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50ねこ 俺たちのラストボス

「遂にここまで来たな……」

「ええ、いよいよです……」


 今日も今日とてSWWのイベントダンジョン「古の邪神殿」を探索する俺と明人は、イベント最終日の前日というタイミングでようやくそこにたどり着いた。

 高レベルのモンスターが徘徊する、ダンジョンの深部。その一角に存在するどんづまりの部屋の入り口にて、俺たちは戦闘直前の軽口をたたき合う。


 ここまで来るのは……明人のミスによる偶然とはいえ、たまたま遭遇したボスモンスター……イビルホムンクルス・ドリル・スペシャル・ハイパーの下に再び辿り着くのは、長かった。力業でダンジョンのほとんどを把握したとあるプレイヤーが、善意でマップを共有してくれなかったら間違いなくここまでは来れなかっただろう。


 だが場所がわかってからも、このボスモンスターに挑む資格を得るのには苦労させられた。場所が深部なだけあって、道中に出現する普通のモンスターですら常に全力で戦わないと勝てないような連中ばっかりだったのだ。

 そんな強敵の群れを前に、何度も撤退した(死に戻りも含む)ものだが……今日、遂にその難関を踏み越えてここにたどり着いた。


 あと一歩でもこの部屋の中に入れば、かつての俺たちを瞬殺などという屈辱的な敗北をたたきつけてくれたヤツが現れるだろう。あのときはまったくレベルが足りずに手も足も出なかったが……今は違う。

 ここに来るまでにかなりの戦いを制してきたのだ。俺も明人も、見違えるほどにレベルが上がっている。有用なスキルも覚えた。今こそリベンジの時だ。


 だが油断はしない。ボス部屋に入る前に、かけられるバフは軒並みかけておく。ライフもマックスまで回復させて、万全の状態で突入する。


「……行くぞ@。今日こそあいつをぶっ飛ばす!」

「もちろんです。あの時とは別人だということを教えてあげようではありませんか」


 今日もダブルメガネが光る明人の顔近くの空中に浮かび上がった俺に、彼はメガネをくいっと押し上げながら返してくる。


 そうしてどちらからともなく俺たちが部屋に入る……と。


 部屋の入口が音を立てて閉じ始めた。同時に部屋の中央に魔法陣が浮かび上がり、そこから真っ白な巨体が現れる。両手がドリルになった、ホムンクルス。そこらへんで遭遇するやつらより二回りくらいは大きい。けれど同じく顔のない顔のそいつが、ずしりと床を揺らしながら現れたのだ。


「よォ、ドリルスペシャルハイパーさんよ……四日ぶりだな」

「その首……我々がいただきます」


 歯をむき出しにして笑う俺たち。


 しかしそれをもあざ笑うかのように、敵の両手が……両手のドリルが回転し始めた。歯医者で聞くような甲高い音ではなく、もっと野太くてより本能的に危機感を覚える音。

 だがその程度でひるむ俺たちではない。むしろさらに盛り上がるというものだ。


「やるぞ@ォ!」

「後ろは任せましたよッ!」


 かくして戦いは始まった。

 いつものように前衛を担う明人が猛スピードに前に出て、俺は後方から魔法でそれを支援する。短期間ながらも、俺たちはこのコンビネーションで多くの勝利を飾ってきたのだ。たった一体のボスがナンボのもんだってんだ!


「「ウオオオォォォーーッ!!」」


 俺たちの勇気が世界を救うと信じて――!



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 ……はい。


「……で、感想は?」

「硬すぎ」

「それな」

「あと威力高すぎ」

「ほんとそれな」


 ところ変わって、セントラルの宿屋。その一室で額を突き合わせた俺たちは、深いため息をついた。


 うん。

 なんていうか、あれな。


 強すぎるな!!

 なんだあのボスモンスター! 無駄に長い名前しやがって、なんなんだその高火力高硬度! 勝たせる気あんのか!?


 最初に偶然出くわしたときから俺は5レベル、明人に至っては11レベルも上がったんだぞ!? なのにどっちも一撃で即死ってどういうこったよ!!


