35ねこ 太陽の一撃
「フラグとはなんだったのか」
無事隠し部屋の前までたどり着いた俺たちだったが、ご主人のインベントリ内に表示されている「ン・ガイの木剣×23」の文字列を眺めて思わず呟いてしまった。
いや、ドロップしすぎだろうよ。確かに出現率上方修正かけたとはアナウンスあったけど、にしてもこれ出すぎやん? 調整下手くそか。
「まあまあ、しばらくはたくさんあっても困らないでしょ。隠し部屋開けるためには絶対必要なんだし」
「それはそうなんだが……使い切れるかなこの量」
確かに結構な数の隠し部屋があるらしいけどさ。中にはショートカット用の隠し通路なんかもあるみたいだし、使うときは結構使うとは思うけど。
ていうかこれ、イベント終わったあとも残ったりしないだろうな? 嫌な予感しかしないんですがそれは。
「きゅーい」
「ん? まあそれもそうか。悩むのは用事済ませてからだよな」
みずたまの催促に頷いて、俺は改めて目の前の壁に向き直る。
「……どこからどう見てもただの壁ね」
「んだな。でもここでン・ガイの木剣を持ってると、反応するんだろ?」
「そうみたいね。さーてどうなるのかしら……っと……」
言いながら、ご主人がインベントリから黒い木剣を取り出す。
と、次の瞬間、その刀身と目の前の壁が呼応するように黒く明滅し始めた。まるで何か駆け引きをしているかのように交互に光るその様は、何かあると宣言しているかのようだ。
「お、なんか鍵穴っぽい穴が。これに入れるのよね?」
「のはずだ」
鍵穴っていうか、危機一髪の穴って感じだけど。
ともあれ俺の言葉に無言で頷くと、ご主人はそこに木剣の切っ先を差し込んだ。
すると実に男の子の心をくすぐる感じの遺跡感ある音と振動を起こしながら、壁がひとりでに開いた。なにそれ素敵やん。
「おおー、こんな感じなのね。こんな感じの仕掛け、ハリウッドとかで見たわねー」
「確かに」
なんて話をしながら、そこへ足を踏み入れる俺たち。
開いた隠し扉の中は、部屋になっていた。見た感じは宝箱が一つ転がっているだけの小部屋だが、ここに何があるかは事前に聞いている。
「とりあえずこいつはいただくとして」
宝箱には、なんと報酬交換用のキューブが30個も入っていた。ありがたくご主人と半分に分ける。
「で、だ」
「次はここね」
それから部屋の真ん中にしゃがみながら、ご主人がもう一度ン・ガイの木剣を取り出した。それはすぐに、床の一か所と交互に明滅し始める。
あとはさっきと同じだ。床に現れた穴にご主人が木剣の切っ先を差し込めば、さっきと同じような音と振動を伴って床が沈み込み、螺旋階段が現れた。
「いかにもって感じね」
「蠍の王とかいそう。いや邪神の眷属がいるんだけどさ」
「チョイスが渋いわね……進むわよ?」
「あいよ」
いつでも迎撃できるように各種バフをかけてから、階段を下る。この下に着いたらそのままシームレスに戦闘が始まる、という情報は人からも攻略サイトからも拾ってある。準備はしておくべきだろう。
当の階段は、下に行けば行くほど螺旋の一周が長くなっていた。それを下りながら眺めていると、なんだか不思議な気分になるな。
そして下はと言えば、不自然なまでに真っ暗で何も見えなくなっている。そういう演出なのか、ゲーム的に別マップに切り替わる仕組みになっているのか。さてどっちだろうと思いつつも何も言わず、ご主人の歩みに任せているとほどなく一番下に着いたらしい。
ご主人の足が最後の段を下り切るや否や、真っ暗だった空間が一気に明るくなる。その瞬間に周囲を見渡せば、俺たちは円形の部屋の中央に立っているようだった。そこから同心円上に明るくなったようだ。
そして。
「キイイィィィィエエエアアアァァァア!!」
耳をつんざく、とはこういうんだろうなというお手本みたいな奇声が響き渡った。同時に階段がせり上がっていき、お約束とばかりに閉じ込められる。
そうやって階段が完全に天井に吸い込まれた、その直後に炎の塊がその天井から降ってきた。
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??? フレイムクリーチャー・オブ・クトゥグア Lv46
称号 クトゥグアの眷属
守護星 天蠍宮
守護神 クトゥグア
状態 ニャルラトテップの呪縛
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お出ましだな。いかにもボス戦、という感じの展開だ。こういうときに心が躍るBGMがかからないのは、リアリティ重視のこのゲーム唯一の欠点かもしれない。あとで要望のメール送っとこう。
「キイイィィィィエエエアアアァァァア!!」
その炎の塊が鳴いた。その途中で塊はぐわっと膨張して鳥のような形を取ると、躊躇なくこちらに向けて突っ込んでくる!
