33ねこ 準備回
ゴジラ見に行ったのにイオンの駐車場がまったく空いてなくて見れなかったので怒りの更新です。
さて食事も終えて、これからについてだ。イベントの最中だからやはりイベントダンジョンに……潜りたいところだが、その前に今はやりたいことがある。
「可能な限りマップを拡張したいところだなって思うんだが」
「うーん、確かにこれは更新したいところね……」
俺とご主人は、先程のアップデートで追加されたイベントダンジョンのマップシェア機能を試していた。
俺とご主人は都合がつくときは一緒にプレイをしていて、俺は都合がつかないときはないから二人のセーブデータに記録されたマップはほとんど同じだ。一致しない箇所と言えば、ご主人が仕事中に俺がうろついたところだけとも言う。
それをシェアしたことで、俺たちのマップは完全に一緒になった。なるほどなぜ今までなかったのかと言いたくなる便利機能だが……その中に一箇所、他からぽつんと浮いた場所がある。
マッピングがある程度進んでいる地区からかなり離れたところ。よりダンジョンの深部だと思われる地点に、ぽつねんと部屋が一つ記録されている。
言うまでもなく、明人と一緒に飛ばされドリル・スペシャル・ハイパーとかいう格上のボスにやられた地点だ。
「あのさ、これってすごい難易度の高いところなんじゃない?」
「だよなぁ、そうなるよなぁ……実際あいつ鬼のように強かったし……」
「それは運がなかったわね……でも、負けっぱなしは悔しい。そういうことね?」
「おうよ。なんとかイベント中にあいつだけは倒したい」
「でもこのままじゃ行けないわよね……ワープの罠って、行き先決まってたっけ?」
「検証班いわく、ランダムだな。やばい場所、くらいの目安はあるみたいだけど、こんだけ広いダンジョンでそれを狙うのは自殺行為だろ」
ちなみに今のところ明らかになっているワープ罠の転移先は、何もない部屋、ボス部屋、モンスターハウス、*いしのなか*、らしい。ごく一部を除いて殺意が高すぎる。さすが邪神殿、ニャルラトテップを祀ってるだけはある。
「てことは、正攻法しかないわね。でもここまで行くとなると……」
「ああ、恐らく今の俺たちじゃレベルが足りない。それくらい深いところだ。少しでも消耗を減らすためにも、道中の地図がほしいところだな」
「……それがあったとして、あたしたちのレベルでそこら辺を戦い抜けるかって疑問もあるけど。ま、それは行ってから考えればいいか」
「そうだな、まずはそこに行ける算段をしたほうがよさそうだ。……けど、いいのか?」
「何が?」
「ここに行きたいってのは俺の個人的な要望だぞ。無理にご主人が付き合う必要はない。死に戻ったら今まで獲得したキューブも減るし、正直あまりご主人にメリットがないと思うんだが」
あのハイパー氏に遭遇してやられた経緯は簡単にだが食事中に説明した。もちろん俺の前世については話せないから省いたけど、同行者の不注意で飛ばされたことは説明してある。
しかしだからこそ、ハイパー氏をなんとかしたいというのはある意味私怨のようなもので。そこに付き合わせるというのはどうかなって……。
「バッカねぇ、ゲームでそんなやられたときのこと考えたってどうしようもないでしょ。そこ含めて楽しまなきゃ損じゃない。ホントに死んじゃうわけでもないんだし」
返事は、実にあっけらかんとしたものだった。
ああ……なんていうか、こう、MYUと気が合うはずだなと思わされる。
「大体、せっかくナナホシと一緒に遊べるんだから別行動なんてあたしがイヤよ。だから気にする必要なんてないわよ!」
「おう……なんていうか、ありがとうやで……」
なんだか妙に照れ臭くて、なんとかそう言った俺は、どういたしまして、とすぐに言われて改めて虚空に視線を泳がせた。
「と……とりあえず、それじゃ当面の目標はドリルスペシャルハイパーの撃破ってことで?」
「うん、異議なし。じゃあしばらくは、この深部のマップ持ってる人がいないか探す感じかしら?」
「そうだな。持ってるプレイヤーがいるかどうかはわからんが、アプデ内容にはNPC勇者ともマップシェアはできるって明記されてるから強い人に声をかけていく作戦で行こう」
「よーし、それじゃ行きましょうか!」
ということで、俺はご主人の肩に乗せられて街に繰り出すことになった。
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さて勇者ギルドにやってきたわけだが、こういうとき社会的に名の知れた存在というのは有利だなと身をもって思い知らされることになる。
というのも、ご主人は現在飛ぶ鳥を落とす勢いの女優だ。大河の主演決定という報道もあって、注目度は普段よりも増していると言えよう。
そんな彼女が、マップ情報をやり取りしたいと言えば……まあ人が集まる集まる。リアルがちょうど夜十時前くらいで、一番ログイン率が高いこともあってかかなりの人が集まった。
「応援してます!」
「握手お願いしてもいいですか!?」
「あの、お猫様撫でてもいいでしょうか!?」
なんてやり取りが挟まるのは、必要経費みたいなもんだろうな。
ご主人はそれにごくごく普通に応じながら、ついでにダンジョンの情報も交換していく。この辺りはさすがというかなんというか、慣れてるんだろうなぁ。
ちなみにマップシェアに応じた人の割合は、ご主人のファンが七割、俺の毛並み目当てが二割、その両方が一割という感じだった。俺も案外捨てたもんじゃなさそうだ。まあ、俺を撫でていい人間はご主人他ごく数名に限っているから全部断ったけど。
