう。実際、彼らはアルバにとっても取るに足らない存在なのだ。


 人間でないとなると、いつかアルバから聞いた魔物だろうか。

 でも竜は魔物を決して倒すことができないという。本当に、何ともないのだろうか。


 エヴァは心配だった。

 でもオルガはそれ以上そのことを口にせず、どこかぎこちないながらもいつものようにエヴァに竜たちのことを語って教えてくれた。


「オルガ、今日もありがとう。とても勉強になったわ」

『そうか、それは良かった。またぜひ話を聞きにきなさい。楽しみに待っているよ』


 地に伏した竜の黒い小さな眼を見下ろして、エヴァは念を押すように言った。


「あのね、オルガ。私はあなたたちに比べたらずっと弱いけど、人間だから、できることがあるよ。だから、私にできることがあったら、頼って欲しい。私は弱いけど、死なないから、何かの役に立つと思うの」

『エヴァはもう我らの役に十分に立っているよ。自分が弱いことが不安なのかね?』

「そうじゃないわ。もっとあなたたちの力になりたいの」


 エヴァはもう、不死の呪いのことを前ほど嫌だと思わなくなっていた。

それを悪く言う者もいないし、恐れる者もいない。それを理由に避けられたり、煙たがれることももう無くなっていたからだ。

それでもやっぱり、この地を出ていくことは考えられなかった。

人の中では生きたいと思えなかった。


 オルガはそれでもエヴァを自分たちの問題に関わらせようとしたくないようだった。

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