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5ねこ 【巫術】の修行 2

 ほうほうのていでボス戦、ひいてはダンジョンから逃げ出してきた俺を迎えたのは、シヅエさんだけだった。

 アカリはアカリで、ダンジョンに挑んでるらしい。

 途中で出会わなかったけど……と思ったら、シヅエさんいわく、


「あそこは挑戦者ごとに別個の空間へ隔離されるので、同時に入場しても一人でしか挑めません」


 とのこと。


 つまり、パーティでの挑戦ができないってことだ。

 ゲームじゃお約束かもしれんが……詰んだ。詰んでますよ、これは。


「成功するまで何度でも挑戦できますよ。レベルを上げて再挑戦しましょう」


 とのことだったが、今の俺にどこでレベル上げをしろと……。


「セントラル近隣なら、初心者でも大丈夫だと思いますよ。ヴァイトドッグとか、アングリーラビット辺りがお勧めです」

「……シヅエさんは、俺にそいつらが倒せると思いますか?」

「…………」


 無言のサムズアップ!? なんて放任主義なんだ!


 この返しでもう完全にわかってはいたけど、念のため攻略ウィキで確認してみた結果。


 ヴァイトドッグとアングリーラビットでかっ! どこからどう見ても獰猛な大型犬のヴァイトドッグと、中型犬サイズのウサギなアングリーラビット! そんなのにただの猫が一匹で勝てるわけないだろ!


 他に方法といえば……。そうだな、ダンジョンの入り口周辺で、プチファイターが一匹だけポップするのを延々と待ち続けるくらいか……。


 ……いや、めんどくさっ。俺にはそんな単純作業、とてもじゃないができない。

 となると、残された道はたった一つだな……。


「俺とパーティを組んでくれませんか!」

「ほえ!?」


 ダンジョンを(たぶん)クリアして戻ってきたアカリに、最速で土下座(?)だ。


 そう、残された道はパーティを組み、レベル上げをすることくらいだ。ダンジョンの中は無理でも、街の外なら協力ができるからな。取得経験値は下がるが、そんな贅沢は言ってられない。

 そして今俺が声をかけられる顔見知りは、彼女一人しかいない!


 ……まあとはいえ。そもそもとしてMMORPGの性質上、ソロプレイを一貫するのはどのみち難しい。いずれは秘密を共有する仲間は必要になるだろうし、この際とっとと協力者は作っておいたほうがいいという判断もある。

 それにアカリは礼儀正しいいい子そうだったし。いい意味で世間慣れしていない雰囲気も感じられたから、ここは賭けに出ることにした。


 決して彼女の外見が好みだったからではない。決して。


「いや、実はかくかくしかじかで……たぶんバグだと思うんだけど……」

「そ、それはまた大変ですね……! わかりました、私でよければご一緒します! そ、それにそのう、私、こういうのは初めてなので、一人はちょっと不安でしたし……」


 説明を聞いて、アカリはほぼ即答してくれた。

 なんて素直な子なんだ。けど、少しは人を疑うってことをしたほうがいいんじゃないか。いや、このゲームはプレイヤーアタックが禁止されてるし、俺だって他意はないが。


 とはいえ、素直なのが悪いわけじゃない。猫の姿がバグという、あからさまに無理臭い主張を正面から受け入れてくれたわけだし。

 うむ、お礼になでなでする権利をあげよう。ごろなーご。


 と、そんな感じで一人感動している端で、シヅエさんから何やら最後のレクチャーを受けるアカリ。俺も早くそれを受けたい。


「お待たせしました。えーっと、では、まず何をすればいいのでしょう?」

「まずはパーティ申請かな。もし君がいいのなら、フレンド登録もしてくれるとありがたいんだが」

「あ、じ、じゃあ、せっかくですし、フレンド? もお願いしてもよろしいですか? あなたは悪い人には見えませんし……」

「猫だけどな」

「ご、ご自分でそれを言っちゃいますか?」


 ごもっとも。


「じゃ、フレンド申請、かーらーの、パーティ申請っと」

「ええと、これらを承認すればいいのですね。……あ、アナウンスが出ました!」

「これでオッケーだな。改めて……俺はナナホシ、よろしくな」

「はい! 私、三日月あかりと申しま……」

「ステイステイステイ! まさかとは思うけどお前、それ本名じゃないだろうな!?」

「えっ、いけませんか!?」


 どうやら、ゲーム以前にも色々と話すことがありそうだ。なるほど、ゲームはおろかネットでの人付き合いも初めてってことかな……!



