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25ねこ ある種のフラグ

 イカれたメンバーを紹介するぜ!

 老猫、猫、子猫、子猫、子猫、子猫、以上だ!


 ……いや、俺も意図してこんなパーティを組んだわけじゃないんだ。恐ろしい偶然が重なった結果であって。大体はクロが悪いんだが。


 何が恐ろしいって、これがまったくふざけてないメンツってことだ。俺やクロが戦力として相応であることは間違いないのだが、この子猫たちも見た目通りの子猫というわけではないのである。


 前回少し触れた通り、こいつらは全員クロの使い魔だ。つまり戦うための技術や能力を与えられた存在であり、子供とはいえSWWを始めたばかりの初心者よりもよっぽど強い。

 具体的にはレベル10台前半から半ば。チュートリアル終了直後の初心者がクリティカルをもらったら、確定一発で沈むレベル差である。


 あと、プレイヤー限定でレベルを無視した最強クラスのメタ性能を持つ。主に見た目的な理由で。いや本当、刺さる人には刺さりまくると思うよ。そうでない人でも、この子猫たちに手を出すのって心が痛むだろうし……。


 ちなみに鉄腕お嬢と呼ばれるアカリやガン=カタドーベルマンと呼ばれる例のNPC勇者のように、有名な人物には誰ともなくあだ名がつくのがSWW掲示板界隈の暗黙の了解らしいが、クロのあだ名は「クロちゃん幼稚園」である。

 クロという人物の性格を他より知っている俺にとっては苦笑するしかないが、案外間違っていないので最初に呼んだやつはいいセンスしてると思う。

 まあ、クロ……というよりは彼女の使い魔である子猫たちを中心にしたスクショを、写真集として次の某夏の聖戦で頒布しようとしてるのはちょっとどうかと思うが。


 ……それはともかく。先に述べた通り、子猫たちは決して侮れる相手ではない。


「ふしゃー!」

「にゃあー!」


 今も、四匹に群がられたホムンクルスさん(スピア氏、レベルは17)が猛攻に耐えきれず消滅した。

 攻撃自体は素直な一直線で、技もへったくれもない稚拙なものではあるんだが……いやあ、ステータスの暴力って侮れないよね。いくらババアのバフが特盛とはいえ。

 うん、というかちょっと攻撃力高すぎんじゃないですかね。たぶんだが、さっきあいつらに群がられたとき、一歩間違えたら俺は死に戻ってたと思う……。


「よしよし、順調に育ってるね。いい子だ」

「にゃあん!」

「ふにゃーごろごろごろ」


 一方クロはと言えば、敵を殲滅して戻って来た恐るべき子猫たちを優しく受け止めると、一匹一匹順に褒めたり撫でたりする。俺への態度とはまるで違うが、世の中そんなもんだ。まあ、子供相手なんだから仕方ないさ。

 それは称号的にもだ。テイマーと同じく、ファミリアストはこういう風に使い魔との関係を深めることが欠かせない。相手は生き物なのだから、当然と言えば当然と言える。非生物系使い魔を使役する場合はまた話が違ってくるんだけどな。


 ……にしても、クロもああしてるとただの気のいいババアだよなぁ。なぜそうやって老後のスローライフをエンジョイできないのか。


 と思った瞬間、超速の光弾が飛んで来て額に軽い衝撃が走る。


「あいたっ!? いきなり何するんスか!?」

「良からぬことを考えてる顔だった」

「ひでえ! 理不尽だ!」


 ハズレというわけでもないのだが、一応抗議しておく。それはもちろんスルーされるわけだが、言うことに意味がある。言わないとどこまでも理不尽な扱いを受けるからな、超えられるとリアルファイトになるラインは見せておかないといけない。


「さあ行くよ。キリキリ働きな」

「ったく、しょうがないスね……」


 二股に分かれた尻尾で尻を叩かれ、俺は渋々宙に浮かび上がった。そのまま意識を前に向けて、索敵に集中する。


 今の俺の役目は、主に索敵および子猫たちのためのつゆ払いだ。できるだけ敵が多いほうに進みつつ、多めの群れに遭遇したら子猫たちが安全に敵を倒せるよう間引くのだ。

 索敵はいつも通りと言えるが、発見した敵に積極的に向かっていくのは若干いつもと違う。また、支援中心なのもいつも通りだが、レベル差の暴力で雑魚散らしが中心というのも若干いつもと違う。


 ま、要するに他人のレベリングを手伝っているわけだ。使い魔は基本的にレベル1スタートなので、一線級に仕上げるまでにめちゃくちゃ時間がかかるからな。


 もちろん、クロほどの使い手ならこんな子猫を育てるまでもなく、強力な使い魔を何体も持っている。実際に数回見たことがあるが、お前なんでこんなババアに使役されてんの、下剋上したら? ってレベルの使い魔がゴロゴロいる。

 にも関わらず使い魔の育成をしているのは、実のところこの子猫たちがクロの拾い子だからだ。そして彼女に育てられた子猫たちは一定以上の年齢とレベルに達したら【使役術】を解除され、独り立ちすることになっている。


