28ねこ タッグバトル!
しまらないと言えば、始まってから気づいたことがある。
既存のゲームじゃ散々共闘してきた俺たちだけど、VRで共闘は初めてだったわ! 大丈夫かなこれ!
まあでも、俺にしてみれば低レベル帯の区域だし、なんとかなる……よな? なんか十体以上の敵が見えるし、どっちみちこの二人でなんとかするしかないわけだが!
「【サンダーブレード・レベル1】!」
俺の心配をよそに、ザ・突撃という感じのスキルをぶっ放しながら明人が敵陣に突っ込んでいく。先頭にいたホムンクルスさん( メイス氏、レベル19)が雷の音と光に飲み込まれ、直後後ろのほうに吹っ飛んでいった。それに巻き込まれた数体が、地面を転がる。
あれはソードマン系スキルの一つ、【魔法剣】だな。様々な属性を剣に宿して弱点を的確に突いて戦うという、その名の通り魔法剣士とも言うべきスキルで、ノーダメージで攻撃を当て続けていられる限りはスキルを当てるたびに威力が上がり続けるのが特徴だ。
この威力を示す度合いは技名にレベル○○とついて示されるが、プレイヤーのスキルレベルが高ければいきなり高レベルで放てるようになるとかなんとか。
あと何より、見た目がかなりカッコいい。
ただ、真価を発揮するためには弱点属性を常に狙う必要があることと、敵からダメージを受けるとスキルレベルも振り出しに戻ることの二つがデメリットとして存在するため、どちらかと言えば頭のいる……明人にはあんまり向かないスキルだ。十中八九カッコいいから選んだな、こいつ……。
いやそれはともかく、だ。
「あーもう、やっぱり突撃しやがった!」
それも悪いことばかりではないのだが、いきなり敵陣のど真ん中に突っ込んで、無事で済むわけがない。おまけにそのまま次のスキルをチャージし始めたら、袋叩きに合っても文句は言えないよな!
いやーうん、そんな気はしてた! 考えなしで前に出るのがお前だよな! 期待を裏切らない行動、嬉しすぎて涙が出るね!!
「【ヘヴンレイ】!」
こんなこともあろうかと用意していた魔法を放つ。純白の光線が明人の横スレスレをすり抜け敵陣に着弾、と同時に白い爆発が巻き起こる。
これにより、明人に殺到していたホムンクルスたちの動きは完全に乱れた。
「さすがナナホシ、信じていましたよ!」
「うるせーお前の考えることなんて丸っとお見通しだ!」
「なぜベストを尽くさないのか!」
「俺のセリフだよ、バカ!」
「【アイスブランド・レベル3】!」
楽しそうに明人がスキル名を言う。先ほどの雷にも劣らない青々とした氷雪が剣から吹きすさび、周りのホムンクルスを飲み込む。
しかし威力が足りないのか、それとも明人のステータスが足りないのか、あるいは弱点ではないのか。ホムンクルスたちのライフゲージはあまり減ることなく、のけぞるような反応もなかった。せめてノックバックでも起きてくれればよかったんだが、そううまくはいかないか。
とはいえ、俺が次にする行動に変更はない。このゲームが定義するところの魔法使いになっている俺には、効果を下げる代わりに発動までの時間を縮めることも難しいことではないのだ!
「【ホーリーチェーン】! かーらーのー、【ホーリーショット】グレープ!」
とりあえず、明人に近いホムンクルスどもを拘束する。【魔法剣】を使うなら、あいつにはできる限りノーダメージでいてもらわないとな。
そしてグレープっていってもブドウではなく、この場合は散弾だ。格下相手の牽制には特に有効で、なかなかに便利なやつだ。相変わらず威力より数の操作のほうが得意だから、こうならざるを得ないというのもあるけどな!
これにより、明人は窮地を脱した。拘束されたホムンクルスたちの合間を縫うようにして移動し、次のスキルにちょうどいい位置を模索している。
もちろんすれ違いざまに攻撃を加えつつ、だ。チャージをしながらこれができる辺り、センスがいいのかモーションサポートのレベルが高いのか。
「【ホーリーチェーン】! 【ホーリーショット】! 【ホーリーチェーン】!」
とはいえ、俺は支援の手を止めない。恐らくこの規模の群れ相手で俺まで攻撃に専念したら、明人が無傷で切り抜けられる可能性はかなり低いと思う。
てなわけで牽制と拘束を交互に行い、敵陣を無力化していく。順繰りになるからどうしても最初のほうの連中の拘束が解け始めるが、明人に攻撃がいかなければとりあえずは良しとしよう。
……うん、にしても明人、なかなかチャージ長いねそれ? 相変わらず大技が好きだなお前! 俺がサポートに徹してなかったら、お前どうなってたかわっかんねーぞ!
と、言ったところで止まらないことはわかってる。このまま支援に集中しよう……とも思ったが、たぶんそれだと長引くな。
それなら。
俺は【ホーリーショット】をばらまきながら前に出て、明人の頭の上に着地した。
「おや、前に来るなんて珍しい」
マシンガンのように【ホーリーショット】を連発する俺に特に疑問を呈さないあたり、明人はまだ魔法使いではないんだろう。チャージゲージが普通に出ているし、間違いない。
そんな彼に肩をすくめて見せながら、やれやれと答える俺である。
「お前だけに任せてたらえらいことになるのはわかってるからな」
「ここでその発言が出る辺り、ナナホシは相変わらずツンデレですね」
「やかましいわ」
この位置まで来ると、さすがに敵の迫力はなかなかのものだ。拘束から抜け出したソードのホムンクルスが肉薄してくるし、その後ろではやはり抜け出したアローが矢をつがえているのが見える。
が、もちろん何もせずに前に出たわけじゃない。魔法の準備は万端さ!
