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34ねこ 飼い主とペットの進撃

ハァー・・・! ハァー・・・!

コルルちゃん・・・コルルちゃん・・・!(使用済みのリンゴのカードを握り締めながら

 情報収集を終え、必要なアイテムを買い込んだ俺たちは早速ダンジョンに向かうことにした。のだが。


「今日はアカリちゃん、ログインしてこないのかしら?」

「そういや見ないな。平日でもこの時間ならわりといつもいるのに」

「何か用事があるのかもね。あの子、どこかいいとこのお嬢さんでしょ?」

「うっかり俺に名乗った苗字からしてそうだろうな……」


 具体的には、日本の長者番付でも上位に食い込んでると思う。最初会ったときのあいつの名乗りが真実なら、だが。

 でもたぶん間違いないと思う。どう考えてもあの名乗りはマジだった。立ち居振る舞いも品があったし。いや確かにプレイスタイルは殴りシャーマンなんだけどさ。


「アカリちゃんがいないと前線で戦うのがあたしとみずたまだけになっちゃうし、せめてあと一人くらい欲しいところだけど」

「下手にギルドで募集かけると、ただのファンだけが集まりそうじゃね?」

「それなのよねぇ……別にそれはいいんだけど、そこから数人だけその場で選ぶってなるとちょっと難しいわよね……選ばれなかった人に申し訳ないっていうか」


 この辺りは、前回とは真逆に有名人の不利なところかもしれない。下手に選ぶとカドが立ちかねないんだよなぁ。

 SWWは比較的プレイヤーの民度が高いから揉めることはないと思うんだけど、ご主人はわりと気にするからなぁ。


「ちなみにMYUミュウは?」

「月曜の夜はラジオのMCやってるから無理ね」

「なるほど」

「あたしからも聞くんだけど、ナナホシと一緒にやってたっていう人はどうなの?」

「あー。あいつは今夜ダチ集める感じだったから、たぶん明日になるまでログインしないと思う」


 下手したらオールじゃないだろうか。いつもみんなで行ってた居酒屋、朝五時まで開いてるから可能性はある。明日も平日だけど、そこら辺を自重できる頭の良さはあまりないからなぁ、あいつら。いや俺も人のことは言えないんだけど。

 まあ、三十路の野郎ばっかりだからそろそろ身体のほうがついてこないって可能性もあるか。


「そっかー、じゃあ仕方ないか。どうしよう、傭兵でも雇う?」

「そんな金あるのか?」

「うーん……さっき結構使ったしねぇ……」

「ですよねー」


 となれば仕方ない。ここは二人……もとい、みずたま含めて三人で挑むしかなさそうだな。


「まあでも、あれだよ。地図がだいぶ広がったから、なんとかなるだろ」

「そうね。低難易度区画で探しましょっか」


 ということで、俺たちはダンジョンに改めて突入した。

 三人のパーティとはいえそのレベルの平均は高めで、以前みんなで挑んだときと同じくらいの区画から入ることになった。


 目標がドリルスペシャルハイパーなら、ここから難易度の高いほうへ向かうのが正しいわけだが……今回は逆だ。


「なるほど、こう行くと浅い階層に入るのね」

「ってことらしいな。うん、やはりこの機能はあってしかるべきだった」


 通路を歩……くのはご主人だけで、俺とみずたまはその肩に乗っているわけだが。ともあれ通路を進みながら、そんなことを話す。このイベントダンジョン、入り口がそれぞれ別になってはいるが中で全部繋がっているんだな。


 それで向かう先はと言えば、ズバリ浅層の隠し部屋だ。場所と入り方は先程教えてもらった。最短ルートも割り出したし、あとは鍵を探しながら向かうだけだ。

 そしてそこで何をするのかといえば、そこにあるキーアイテムを入手するのだ。


「ナナホシが【巫術】メインだから、種火じゃなくてクリーチャーそのものが手に入るかしら?」

「ご主人もメインは【従魔術】だろ。二人ともいけるんじゃないか?」


 そう、クロも従えていたクトゥグアのクリーチャーを仲間にするのである!


