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54ねこ ご主人が仲間に加わった 下

「どうもー、この子の飼い主のカナといいまーす」

「……初めまして、@と言います。彼にはお世話になっています……」


 見る人が見たら、「これが漫画なら間違いなく『シャキーン』とか『キラーン』とかの擬音語を背負ってる」って思いそうな態度で、明人がダブルメガネを指で押し上げている……んだと思う、たぶん……。


 いやだって、あいつ今例のブラックアーマー一式装備してるんだぞ。例の黒いフルフェイス兜も込みの一式装備だ。当然メガネが露出しているはずがないんだよなぁ……。

 これでメガネくいっがやりたいなら、兜の中に手を突っ込むしかないわけだが……まあ、その辺りは色々とお察しである。


 うん、そうだね、明人マイスターの俺じゃなくてもわかるね。あれ、あいつなりにめっちゃ緊張してたり驚いてるわけだな。いくらなんでもわかりやすすぎる。そういうとこだぞ明人。


「……ところでつかぬことをお聞きするのですが、もしや中村加奈子氏では?」

「そうですよー」


 対するご主人は、普段から自身のことをなんら隠さずこのゲームを遊んでいるだけあって、何もはばかることなくさらっと肯定する。

 普段ならもう少し遠慮してるはずだが、明人に対して俺がガチの猫だということは話してしまっている、と事前に伝えてある。その判断をご主人は尊重してくれているので、あえて何もせず正面から受け止めに行ったんだろうな。いつもお世話になってます。


 ……と、思っていたら、明人が有無を言わせない勢いで俺の身体をかっさらった。ご主人から距離を取り、隠す形で俺を胸元に抱え、耳打ちするポーズで話しかけてくる。


「オイオイオイオイオイオイナナホシ、あなた本当、オイオイオイオイオイオイ!!」

「なんだよ藪から棒に。ていうか、なんだよそのリアクション。何キャラだ?」

「あなたの事情は聞きましたが! よりにもよって飼い主が中村加奈子氏だなんて聞いてないですよ!?」

「……あれ? 言ってなかったっけ?」

「言ってません! ラグなしで普通に挨拶できた自分を褒めてやりたいレベルですよこれは!!」

「そりゃあご主人はこれからの芸能界を背負って立つほどのお人だが、そんなにか?」

「特撮ファンの前でそれを言いますか!? 五行戦隊オンミョウジャーがいかにシリーズの特異点かつ転換点だったか、それをやりきったメイン五人がどれほどすごい人たちか、ナナホシだって知らないとは言わせませんよ!?」

「いやそれもわかっちゃいるけどさ……」

「あーわかってない顔! それ絶対わかってない顔!! 自分の目はごまかせませんよ! ナナホシあなた、彼女に飼われている間に完全に感覚麻痺しましたね!? よくよく考えてくださいよ!? 加奈子氏ですよ!? 元オンミョウイエロー! 中村加奈子氏ですよ!? 彼女に会いたいがために道を踏み外したファンがどれだけいたことか!!」


 そういやこいつ、オンミョウジャー放映当時はイエロー推しだったっけ……。そんなやつにしてみれば、俺の今の環境は……、


「……言われてみれば確かに、超絶勝ち組な気がしてきた」


 敵の女幹部を推してた俺ですら、初めて彼女に会ったとき、というか買われたときを振り返ってみると、自分でも引くほどテンション上げてたしな……。

 推しにリアルで遭遇したらこうもなるか……。


「いやいや、あたしなんてミュウちゃんに比べたら全然よ? そりゃあ当時はかなり人気をいただいてたとは思うけど、あの子には負けるわ」


 とそこに、くすくす笑いながら割って入るご主人。


「たぶん桁が違うよな。冗談抜きで」

「そうね、特殊な趣味の人たちに随分おっかけされてるから」


 出演したバラエティ番組とかを見ていた限り、MYU(ミュウ)って中学生くらいからまったく見た目変わってないからな……その筋の人にはたまらないだろう。

 ただし、一部のガチな人であるところの前世の先輩は、「身長が150以上ある時点でロリとは断じて認められない」と真顔で言っていたが。


「まあ彼女の場合、事務所が小さなことにも全力で守ったからこそ『道を踏み外した』人間が出たってのも大きいよな。あれだけキッチリやってくれるところなんてそうそうない」

「実際逮捕者出ましたもんね……」

「それな」


 思わず相槌を打ってしまったが、それに合わせて向けた視線の先では明人がご主人を拝んでいた。

 ええ……お前そんなに……?