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 で。


 色々あってかなり時間は下ったが、やってきましたセントラルの外。広がっていたのは見渡す限りの大草原で、日本じゃ絶対に見れない雄大な景色だ。

 あちらこちらに現実味の薄い武装を身にまとった人々と、彼らと戦うモンスターが見える。

 うーん、ファンタジー。いいねぇ、まるで異世界に来たみたいだ。


 ただ、入り口に比較的近いところにモンスターは見当たらない。おおかた既に他のプレイヤーに狩られているんだろう。別に珍しいことでもない。


「それで、ええと……モンスターと戦うんですよね?」

「ああ。とはいえ、基本的に戦うのは早い者勝ちだ。経験値やドロップ……ああ、モンスターが落とすアイテムの取り分のこともあるし、よほど劣勢でなければ人が戦ってるところにはあまり立ち入らないほうがいい」

「なるほど……勉強になります」


 なんてことを話しつつ、アカリ(案の定本名だったが、もはやどうしようもない)と連れ立ってしばらく歩いていると、ほどなくしてモンスターが視界に現れた。それはもう、まさに「現れた」という言葉通りに、唐突に。


 うーん、2Dの画面で見ているとリポップには特に何の感慨もなかったが、こうやってリアルになるとめちゃくちゃ唐突だなぁ……。

 あと、リポップエフェクトが儀式めいていてやけに派手。凝ってると言うべきか、大袈裟と言うべきか……。


 そしてその現れたモンスターはと言うと。


「あっ、ナナホシさん、出ました! 大きなうさぎさんです!」

「本当だ。あれがシヅエさんの言ってたアングリーラビットだな」


 情報通りの、大きなうさぎだった。

 うん……甲斐犬くらいはあるんじゃないか? でけぇよ、バーカ!


 いやーしかしなんだなー。かわいいジャンルのはずのうさぎも、サイズが増すと不気味だなー。


************************


名無し アングリーラビット Lv2

称号 ノーマルモンスター

守護神 ハスター

守護星 処女宮

状態 普通


************************


 おまけに守護神、これだもんなぁ。物騒にもほどがあるわ。


 神社地下のダンジョンでもそうだったけど、どうもこのゲームの敵モンスターの守護神、ほとんどこんな感じらしいんだよな。

 確かに原典からして、人類と明確に敵対している連中が多い作品ではあるけどさ。にしても他にやりようはあったんじゃないですかねぇ?


「相手のレベルは2。始めたてのプレイヤーにも安心だろう。俺以外はって但し書きがつくがよ」

「ま、まあそう仰らずに……。ええと、その、それであの大きなうさぎさんを……」

「ああ、二人がかりで倒す。と言っても、今の俺にはタゲ取りくらいしかできないから、トドメはアカリに任せる」

「が、がんばります……!」


 虫も殺したことがなさそうな顔を、まったく迫力を感じないながらも引き締めて、アカリが両の拳をぐっと握った。


 ものすごく危なそうに見えるけど、これで彼女はあのダンジョンのボスを撃破済みなんだよな。少なくとも、うさぎとはいえモンスター相手におじけづくなんてことはない……はずだ。

 どのみち彼女とパーティを組んで、最初の戦闘だ。お互い至らないところもあるだろうが、何はともあれ全力を尽くすとしよう。


 なんてことを考えながら、俺は敵めがけて駆け出した。

 ほどよく近づいたところで相手も気づいたようで、さっと身構える。状態も、普通から敵対に変わった。


 しかしもう遅い。俺の猫パンチが、相手の顔面に直撃!


 ……するも、多少のけぞった程度で、頭上のライフゲージはあまり減ってない。うん、攻撃力が絶対的に足りない。一応、猫って狩猟動物じゃなかったけかね。体格差を加味しても、やっぱりその手のステータスが低すぎるんだろうなぁ。

 一応俺の見立てでは、ゴブリンやプチファイターもそうだけど、このレベル帯のモンスターなら時間さえかければソロでも倒せるとは思う。その時間が今一番のネックなんだけどな。


 ……おっと、蹴りで来たか。けどまあ、それなりでしかないな。余裕で見てからかわせる。前世、黒川北斗だった時代にこんな反射神経も広い視界もなかったから、これは猫になったからこその能力なんだろう。ゲームキャラとしてはちょっとステータスがとがりすぎてるきらいはあるけどな。


 しかしまあ、とりあえず回避盾としてはかなり優秀な立ち位置にはなれそうだ。後衛一択だと思っていたが、場合によっては前にスイッチしても結構いいところまで行くんじゃないだろうか?


「よっ、ほっと。あらよっと!」


 敵の攻撃を華麗にかわしながら、隙を見ては噛みつきや猫パンチを繰り出す。蝶のように舞い、蜂のように刺すとはこのことだぜ!


