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赤い悪魔と赤い糸   作者: 八木うさぎ
第4章 辛い対当
30/37

雷音の方向

 狩りはまだ続いていた。

 地面を覆う白の絨毯が、無数の足跡で乱雑に凹凸を残している。


 

 葛城かつらぎはあれから更に4回発砲していた。つまり、ここまで計6発の弾丸を放ったことになる。

 なおもサンタは存命しており、弾丸の直撃を辛うじて喰らわずにいるものの、それもこれもすべて葛城かつらぎのさじ加減だった。


 

 まずは装填されていた6発をフルに使って、サンタのおおよその動きを観察する。

 そして新しい銃弾を補填したら、それからは生きた白いキャンバスに、じっくりと、弄びながら、じわじわと、赤を描いていく──それが今思い描いているシナリオだ。当初の思惑とは大分路線変更となったが、結果的に、今のほうが快感を覚える結末に向かっている。


 

 慣れた手つきで再装填を終えると、興奮を抑え込むようにして、そろそろ足でも狙って動きを封じておくか、と一考する。


 

 こいつの動きは常軌を逸したものがあるが、それは今の俺も同じことだ。つまりは、こいつもあらかじめ使っていたに違いない。狂化薬ベルセルクルを。

 ネタが割れれば、なんてことはない。

 もっとも、あの不可視の壁は未だに謎だが……そんなことはもうどうでもいい。

 最終的に、生き残ったほうの勝ちだ。

 どんなに未知なる力を持っていようが、死人は死人に変わりない。死ねばそれまでだ。


 

「そろそろ終わりにするが……目を覚まして謝ったほうがいいのは、お前だったんじゃないか。え? どうだ、命乞いでもするか?」


 

 サンタは、何も口にしない。


 

「そうかよ……それじゃあもう、終わらせてやるよ!」


 

 葛城かつらぎは、残像が残るほどの速度でサンタとの距離を詰める。その際、直線的な移動にならないよう丹念に左右へのフットワークも入れ、揺さぶりをかけた。


 

 まんまと翻弄されているのか、サンタはその場から動けないでいる。その隙に葛城かつらぎはサンタの背後へと回りこみ、彼我の距離を限りなくゼロにした。そして右の太もも銃口を向け、間髪入れずにズドン! と、慈悲も情けも容赦もなく、なんの躊躇いもなく引き金を引いた。


 

 ──だが、そうして出来上がるはずだった、右脚に穴の開いたサンタの姿が、そこになかった。代わりに、銃弾が突き刺さった後が足元の雪に残っているだけだ。

 酔いにも似た気分が一気に覚める。


 

 ……そんなバカな。どういうことだ?

 今のは完全に、奴の死角から放った一撃のはずだ。それがどうして?


 

 表情を変えてあちこちを見回していると、不意に背後から肩を掴まれた感触が沸く。

 すかさず反転し、顔を後ろに向ける──が、誰もいない。肩の感触もいつの間にかなくなっていた。



 と思ったのも束の間、腹部で唯一筋肉に守られていない鳩尾にいきなり、振りかざされた鉄槌の如くとてつもなく重い一撃が炸裂した。


 

「がぁっ! あ、……が」


 

 正体不明の衝撃のせいで、右手からは拳銃がこぼれ落ちた。反射的に、自分自身を両腕で包み込むようにして、膝立ちになる。



 痛みはない。狂化薬ベルセルクルのお陰でそんなものは感じない。しかしそれでも、葛城かつらぎの胃のなかで小型爆弾が爆発したかのように胃酸が食道を逆流して、勝手に口から溢れだす。生理現象の猛威が内から蝕む。


 

 そこへ、すっと声が現れた。


 

「寝言は寝てから言え」


 

 顔を上げると、両手をズボンのポケットに仕舞い込んで立ちつくしているサンタの姿が目前にあった。

 もちろんながら、銃弾を喰らった様子は見受けられない。


 

