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51ねこ 下準備

 デスペナ解消の待ち時間で暇を持て余している間にふと思い立ち、俺は改めてクロちゃん先輩ことクロルティに連絡を入れることにした。

 目的はパーティへのお誘いではなく、情報収集である。あの無駄に強いババアなら、もしかしてスペシャルハイパーについて何か知ってるかもしれない。そう思ったのだ。


 前にも言ったと思うけど、このゲームNPCと普通にメッセージやり取りできるの普通に有能ですわ。まあ、必ず連絡が来るわけじゃない、というデメリットもあるけどそれはそれだ。


『知らないねぇ!』


 で、返ってきたのがこのメッセージなのだが、うん。

 なんていうか、なんとなくそんなような気はしてたよ! あのババアほんとそういうところだからな!


『知らないけど、どうせニャルラトテップの眷属なんだろう? それならクトゥグアの眷属を使えばいいんじゃあないのかい。化け物には化け物をぶつけるんだよ』


 まあ、しばらくしてこんなメッセージが届く辺り、厳しいだけのババアじゃないなとも思うが、そこら辺はたぶん意図的なものなので素直に喜べない。


 ついでに言えば、クトゥグアの眷属を使ってもダメだったのでより喜べない。いやまあ、【クリーチャー・オブ・クトゥグア】を宿した状態での攻撃はする暇がなかったから相性のほどはわからないんだけど。


 いやさ、先ほどドリルに挑んだときはいつものように【ヴァルゴ】を宿して挑んで、状況を見て【フレイムクリーチャー・オブ・クトゥグア】に切り替えたんだが、普通に貫かれて死んだよね。

 物理を無効する効果は、普通に失敗を引いて即死したというわけだ。たぶん条件を満たせていないんだろうが、あまりにも当然と言いたげに普通に食らったからチベスナ顔を隠せない。

 イベントボスだからそもそも無効化できない、という可能性も否定はできないが……どうなんだろうな、この効果。検証班の解析が待たれる。


 まあそれはともかく、【フレイムクリーチャー・オブ・クトゥグア】の【巫術】としての性能はもとより「やられる前にやる」なわけであるからして。敵の攻撃を無効化することを期待してちまちまやるよりは、派手に攻撃に回ったほうがいいのかもしれない。


 そこら辺を考えると、やはりアカリやご主人にはぜひとも参戦してほしいところだな。あの二人は俺と同様、【フレイムクリーチャー・オブ・クトゥグア】の力を何らかの形で引き出せるスキル構成だし。単純に攻め手が増えるだけでなく、ヘイトのやりくりもやりやすくなるはずだ。三人も使える人間がいれば、なんとかなるんじゃないだろうか。


『あと、ドリルっていうなら敵の攻撃は刺突属性だろう。装備もろくに考えられないんじゃあとても一人前とは言えないね!』

「……なんだかんだ面倒見はいいんだなぁ」


 思わず苦笑する。素直じゃないババアめ。

 ……俺も人のことは言えんか。


「装備か……そうは言ってもババアよ、俺はろくに装備できるものがないんだよ」


 床にぺたんとへばりついて、ぼそりとつぶやく。やはり猫の身体は不便だ。


 しかしまあ、俺はともかく明人のほうは改善の余地があるか。前線でアタッカー(と、本人は意図してないけどタンク)を張るあいつが一撃で落ちるようでは、戦いにならない。まずは相手と同じ土俵に上がらないとな。いい装備がないか調べてみようかね。



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「なんの! 成果も! 得られませんでしたぁ!」

「知ってた」


 戻ってきて開口一番、下手くそな演技で膝から崩れ落ちた明人を一蹴する。相変わらず大根だなお前。


 それはともかく、このやり取りなぞ、幼馴染の俺らは数え切れないほど交わしている。なので俺の塩対応はもちろん、即座に明人が復活するのはいつも通りだ。


「で、実際どうだったんだよ」

「いや、本当に成果ゼロですね。そもそも、あのドリルに挑むに当たって最低限の条件を満たしていない人が多すぎます」

「ああ、レベルか……」

「そういうことですね」


 俺の言葉に明人がため息混じりに頷いた。

 俺たちのレベルですら、あのドリルには手も足も出なかったのだ。それよりも下のやつは足手まといにしかならないだろう。道中の難易度も高いしなぁ。


「同レベル帯のNPC勇者はそもそも既に他で押さえられていることがほとんどでしたし、高レベルとなるとそもそも遭遇すら稀で今回は一人もエンカウントしませんでしたからね」