 あ、うん、ぜんぜんライフ削れていませんけどね。まだ六分の一くらいしか減ってないですね。

 まあ、わかっていたことだ。今の俺の役目は回避盾。敵のヘイトが詠唱中のアカリに向かないようにすればそれでいい。


 戦いながらも猫の広い視界では、覚えたての【巫術】を行使するアカリの姿が見える。その頭上には、ライフゲージとは異なる黄色いゲージ……チャージゲージが表示されていた。

 魔法系と一部の武技系のスキルは、あれが一杯にたまるまでは発動できない。その間も攻撃、防御はできるものの、少しでもダメージを受けるとキャンセルされてしまうから、こと魔法使い系のキャラには盾役がどうしても必要だ。


 チュートリアルやウィキによれば、この設定……スキルオートモードを解除することもできるらしい。実際、コンフィグにはその項目があった。

 ただ、それを切った状態でどうやってスキルを発動させればいいかは、まだわからないらしい。魔法系のみならず、全てのスキルも発動しなくなるらしいんだよ。なんでそんな機能があるかは謎。


 っと、そんなことをしているうちに、チャージが終わったようだ。あとはスキル名を宣言すれば……。


「えっと、で、【ディペンディング】・【カプリコーンキッズ】!」


 アカリの宣言と共に、深い緑色の光が迸った。直後、彼女の頭上からやはり深い緑色の光球が降りてきて、その身体に吸い込まれる。

 するとその瞬間、彼女の頭からヤギのような角が生じた。次いで背中に、まるで悪魔を思わせる苔色の小さな翼が生える。それらが終わるや否や、彼女の身体に紫電がまとわりついた。


「かっけぇ!?」


 シヅエさんのとは傾向が近いわりにそう思うのは、ひとえに異形感が少ないからだろうな! 腕が四本とか、胸元に顔がもう一つあるのに比べたら断然かっこいいよ!


「あの、私もう行ってもいいですよねーっ?」

「あ、うん、頼む!」


 俺が驚くのをよそに、アカリは手にしていた杖を構えて見せる。その杖も紫電に覆われているあたり、攻撃にあれが付与されるんだろう。ついでに言えば、防御面でも優位に立てそうだ。


 とりあえず彼女にゴーを出しつつ、一度退くことにする。途中で杖を振りかざした彼女とすれ違ったけど、思ったよりその動きが速い。敏捷性が上がってるのか?


「えぇーい!」

「ンギゥッ!」


 バシッという打音に続いて、アニメなんかでよくある電撃の音が鳴る。思わず目を向けてみれば、アングリーラビットは悲鳴と共にライフゲージごと消滅したところだった。


 ……えっ、一撃?

 俺、めちゃくちゃがんばってようやく六分の一くらい減らしたのに、その残りが一気に飛ぶって……なんか切ない!

 っていうか、どんだけ攻撃力上がってるんだ!?


「わ、わあ……思ってた以上の威力です……」


 当のアカリも立ち尽くして驚いてるんだから、俺が弱すぎるわけじゃないと信じたい。


「お疲れ様。すごいな、それ。ウィキによれば、磨羯宮の妖精……カプリコーンは攻撃特化ってことだけど……」

「は、はい……なんていうか、すごいです。私、あんまり深く考えないで、親戚の巫女のお姉さんに憧れてたので、それだけだったんですけど……山羊座は誕生日がそれなだけですし……」


 それで鉄板スキルを引き寄せたのは、運がいい。


 しかしなんだろうな。次の妖精契約イベントはしばらく先ってことを考えると、パーティを継続するしないに関わらず、この世間慣れしてなさそうな女の子はしばらく前衛で暴れる以外の選択肢がない気がするんだが……いいのかな、それで。


「それで、あの、これからどうすればいいですか?」


 俺が考え込んでいると、アカリが目の前にしゃがみこんで聞いてくる。スキル【ディペンディング】の効果はまだ継続していて、その身体は今も紫電で覆われているから少し怖いが。


「と……とりあえず、もう少しレベリングに付き合ってくれるか? 一回の【ディペンディング】がどれくらい持続するかも知りたいし」

「あ、はい、わかりました。私、がんばりますね!」

「頼りにしてるよ」

「はいっ!」


 俺の言葉ににっこりと笑いながら、アカリが胸を張る。

 その胸は平坦であった。


 うむ。


 よい。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


主人公の攻撃力のなさは、基礎が低いと言うこともありますが、守護神と守護星の影響でもあります。

伊弉冉神は素手および格闘が苦手武器でマイナス補正が、処女宮は魔法攻撃力にプラス補正をかける代わりに物理攻撃力にマイナス補正がかかります。

伊弉冉神のマイナス補正を補うためには武器を装備しなければならないけど、種族上で装備できないのでこのデメリットを回避する方法は現状ない、っていう。

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