 どういうことかと言えば、隠し部屋にはクトゥグアのクリーチャーが捕らえられているものが点在しているみたいなんだが、そこでイベントをこなすとクロみたくクリーチャーを仲間にできるらしいのだ。


 ただし、すべてのプレイヤーができるわけではないようだ。

 調べた限りでは、特定のスキルを持たない、もしくは持っていてもスキルレベルが一定に満たない場合はクトゥグアの種火というアイテムが。逆に一定以上のレベルにあるプレイヤーなら、クリーチャーそのものを味方につけることができる仕様になっているらしいのだ。

 そして現状明らかになっている対象のスキルが【巫術】、【召喚術】、【従魔術】、【式神術】の四つで……周知の通り、俺もご主人もその該当のスキルを持っている。これは期待してもいいだろう。


 いや、別に邪神に魂を売ろうってわけじゃないんだ。ただ、種火のほうはいちいちアイテムとして使わなきゃいけない関係上、俺やみずたまには扱えないし、何より一定回数使うとロストする。それはいかにも効率が悪いってものだ。

 その点、クリーチャーを仲間にできればそいつを場に出している限りずっと種火を使い続けているのと同様の効果を発揮する。設定的に不穏なものがあったとしても、ゲーム的には是が非でも入手したいってわけだ。


「それもそっか。でもあれってイベント終わったあとはどうなるのかしらね? ソシャゲとかだと、イベント限定キャラとか装備って結構残るけど……」

「どうだろう、そこらへん特にアナウンスされてないからなぁ。それにクロが使い魔にしてたクリーチャー、ステータスにはカッコ仮ってあったぞ?」

「そうなの? うーん、それならイベント限定なのかしら……掲示板とか見る限り、見た目は色々あって育てがいありそうだったんだけど」

「……世が世なら、完全に正気を疑われる発言だな。異端者認定待ったなしだぞ」

「あはは、まあそこはね、ゲームってことで?」


 確かにその通りなんだが。なんかこう、一言ツッコミたくなるのはきっと俺のサガみたいなものだろう。


「きゅーいきゅーい!」

「みずたまもそろそろ新しい仲間が欲しいわよねぇ?」

「きゅっきゅい!」

「え? ナナホシが取られないなら別になんでもいい? ……ふふ、ナナホシってばモテるのね」

「フラグを立てた覚えはまったくないんですけどねぇ!」

「一級フラグ建築士ってやつね!」

「誰だご主人にそんなオタク用語教えたやつァ! いやMYUだろうけど! 他に思いつかないけど! それ時と場合によってはあんまりいい意味じゃないんでできれば勘弁していただきたく……」

「そうなの? 面白い言葉だなって思ってたんだけど」

「ナイスボートだけは回避したいんだ……む?」


 血まみれの未来を想像してげんなりした俺だったが、前方から来る妙な気配を察知して顔を上げた。

 猫の瞳の前には、ちょっとした暗がりなんてないも同然だ。そこには確かに、こちらへ向かってくるホムンクルスの群れが見てとれた。


「……話の途中だがワイバーン……じゃない、ホムンクルスだ。続きは連中を片付けてからにしよう」

「ん、オッケー!」

「きゅ!」


 俺の警告を受けてご主人が前に踏み出す。それに合わせて俺は空中に浮かび、みずたまはご主人の隣に並んだ。

 そしてこのタイミングで敵がこちらを認識したようだ。挙動が変わり、さらには少しだけ機敏になった。各々の武器が、ぎらりと光ったような気がした。


「行くわよ!」

「おう!」

「きゅい!」


 かくして戦いは始まった。


「【ガードエンハンス】!」


 まずは俺から、前衛に立つ二人へプレゼントだ。これで受けるダメージは減る。ハイパー氏との戦いでは紙ほども効果を実感できなかったが、この辺りなら十分なはずだ。


 この直後に、ご主人が敵陣に突っ込んでいく。ただし、いきなり敵のど真ん中に飛び込む明人とは違って、敵の群れの表面をなぞるように立ち位置を常に変え、少しずつ敵の中に浸透しつつも対応する相手を少数に絞っている。ときには敵を盾にしたり、地面を転がったりすることも厭わない。