……と、その前にだ。
「そうそう。一番の弱点かどうかはわからないが、こいつら聖属性が結構効くぞ」
「それはいいことを聞きました」
答える明人の頭上のチャージゲージが、ここで満タンになった。いつでも行ける、って感じだな。敵との距離感もばっちりだ。
それじゃあ俺も、並列で準備していた魔法を放つとしますかね。
「【ホーリーウェーブ】!」
俺の宣言と共に、前方に純白の波が巻き起こった。最近覚えた新しい魔法で、前方広範囲を攻撃するものだが……実のところその威力は大したものではない。
だが、この魔法の真価は別のところにある。それは、被弾時のノックバック発生率がほぼ百パーセント、かつひるみ率も高い、ということである。
攻撃技の追加効果としてはお約束で、無効化する敵も少なからずいるわけだが……【神聖魔術】が効きやすいホムンクルス、しかも俺にとっては格下、おまけに場所がダンジョンの通路ということもあって、すべての敵がこの二つの追加効果を食らって押し流されていく。
矢もしっかり流していく辺り、物理演算とかその辺が現実と同等に処理されていると思うんだが……ぶっちゃけこの魔法、ナーフ案件ではないかと俺は思っている。魔法使いがやったら、無双も不可能ではないと思うんだよな……連発できるわけだし……。
「おお、これはすごい」
「せやろ?」
まあ、今はそんな話はどうでもいいか。使えるなら使うだけだしな。
というわけで、だ。
「さて、ここまでお膳立てしたんだ。@、あとは頼むぞ!」
「お任せあれ! 【トリプルセット】、【ライトブリンガー・レベル15】!」
攻撃の直前に挟まれたスキルの効果によりレベル15に達した【魔法剣】は、先の二つの技よりもさらにエフェクトが派手だった。
輝ける剣が横一文字に薙ぎ払われると、その軌跡は純白の弧を描いて前方の敵を飲み込もうと襲いかかる。一番明人に近いところにいた二体のホムンクルスがその直撃を食らい、即消滅した。
だが光の斬撃はそれで満足することなく、更なる獲物を求めて後ろにいるホムンクルスたちに飛びかかる。
斬撃はさらにその獲物すらも貫通し、最終的には全体攻撃になってしまった。通り過ぎた彼方で、特撮めいた爆発が上がる。そして、それが合図となったかのように、目の前の敵が全員消滅した。
うーん、マジか。まだ拘束されてたやつもいたし、事前に何発か入れてたから、敵も万全ではなかったにしても……。
「威力ヤバない?」
素直にそう思った。明人のレベルは俺より結構下のはずだが、この威力って。
「いや、レベル15とか初めて見たのでなんとも……」
「プレイング下手すぎかよ。【魔法剣】の最大レベルって、確か100じゃなかったか?」
「前衛がダメージを負うのは宿命ですよ」
「いや、いきなり敵陣のど真ん中に飛び込むのやめよう? ディスプレイのゲームのときからプレイスタイル変わってなさすぎだろ」
「そこに敵がいるので……」
「山じゃねえんだぞ。っつか、パーティ組んで最初の戦闘でお前の突撃癖に対応できるやつってなかなかいないんじゃないのか? 俺以外にやれたやついたか?」
「おお……ご明察です、いませんでした。さすが我が友」
「だと思ったよ!」
……これまでの会話で大体お察しいただけたかと思うが、明人、ズバリ脳みそが筋肉である。
敵と見ればまず突撃、囲まれたらとりあえず範囲攻撃。見敵必殺の精神を心に刻み、防御とか何それおいしいのと言わんばかりに前へ進むことこそ明人のプレイスタイルなのだ。これはRPGだろうと格ゲーだろうと、アクションだろうとFPSだろうと変わらない。大富豪とか、当然のように初手で2のダブル切ってくる。
涼し気な顔のイケメンで、知的な眼鏡を装備した、日常的敬語キャラでそんな頭悪いプレイスタイルするとか、普通思わないよな。俺もこいつと会ったばかりの頃はそう思っていた。
だが現実問題、こいつは子供のころから突撃だけが人生の脳筋野郎だ。その爆発力は侮れないのだが、すべての敵が一撃で倒せるはずがない……というか、大体の場合一撃は無理なので、竜頭蛇尾に終わることがほとんどである。
おかげでこいつと一緒にゲームをする機会が多かった俺は、後衛でのサポートがすっかり板についてしまった。
まあ、俺の性分としても手数で攻めたりからめ手を用いるのは好みに合っているから、適材適所ではあるんだが……。
「やはり、自分にはナナホシのサポートが必要なようです」
「いや、うん……いいけど……。お前のプレイスタイル、致命的に【魔法剣】と相性が悪いのは自覚してる?」
「あらゆる属性の魔法を駆使した魔法剣士……カッコいいじゃないですか」
「うん、知ってた。お前はそういうやつだ」
予想通り過ぎて思わず笑ってしまったよ。バカは死ななきゃ治らないと言うが、こいつのこの性格はきっと死んでも治らないことだろう。
でも、カッコいいから選ぶという気持ちはわからなくはない。せっかくファンタジーな世界観のRPGに、こうしてフルダイブしているんだ。自分が憧れる技を使いたい、というのは自然なことだろう。
俺もなー、猫じゃなかったらなー! 武器を使っていろいろやりたかったんだけどなー!
ここまで読んでいただきありがとうございます。
【悲報】ひさな氏、休日ぶっ続けでゲームをやり続けるだけの体力が既にない【歳】
というわけで、更新です・・・。
自分でも驚いた・・・心はゲームを続けたいのに、身体がついてこない・・・。