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残り物のファントム  作者: ルイ
第二章 異形たちの学校
7/15

モヤモヤの生徒

どれほど下っただろうか。

少女は山の麓とも呼べる箇所へ来ていた。


「……なに、ここ」


少年の腕のなかで、少女は訝しげに呟く。それもそのはずだった。少女の眼前には、三階建ての『校舎』……つまり学校があったからだ。


しかも周囲には何もない。山の麓にぽつりと建った赤い三角屋根の校舎。入り口は山の方を向いており、校門や校庭さえも見当たらない。

とてもまともな人が通う場所とは思えなかった。


少年が、少女をゆっくりと地におろす。

「あの……」

下ろしたかと思うと、少女の手を再び握ってずんずんと歩き出した。さすがに疲れたのだろうか。

顔をうかがってみるけれど、相変わらずフードが邪魔をする。


少女は小さくため息をついて、少年の行く先を見据える。

そこには校舎の入り口があった。


「入るの……?」


少年がこくこくと頷く。少女が諦めの境地に達したとき、タイミングよく鐘が鳴った。




キーーンコーーンカーーンコーーーン。




聞きなれた、耳に馴染む音だ。少女がぼんやりとそう思ったとき、鐘の音に呼応するように、周囲に何人もの気配が現れる。


「え!?なに?」


ざわざわと複数が話す音。周囲を見渡すと、猫の頭や山羊の頭、とりあえず人には見えない異形たちが、中学校の指定バッグを持って歩いていた。

少女は混乱して少年を見る。

少年は口元だけで微笑んで、少女を靴箱らしき場所へ導いた。


ここでもまた、少女の腕をクレーンのように持ち上げて誘導する。


「いれろって?」


少年のもう一方の腕は少女の靴を指差していた。マジックテープをばりっとはがし、なにかの金属でできている靴箱の扉を開ける。

そこには上履きがあった。


通常上履きには名前がかかれているはずだが……少女の目線の先の上履きは、少々趣が異なっている。


「塗りつぶされてる……」


名前があるはずのところは、黒く太い何かで塗りつぶされているのだった。油性ペンのようだ。

困惑しながら少女は上履きをはいた。なにも言わないが、少年が「履け」と言っている気がしたからだ。


少年は少女が履き終えるのを確認すると、再び手を握る。


少年の導く先は何となく予測はできた。

─────たぶん教室だろう。




……あれ?そう言えば、まだ夜が開けていない。








少女は少年に導かれるまま、教室へ到着した。教室……だろう。入り口には分厚い鉄製の扉が待ち構えているが、教室にちがいない。

数多存在する異形の生徒たちは、そんな扉をものともせずガラリと開けて入っていく。


改めて生徒たちの話す声を聞いてみると、その言語が全く理解できないことに気がついた。


#%@□△♪△♪※♪@?

@%◎△◎△△※#◇☆☆

◇□♪%※〒%☆#☆♪♪……?


「何言ってるんだろう……?」


少しだけわかる英語でもましてや日本語でもない。少女が首を傾げていると、背後からまた一人異形の生徒が現れた。



「おはよー、%□◎△%♪」


「!?」


少女はばっと振り向く。おはよう?おはようって言った?最後のほうは聞き取れなかったけど、でも、いま。たしかに……。

振り向いた先、そこにはモヤモヤとした白い何かを頭にくっつけた女生徒が立っていた。


「○◎□◎□□、今日数学の小テストあるんだって。べんきょやってきた?」


さも当たり前のように、その生徒は少女に話しかける。いつまでたっても動こうとしない少女にため息をつくと、少年と反対の手を取った。

少年が慌てる気配がする。


「もー、またそんなとこで立ち止まっちゃって。早く中入りなよ」

「え、」


少女は戸惑いつつされるがままだ。少年の手が引かれた調子に離れ、分厚い扉の中に少女は吸い込まれる。

少年の方を見るが、扉の中には入ってこようとしない。少女は訝しげに生徒を一瞥する。


「あの……誰ですか?」


すると生徒は肩をびくりと震わせた。モヤが大きくなる。少女を飲み込めるほどそれは大きくなり、少女はしらず一歩後ずさった。


「え?忘れたの?」

「忘れたも、何も……」

「ナコ!!あんたの友達!!」


モヤが黒くなる。そのモヤが少女の肌に触れた。触れた途端、少女の頭にひどい痛みが走った。


「い、いた……!」




─────ナコ。私の友達。#%◎△♪※□※※の友達。#◎◎□「□♪□※を#%)「%♪♪とき、側にいてくれた。

◎◎□♪□※を目指しており、◎#◎♪□※※□に理解がある。

鬼と相性が悪い─────。



頭に情報が流れ込む。流れ込むと同時に頭がいたくなる。

堪えきれずにその手を振り切った。よろよろと座り込む。

「いたい……いたい」

ざわざわと教室が騒がしくなる。相変わらず意味不明な言語が飛び交っているが、その視線の先が少女に向かっていることはわかった。


「ちょっと……○◎△♪△♪%!?大丈夫!?」


モヤが……ナコが慌てている。ナコの言葉だけは理解できた。ただ、所々ノイズがかかっていて聞こえない。


「保健室いこう!掴まって」


モヤモヤが差し出される。痺れたような感覚のままそれをつかむと、スカッと通り抜けはせずにちゃんとした手の感覚があった。


それを支えにして立ち上がり、扉の外へ向かう。外には少年が座っていた。

どこから取り出したのか、キラキラとした装飾のある雑誌の表紙をひたすら眺めている。暇潰しだろうか。時折ぽんぽんと叩いている姿は、感触を確かめる職人のようにも思われた。


少女が出てきたのに気づくと、少年が顔をあげる。

ナコに支えられている少女を見て、差し出しかけた手を引っ込めた。


「……?」


そのまま、少年は少女のそばへ寄り添った。ナコを警戒しているようにも見える。


(ナコって……誰なんだろ)


ちらりとナコを見る。黒いモヤはいつのまにか白に変わっていた。

ただ、モヤに触れようとは思わなかった。



新たな登場人物・ナコ。

モヤの女生徒です。

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