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29ねこ 俺の身の上話

「うわ、なんですかこのキューブの数」


 無事に戦闘も終わり、すぐにドロップを確認した明人は目を丸くしてそう言った。


 どうもメニューは開示設定にしてあるようで、明人の頭の上に乗っていた俺にもその内訳は見えた。

 40個。ここがそこまで難度の高いフロアではないことを考えると、かなりの数だ。明人が驚くのもわかる気がする。


 だってここより三段階くらい難易度が上の場所で、さっきのより多い敵との戦いで、MVPのMYUミュウが60個だぞ。ぱっと見40は少ないように見えるけど、かかった労力がまるで違う。


 その理由は、一応今日までの情報収集である程度わかってはいる。

 つまり、状況次第でドロップ数には結構な差が生じるのだ。


「どうも戦闘でトドメを刺した人間に多くドロップするようになってるらしいぜ」

「なるほど……この手のイベントのわりにドロップが少ないと思っていましたが、そういうことでしたか。確かに今まではあまりトドメを刺した機会に恵まれなかっ……ん? だとすると、ナナホシのほうはかなり少ないのでは……」


 いや、お前の場合は機会に恵まれなかったわけじゃないと思うよ。

 ……とは思ったが、それは口に出さないでおこう。


「まあそうなんだが。どうもパーティの人数でも変わってくるっぽい。さすがに普段潜ってるところと比べたら減ってるけど、そこまでの落差はないんだよな」

「なるほど? だとすると、無理にフルメンバーで深層に潜るより、少人数で安全を確保できるところで暴れたほうが効率がいいのでは?」

「一理ある」


 明人の考察に頷きながら、とりあえずメニューは消す。

 その辺りの結論を出すのは、もう少し狩りを続けてからでも遅くはないだろう。パーティの人数、トドメを刺した数がドロップ数に影響するのは間違いないと思うが、効率という点で見た場合、敵のリポップ頻度なども考慮する必要があるだろうし。あと、スペシャルとつく上位種がどうなのかとかもありそうだ。


 ……まあ、この辺のことは検証班に任せよう。俺はそういう小難しいことを計算するのは、どうも苦手なんだ。


「……でもま、そういう小難しい話はひとまず置いとこうぜ。まずは他にやることがあるだろ?」

「百理ありますね」


 というわけで、俺は明人の頭でポジショニングを直すと、ぺしんと頰をはたいて移動を促す。

 明人は言われるままに立ち上がると、迷いなく元来た道に足を向け……。


「逆」

「えっ」

「方向音痴も相変わらずだなお前……」


 本当に親友が変わらなさすぎて、涙が出そうだぜ……。


「さて……それでようやく本題に入れるわけですが。北斗……なんですよね?」


 戻りかけたときと同じく、一切の迷いのなく丁字路を左に曲がりながら明人が言う。


「なんだ、まだ疑惑があるか? なんなら若き日のお前のエピソードを開陳してもいいんだぞ? 保育園篭城事件とか、サタニエル様降臨事変とか……最近のだと、五年前のリアル王様宣言アンド失脚事案でもいいが」

「あれらは悲しい事件だったんです……いや、別に疑っているわけではないんですよ。ただ、信じがたい現象が起きているなあと……だってあれでしょう、最近ネット小説とかでよくある」

「そうだね、転生だね」

「ほら。まさかそんなことが本当に起きるなんて、思ってもみなかったですよ」

「だろうなぁ……俺だっていまだに夢じゃないかと思わなくもないし……」


 答えながらハハハと笑う。

 同時に、右の分かれ道の先に宝箱があったのが見えたので、ガン無視で前に進もうとする明人の頭を叩いて進行方向を変えさせる。中身は邪神感溢れるヤバげなデザインの木剣(ン・ガイの木剣という名前だった。嫌な予感しかしない)だったので、確かに無視したほうがよかったかもしれないけど。

 俺は武器を装備できないし、明人のメイン武器が剣ということで明人に持たせたが……さて、これが吉と出るか凶と出るかどっちやら。


 それはともかく、実際転生なんて信じがたい話だろう。死んだと思ったら猫に生まれ変わってましたとか、どこからどう見てもフィクションだ。

 だからこそ俺も不安で、せっかく生きていた前世のSNSアカウントを有効活用できなかったわけだし。


「ところがどっこい、現実です……と」

「そうなんだよ。全身に超やべえ衝撃が走って、死んだって思ったら次の瞬間猫でな。何が何だかわからない」

「いきなりですか? こう、神様的なサムシングから定番の説明会とかは」

「ないんだな、これが」


 思わず肩をすくめる。だが本当に何もなかったので、他に言いようがない。


「だからたぶん俺には猫になった理由なんて何もないし、何かしなきゃいけないこともないわけで。仕方がないから今は日がなゲームをしてのんびりしてるわけだ」

「何それ羨ましい……いや猫ならそれも納得ではありますけど」


 と言いながら、差し掛かった十字路を根拠も躊躇もなく右に曲がる明人。


 うん……いつものことだけど、そういうとこだぞ。このゲームのマップ機能に移動分のマーキング機能がオートでついてて本当によかった!

 頭に乗って移動を任せてるから、何も言わないけど! この辺りは俺も来たことないから、踏破済みエリアが広がるし!