「聞いてた通りの登場ね……行くわよ、二人とも!」
「おうよ!」
「きゅきゅーい!」
ご主人が回避に動いたその瞬間に、俺は勢いよくその肩から飛び降りた。その背中にいつもの白い羽根はなく、代わりにあるのは尻から伸びた爬虫類感ある尾だ。
そう、俺が今【ディペンディング】しているのはいつものヴァルゴではなく、炎に耐性を持つサラマンダーだ。この状態は飛べないが、現状クトゥグアのクリーチャーを相手にするならこれしかない。
何せ、今まさに突撃を外して壁に頭をぶつけてそのまま壁の中に消えたクリーチャーの経路に、赤々と燃え盛る炎が踊っているのだから。
そう、こいつは時間経過とともに環境ダメージがどんどん増えていくという、短期決戦推奨のボスなのだ。そのくせクリーチャー自身は、突撃のたびに壁に消えてその間無敵になるというかなり面倒な仕様になっている。まあ、そこはゲームだから方法はちゃんとあるけどな。
ただ、俺はサラマンダーを宿すことで環境ダメージを無視できるが、ご主人とみずたまはできない。だからこの戦い、初見なら俺たちのパーティはかなり分が悪いのだが……悲しいかな、こいつは既に情報が出回ってしまったボスなのだ。
「みずたま!」
「きゅーい!」
いつどこからクリーチャーが出てきてもいいよう、ダッシュとスキルの準備を始めた俺の視界の先で、ご主人が事前に買い込んできたアイテムを自分とみずたまに使っていた。
あれは特定の属性への耐性を一時的に得る、アンチシリーズというアイテム。その火属性版のアンチフレイムだ。これを使えば、無効とはいかないが火属性ダメージを軽減できる。おまけにここに入る直前に俺がみんなにかけたバフの中には、ライフの自動回復速度を上げるものも含まれている。はっきり言って、ここが完全な火の海にならない限り環境ダメージはないも同然だろう。
あとはバフが切れないよう俺が気をつけつつ、壁から出てくるクリーチャーを都度ボコせばいい。
「来たぞご主人!」
「オーケー任せといて!」
俺の指摘を受けて、壁の一角から火花が散り……十数フレームののち、そこから再びクリーチャーが現れた。そのまま突撃をかましてくるが……。
「【ソーラーウィンド】!」
ご主人が身を翻しつつ、攻撃スキルでクリーチャーを迎撃した。
「きゅーい!」
次いで、みずたまが【スライムボール】を発射する。
「【ホーリーショット】グレープ!」
俺も範囲攻撃、かつ複数ヒットに調整したスキルで続く。
「キイイィィィィエエエアアアァァァア!!」
それらを食らったクリーチャーは、鳴き声を上げながらその場にべちゃりと墜落した。
こいつの攻略法。それはズバリ、威力度外視でとにかくたくさん攻撃をぶつけることだ。それが一定回数に達すると、こうして少しの間身動きが取れなくなるからその間にできるだけ袋叩きにするって寸法だ。
ちなみにその回数は十五〜三十回の範囲で都度ランダムと推定されているが、なぜ俺たちがたったの三発でここまで持ち込めたのかと言えば、俺の散弾に変えたスキルに加えて、ご主人の放った【ソーラーウィンド】が多段ヒット技だから。
正確に言えば、広範囲攻撃かつ合計十二回ヒット、かつそのすべてにノックバックと怯み、スリップダメージ付与の可能性ありというかなりの壊れ技である。当たり前だが【太陽術】の中でもかなり上位のスキルで、現状プレイヤーの使い手はかなり少ない。
なお基本の威力自体はそこまででもないんだが、それを抜きにしても正直相当壊れてると思う。システムの枠から外れた俺なら、威力も稼げるはずだし。
「よし、行くわよ!」
おっと、説明してる場合じゃない。ご主人の声に我に帰った俺は、今度は手数ではなく威力を重視したスキルを放つ。
遠巻きに攻撃するのは、いつクリーチャーが復帰してもいいようにだ。そもそも俺のダメージソースは遠距離技ばっかりだからな、仕方ない。チキンじゃないぞ。ホントだぞ。他意はない! マジだってホントに!!