 もちろん無謀に殴りかかることなんてない。前に出なければいけないときは躊躇なく踏み込むが、リスクとリターンが見合わないときは潔く守りに徹する。この辺りの見極めのうまさは、なるほど一度世界を救ったと言われるのも納得である。

 オンミョウジャーはあくまでフィクションだが、アクションに関しては妥協がなかったからなぁ。


「おっと、なんて考えてる場合じゃないな」


 中空に浮かぶ俺の視界には、ご主人に追随するみずたまの姿が見える。あいつも小さい身体をフルに使って、どうしても捌き切れない敵からご主人を守っている。その様子は息の合った主従そのもので、一緒に戦っていた時間の長さを感じさせる。


 むむむ、同じペット枠としては少し妬けるものがあるな。もちろん俺とみずたまではできることにかなりの違いがあるから、住み分けでしかないとはわかっちゃいるんだが。


「【ホーリーチェーン】!」


 白い鎖が地面から現れ、数体のホムンクルスを絡め取って動けなくする。そう、俺の役割は主に支援だ。


 次いで、


「小出しに【ホーリーショット】、ってな」


 ご主人たちに余計なチャチャが入らないよう、弱めの威力で敵を牽制だ。これで連中はますます動きづらくなるだろう。


 そして……明人と組んでいたらここで追い【ホーリーチェーン】を準備するんだが、ご主人とみずたまの立ち回りがしっかりしているからか、その必要はなさそうだ。

 さらに言えば、回復をする必要もなさそうだな。あれやるとヘイトが一気にこっちに傾くから、戦闘中はあまりしたくないんだが……やらなくていいならそれに越したことはない。


 となれば。


「【ホーリーレーザー】!」


 最近覚えた新しいスキルを試し撃ちをしても許されるのでは? それくらいの余裕は十分あるだろう。


「……うーむ、基本は単体攻撃だけど、貫通効果が高い技なのかなこれは。ボス戦には向かなさそうだけど、乱戦なら結構期待できるか? あるいは防御力をある程度無視したりとか、そんな効果あったりしないかな……」


 自分が放った白いレーザーが生み出した結果を眺めながら、そんな風に考察できるんだから、実際かなり余裕だ。


 いやあ、パーティ組む人間が変わるとこうも負担も変わるとはね。わかってはいたことではあるけど、プレイヤースキルって大事だわ。

 まあ、だからといって明人とは二度と組まないなんてことはないし、支援に専念するのも嫌いじゃないんだけどな……!



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 はい、というわけで終了。特に危なげなく、妥当な勝利って感じだ。

 ま、そもそもこの辺りは普段いるところより難易度が低いわけだし、当たり前と言えば当たり前だろう。


 ただ……そうだな。一つ得られた教訓としては、明人にはもうちょっと戦闘中の立ち回りについて勉強させたほうがいい、って感じかな……。


 いや、真面目な話マスコット枠に近接戦の立ち回りで負けるって人としてどうなんだよ、ってなるじゃん。

 幸いクロみたいに強いNPCの中には弟子を取ってるやつもいたりするし、かなりありだと思うんだよな……。


「やっぱり普段のところより楽ね。油断はできない相手だけど、それでも負ける気はしないわ」

「同感だ。レベルの差はでかいな」


 ともあれリザルトを確認しながら、そんなことを話し合う。

 もちろん、簡単に倒せた分実入りは少ない。しかし今は優先順位が違うから、そこは気にしない。


「よし、と。それじゃ改めて進みましょ」

「おう」

「きゅ!」


 というわけで移動再開。遭遇する敵は殲滅しつつ、隠し部屋へ向かう。道中、隠し部屋に入るために必要なアイテムがドロップすることを祈りつつだ。


 ……乱数との戦いになりそうな予感がする。こういうの、落ちないときは本当にまったく落ちないからなぁ……。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


爆死しました(大の字


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