 いやドリルの攻撃力が高いのは、まあ百歩譲って構わない。あれはロマンだ。強いのはわかる。むしろロマンは強くあらねばならない。それはいい。


 だが防御力、テメーはダメだ。なんなんだよその防御力。俺と明人が出せる最大火力の攻撃を同時に同じ場所にぶち当てたのにダメージは1割未満、ひるみどころかノックバックすら起こらないって、何がどうなってんだよ! ハイパーアーマーか!? ボスキャラが持ってんじゃねーぞ!?

 そりゃあこれはMMORPGだからあり得るかもだが、程度ってものがあるだろう!?


「……どーするよ?」

「そもそもの話、二人で挑む前提がおかしいかと」

「だろうなぁ」


 あの強さは、はっきり言って異常だ。

 そりゃあ俺たちはレベルの上限どころか、一部のNPCが突破しているレベル100すら上回っていない程度だが……それでも全体で見れば、平均よりは上のはずなのだ。その二人で倒せないとなると、パーティ枠をすべて埋めて、六人がかりで挑むのが正しい攻略法なんだろうな。


 いやま、そもそも称号として【イベントボスモンスター】と銘打たれている以上、それが当たり前なんだろうけどさ。今日はそれを確信できた、というところだ。

 で、問題はその埋めるためのメンバー選出だが……。


「協力してくれそうな人に心当たりあるか?」

「フッ、言うまでもないでしょう?」

「どうせないくせに何勝ち誇った顔してんだよ」


 このゲームを始めてからさほど日が経ってない上に、プレイスタイルがアレすぎる明人にそういう心当たりはないだろう。

 いやなくはないだろうが、あえてクッソ難易度の高いところに挑む理由のあるやつがいない、というのが正しいか。


 そもそもあのドリルうんちゃらに挑んでいるのは、俺たちの意地でしかない。

 たまたま飛ばされた先にいたのがボスで、不意打ち気味にやられたのが癪だった……。あとはせっかくボスを見つけたんだから、倒したい……。

 そういう、他人にはしょうもなく見えるかもだが、俺たちにとってはわりと無視できない意地。俺たちのモチベーションは、そこから出ているのだ。

 これにわざわざ付き合ってくれるようなやつは、はっきり言って物好きと言われても仕方ないだろう。


「ナナホシのほうはどうです?」

「ご主人とアカリは付き合ってくれると思う。あの二人なんだかんだで付き合いいいし、ゲームは楽しんでナンボって感じだしな。あとはMYUミュウが捕まればいいんだが……」

「彼女は忙しいでしょうからねぇ。ナナホシが名の知れた声優と顔見知りというのには驚きましたが」

「一応前世から面識はあったぞ? 数えるほどしか会ったことねーけど」

「それは面識があるというんですかねぇ?」

「うっせ。……それはそれとしても、MYUが来てくれたら勝率は上がるんだがなぁ。あの子鬼のように強いからさ……」

「そんなに」

「ガチ」


 そもそもサポートスキル一切なしで立ち回れるだけで強いのに、スキルも無駄がなく、完全に使いこなせてるんだぞ。強い以外のなんだっていうんだってレベルだよ。

 しかも強いだけでなく、持っているバフスキルも破格の効果があるんだから、なんていうか「もうあいつ一人でいいんじゃないかな」級だよ。一パーティに一人MYUって感じ。


「……明日は最終日だし、少しくらいは来てくれねーかな。ご主人に頼んでアポ取っといてもらうか」

「その辺りはナナホシにお任せしますよ」

「あとは……そうだなぁ、クロルティのババアかなぁ」

「ああ、あのとき一緒にいた……確か使い魔を使うNPC勇者でしたか。いいじゃないですか」

「いや……」


 クロちゃん先輩ことクロは本人の強さもさることながら、それぞれ性能の異なる使い魔を持つ。その豊富な手札は魅力だ。助っ人として呼ぶにはこの上ない人材……なのだが。

 そもそも使い魔は、普通にパーティの一員としてカウントされてしまうんだよなぁ。アカリやご主人、MYUまで呼んだ上でクロルティを呼ぶのはユニオンにするしかなくなってしまう。恐らく今回は、それはやめておいたほうがいいと思うんだよな。