一方で、ご主人とみずたまはダメージを稼げる攻撃手段が近距離に偏っているからか、クリーチャーの元に走り寄ってフクロにしている。
下手にスキルを使うより通常攻撃のほうが効率がいいのか、殴る蹴るの連続で……こう……なんていうか、ヤンキー感ある。もしくはヤクザ。
仮にも正義の味方を演じていたご主人のその姿には、ちょっと複雑な気持ちにさせられるなぁ。なんていうか、ファンには見せられないよねこれ……。
「ギュアアアアアイイイィィィイ!!」
「……!? 二人とも離れろ!」
なんて思いながら攻撃を続けていたら、クリーチャーが明らかにそれまでとは異なる鳴き声を上げた。俺は慌てて声を張り上げるが……。
「――ガアアアァァァァァーーッ!!」
『【ダークショット】』
ちょっとだけ遅かった!
クリーチャーの全身から放たれた無数の真っ黒な弾丸が、至近距離にいたご主人たちの身体を打ち据える。
弾丸は俺のほうにも飛んできたが、距離のあった俺はなんとか回避できた。それでもその速度はかなりのもので、素早さに補正のない今の状態で結構必死になって動いてだから相当なものだろう。
また威力もかなりのものだったようで、ご主人たちのライフが目に見えて減っている。半分にはまったく届かないが、四分の一は間違いなく減っている。あれだけでここまでとなると、うかつに接近できないぞ。
そして……この間に再び空中に浮かび上がったクリーチャーの目に当たる場所が、ぎらりと妖しく光った。次いで、その全身に黒いモヤのようなものがまとわりついていく。
見た目だけでも明らかにヤバさが跳ね上がったわけだが……問題はそこじゃない。
「ちょ……ちょっとちょっと、なんか聞いてた話と違わないかしら!?」
「間違いなく話と違うな! なんだこれどうなってんだ!?」
そう、事前に聞いたり調べたりした範囲では、こいつはこんな挙動をしないはずなのだ。もっとこう、プログラム感のある無機質な挙動をするはずなんだが……!
「ギルギルギルギル……!」
滞空したまま俺たちを順繰りに見やるその姿からは、とてもそんな画一的な気配はない。
いや、これはむしろ街中や仲間のNPCのような、理性的な色合いがあるような……。
『【ダークレーザー】』
「うおおぉぉぉぉああ!?」
俺が少し前に使っていた【ホーリーレーザー】に酷似した漆黒の光線が、俺めがけて飛んでくる。がんばって身体をひねったが、普通に右前脚に被弾した。ライフがかなり減ったが、狙いは頭だったっぽいし、そのまま食らったら即死だったかもしれないから今はこれでよしとする……って、問題はそこじゃない。
ほぼノーモーションでスキル発動だと!?
しかも近くにいるご主人じゃなくて、遠くにいる俺をピンポイントで狙ってくるとか……どう考えても今までと動きが違う!
「ナナホシ!」
「大丈夫だ、死んでない! それよりご主人、前っ!」
「うひゃっ!?」
ご主人の意識が俺に向いたその一瞬の隙をついて、クリーチャーは今度はご主人に攻撃をしかけていた。そしてご主人は、そのほとんどを喰らってしまっている。ご主人らしからぬミスだ。
あの攻撃……間違いない、俺の【神聖魔術】と対をなす【暗黒魔術】。その中でも、中範囲に時間差でランダム多段ヒットする【ダークボム】だ。
これらもおかしい。こいつが【暗黒魔術】なんて使う話は聞いてないのに!