 つまるところ、慈善事業だ。俺が前回ちらっと触れた「例の仕事」とはつまりそういうことなのだ。クロちゃん幼稚園というあだ名も、ここに由来する。

 それを知っているから、俺も文句は言っても邪険にする気にはなれないんだよなぁ。最初は本当に嫌なババアだと思っていたんだが。人ってのはまったく複雑な生き物だよ。

 あ、いや、猫なんだけどさ。そこはこう、言葉の綾ってやつだ……。


「おっと、丁字路。クロちゃん先輩、どうします?」

「何か面白そうな気配はないのかい?」


 直前に多少なりとも持ち上げたばかりだが、このバアはもう……なんていうか、判断基準が愉快犯なんだよなぁ。

 いいけどさ、大体のことはこいつ一匹でなんとかなるし……ちょうどなんかそれっぽい雰囲気がしてきたし。


「右のほうに、なんかドッタンバッタン大騒ぎの気配」

「ふうん……どれ、ちょっと『視』てみるかね」


 俺の声を聞いたクロは一瞬考えて、なんらかのスキルを使った。話の前後から言って、遠くを見通す千里眼的なアレソレだろう。

 彼女はそうして、しばらくどこか遠くを見つめていたが……ほどなく表情を歪めた。


「全滅しかけてるようだね。行くよお前たち、蹴散らしてやるよ!」

「にゃあん!」

「みゃあー」

「はいよ、ご随意にッス」


 そして俺は、やれやれ系主人公の声音で肩をすくめた。


 まあ、なんだかんだ言ってもババアは根は善人なんだよな。口は悪いが、モンスター相手に苦戦している人間を見捨てるほど冷血ではない。

 プレイヤー同士なら経験値の横取りなどで揉める可能性もある状況なので、見に行っても必ずしも助けるわけではないんだが。この辺りの挙動は、NPC勇者らしい気もする。

 とかなんとか思いながら飛んでいたら前方から催促の光弾が飛んで来たので、俺は仕方なくスピードを速めるのだった。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 先に進んでみれば果たして、そこでは激戦が行われていた……あとだった。

 そこには倒れ伏した数人……の、上に幽霊が浮かんでいて、その周囲にかなりの数のホムンクルスたちが群れている。物量に耐えきれず全滅したようだ。間に合わなかったか。


 幽霊はあれだ、頭上に刻一刻と減り続ける数字があるから分かると思うが、死に戻る直前のプレイヤーだ。あれがゼロになると死に戻るが、その前にスキルなりアイテムなりで回復させてやれば問題なく復帰できるわけだな。

 つまり彼らは全滅してまださほど時間が経っておらず、今ならまだ助けられるわけだが……。


「何かしらのトラップを引いたようだね。こんな大量のホムンクルスはなかなかお目にかかれないよ」

「ッスね。このままじゃ近づけないッスわ」


 ということである。現状ホムンクルス状態という例外を除いてPKのないゲームだから、プレイヤーは基本味方だ。可能なら助けたいが……少なくとも10体は余裕で超える敵の群れをかき分けて、助けに行けるだろうか。

 この距離だと、蘇生スキルの射程外だ。かといって近づくとなると、ちょっと躊躇する数だぞ……ミイラ取りがミイラになっちまう。まだ気づかれていないから戦闘にはなっていないが……。


「ホムンクルスと勇者が慣れ合ってるとか、まったく面白くない光景だよ。ありゃコピーどもの仕業だね」


 さてどう動くべきかと考えていると、クロが舌打ちしながらつぶやいた。


 そうなんだよなぁ、ホムンクルスの中に明らかに人間だとわかるやつが数人、一緒に群れているんだよ。

 だがそれは普通に考えておかしいので、コピー系のやつになりすまされ、本物はそのまま偽物にやられたんだろう。


 悪いことはさらに続く。ただのコピーになりすまされただけならさほど苦戦しないはず、と思って偽物らしき連中を調べて見たところ、システムさんはスペシャルとご回答。

 まさかと思って他のやつも調べて見たら、そのまさかだった。


「……あの、クロちゃん先輩。ここにいるホムンクルス、種類問わず全員にスペシャルってついてるんスけど。この辺りはスペシャルどもがいていいレベル帯じゃないはずじゃ?」

「大方、深層の敵が呼ばれる罠でもあったんだろうよ。そういうのもあるからね、ここは」

「マジすか。特殊系のモンスターハウスか……」


 ローグライク系のゲームじゃお馴染みだが、VRであるSWWで遭遇したら絶望感半端なさそうだな。ましてや深層の敵が沸くタイプのモンスターハウスとか、高確率でゲームオーバー不可避だろ。やはりここで全滅した連中は運が悪い。

 全員スペシャルとか、俺だってアカリたちがいてなお苦戦は必至なレベルだぞ。この辺が適正レベル帯のプレイヤーに勝てるはずがない。


 ……まあ、今回ばかりは頼もしいNPCがいるから、死に戻る心配はしなくていいだろう。問題は、どう助けるかだ。


「んで、どうするんスか? さすがにあの数のスペシャル相手だと、俺も本気出して生き残れるかどうか」

「何言ってんだい、蹴散らすに決まってるじゃないか」

「いや、うん、聞き方が悪かったスね。どうやって蹴散らすんスか?」

「ちょうど試してみたいことがあってねぇ」


 再度の問いにそう答えたクロの顔は、バスの猫が浮かべるような作り物めいたニヤケ顔で。同時に肉球で額を軽く押された俺は、嫌な予感に支配されることになったのだった。


 こういうときのババアは信用してはいけない。最強の一角に名を連ねるNPC勇者の実力が見れる、なんて思ったら痛い目を見るぞ……! 俺は詳しいんだ……!



ここまで読んでいただきありがとうございます。


おのれレジェフェス・・・アグニスはもう持ってるんだ・・・。

ティターンかゼウスをおくれよ・・・。

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