「ままならんなぁ……。まあ時間帯によっても多少顔ぶれは変わるだろうし、人探しは一旦中止かな」

「仕方ないですね」

「ああ。今のうちにできることをやっておこう」

「というと?」


 首を傾げてこちらに顔を向けてきた明人に、クロから聞いた装備に関する話をする。


「……なるほど、装備。その発想はなかった」

「お前はあれよ。俺と違って普通に制限ないだろうが」


 と言いつつ、こいつの頭から装備のことが抜けてたのも分からなくはないのだ。今回のイベントダンジョン、敵の攻撃方法が多彩すぎて装備を絞るのが難しいんだよな。

 もちろん適宜変えることは可能だが、そもそも基本ホムンクルスどもは群れで出てくるからな……そうなるとどうしても汎用性のほうが重要になってくるわけだ。リアリティがやたら高いこのゲームだと、装備を変えるのもタップ一つで一瞬、とはいかないしな。


 あとはまあ、単純に明人が突撃バカだからというのもある。こいつはどんなゲームでも、必ず武器から整えていくやつなのだ。防具を優先する俺とは、こういうところでも対照的である。


「……ともかくそういうわけだ。お前の装備を整えに行くぞ。金なら心配すんな、装備できるもんが限られまくってる分、俺は余裕があるからな」

「了解しました」


 幼馴染特有の遠慮なさで頷く明人に俺も一度頷いて、彼の肩に跳び乗った。


 目的地はひとまず、セントラルの露店が並ぶ商店街だ。この街は最初の街だけあってNPCのショップの品揃えはショボいのだが、イベント期間中の今はプレイヤーがそれなりの人数店を構えている。まずはそこをぐるっと回ってみるとしよう。



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 リアルの時間はまだ平日の昼間だ。この時間帯にプレイヤーが多いはずもなく。

 しかし逆に、こんな時間帯に平然とMMOにログインしているプレイヤーが一般人なはずもなく。


 つまり何が言いたいかというと、意外といいものを扱っている店が多いということだ。まあ金曜日だから、普段の平日とはまた少し感じが違うけれども。

 おかげで店を眺めているだけでもなかなかに楽しいのだが、SWWにおける露店は主に二種類に大別される。すなわちハンドメイドのものを売る店か否か、だ。

 リアリティ重視ではあるものの、SWWは多種多様なスキルによってものすごい自由度を持つ。その中でも、俗に生産系と呼ばれるスキルを駆使して作られたものはNPCの店やらドロップで手に入るものとは一線を画す品であることが多い。


 まあ、その画している方向は作っている人間によってかなり違うので、買う前に品のスペックはしっかり確認しておかないと痛い目を見ることも多い。

 特に注意すべきは、アニメやらなんやらを再現した見た目重視のやつと、性能が尖りまくったピーキーなやつの二種類だ。理由はもちろん、前者は見た目に反して性能が残念なことが多く、後者はシンプルに使いづらいというものなわけだが……。


 注意するしないは一旦横に置いといて、こうやって商店街を冷かしながら歩いていると、作り手の考えというか、思想というか、そういうものが透けて見えるので、楽しいというのはそういうところだ。

 もちろんただ楽しむだけではない。そもそもの目的は明人の防具だからな。

 しかしアクセサリの類を置いている店もあったので、俺用のものも併せていいものを見つけておきたいところだ。


 ……それにしても、動物型NPCはそれなりにいるのに、彼ら向けの装備品を扱う店がないのはなんでだろう。何かしら装備してるキャラ自体が少ないのもあるんだろうが、動物好きのプレイヤーでそういうのを専門に作ってる人っていないんだろうか。