 サンタは悶絶し動けないでいる葛城かつらぎの背後にまですたすたと回りこむと、右手だけをポケットから抜きだし、そっと葛城かつらぎの頸椎辺りに、右手の人差し指と中指を揃えて押しつける。まるで、刃を首に突きつけるかのように。


 

「まさか、狂化薬ベルセルクルを使う相手と戦うのはこれが初めてだ、とでも思ったのか。そうだったなら、お気楽なもんだ」


 

 まるで説教のように語るサンタに憤りと屈辱を覚えたが、すぐに『バカめ、油断してるのはどっちだ』と、内心ほくそ笑む。


 

 今、どうしてかサンタは俺に触れている。あの不可視の壁もないようだ。ほんの僅かにでも接触できている今この瞬間こそ、ようやくサンタに過剰超帯電クエンチド・スパークをお見舞いしてやる絶好のチャンスだ。


 

 その考えのもと、過剰超帯電クエンチド・スパークは何の障害もなく、ついに発動した。

 ──が、いつまでたってもサンタが感電して倒れた気配がやってこない。未だに、首に指が添えられたままだ。


 

 なんだ? どうした?

 まさか不発か? いや、ちゃんと発動したはずだ。なら、どうして倒れない?

 まさか……耐えたっていうのか? 俺の全力を叩き込んだはずだぞ? 仮にそうだとしても、平気で立っていられるほどに無事なはずがない。


 

 サンタの状況を確認したくて、背後に顔を向けようとする。

 そこで葛城かつらぎは気づいた。首だけにとどまらず、なぜか体がまったく動かないでいることに。



 脳が電気信号を送って体に命令しているはずなのに、体がそれを無視し続けているかのように。

 偉そうに講釈たれるこのサンタを心底殴り飛ばしてやりたいのに。

 目の前に落とした拳銃を拾って今度こそ撃ち殺してやりたいのに。

 でも、どうしても体が反応しないのだ。


 

 そんななか、このタイミングで何故か、「お前に聞きたいことがある」とサンタが言ってきた。


 

みやびがお前たちの仲間に加わっているのは、お前がそそのかしたのか。それともあいつが自ら進んで申し出たのか。どっちだ」


 

 その質問に葛城かつらぎは意外感を禁じ得ない。

 何故こいつがそんなことを聞いてくる? 

 そもそも、こいつはみやびを知っているのか?

 いずれにせよ、答える義理はない。『誰が答えるものか』と嘲笑してやりたいところではあったが、生憎と口すらまともに動く気配がなかった。どもるように「あ……う、あ……」と、声が言葉にならずに漏れるだけだった。


 

「お前は、みやびがいると知っていて、この学園に近づいたのか。それとも、再会はたんなる偶然か。どっちだ」


 

 最初の質問に対しての返答を待たずして、サンタは次の質問を繰り出してきた。

 葛城かつらぎは、妹である常盤ときわみやび──いや、葛城かつらぎみやびと再会してからこれまでのことを思いだす。思い出すだけで、葛城かつらぎは一向に答えない。答えられない。


 

「お前は、過剰超紡績ストリング・オクテットみやびの体にどれほどの負担がかかるのか、本当に知っているのか。………いや、今のはいい。お前が知らないはずがないしな。だが──知っていたなら、どうしてあいつが狂化薬ベルセルクルを使うのを止めなかったんだ。まがいなりにも兄貴だろ、お前は」


 

 サンタは自問自答したのち、糾弾を始めた。


 

「お前たち兄妹には同情する。サンタを憎むその気持ちもわかる。だが、お前の気持ちは理解できない。過去を忘れて平凡に暮らしていたみやびを、どうして仲間に引き入れたりしたんだ。再開が偶然なら、どうしてそのまま放っておこうとは思わなかったんだ。あいつをこんなことに巻き込んで……お前は妹を何だと思ってる」


 

 サンタは、自らが口にした先ほど質問の回答を得ているかのように、続けて問いかける。

 ろくに返答もしていないはずなのに、サンタの言葉には事実との矛盾がない。さっきまでの葛城かつらぎであればそのことにまた疑問を覚えたところだが、今はそれどころではなかった。


 

 ……同情だと? 