「推しにいきなり出くわした沼の住人として正しいリアクションだと思いますけど!?」


 そりゃあそうなんだけどさ。ご主人は声優としての活動はほぼしてないぞ? アニメ以外の役者については基本的に守備範囲外だったろうに、どうしたお前。


 ……あ、いや、待てよ? こいつ、確かにイエロー推しではあったが、より正しく言うなら青黄のカップリング推しじゃなかったか?

 いやどっちも女性なんだけど、作中でそう(・・)だと明言されたわけでもないけれど(敵怪人の攻撃で一時的にそれっぽくなる回はあった、前後編で)、そういう意味でもオンミョウジャーは戦隊シリーズの特異点だったから……。

 そして青はズバリMYUがやってたわけで、つまりなんていうか明人、お前……。


「……お前、今からそんなんで大丈夫か? 明日になったら一時的とはいえMYUも来るんだぞ?」

「来るんですか!!??」

「うわうるせえ」


 うわうるせえ。建前と本音が思わず一致しちまったじゃねーか。


 ……待て、祈りを捧げるな。お前はどこに行こうとしてるんだ。あと柏手打ちながらアーメンとか言うな、それ下手したら冗談抜きで刺されるやつ。


「お前さ……俺がMYU呼ぼうって言ったときよく抑えられてたな……」

「いやMYU氏は好きな女優ですけど、単体だと自分の中の優先順位はそんなに高くないので……彼女は加奈子氏の隣にいてこそてぇてぇが捗ると思ってるので……」

「仮にもご主人の親友相手になんてこと言うんだお前。ぶん殴るぞ」


 いやまあ、お前巨乳派だし、妙に納得しちゃった自分もいるけどよ。


「いやー、久々にこの手の熱心なファンに会ったわー。自分で言うのもなんだけど、オンミョウジャーって愛されてるわねぇ、ありがたいわ」


 そしてご主人のこのリアクションである。なんというか、慣れているというか、心が広いというか……。


「そりゃ数千人から面と向かって似たようなことされたらねぇ。それに比べれば一人なんてそよ風みたいなものよ」


 強いなぁ。芸能人ってのはこれくらいの鋼メンタルがないとやっていけないのかもしれない。


「……改めまして、@と申します……ファンです……あの、サインとか、いただいてもよろしいでしょうか……!」


 そして復活した明人渾身のお辞儀が炸裂し、ご主人は笑顔でこれに応じたのであった。

 聖人君子かな?


「きゅーいきゅーい!」


 一方、重要ではないが使う予定もないアイテムにご主人がサインをしている合間に、俺はみずたまと戯れる。

 どうやらこいつ、少し見ないうちにまたレベルを上げたようで、連動して上がっているらしいパワーで俺は潰されそうである。可愛い顔してとんだパワーちゃんだよ……!

 まあ相変わらずやたら俺に懐くみずたまであるが、俺も俺でだいぶ慣れはした。人をダメにするソファよろしく、みずたまに身体を委ねてのんびりしつつ……もらったサインを両手で天に掲げて吠えている明人を半目で見やった。オーバーリアクションにも程がある。