そんな感じでマップの取得は順調に進んだわけだが……やはり例のボス部屋相当難易度が高いようで、その周辺に踏み入ったことのあるプレイヤーはいなかった。いたとしても俺みたいに罠か何かで飛ばされたやつばっかりで、飛び地が増えただけという結果に終わった。
マップ以外にも有益な情報はいくつか手に入ったから、無駄だったなんてことはまったくないけどさ。
「あとはNPCか……面識があってかつこの辺りに行ってそうなやつって言うと……」
「心当たり、あるの?」
「まあ……なくはない、けど……」
やだなぁ、あいつに借りを作るの……。あとでどんな無茶振りをされるかわかったもんじゃないし……。
「でも仕方ないか……」
「……そんなに嫌なの?」
「いや例のクロちゃん幼稚園なんだけど、わりと扱いづらい婆さんなんだよな……」
「クロちゃん幼稚園って、たまに子猫いっぱい引き連れて低レベルエリアにいるあの白猫? 人気のNPCじゃない!」
猫好きのご主人がすごいすごいとテンションを上げているが、こういうの見てると猫って得だよなってつくづく思う。歳食ってもかわいいってちやほやされるんだし。いや、今は猫の俺が言うのもなんだけど。
「同じ猫だからか、俺にだけやたら態度がでかいんだけど……まあ背に腹はかえられないか」
仕方ない、とこぼしながら俺はクロルティに連絡をつけるべくフレンドチャットを立ち上げた。
このゲーム、プレイヤーとNPCに差がほとんどないのは今までも何度も言ってきたが、この手の機能も普通にNPCとやり取りができる。たかだかNPCに一体どれだけ高性能なマシンを使っているのかとも思うが、そこは気にするだけ無駄なんだろうな。
『クロちゃん先輩、今どこらへんにいますか?』
こんなもんか……。
「扱いづらいババアで悪かったね」
「うひょほあっ!?」
メッセージ送ったと思ったら、背後からババアが!? 貴様いつの間に!!
と言う間もなく、俺は子猫の津波に押しつぶされる。
「コラァこんのクソガキどもッ!」
「にゃー!」
「ふにゃあん」
「にゃあにゃあ〜」
「だから誰がおじさんだっつーの! 俺はまだ若いわ!! ……ダメだ出れねえ! さてはこいつらバフ全開だな!? ご主人助けてぇ!!」
前回より明らかにガキどもの力が上がってる! レベルが上がってるんだろうけど、それ以上にババアのトンデモバフがかかってるなこれ! 間違いなく俺に対する制裁と見た! びくともしないぞこんちくしょう!
「はあいいわぁ……! これが尊いってやつなのね……あたし理解できたわミュウちゃん……!」
「ご主人ー!?」
ご主人に魅了のバッドステータスが!!
待ってご主人、マジでこれヤバイやつだから! スクショ撮ってる場合じゃないやつだから!
お願いだからご主人正気に戻ってッ!
「きゅっきゅきゅーい!」
「「「ふにゃーー!?」」」
俺を埋めるくらいの勢いで殺到していたガキどもが、突然青いものにさらわれて後方へ放り投げられた。
何が起きたのか……とか考えるまでもなく、あの鳴き声でわかるわけだけども。
「みずたま……!」
「きゅ!」
そこには、俺をかばう形で仁王立ちする(?)みずたまの雄姿があった。
やだみずたまったらイケメン……! トゥンクってしちゃう……!
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「地図の共有なら、十五万で手を打つよ!」
ひとしきりねこねこパニックが終わって、事情を説明したら返ってきた言葉がこれである。
「金取るのかよ……しかも結構するなオイ」
「バカ言うんじゃないよ、この世に値打ちのないものなんてこれっぽっちもありやしないよ!」
「それはまあ同意するけどさ……」
確かに、クロルティが通った場所はトップ攻略組でもなかなか行けてないところもありそうだし、値が張るのは理解できるけど。
「あたしゃまだ良心的さね。何せ金で手を打ってあげてるんだからね!」
……それもそうか。面倒なクエストがうっかり生えるよりは、金で解決できるならそのほうが後腐れもないし手っ取り早いかもしれない。
「それじゃ、料金はこれでいいかしら?」
「はいよ、ちょうどだね。確かに受け取った」
今まで話を静観していた……わけではなく、クロルティの子猫たちを抱えてモフっていたご主人がここで久しぶりに発言する。必要な金額をやり取りしながらも、子猫たちを離さないのは執念じみたものを感じるが……。
そろそろやめたほうがいいんじゃないですかね、みずたまが不機嫌そうですよご主人。
いやみずたまが不機嫌なのはまあいいんだけど、ご主人に当てつけるかのように俺に密着してくるのなんとかしてほしいなって。
これ絶対マーキング的なやつじゃない? 大丈夫? 俺、スライムに薄い本みたいなことされたりしない?
「きゅ〜い」
……頬を染めて俺に頬ずりしてくるみずたまのステータスに、「状態:恋慕」って表示されてる点については、見なかったことにしたい。
なんでだ……俺が何をしたって言うんだ……一体どこにそんなフラグが立つ要素が……!?
「それじゃ、あたしゃここら辺で失礼するよ」
「あら、お急ぎだったかしら? ごめんなさいね」
「かまやしないよ、男は女を待つもんだからね!」
そしてクロルティはカッカッカと笑うと、子猫たちを従えて去って行った。
……嵐は去った。比較的穏やかだったけど、それが逆に恐ろしい気さえする……くそう、これも孔明の罠か!?
「やれやれ疲れた……」
「ナナホシってクロちゃんにだいぶ好かれてるのね」
「ありがた迷惑なんだよなぁ!?」
なぜか人外連中からの好感度が全体的に高いのは一体全体なんでなんだぜ!?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ちなみにいしのなかに飛ばされてもキャラはロストしませんのでごあんしんください。