 妹を──みやびを何だと思ってる、だと?

 何をふざけたことを言ってやがる。

 今、こうして俺がサンタと争っているのも、みやびが俺たちの仲間に加わっているのも、元をたどればすべてお前らサンタのせいだ。お前らが父を殺しさえしていなければ、こうはならなかった。何も始まらなかったんだ。

 それがなんだ? 偉そうに。

 どの口が言う。俺が今日この日まで、どれだけ辛酸を嘗めてきたことか……。


 

 葛城かつらぎはサンタに復讐するため、父親を殺されたあの日から、人生のすべてを復讐に捧げてきた。

 自分を引き取った親戚のクズ共は7歳のときに父親から施された過剰超帯電クエンチド・スパークで皆殺しにしてやった。サンタのように親の遺産を奪ったクズ達だ、当然の報いである。むしろまだ足りないくらいだろう。



 復讐を果たすための一環として、父親と共に裏社会で暗躍をしていた高峰たかみねの元へと赴くことにした。事件当時すでに10代半ばであった葛城かつらぎは、鳥かごのなかで育てられていた幼い妹とは違って父の素性を知っていた。だからこそ、高峰たかみねの素性も知っていたし、高峰たかみねの傍にいればサンタの情報も比較的仕入れやすいに違いないとの判断によるものである。なんなら、父のようにサンタに狙われる可能性だってある。そうなれば願ったり叶ったりだ。

 そうして高峰たかみねに連絡を取ってからというもの、側近として汚れ仕事をしながらも、サンタに関する情報を必死でかき集める毎日が続いた。



 積年の努力の末に得た、『サンタと聖ニコラス学園に繋がりがあるようだ』というゴミのような情報にも、藁をも掴む思いで飛びつき、時間をかけて周到に準備し、ついに講師として潜入することにも成功した。

 しかしまさかそこで生き別れの妹との再会が訪れるとは夢にも思っていなかったが、逆にチャンスだとも思った。父が母に宿し、そしてそれが妹に遺伝したあの過剰超紡績ストリング・オクテットは、きっとサンタ討伐に何かしら役に立つに違いない──その考えのもと、すでに復讐の怨嗟から脱出していた妹を、あの手この手を使って再び復讐に駆り立てたりもした。



 ガキ共の相手をするのに我慢する毎日。

 夜な夜な学園に忍び込み、秘密を探る毎晩。

 全ては、憎きサンタに報復するために。父の無念を晴らすために。

 全ては、この父の形見の銃で、サンタという悪夢から目覚めるために。

 全ては、自分の人生を変えたあの日と決別し、第二の人生を手にするために。

 父のように偉大な発明をし、成功し、莫大な金を得て、再び葛城かつらぎの名を世界中に轟かせ、そして生き別れた妹を見つけだし、また一緒に暮らす──という夢を叶えるために。



 そして今。全てをなげうってまで前進してきた葛城かつらぎは、夢の一歩手前まできたところで、悪夢の元凶であるそのサンタに諭されている。それが無性に我慢ならなかった。


 

「だ、ま……れ。ふ、ざ、け……る、な」


 

 未だに発音がままならないままだが、収まりきらない怒りが、言葉になって漏れる。

 それに対し、「ふざけてるのはどっちだ」とサンタは呟いた。

 乱暴に胸倉を掴まれ、有無を言わさず目と鼻の距離にまで顔を引き寄せられる。


 

「兄妹とか体のいいこと言って、ただいいように利用してるだけだろうが! このクソ兄貴がっ!」


 

 これまでが嘘のように、サンタは激しく咆哮した。

 女性の声だし、ゴーグルのせいでその表情は定かではなかったが、呼応するように雪雲がゴロゴロと音を立てているのも相まって、一喝はあまりにも迫力に満ちたものとなり、葛城かつらぎの背筋をうすら寒くさせた。


 

「……もういい。聞きたいことは聞いたし、言いたいことも言ったからな。そろそろ終わりにする」


 

