58ねこ 援軍来たる
イカれた救援メンバーを紹介するぜ!
老猫! 犬! 以上だ!
……とはいえここはゲームの世界。動物だって活躍できる。特にこのゲームはそういう強者がそれなりにいるから、頼もしい援軍であることは間違いない。
間違いないんだが……やっぱこう、絵面がね? どうしても緊張感がさ……。
人のことを言えない状態の俺ではあるが、俺は元人間なんでノーカンってことに……ならない? ダメ? そっかぁ。
まあダメだろうとなんだろうと、理解と納得は別物。期待していた援軍がアニマルコンビだったことに対して、思うところはそれなりにある。
ただ俺は現在戦闘不能の幽霊なので、普通ならそれに対するリアクションはできないのだが……。
「【ディバイングレイス】!」
「とんでもねぇメンツが来やがったなマジで!」
老猫ことクロルティが使った最上位蘇生スキル(全体が効果対象、かつ全回復するやべーやつ。確かプレイヤーで習得できてるやつはまだいないはず)によって秒で復帰した俺の口からは、普段通りのツッコミが炸裂した。
「とんでもないところに呼び出しておいて言ってくれるじゃあないか。きゃんきゃん吠えてる暇があるならキリキリ働きな!」
だがクロルティが俺の言葉にめげるはずもなく、ぴしゃりと言い切りながらも自らの使い魔をその場に召喚した。
姿を見せたのは、いつぞやに俺と明人の前で見せたフレイムクリーチャー・オブ・クトゥグア。要するに、猫の形をした炎の塊である。
やべぇと俺が考える間もなく、そいつはドリル野郎に向かって突撃していく。当然のようにその軌道上に炎をまき散らしていくのは、マジでやめてほしい。環境ダメージに対する備えなんてほとんど残ってないんだぞ。
一方ドリル野郎のほうも、天敵の出現に明らかに挙動を変えた。最上位蘇生スキルを使ったクロをにらみつつも、目の前の天敵を無視できずそれに対応する形で動いたのだ。
そうこうしているうちに、クロは俺たちに向けてバフや回復をふんだんにかけていく。恐ろしく手厚い。
何せ環境ダメージに対するバフまである。どうした。まるでクロじゃないみたいだ。いつもこれくらいやってくれマジで。
しっかし、普段ならここからさらに使い魔を召喚し続けて、物量で相手を圧殺するのがクロ本来の戦闘スタイルなんだが。それをしないということは、【コールクリスタル】で呼ばれたときは呼び出せる数に制限があったりするのかね?
まあそんなことは置いておこう。助かったことには変わりないし、もう一人……一頭? 来てくれた御仁がいる。そのほうがよっぽどインパクトがでかい。
その人は冒頭で言った通り、犬だ。犬種はドーベルマンということでいいだろう。
だが彼の周囲には、常に半透明の手が二つ浮いている。その手には拳銃が握られており、空中を自在に飛び交いながらも弾丸を正確無比に命中させ続けていた。
射撃精度が異常に高い、という感じじゃない。あれは未来を正確に予測しているか予知しているかって感じの動きだ。何せ放たれた弾丸の先に相手が移動しているように見えるからな。
これに加えて、彼は剛槍とも言うべき二つのドリルの近接でさばききっていた。こちらもまるで未来を見ているかのような回避を繰り返し、回避ができないものについても半透明の手をどこからともなく出現させてすべてパリィしきっている。とんでもねぇ技量だ。
結果彼はクロが使い魔の召喚を完了するまでの間、たった一人であのドリル野郎をノーダメでさばききった。はっきりいって化け物である。
俺の中での化け物筆頭はMYUだったが、果たして彼女はここまでできるだろうか?
しかしそれはともかく、だ。あのドーベルマン、間違いない。彼は。
「……ナナホシ、あれはもしや」
「もしかしなくても、プレイヤーからは『ガン=カタドーベルマン』のあだ名でお馴染みの人だな……」
そう、彼こそはかの有名なガン=カタドーベルマンその人である。ゲーム内外を問わず色んな噂は聞いているのだが、まさかその噂がまったく嘘偽りなくガチだったとは。
ちなみに、今はフレイムクリーチャー・オブ・クトゥグアと一緒にドリル野郎を翻弄しておられる。どんだけぇ。
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マクシミリアン ??? Lv???
称号 ウィズダム ??? ??? ???
守護神 ???
守護星 ???
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クロより見える範囲が狭い。わかってはいたけど間違いなく強い。
ていうか、称号四つ持ちとかどうなってんだ? 初めて見たぞそんなやつ。何がどうなったらそんなことになるんだ。つっよ。
しかもこれで名前までかっこいいとか……ちょっと贔屓がすぎないかオイ。
もしかしてあれか? 開発陣か経営陣、あるいはスポンサーの偉い人の誰かが犬派なのかこのゲーム? なんかそういう指示でもあったの?
っつーか、ご主人はこのマクシミリアン氏と一体どこで知り合ってどうやってフレンドになったんだ……。
「ありがとうクロちゃん! 助かったわ!」
「礼ならあとで誠意と一緒にもらうから気にしなくていいよ!」
「あはは、はーい!」
そのご主人は、完全に立て直してクロがにこやかに会話していた。余裕すらある。さっきまでの苦戦は一体。
もちろん思うところはある。フレンドならNPCでも【コールクリスタル】の対象なのか……とか、俺というものがありながら……とか。
だが今は、それよりも何よりも、やるべきことがある。
「あ、あの、私たちも戦線に復帰したほうがいいんじゃ……」
「アカリに賛成! このままだと俺ら完全におんぶにだっこで終わるぞ!」
「きゅーい!!」
ということである。
敵が強すぎるのは困るが、味方が強すぎるのも案外考えものだぜ……!