「【ミドルヒール】!」
だが何はともあれ、回復だ。ほぼ二連続で攻撃を受けたご主人のライフは、半分近くまで減ってしまっている。俺も相当食らったし、範囲を広げて使った分かなり俺のヘイトが増えただろうけど、これは仕方ないと割り切る。
「ありがとナナホシ!」
「おうよ! それよかご主人!」
「わかってる! 理由はわかんないけど、こうなったら全力で行くまでだわ!」
ライフゲージと同時にもう一つ、増えていくゲージがご主人の頭上に浮かんでいる。それに合わせて彼女が身構えた瞬間、再びクリーチャーが動いた。
「ギルギルギルギルアァァァァァーーッ!!」
もはや鳴き声ではなく、雄叫びだ。だがただの雄叫びではない。ご主人のライフとは異なるゲージ……すなわちスキルのチャージゲージが、今ので消えた。それでも立ち向かっていくご主人はさすがの一言だが……ちょっと待て。
チャージゲージを認識して、それに合わせて行動を判断しただと? そんな挙動するモンスター、今まで見た覚えがないぞ!
いや、見たことがないだけでそういうモンスターはいてもおかしくない。だってこのゲームのNPCは、生きた人間とまったく変わらない挙動をするんだから。
問題は別のところにある。今のゲージを消し飛ばした行動は、恐らくみずたまが使うようなモンスターの固有スキルだと思うが……このゲームはモンスタースキルだってチャージが必要なんだぞ。なのにそれがノーモーションだった……ということはこいつ、まさかとは思うが。
「【スーパースキャン】っ!」
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??? フレイムクリーチャー・オブ・クトゥグア Lv46
称号 クトゥグアの眷属
守護星 天蠍宮
守護神 クトゥグア
状態 ニャルラトテップの呪縛 特殊強化(ウィズダム)
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「そのまさかかよ!?」
魔法使いに開眼してる! なんでだよ!!
いや正確にはなんか別枠の強化みたいだけど、それはともかくおかしな兆候は何もなかったじゃねーか! 何か特殊なフラグを踏んだのか!?
……いやその可能性はかなりあるな。たとえば……俺の称号【ウィズダム】に対応した、とかか……?
「かかったわね!」
考察とスキルの準備を整えていた俺をよそに、燃え盛る炎そのもの相手に肉弾戦を敢行していたご主人が声を上げた。
そのセリフとは裏腹に明らかに姿勢を崩しているし、そこにクリーチャーはくちばしから突撃しようとしている絶体絶命のピンチに見えるが……ご主人は笑っていた。
それを証明するかのように、周りで燃える炎の影から丸い物体が飛び出してクリーチャーの背中に踊りかかる。みずたまだ!
「きゅきゅきゅーい!」
「ギルアァァアーッ!」
「きゅー!?」
完全に隙をついたと思われたみずたまの攻撃は、激しく身じろぎしたクリーチャーによって弾かれてしまった。
だが間違いなくその一瞬、クリーチャーの意識はご主人から逸れた。
「そう来ると思ってたわ!」
そのスキをついて、チャージゲージを頭上に浮かべたご主人がクリーチャーの懐深くに潜り込んだ。
それが計算してのことなのか、臨機応変に行動した結果なのかはわからないが……そんなことはどうでもよくて。
「【ソーラーウィンド】!」
ご主人が技名を宣言した、その直後。無数に煌めく色彩をまとった暴風が吹き荒れる。
先ほども使ったこのスキルは、範囲技。超至近距離で放たれたら回避など不可能だ。そして発生は確率とはいえ、耐性持ちでもなければ合計十二回も判定回数があれば一、二回くらいはノックバックもひるみも起こる。
とくれば、これを見逃す手はないってなぁ!
「【ホーリーボム】!」
今なら回避もできないだろ! 限界までヒット数を上げまくった範囲攻撃を食らいやがれ!
クリーチャーが使った黒とは真逆の、白い爆風がクリーチャーを何度も覆う。悲鳴のような鳴き声が響き、クリーチャーはそこから逃れようと翼を広げるが……。
「きゅっきゅーい!」
それを狙っていたかのように、クリーチャーの死角から水色の砲弾……もとい、みずたまの身体が発射された。
うむ、ジャンプとかそういうレベルではない。あれはまさに発射だろう。きっと何か、体当たり的なスキルを使ったんだろうが……それがクリーチャーの横っ面に直撃した。
「ナイスショットよ!」
それを見とめたご主人が左手でガッツポーズを決め、同時にクリーチャーはその場に落ちてもがき始めた。
おっと? 挙動が普通とは違ってもこれは共通なのか。ならまた袋叩きにして……。
……あ、いや、のたうち回る動きが明らかにさっきのより激しいな。これは迂闊に近づいたら手痛い反撃を食らうやつだ。
まあでも、あいにくと俺には関係ないですねぇ!
