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残り物のファントム  作者: ルイ
第一章 廃墟での目覚め
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少女の目覚め

少女は固いベッドの上で目を覚ました。目を覚ましたと言ってもまぶたが開閉した感覚があるだけで、眼前は相変わらず真っ暗だ。

「んん……」

寝ぼけ眼を擦り、のそりと起き上がる。肩より少し長い黒髪が頬をくすぐってこそばゆい。頭には寝過ぎた後のような倦怠感があった。

(起きなきゃ……)

どことはなしに重い体を叱咤し首を回す。ひとつあくびを噛み殺すと、掛け布団を剥いで床にぺたりと足をつけた。

「つめた!」

……そして思わず足を引っ込めた。と言うのも、台詞の通り床がキンキンに冷えていたからだ。冬場の鉄のような冷たさだ。おかげで爪先がじぃんと痺れてしまった。

「もー」

布団の中に再度足を引っ込める。ああ布の暖かさって素晴らしい……と考えたところで、少女はハッと床を見た。ただの木製の床だ。しかしそれはとてつもなく広く、どこまでも続くかに思われる。一部屋には不似合いな面積だ。

まだ完全に目は慣れていないが、床の冷たさに驚いた頭はいくらか視界と思考をクリアにしてくれる。

(……こんなに、床ってものが少なかったっけ?)

続けて、窓と隣接したベッドを見る。自身が横たわるそれは装飾が極端に少なく、マットレスも固い。その他に異常はないが、問題は窓からの景色だった。

(森の中……?すごく暗い……)

おまけに人の気配もない。昨今の住宅事情は知らないが、これはいくらなんでも冒険しすぎではないだろうか。

(そもそもなんでこんなところで寝ているの、私?ここどこ?) 

もっとよく見てみようと、少女が窓の方へ少し身を乗り出したときだった。




ゴォオオオァオオオオァオオッッ!!!




突然、びりびりと地を揺らすような轟音が鳴り響いた。少女は咄嗟に耳を押さえたが、それでも尚轟音は耳に届く。

「な、なに!?」


ゴォオオオオオオゥオォオオァオオッッ!!!

ゴォオオオゥオオオァオオィオオオッッ!!!


第二声が来た。いや、第二「波」と呼ぶべきかもしれない。容赦なく降り注ぐ音の暴力が少女を殴打する。ヒッと小さな悲鳴を漏らしたきり、少女は口をつぐんだ。

混乱する少女の頭に、昔物語で読んだ「ドラゴン」という文字が頭をよぎった。その音は咆哮によく似ている気がしたから。怒っているように聞こえたから。何よりも、少女の上から聞こえてきたのだ。

轟音は少女のいる家を揺らし、窓ガラスを揺らし、ベッドを揺らす。少女が必死に恐怖をこらえていると、やがて轟音は止んだ。少女の小さな体は、それが数時間にも及んだように感じられた。

「お、おわった……?」

力が抜けた少女は、布団を引き寄せて丸まった。カタカタと体が震える。眠気は完全にどこかへ飛んでいった。跡形もなく消し飛ばされた。

今更ながらの問いが、覚醒した少女の頭の中を駆け巡る。


(よく考えたらおかしい。こんな家私は知らない。森の中って言うのも意味がわかんない!大体、さっきの音は何!?)


轟音は家を揺らすほどのものだった。発生源は知らないが、あと五、六回あれをやられたら確実に窓ガラスは割れる。十回やられたらこの家が倒壊するかもしれない。

何より、あの音の発生源が、もし体当たりでもしたら……。

「い、生き埋め?それとも食べられる!?」

いっそう震えが激しくなる。少女のもたらす激しい振動のせいか、年季の入っていそうなベッドがギシリと嫌な音を立てた。少女は一瞬ギクッと身をこわばらせたが、ベッドの音だと気づくとホッと胸を撫で下ろす。

あまりの怯えぶりに、少女自身でも自嘲のため息を漏らした。

(だ、だめだ……。落ち着け、私)

そうは思っても、あの轟音は体の奥から恐怖を呼び覚ますものだった。しかも今現在自分は一人で、得体の知れない家の中で、頼れる人もいない。改めて考えた事実に、また寒気が襲ってくる。震えが止まらない。

(落ち着け……落ち着け)

少女は布団から手を離し、震えを止めるために制服の裾をきつく握った。


「……え?制服?」


自分の体を見下ろす。少女の目からはまがうことなき制服の姿を見ることができた。

それが、少女が初めて自分の服装に気づいた瞬間だった。紺色のブレザーにチェックのプリーツスカート、青色のリボン。少女の中学校の制服だ。


「てことは私、制服で寝てたんだ……」


恐怖は収まらないが、お年頃として制服の清潔感はそれなりに重要だ。……シワになってそう。未だ咆哮の恐怖が残り、震える手でスカートをつまみ上げるが、見るとそこには一切シワがついていない。

「んん?」

思わず怖さを忘れてしまい、弾かれたようにスカートを開く。ベッドの上の不格好なカーテンシーだ。しかしスカートは折り目正しく少女の足に鎮座している。

不思議といえば不思議だったが、現在置かれているホラーじみた状況に比べれば可愛いものだ。その上、実害はない。

少女は追求することをやめた。


「……よし」


ややあって、少女は両手で頬を叩く。パン、といい音がした。

(ベッドの上でうだうだしていても仕方がない。この家欠片も人の気配しないけど、探せばいるかもしれないし……)


「正直廃墟っぽくてすごい怖いけど……」


それでも、行動しないよりは、多少ましなはず。ここでずっと怯えているより、いくらかでも気が紛れるはず。少女は目を瞑ってえいと布団を捲ると、元気よく床へ降り立った。



「つ、つめたーーーっ!!!」

次回、少年が登場します。……たぶん。

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