 ……あいつはしばらくほっとこう。


「ところでご主人? それ……」


 俺は改めて、今まで見ないようにしていた現実を受け止めることにした。具体的には、ご主人の背後でうごめいている火の玉に、である。


「ああこれ? こないだ契約したクリーチャーなんだけど……」


 彼女はそこで一度言葉を切り、後ろに身体を向けた。


『仮だ。間違えるな人間風情が』


 そしてその不遜な物言いを受けて、苦笑を俺に向け直してきた。


「……とまあこんな感じでさ、態度が超悪いものだから、一回連れ回しただけであとはずっと預けっぱなしなのよ。一応【キープ】してるから、経験値とかは入るんだけどね」

「なるほど」


 確か【従魔術】で【テイム】、すなわち従えられるモンスターの数自体には上限がないが、パーティに入れられる数には上限があるため、テイムモンスターを預ける場所があるんだったな。

 その手の収集系のゲームでもお馴染みだが、SWWでは【キープ】のスキルを適用することでそいつにだけは戦闘成果を分けられる……んだったか。適用中は会話もできるとは知らなかったし、見た目にもエフェクトがつくのも初めて知ったが。


「ていうか、そもそも指示も聞いてくれないのよね……」

『誰が人間風情の命令など聞くか』

「この始末よ」

「なるほど。強くても連携する気もないなら、パーティにいらないわな」

「あたしのスキルレベルが足りてないからだとは思うんだけどね……だとしても、イベント起こす下限のレベルじゃ従わせられない、なんていい落とし穴だわよ」


 だから【キープ】して好感度を稼いでるんだけど、と続けたご主人ではあるが、そんなに気にしている様子はない。単純にマジで気にしてないのか、それともこのイベントだけの仮テイムモンスターとして割り切ってるのか、そこら辺はわからないが。


 まあぶっちゃけた話、俺はご主人がクリーチャーを手に入れていることをすっかり失念していたので、これはよかったと思ってしまっているわけだが。パーティ人数的に。


「……ちなみになんだが、ご主人はみずたま以外にテイムモンスターを増やそうとは思わないのか?」

「思ってはいるんだけど、なかなかあたし好みの子がいないのよ。ミスリルの森に出てくるケットシーとか狙ってたんだけど、その必要はなくなったし……」


 俺のほうを見ながら言うご主人。


 ……ケットシーって確か、猫のモンスターだったかな? なるほど、俺がいるならそれは確かに必要ないだろう。俺もある意味では彼女のテイムモンスターみたいなもんだし。


「なるほど、性能じゃなくて見た目で選ぶ口なわけか」

「だってそのほうが楽しいじゃない?」

「ごもっとも」


 俺だってそうする。ポケットにファンタジーを詰め込んだモンスターのゲームでは、俺も見た目だけで選んでた。


「あとは……強いて言えばだけど、職業柄ログインできるタイミングが不規則になりがちだから、あんまりメンバーを増やすと好感度の管理ができなくなりそうってのもあるわね。【従魔術】はそこの管理間違えるとゲームの難易度跳ね上がるから……」

「あー……」


 そういやそんなのもあったね。

 このゲーム、基本的にどのスキルだろうとほとんどハズレなく適度に楽しめる設計になってはいるんだが、【従魔術】に関してはリアリティの犠牲になってる感じがあるな。あえてこのゲームのハズレスキルを選ぶとしたら、まず最初に名前が上がりそうだ。それでも好きな人はやり通すんだろうけど。


「ぼくにはとてもできない」

「復活したか」


 と、ここで明人が戻ってきた。明らかにテンションが高い。声が上ずってるし、身体が微妙に忙しなく動き続けている。これ、ギャグ漫画だったら間違いなく物理的に浮ついてるやつだな。


 まあそれはともかく、だ。


「……@も戻ってきたし、とりあえず一回アタックしてみるか?」

「ええ、まずは腕試しと連携の確認も兼ねて、行ってみましょ」

「お任せください。立ちはだかる敵はすべて自分が討ち果たします!」


 テンション上げて盛り上がってるのはいいが、明人お前、本当に大根だな……。


「んー、その必要はないと思うわ。MMORPGなんだから、あたしたち全員で助け合わないとね」

「そうですね、さすが加奈子氏視野が広い!!」


 ……うるせえ。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


ちなみにひさなさんは、ロリは140センチ未満であることが最低条件だと思ってます(その目は澄み切っていた

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