 その一言を皮切りに、サンタの様子が、突如として豹変した。

 線香花火が放つ幾重にも枝分かれした光に近い火花が、サンタの全身から、噴水の如く迸りだしたのだ。


 

 長髪が四方八方に逆立ち細く鋭く尖っている。夜空を点々とする無数の雪が、サンタの体を龍のように巻きつき飛び交う紫電に攻撃されて、一瞬にして蒸気に姿を変えている。

 それと同時に、千羽の鳥の合唱よりも耳障りな音が、周囲の空気を激しく苛めだす。曇天からも、落雷を予感させるほどに荒れ狂った唸り声と閃光が今か今かと暴れている。


 

 サンタ名『ドンナー』。

 それは、北欧神話に登場する最強の神の名であると共に、雷の神の名でもある。


 

「あ、あ……あ」


 

 サンタの変貌振りを見て、視認できるほどに膨大な電気を見て、今までの、不可思議な力による不可思議な現象への疑問がすべて解決する。


 

 それらは全て、電気の性質をかんがみれば説明がつく。

 たとえば葛城かつらぎは当初、サンタと自分との間に引力または斥力が発生したと考えたが、それはおおむね正しかった。

 電気には正の電荷と負の電荷がある。それらは『静電エネルギー』という形で、結果的に引力と斥力の関係を生みだす。つまり葛城かつらぎが接触できなかったのは、サンタが葛城かつらぎと同質の電荷を用意して構えていたからであり、逆に、異質の電荷を用意することで葛城かつらぎを引きつけることができる。それゆえに、帯電していない銃弾や雪はその範疇の外だったのだ。


 

 先の高速移動は、狂化薬ベルセルクルによるものではなく、おそらくは自身の運動神経の電気信号を操作したのだろう。そしてそれほどまでに精密に操作・応用できるのであるとすれば、触れた他人の電気信号を自分の電気をもってして乱すことも可能かもしれない。葛城かつらぎの体が今もこうして動かないでいるのは、一定量の電気を体内に送り込まれたせいで、一時的に全身が内から麻痺させられている、といったところか。

 ──それにしても。


 

「ば、かな。有り、得ない、そんな、はず、が……」


 

 徐々に麻痺が取れてきていた唇で、無意識に心情を吐露してしまう。



 電気の耐性が人一倍強いはずの葛城かつらぎが、全身麻痺するほどの電気量。

 葛城かつらぎ過剰超帯電クエンチド・スパークよりも明らかに、確実に上をいくであろうその能力。

 葛城かつらぎはついに理解した。今まで頼ってきたこの過剰超帯電クエンチド・スパークこそが、この戦いのすべての敗因だったのだと。自分の超心理アンプサイ過剰超帯電クエンチド・スパークである事実が変わらない以上は、もはや狂化薬ベルセルクルを使ったところで焼け石に水。蛇足でしかないのだ。


 

 今ならわかる。サンタが言っていた『俺はお前の接触を許さない』という言葉の意味も。

 もしも葛城かつらぎが電気を纏って攻撃してきたのであれば、自らも電気を纏うことで、その攻撃を反発させることができる。

 もしも葛城かつらぎが生身で攻撃してきたのであれば、高速移動によって回避できる。

 まさに文字通り、どうあってもサンタの許可なくして接触はできない。それが現実。 

 結局のところ、戦いが起こる前からすでに勝敗は決していたのだ。


 

 自分の導きだした答えに恐怖する葛城かつらぎをよそに、サンタは両耳の穴に一度手をやり、そして何かをポケットにしまい込むような素振りをみせた。

 次の瞬間、葛城かつらぎを掴んでいないほうの腕の先端に、サンタの体の内外を駆け巡っていたありとあらゆる電気が集結しだした。それに比例して、音がより激しく歪んでいく。

 逆に、逆立った髪は反発する力を徐々に失っていき、やがて元の髪型に戻っている。

 その片腕は今、超巨大な線香花火と表現して間違いのない超常現象となっていた。


 

「安心しろ、殺しはしない。だが、死ぬほどの痛みを味わうことにはなるだろう。でもそれも、狂化薬ベルセルクルを使ってる今のお前には関係ないだろうけどな。それじゃあ……覚悟しろよ」


