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残り物のファントム  作者: ルイ
第二章 異形たちの学校
9/15

細切れの夢

少女の心配に反して、一時間はごく穏やかに過ぎた。

オルゴールの音は途切れることなく、いつのまにか少女は眠りへと誘われていた。


この音は、確かによく眠れる。甘くて柔らかくて、蕩けてしまいそうな音色だ。


少女は途切れ途切れになる意識のなかで、「おやすみ」と言う声を聞いた。














…………



少女は家の中で漫画を見ていた。△◎♪から貸してもらった漫画だ。

漫画のなかでは、△◎◇♪の少年と、それに振り回される母親の姿が描かれている。


「……」


無言でぺらぺらとページをめくっていく。ページを重ねるごとに、だんだん心苦しくなってくる。

その漫画では、誰も悪くなかった。みんな必死だった。けれど色んな問題が起こって、母親は苦労の連続。


『これ、読んでみて』


そう◎□♪□♪に奨められた漫画だった。かなり有名で、テレビドラマ化もされたようだ。

理由ははっきりとわかっているし、読むのをやめる気はないけれど、やはり辛い。少女は感受性が豊かで、その上……。


……。


それでも読まねばならない。国語の授業で与えられる評論文ならまだしも、少女がこんなに義務的に漫画を読むのは初めてと言って良かった。


一巻目を閉じる。ちらりと横を見ると、まだ巻が積み重なっている。

未完のまま、作者が亡くなってしまったと言うその漫画は、あと十数巻ほど残っていた。


ゴロンとベッドに寝転がる。

ゆっくりと、二巻目に手を伸ばした。











…………



怒鳴る声がする。

鬼の怒る声がする。



ゴォアアオオオオァアアアッッ!



少女は耳を塞いだ。それでも聞こえる。

鬼の怒る声に続いて、それとは違う、でも嫌な音が鳴った。



θθθθθθθθθθθθ……



この音は、何だろうか?好奇心に似たなにかに負けて少女が顔を上げると、そこには形容しがたい醜さの何かがいた。


「ひッ」


限りなく黒に近い濁った色が回りを取り巻いている。黒よりもよほど嫌な色だ。ちらほらと白が混じった長い髪を背中に垂らし、その頭上にはぐるぐると巻いた大きな角が生えていた。昔読んだ絵本のヤギような大きな角だ。背中にはブラックホールのような翼がある。それは小さく折り畳まれているように見えた。


鬼と悪魔は何か言い争っている。

鬼が何か言うと、悪魔は真っ黒な涙を流しながら、高い声で何かを叫ぶ。ふと、鬼の指先がこちらに向けられた。


座ったまま後ずさると、鬼の眦がつり上がる。



ゴォアアオオオオァアアアッッ!

θθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθ……


「やめて!!」


ゴォアアオオオオァオオオオゴォアアオオオオァアアアッ!


θθθθθθ……θθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθ……!


少女の声はブレーキどころか、ガソリンにしかならなかった。言い争いの渦中に放り込まれて、少女は恐怖で目を回す。


誰か来て、とかすかに呟いた。

呼応するものはいなかった。












…………




床に黒い小さな粒が転がっていた。

じゃりじゃりしたそれをうっかり踏んでしまい、思わず眉をひそめる。


「ゴマだ……」


また、◎△♪□※が散らかしたのだろう。鬼が怒ってしまうと言うのに一向に止めない。少女はため息をついて掃除道具を持ち出した。


(鬼が来る前に、片付けないと)


監視しろと言われていた少女にも、叱責が飛んでくるに違いない。それはもう、喰われてしまいそうなほどの勢いで。


ぶるりと体を震わせた。鬼の叱責を受けたくはない。それは少女の何より恐れるところだった。

─────さっさと片付けてしまうに限る。












…………



θθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθ……


この悪魔が居座るようになってどれくらい経っただろうか。悪魔はなにもいない空間に向かって微笑んで、黒い襤褸切れを掲げている。

それを止める人は今、悪魔の住む家を留守にしていた。


鬼は悪魔とよく言い争いになるけれど、それでも悪魔が行動を止めることはなかった。


θθθ……


悪魔は少女にも話しかける。

何を言っているのか分からないけれど、とても気味の悪いことを言っているのは分かった。

少女がなんの反応も見せないと、次第に悪魔は怒り出す。



θθθθθθθ……!



ブラックホールのような翼がばさりと広がる。

少女の眼前で、悪魔は悲鳴にも似た声を注ぎ込んで、そして。








…………





霧の向こうから少年が現れた。黒いフードは被っていないが、どんな服なのかは霧に覆われてわからない。

少年が少女を見ている。ぱくぱくと口が動いている。


「何を言っているの?」


少年が無表情で口を動かしている。

少年の顔は霧のなかなのにはっきりと見えた。にもかかわらず、それがどんな顔なのか認識できない。なぜか、認識してしまったら終わりだと言う気もした。ただ口もとだけがいやに明瞭に頭に飛び込んでくる。

不安が募る。少年の体がゆらゆらと揺れる。


「聞こえないよ!」


少女が叫ぶ。

ずかずかと霧の向こうへ踏み込んだ。少年の腕を掴み、捕まえた、と思ったとたん、感触が消えうせる。


「え?」


少年の顔がくしゃりと歪む。とても小さな声が、確かに聞こえた。














ひ  と  ご  ろ  し






…………


少女の見た悪夢

時系列はバラバラ

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