 人間用に作るよりも難易度が高いとか、そういう理由でもあるんだろうか? 動物型のキャラ向けの装備があれば、俺ももう少し装備について考えるつもりになるんだが。


「ナナホシ! ナナホシ!」

「どうした、なんかいいものあった……か……」


 そう思いながら明人に揺られていたところ、明人が突然浮ついた声で呼んできた。

 何事かと思って視線を上げたところ、そこにはどこぞの暗黒卿みたいな全身黒のフルアーマー(マントつき)を既に手にしてこっちを見ている明人が。


 お前もう三十路だろ……そのキラッキラした目はどうやってやってるんだ。少しは落ち着いたと思っていたが、こいつは相変わらずだなぁ、ホント。


「これにしましょう! これに決まりですよ! 他にないレベルですよこれ!」

「返してきなさい」

「そんな! カッコいいじゃないですか!」

「そういうことはあのドリルに苦もなく勝てるようになってから言え」


 思わずため息をついてしまったが、まあ正直なところこいつの気持ちはすごくわかる。こういう悪っぽいデザイン、男の子のツボを刺激するよね。俺も好き。


 だが今回ばかりはロマンを優先するわけにはいかない。何せ、今の俺たち二人ではどうあがいても倒せないボスを倒そうとしているのであるからして。


「あなたには人の心はないのですか!?」

「生憎と猫なんだよなぁ。……ったく、一応スペックは確認するけど、使えないなら諦めろよ」

「ツンデレ乙」

「やかましいわ」


 男のツンデレなんて嬉しくもなんともないやろがい……まあいい、なになに、【暗黒卿装備(ブラックアーマー)一式】? ……これだからプレイヤー製の装備ってやつは。

 いやそりゃあ見た目もこだわれるなら、こだわるやつはこだわるんだろうけどさ。これで強いなら言うことはないけどさ。これはあれだな、見た目重視系のやつだろうぁどうせ。


「……うーん、弱いわけじゃないけど、あのドリル相手に使えるかとなると……」


 案の定だ。ステータスは見た目に全振り、という感じである。


 いや、決して悪くはないんだよ。打撃や斬撃にはかなり強いみたいだし、動きを阻害しない軽さもあるっぽいし。

 が、それ以外に特殊な耐性はない。普通にプレイしていても、恐らくミスリルの街を過ぎた辺りで力不足になるだろう。ワンパンで即死させてくるあのドリル相手では当然足りないだろう。


「……うん?」


 そう思っていたのだが、装備のステータス欄の最後のほうに書かれていた項目を見て、俺は考えを改めることにした。


「……ったく、仕方ねぇな。これだけだぞ」

「さぁっすがナナホシ、話がわかる!」

「これだけだからな! あとはもうちゃんと性能重視のやつしか買わないからな!」

「……ナナホシママ……トゥンク……」

「誰がママだ。口でトゥンクとか言ってんじゃないぞ」


 いくら見た目がいいからって、許されることとそうでないことがあるんだぞ。俺はそういうのは女の子にしか許可したくないんだ。


 だがまあ、それはいい。これは使い方次第で化けるぞ。

 何せステータス欄に記されていたのは……。


『錬金術効果率:A』


 これが何を意味するかというと、【錬金術】系のスキルの効果をどれだけ容易に発揮できるか、ということになる。

 要するにこの項目は熱伝導率のようなもので、この効果率が高ければ高いほど低いコストで、高い効果を発揮できるというわけだ。


 しかし錬金術効果率がAとか、なかなか見るものではない。いや、正確に言えば序盤ではわりとよく見るのだ。逆に言うと、シナリオが進めば進むほど見なくなっていく。

 要するにこの数値、特殊な効果が多ければ多いほど下がるんだよ。つまりいい装備であればあるほど低い傾向が強いんだよな。

 設定的にはどうやら、いい装備というものはそれだけ特殊な魔法やらなんやらが仕込まれていて、新しく何かを追加するような余地がない状態にある、ということらしい。


 だがこのブラックアーマー、その性能に反して効果率がやけに高い。メインシナリオの中盤くらいで使える装備なのに、これほどの数値を持つものなんて滅多にあるものじゃないぞ。付与する効果によっては、普通に最前線で使える装備になり得ると見た。


 さて、では問題です。【錬金術】を得意とする人物と言えば?

 そう、MYU(ミュウ)である。


 彼女の都合がつくかどうかはまだわからないが……もし彼女が加わってくれた場合のことを考えると、このブラックアーマーを最大限活かせるようになるんじゃないだろうか。

 仮につかないにしても、何かしら効果をつけてもらう時間くらいは取れるんじゃないだろうか。


 となると、だ。


 これはどうやら、なんとしてでもMYUをパーティに呼び込む必要が出てきたようだな……!

ここまで読んでいただきありがとうございます。


割烹には書いていますが、8月5日にレジェンドノベルス(講談社)より拙作「リバーサイド・リバイバー」が発売しております!

地方では今日あたりから書店に並び始めているようなので、皆様ぜひお手に取っていただければなと思います。

店舗によっては購入特典もありますので、そちらもチェックですよ!

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