「それもそうね! よーし、畳みかけるわよ!」
「「合点!」」
「はい! 行きましょう!」
「きゅっきゅーい!」
てなわけで、俺たちも急いで戦線に復帰した。近接メインのご主人たちはそれぞれの戦闘スタイルで殴りかかりに行く。俺はそういう攻撃手段がないから、いつも通り遠巻きに刺していくスタイル。
ただしもはや被弾の心配がほぼない状態だし、ヴァルゴで行かなくてもいいだろう。ここは威力重視(あと周囲がどんどん火事になっていくからそれ対策)で俺もフレイムクリーチャー・オブ・クトゥグアを【ディペンディング】! 俺も身体が炎の猫になる!
天敵の気配が増えたからだろう。ドリル野郎の注意が俺にも向いたが、そこはクロやマクシミリアン氏が釘づけにしてくれているおかげでこっちに攻撃する余裕はなさそうだ。遠くの微妙な強さの敵より、すぐ目の前にいる強敵が優先なのはそりゃそうだって感じだな。
ただし、これ以上の連携はあまりなかった。まあこれについては俺たちのパーティにクロ、マクシミリアン氏とパーティを組んだ経験がほぼないから仕方がない。
俺ならクロと合わせられるし、ご主人もさすがフレンドと言うべきかクロやマクシミリアン氏と合わせられていたが、それ以外のメンツはな。どうしてもスムーズとはいかない。
特に明人はそういう発想が希薄だからな……。ああいう突撃バカは、周りが合わせてやるしかない。
そして最前線でそれを主にやっているのが、みずたまってのがさ……こう……なんていうか……草不可避ってこういうことを言うんだな、って……。
……あっ、そうこうしてるうちにドリル野郎のHPが20%切った。
嘘だろ、この短時間で15%も削ったのか。マクシミリアン氏パネェ……。クロのフレイムクリーチャー・オブ・クトゥグアも相手に特攻効果があるとはいえ……やっぱレベルか。レベルを上げて物理で殴るのが正解なのか……!
『オオオオオ゛オ゛!!』
「あっ、ピンボールアタックが来るぞ! 総員退避ィ!」
HPが特定ラインを割ったからだろう、特殊行動が始まった。雄たけびを上げながら全身を震わせ身体を丸める、というそれは既に見慣れつつある挙動。
そう、あのめんどくさいピンボールアタックの予兆だ。大量のドリルが全身から現れ、丸まった状態から周囲を縦横無尽に跳ね回る迷惑行為である。
直撃を喰らえば大ダメージ必至だが、フィールド破壊も含むせいで回避も難しい極悪な技だ。それでも喰らうわけには行かないから、ワンチャンに賭けて回避に専念する俺たち。
「【ハリケーンショット】!」
だが直後のことである。マクシミリアン氏が吼えた。宣言されたのは聞いたことのないスキル名だった(そもそも銃が市販されてないせいで銃関係のスキルを知る機会が少ない)が、そんなことはお構いなしにスキルは発動したらしい。
宙に浮いていたマクシミリアン氏の二丁拳銃が、激しく動き回りながら乱射し始めた。放たれている弾丸はただの鉛弾ではないらしく、明らかに口径以上の大きさである。しかも「ハリケーン」の通り風を纏っていて……。
「……うそぉ」
そのつぶやきは誰のものだったか。ただ、恐らく助っ人二人以外の全員の心境だっただろう。
なぜなら、縦横無尽に駆け巡る無数の風の弾丸が、ドリル野郎の軌道をことごとく逸らしてしまったのだ。結果、俺たちがドリル野郎に体当たりされることは一度もなく技は終わりを迎えた。
被弾はなくともかなり近いところスレスレにまでは来たし、相手にダメージは入っていないようだったが……ノーダメージでこのクソ技を凌げたのは大きすぎる。どんな技量してんの? いや、あのピンボールアタックの猛烈な動きを逸らせる威力もだいぶ頭おかしいが!
『アアアア゛ア゛……! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!』
ドリル野郎もそうだそうだと言っています。
いやうん、その気持ちはわかるよ。地団太を踏む気持ち、とてもわかる。必殺技が完全に不発に終わったらすげー腹立つよな。わかるわかる。
だが残念ながら俺たちは敵同士なのだ。貴様にかける情けなどない。
というか、さっきまでのお前の挙動も大概だからな!! 今更ふざけんなって言われても、先にやらかしたのはそっちだからな!!
というわけで……死ぬがよい!
「【ヘヴンレイ】最大出力っ!!」
「【ライトブリンガー・レベル25】!!」
「【悪魔祓い】!!」
「【プロミネンス】!!」
俺たち四人の全力の攻撃が、一斉にドリル野郎に直撃した。複数のスキルの効果音とエフェクトが重なりあい、猫の視覚と聴覚にはちょいと厳しいものがあるが……今ばかりはそこに高揚感や達成感が付随してる分、あんまり気にならない。
追いかける形で、みずたまにクロ、マクシミリアン氏の攻撃も殺到する。
もちろん、相手はボスだ。それだけでガンガンゲージが減ることはないが……間違いなく今までで最高の瞬間火力だ。格上ボスのゲージがググっと減るのをお目にかかる機会なんてそうそうないだろう。
さすが、切り札を切っただけのことはある。応じてくれたのがだいぶ過剰戦力な気もするが、それに見合うだけのコストがないと入手できないからな。そうこなくっちゃという感じだ。
あとはこのまま、押し切らせてもらうぜ……!