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残り物のファントム  作者: ルイ
第二章 異形たちの学校
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悪魔のお迎え

汗びっしょりになりながら、少女は目を開けた。保健室の白い天井が目に入る。

(……何?あの夢)


浅い眠りに落ちていたのだろう。少女は断片的な恐ろしい絵を思い出していた。


鬼に、悪魔に、そして少年。

(あれはなんなの?)

鬼はすでに見た。しかし、あのような悪魔は見たことがない。悪魔なのかさえ少女にははっきりとわからないけれど、あの恐ろしい姿は悪魔以外に説明のつかない気がした。


……それより。


ひ と ご ろ し。


あの五文字が頭にこびりついて離れない。無理矢理に布団をはねのけると、ずきずきする頭を押さえた。

今更になって自分の迂闊さを後悔する。なぜすぐにあの少年を信用したのだろう?突然に現れた、得体の知れない人になぜ付いていったのだろう。


夢のように、少女を敵視しているかもしれないのに。


「あぁ、起きた~?」


しきりのカーテンが開く。オルゴールが現れた。


……そうだ、この異形たちのなかに、あの少年は少女を放り込んだのだ。なぜ従ってしまったのだろう。



いや、いや、それ、より。




(もしかして、私)



少女は。



(()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?)





人殺し。苛烈な言葉だ。

そんな言葉を、普通の健やかな女の子が、夢のなかで告げられるだろうか。潜在意識にせよ、何らかのきっかけがないとなかなか出てこないだろう。

冷や汗と悪寒がねっとりと背筋を伝う。


オルゴールの先生が背後の時計を見た。


「ずいぶん眠っていたねぇ。でもまだ顔が真っ青だなぁー。熱を測ろうか?」


間延びした口調が神経を逆撫でする。この先生は、いったい少女をどうしようとしているのか。

大丈夫です、とかすれた声で呟いた。喉がカラカラだった。

先生は気に留めなかった。


「はい、これ、脇に挟んでねぇー」


ぐいぐいと体温計を押し付けてくる。結構な装飾がついていた。


強引な押し付けに、少女は渋々と制服の下をくぐらせる。ひんやりとした金属が脇に触れた。

しばらく無言が続く。



ピピピッ。



「36.8。ぎりぎり平熱かなぁ?君は普段、体温高かったっけ?」

「さぁ……」

「んー、でも、大事を取って休んだ方がいいかなぁー」


小さなバレリーナが回る。本体もくるりと回転し、黒い電話を手に取った。

誰かに、少女が休むことを伝えているようだ。


電話を終えると、机から小さな四角い紙片を取り出す。ちらりと見えたが、そこには電話番号と思われる数が並んでいた。



「じゃぁ、#◎□さんに電話かけるからねえ。お仕事中じゃないよね~。あれ、お仕事してったけなぁ……してないかぁ」



ほとんど独り言だったが、オルゴールの先生は迷いなく番号を打ち込んでいく。

プルルル、先生の耳元ではそんな音が鳴っているだろう。



「あ~、もしもしぃ」



どうやら繋がったようだ。♪%♪□♪の◎#♪%♪#ですけど、と、少女にはわからない単語が挟まれる。


少し気になり、少女は身を乗り出す。

電話の向こうの声がかすかに聞こえた。





θθθθθθθθθθθθθθ…………





「っ!」



さっきの今で間違えるはずがない。

あれはあの声だ。

悪魔の声だ。

しかも、不機嫌そうである。


先生は気にした風もなく淡々と、「迎えに来てほしいんですよぉ~」と伝えている。



(迎えに来るって何!?あれが来るの?)



冗談ではない。

絶対に、良い目には合わないだろう。


何せあの見た目に、奇妙な行動。夢を全面的に信用するわけにはいかないが、少女に危害を加えるかもしれない存在だというのは確かだった。

(捕まりたくない!)

先生が電話を終える前に、ここから出なくては。少女は身を起こし、できるだけ素早く静かにシューズを履いた。

幸いにも、電話は長く続いている。好都合だと忍び足でドアの前へたどり着いたとき、電話からひときわ大きな声が響いた。




θθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθθ!!!!!!!




「っ」

嫌な音だ。しかしチャンスでもある。長く続く怒声に合わせ、扉を素早く開けて閉めた。


できるだけはやく、どこかへ。

悪魔に捕まってはたまらない!




扉の前には少年がいた。どこから取り出したのか、饅頭を食べていた。それも器用に皮の部分だけ。

余った餡はどうするのだろうか。

一瞬そう考えるけれど、すぐにまた少女は走り出した。少年は疑問を呈すでもなく、ただ少女について走る。



廊下を走る。人影は見えなかった。そういう時間帯なのだろう。

もうこの校舎は出てしまおう、泣きそうになりながら少女はそう思った。少年も信用するわけにいかなくなったが、だからと言ってあの保健室に戻りたくはない。



玄関はたしかあっちだった。そんなあやふやな感覚で走り、目をさ迷わせながら三つ目の角を曲がる。


曲がった。


「え!?」




─────見つかった。



そこにいたのは─────。

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