「【ホーリーバインド】!」
地面から白い鎖が無数に現れ、クリーチャーの身体を縫い留める。これでのたうち回ることすら封じられたクリーチャーは、完全にただの木偶の棒だ。
「ナナホシナぁイス! よっし、行くわよー!」
「きゅぅーい!」
言いながら突撃したご主人の横顔を見送りながら、俺もさらに別のスキルを用意し始める。完了次第、スキルを連発だぜ!
「えぇーい!」
「きゅーっ!」
俺の放つ白い砲弾が降り注ぐ中、二人が猛烈な勢いで攻撃している。二人ともその頭上にはチャージゲージが増えつつあるので、なんていうか本当に慣れていらっしゃる。
……ん? みずたまはちょくちょく技を使っているようだが、ご主人は全然使わないな。いやチャージ速度はすごく遅いんだけど、それにしたって既にチャージは完了しているし、温存する必要なんて……。
「ギルギルアアァァァーーッッ!!」
「おっと、タイムリミットみたいだぞ!」
そうこうしているうちに、クリーチャーが雄たけびを上げて動き始めた。復帰したのだろう。
バインドの効果はまだ残っているので完全に動き始めてはいないが……とか思っているうちに鎖がはじけ飛んだ。うーん、この辺りはさすがにボスと言ったところか?
「おい、ご主人! 早く避難をだな!」
ところが、慌てて避難を始めたみずたまをよそに、ご主人は逃げるどころか動く気配すら見せない。
当たり前だが、復活したクリーチャーがそんなご主人向けた口を開いた。そこには赤い炎と黒い光が渦巻いていて――。
「その前に終わらせるわ!」
「いやいやいや、ライフゲージまだ半分くらいあるぞ!? ここは安全マージン取ったほうがいいと思うよ!?」
「いや、たぶん行けると思うから!」
「その自信はどこから来るんだーっ!?」
明人じゃあるまいし!!
『【ヘルシャドウ】』
とかやってるうちに、絶対他にもなんかあるだろ、と確信できる炎と闇の一撃がご主人めがけて放たれた!
「ご主人ッ!」
「――【プロミネンス】!」
対するご主人は、と言えば。どこぞの仙人が開発した必殺技よろしく、手首付近で合わせた開いた両手をまっすぐクリーチャーに突き出した。
そして炎と闇の奔流がご主人を飲み込む直前――その両手から、赤く輝く光線……と言っていいのかわからないが、ともかくごん太の光線的な波動が発射された。
それは見た目もさることながら、効果音もヤバかった。すごい、じゃない。ヤバい、だ。至近距離のジェット機が目じゃないほどの轟音、とでも言えばいいだろうか。正直耳が痛い。物理的に。
で……その、なんだ。そんな轟音と派手な見た目の……まさに紅炎とも言うべき波動に、クリーチャーはあっという間に全身を飲み込まれた。ついでに、クリーチャーが放ったあのヤバそうな攻撃も普通に飲み込まれて消えていた。
「……ええ……」
何その威力……。ドン引きなんですけど……。
っていうか初見っていうか……名前すら初めて聞いたんですけど……あれですかね、【太陽術】の最上位スキルか何かですかね……?
「きゅい……」
ほら見ろみずたますら引いてるじゃん! なんなのそのスキル!
そして、
「ギァ……ギィ……ギィ……」
半分くらい残ってたクリーチャーのライフ、これにて全損!
……スタッフー! スタッフゥー!!
ちょっとォ! なんか【太陽術】っておかしいスキル多くない!?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
察しのいい方ならお分かりかと思いますが、名前の元ネタはヘラクレスオオカブトの頭部パーツですね。
ちなみに【太陽術】、壊れ性能の技が多い描写になってますが他のスキルより必要な経験値が多かったり習得可能レベルが高かったりチャージタイムが長かったりと、一応差別化はされてるんですよ。
されてるんですけど、この世界の特撮ヒーローはガチなアクションやらされるので演者は大体リアルチートになるんですよね。そしてこのゲーム、リアルで強いとそれが反映されるので・・・。