 

 葛城かつらぎを掴んだサンタの腕が、直角を目指す。それに伴い、葛城かつらぎの体が持ち上げられていく。



 腕の角度が急になっていくにつれて、やがて葛城かつらぎの足が浮きあがった。しかしそれだけに止まらず、腕の傾きがさらに急になっていくにつれて、体がどんどんと地表から遠ざかっていく。まるでサンタの腕と葛城かつらぎの体の位置関係が固定されているかのように、腕の動きに追従するように体が浮かび上がっていく。



 腕が垂直になったときには、葛城かつらぎはまるでサンタのための雪避けの傘のようになっていた。体を横にして、サンタの腕一本で支えられているような構図になっている。

 けして腕力ではない。おそらくこれもまた、静電エネルギーによるものだろう。


 

 しかしながら、これから何をされるのか全く予想がつかない。

 すでに敗北した心持ちでいた葛城かつらぎは、未だ自由の利かない状態で、このうえまだ何をされるのかと純粋に怯えていた。


 

「待、て、やめ、ろ、やめて、くれ」


 

 しかし、サンタは聞き入れない。


 

「……何か言ったか。悪いが、補聴器を外してるからまったく聞こえない。諦めろ」


 

 刹那、サンタの片腕から電気の塊が一気に途絶えた。

 その結果、葛城かつらぎは膨大な静電エネルギーの斥力的な影響によって、打ち上げ花火のように、宙に向かって垂直に弾き飛ばされた。


 

 静電エネルギーは、万有引力と類似した性質の力である。

 だが、実のところ万有引力は惑星規模でようやく視認することができ存在がわかるほどの微々たる力なのに対し、静電エネルギーはなんと万有引力の約10の20乗以上──すなわち100億の100億倍以上の計り知れない力を秘めている。

 もしも仮にこの力すらも操作可能ならば、人ひとりを天へと弾き飛ばすことなど造作もない。


 

 葛城かつらぎの肉体はいつまでもどこまでも上昇をやめない。もはや何が起こっているのか、本人が一番わからないでいた。

 いずれ訪れるであろう落下の恐怖を感じる間もなく、上昇を続けていた葛城かつらぎに向かって、幾重にも折れ曲がった禍々しい電撃の魔槍が、光の速さでその体に突き刺さった。刹那、神の怒りとも受け取れるとてつもない爆裂音が天空から大気の衝撃波となって地上を覆った。


 

 空気は最強の絶縁体のひとつである。

 だが、雷の電気はその空気という防壁を強引に破壊してあまりあるほどに絶大で強力なのだ。そしてその威力の電気が流れる際に空気は激しく振動し熱せられ、電気の通った道には真空ができてしまう。その真空を掻き消そうとする空気圧縮がとてつもない衝撃波を生み出し雷音となる。

 たとえば──地上付近の校舎の窓ガラスが、爆裂音の余波でひとつ残らず砕け散るほどの超大音量となって。


 

 葛城かつらぎは、およそ十億ボルトというその膨大な電位差によって莫大な抵抗熱を帯び、全身の皮膚に重度の火傷を負った。


 

 狂化薬ベルセルクルの効果で痛みを感じない。しかしそれでも、言いようのない感覚が葛城かつらぎを苦しめる。

 さきほどの雷音には匹敵しないまでも、断末魔のような強烈な叫びが空に響いた。


 

 やがて黒焦げになった葛城かつらぎは、重力によってサンタの真上に落下してきた。

 サンタは再度左腕に幾らかの電気を流して静電エネルギーを操作し、葛城かつらぎの落下スピードを殺しにかかる。壁一枚分の間隔を空けて葛城かつらぎを受け止めると、そのままゆっくりと雪のなかに下ろした。

 すべてが終わり病院に連れていくまでの、火傷のための簡易措置である。


 

 サンタはポケットにしまっていた特注の補聴器をとりだし、そっと両の耳に取り付ける。

 その直後、校舎の屋上あたりから銃声を感じ取った。



 


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