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残り物のファントム  作者: ルイ
第二章 異形たちの学校
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秘密基地の秘密話

「へぇえー」


圧に負け、少女はこれまでの現象をナコに話してしまった。これはさすがに、と思ったところはかいつまんであるけれど。


ナコはじっと聞いていたのだが、「ナコはモヤモヤしてて驚いた」と言うと、すっとんきょうな声をあげた。

正直なところ、少女だって驚いた。まさかナコがここで反応すると思っていなかったのだ。


「どんな風に見えてるの、私?」


好奇心半分、驚き半分といった調子の質問に正直に答えると、ナコのモヤモヤは大きくなった。


「へぇえ~」


しきりに感心しているようだ。

自分の顔、と言うかモヤモヤに手を当てている。


「私には分かんないけど、面白いな」

「面白い?」

「うん、ちょっと見てみたい」


鏡で見ればいいのでは……?と思ったが、もしかしてナコは鏡に映らないのかもしれない。何せ異形だ、吸血鬼などは鏡に映らないとも聞いたことがある。

そう言うと、ナコはぷんぷんと怒り出した。「吸血鬼じゃないし!せめて魔女が良い!」……どっちも同じだと思うのだが。


「でも、モヤモヤかぁ。なんで私がモヤモヤに見えるんだろう」


呆れたようにナコに視線を送っていると、ナコは出し抜けに首をかしげた。唐突な疑問。


「だって私モヤモヤじゃないし。可愛い女の子だし」


ナコがひたと少女を見据えた。目はないのに、眼力がある。じいっと訴えかけるそれから、疑問を感じ取ってしまった。


少女は、母音を発することしかできなかった。

だって、ナコは会ったときからモヤモヤだったのだ。


答えのかわりに疑問ができた。胸のうちでこしらえられたそれを、恐る恐る差し出す。


「……ナコちゃんって、モヤモヤしてないの?」

「そう言われたのは初だよ。結構美少女なんだから、私!」


えへん、と胸を張る姿は、どう頑張ってもモヤモヤしているようにしか思えなかった。しかしナコはそうではないと否定する。訳がわからなかった。


「……周りも、モヤモヤしてるの?」

「ううん……モヤモヤしてるのはナコちゃんだけ……オルゴールだったり、猫だったり、色々……」


そう言うと、ナコのモヤモヤが変化した。体の動きから、たぶん考え込んでいるんだろう。そういえばずいぶんとここにいる気がする。


抜け出してきたから、今ごろ探しているかもしれない。帰らなければ。……だが、そのときにあの『悪魔』が来てしまったら?少年は?



「……@○□○◎♪、保健室にいたのに、逃げ出してきたのはなんで?」



一人かすかに怯えていると、思案から戻ったナコが問いかけを寄越してきた。なぜ、モヤモヤの話題から、その話になるのだろう。黙りを決め込むつもりだったが、ナコのモヤモヤが次第に黒くなるのを見てあっさり決意を翻した。

「怖かったから」

「先生が?」

「ううん……」

ふるふると首を左右に動かした。あのとき見た悪夢や、悪魔の声を話す気にはなれなかった。ウサギから守ってくれた少年のことも、今はまだ口から紡がれそうにない。


「……そう。仕方ないね。あんたんとこ、大変だもんね……」

「え?」


あんたんとこ、大変だもんね?


ナコの口からポロリと飛び出たそれに、少女は思わず聞き返してしまった。何が大変なのだろう。まさか、ナコは知っている?ウサギや、悪魔や、鬼のことを……?

ナコを見つめれば、慌てた様子で口元に手を当てていた。ごめん!無神経だった、と言っているが、なにが、無神経だと言うのだろう。

今度は、少女がナコを見つめる番だった。だがナコは、少女と違い、圧に負ける性格ではなかったらしい。

忘れて忘れて!と両手を振っている。


そして少女は、追及を続けられない性質であるらしかった。

「そろそろ出ないと、ヤバイかも」といたずらっぽく舌を出したナコに手を引かれ、戸惑いながら歩き出す。あきらかに話題をそらしている。ここの天井が低いことを一瞬忘れたらしいナコは、がん!と頭をぶつけ悲鳴をあげていた。



プールの下から出ると、少しだけ明るくなっていた。どれほど時間はたったのだろうか?夜ではよくわからない。

ちらりとナコを見る。ちょーっと長居しすぎたかな……?と言う台詞から察するに、短くはないようだ。


プールの傍には少年が佇んでいた。存在は忘れていなかったが、まさかまだ居るとは思わなかった。相変わらず黒いフードだ。

どこか、悲しそうな雰囲気だった。なぜ?と思ってみるも、その表情は黒いフードに邪魔をされて見えない。


少女は気まぐれに、少年の方へ手を伸ばしてみた。勝手に取ってくれるものと思っていた。


……ぶんぶんと、頭が横に振られる。紛れもなく拒否だ。

「……え」

少女はひそかに衝撃を受ける。ふいと避けられた腕は所在なさげに宙をさ迷った。


待たせ過ぎたから?なにか気にさわるようなことを?……そこまで考えて少女は思い出す。そういえば、少年は、─────信用に足るのだったっけ。


否。

疑えと、そう思っていた。


私は何をしていたのだっけ。何を信用すればいいのだったっけ。ナコは信用してよかったっけ。誰に、誰を、どうして、なにを、いつ、わたしは。




─────あのとき

─────わたしは

─────誰の言葉にしたがった?




足が、震え出した。頭ががんがんと痛くなる。無理だ。無理だ。

ナコのモヤモヤが遠い。

モヤモヤが……モヤモヤ?


「……あれ」


ポニーテールの、女の子が。

お久しぶりです……。長い期間放っておいてすみません。

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