 というのも、


「言っておいてなんだが、あのババア呼ぶとなるとユニオンでの挑戦ってことになるだろ。ユニオンすることでヤツのステータスにプラス補正がかかんなきゃいいんだが……」

「……あり得そうですね」


 というわけだ。


 強化はまずあると思う。ユニオン前提の設計になっているレイドボスはともかく、シナリオ中のボスはその大半がそういう挙動するし。


 そしてレイドボスなら、ちゃんと称号が【レイドボスモンスター】のはずだ。だがあのドリルなんちゃらの称号は、【イベントボスモンスター】。

 ということはつまり、奴に挑むに当たってユニオンを組むと、間違いなくその分強くなる。あれだけ強いボスなのに、これでさらに底上げされるのは嫌すぎる。ユニオンはやめといたほうがいいだろう。


 まあ、現状ある当てだけでもパーティの枠はほとんどが埋まる。MYUの都合がつけば、それだけで全部埋まる。そうなるとクロの入る枠がなくなるし……もしMYUの都合がつかなかったとしても、パーティの空き枠は一つだけになる。

 そうなるとクロ最大の武器である使い魔を使う余裕がなくなってしまうから、俺と明人だけで挑むしかない、となったとき以外は選択肢に入らないだろう。


 こういうとき、召喚系のスキルをメインにしているとちょっと不利だよな。もちろんそのデメリットを許容するだけのメリットがあるのも事実だから、外れってことはないんだが。場合によりけりってやつだな。


「……とりあえず今言ったみんなにメッセ送っとくか。どうせデスペナ外れるまではあんまり動けねーし」

「そうですね。自分は心当たりがあまりないので……そうですね、NPC勇者に声をかけてみます」

「おう、任せた」


 部屋を出ていく明人の背中に軽く声をかけつつ、俺はメニューウィンドウを開いてネットブラウザを立ち上げる。そこからメールを使ってぽちぽちっとな。


 さて……みんなはどう反応してくれるだろうか。ま、金曜ではあるが、まだ平日だ。返信はしばらくないだろうから、情報収集でもしておくかな。


 ……と、思い立ったのはいいが、やはりスペシャル・ハイパーなどという規格外なボスの情報はほとんどないようだ。遭遇情報はちょこちょこあるんだが……その能力や挙動に関しては、ほとんど何もできないままやられた、くらいにしか知られていない。

 ただ、名前にハイパーとつくボスモンスターはいくつか情報が上がっているようだし、撃破報告もちょこっとだが上がっていた。イビルホムンクルス・ソード・ハイパーとかそんな感じのやつだ。スクショを見る限り、普通のホムンクルスより一回りほど大きいようだが、スペシャル・ハイパーよりは一回りほど小さいように感じる。


 ……待てや。ということはあれか。俺たちが倒そうとしているスペシャル・ハイパーって、これのさらに上ってことか?

 こいつらでボスモンスターなのに、それより上って……マジか。そりゃあ情報も出回っていないはずだよ!


 うーむ……これは……嫌な予感がするぞ。このクラスのボスモンスターの情報がほとんどないということは、俺たち自身の手で探っていくしかないということだ。

 いや、MMORPGで最前線を張るのは嫌ではないんだが、そもそもの話これ期間限定イベントなんだよなぁ……。しかも期限は明日一杯までだ。普通に倒せないまま終わる可能性のほうが高いんじゃないか?


「……二回も挑んでるのに、ほとんど情報を引き出せないまま死んだのはだいぶ痛いな」


 思わず深いため息が出た。


 最悪、死に戻りを繰り返して地道に情報を引き出していくしかない、ってことになるが……うーむ、死に戻るとイベント報酬の引換券とも言うべきアイテム、キューブが半分になるのが……。

 既に目当てのアイテムは手に入れているが、それは一番欲しかったものを手に入れたというだけで、他にもほしいアイテムはあるんだよな。できることならあまり死に戻りはしたくないのが本音だ。


 うむ……これは一度相談しておいたほうがいいかもしれないな。明人のことだから挑むことは確定だろうが、あまりにも死にまくるようだとデスペナ残ったまま突撃しようとか言い出しかねない。

 どうせその辺りの加減というか、手綱を握るのは俺の役目になるだろうし、あいつが戻ってきたらそこらへんのすり合わせをするとしよう。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


いよいよ最終章です(たぶん)。

最終章だと思う・・・うん・・・。

でも念のため章タイトルは数字にしておこう・・・(ヘタレ

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[一言] 最終章… マジで一瞬息が止まった。 だがエタるよりまし。 走り抜けてください。
[一言] 最終章の次に『完結偏1』と続ければおk
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