 でもできればもうちょっと気にしながら進んでほしい……さっきみたいに出会い頭に遭遇したらどうするんだ。多少のスカウト系スキルは持ってるし、今も発動させ続けてるけど、本職には及ばないんだからな。


「羨ましい? 確かに気持ちはわかるが……ご主人に飼われるまではマジで何もすることがなくて死ぬかと思ったんだぜ? 知ってるか、ペットショップの中ってマジでなんもやることなくて退屈地獄だぞ」

「ああ……中身が人間だとそうでしょうね……」


 不意に明人が苦笑した。ペットを飼っていると、その手の産業に思うところも出てくるのだろうか。


「しかしなんと言いますか、ご主人ですか」

「ああ。退屈から救い出してくれた上に、猫の俺がパソコンやってても『うちの子天才』で済ませてくれる素晴らしいご主人だ」

「なるほど、どうやらそのご主人とは仲良くなれそうですね」

「……猫好きってやっぱそういう人種なのか? 明らかにおかしいだろ?」

「え、今の会話にツッコミどころなんてありましたか……?」

「あ、うん、わかった。お前に聞いた俺がバカだった」


 どうやら彼らは理屈とはかけ離れたところにいる生命体らしい。もうこれについてはつっこまないことにしよう。不毛だ。話を戻そう。


「まあともかくそんなわけでだな。今はデジタルにも明るいスーパーキャットとして生きてるわけだが、ある日ご主人がダイブカプセルをもらってきてだな」

「なるほど、不在時に使ってみたら普通に使えたわけですね」

「さすが明人、わかってる。で、やってみたら例のボイスシステム……声出せない人向けのあの機能が俺にも適用されて、SWW中は普通に会話ができるわけだ。まさか前世の声が使えるとは思わなかったけどな」

「なるほどなるほど……いやあ、すごい世の中になったものですね」

「まったくだ」


 と、ここで俺たちは同時にため息をつき、


「「かがくのちからってすげー」」


 まったく同じセリフを同時に発した。

 うむ、さすが明人わかってる。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 その後も俺たちは、今に至るまでの話で盛り上がった。途中何度かモンスターに邪魔されることもあったが、いずれも危なげなく倒して……。

 いや訂正しよう、明人は何度かボコされて危ない場面が何回かあった。あったが、死に戻りはもちろん戦闘不能にもなることなく切り抜け続けた。


 その過程で俺は自分の葬式について聞くことになったわけだが、さすがに両親より先に逝ったことはかなり悲しませてしまったようだ。

 妹に至っては葬儀の間ずっと泣いていたらしい。歳が離れていたせいか、結構なブラコンだったからなぁ……無理もない。今の俺は猫としてかなりお気楽な生活を送っているわけだが、その点に関しては本当に申し訳ないとしか。

 一応、俺の生命保険は無事に両親に下りたらしいので、そこは不幸中の幸いだが……なんて声をかけたらいいものやら。かけるというか、伝えるというか。


 だって考えてもみてくれ。友達はまだしも、両親に「この猫があなたたちの息子さんです」って言ってみ? 場合によっては塩まき散らされた上で出禁だぞ? どうしろって言うんだ。

 それに、リアルで会うというのもちょっと難しい。何せ俺の地元は、東京から200キロくらい離れている。明人に東京まで連れてきてもらうくらいしか思いつかないが……その理由がなぁ。


 逆に地元の友達に関しては、明人を介してなんとかなりそうではある。彼らは今でも明人が連絡し合っているし、連中は元々何かしらゲームを嗜んでいたやつらばっかりだから、今話題のフルダイブVRであるSWWを勧めてしまえばいいのだ。

 そしてこの電脳空間で、今回のように暴露すればなんとかなるだろう。その辺りは柔軟に対応できるやつらばかりのはずだ。連中にダイブカプセルを買うだけの金銭的余裕があれば、ではあるが……。


 あわよくば、そこから両親に話が伝わってくれればいいかなぁ。そこを丸投げされてもみんな困るだろうけど……。


 ちなみに、上京してからの友達については、明人からの伝手がないのでほとんど諦めている。

 いや待てよ、大半は声優(同業者)だったから、MYUミュウに頼めばそいつらならあるいは……? でもその場合、俺の正体をMYUに話す必要が……うーむ、どうしたものか……。


 とここまで考えたところで、俺はめんどくさくなったので保留することにした。


「……まあこの件は一旦置いとこう」

「そうですね、まだ急ぐことはないでしょう」


 棚に上げる、とも言うが。

 明人の言う通り、まだ結論を急がずともいいだろう。


 それよりも大事なものがある。具体的には俺たちの目の前に、道をふさぐような形で人のような巨体として存在している。


「はい、と言ったところで、実況の@さん」

「はいはい、なんでしょうか解説のナナホシさん」

「今の状況について、一言コメントをお願いします」

「そ、う、で、す、ねぇ……」


 俺を頭に乗せたまま、明人は腕を組む。次いで妙に気取った仕草で、くいっとダブルメガネを押し上げてみせた。

 意味深な態度であり、いかにもイケメンがジーニアスフォームって感じだが、俺にはわかる。こいつが何を考え、何を言うかが大体わかる。


「次にお前は『正直スマンかった』と言うッ!」

「正直スマンかった……はっ!?」


 そして予定調和じみたやり取りの直後、明人は後ろに跳んで、正面から飛んできたごんぶとドリルをギリギリのところで回避した。


 それが合図だったのか。

 直前まで俺たちの正面で仁王立ちしていたホムンクルスが、ずしんとこちらへ踏み出してきた。


 その鑑定結果は、


************************


名無し イビルホムンクルス・ドリル・スペシャル・ハイパー Lv???

称号 イベントボスモンスター

守護神 ニャルラトテップ

守護星 ???


************************


 ――絶望的だった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


明けましておめでとうございます(遅

今年もよろしくお願いいたします(遅


いや活動してなかったわけじゃないんですが、カクヨムのほうにちやどもの移植とそのついでの改稿作業を行っていましてですね・・・。

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