表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/62

24ねこ それゆけ猫パーティ

 SWWには多くのNPCがいて、その中でもプレイヤーと同じく勇者の立場を持って魔王軍に立ち向かう者もいる。彼らをNPC勇者と呼称していることは既に周知のことと思うが、そこはファンタジー。彼らは必ずしも人間ではない。人型でないこともある。それが動物型NPC勇者だ。

 陸上で活動できるものがその大半を占めるが、それでも種類は豊富だ。犬、猫、鳥と言った定番どころはもちろん、狼や、猿、熊と言った、現実では共存が難しい動物の他、トカゲや蛇、虫などの変わり種まで揃っている。

 今のところファンタジー特有な動物型NPC勇者は確認されていないが、シナリオ攻略組が先に進めば進むほどに新しい動物型NPC勇者の情報が増えているので、今後出てくる可能性は十分ある。


 そんな彼らは人間のNPC勇者以上に当たり外れが大きく、弱いやつは本当に目を疑うほど弱いのだが、それはそれとしてプレイヤーからの人気は高い。理由はあえて言うまでもないだろう。


 ただし、彼らは動物型とはいえ一個の人格を持ったNPCとして設計されている。見た目は動物でも、彼らは人間と同じ思考力と理性、知性を持っているのだ。だからこそ、彼らをペット扱いしてNPCと険悪になったという話題が、稼動当初はあちこちであったらしい。

 俺は後発組なのでその情報は知っていたし、俺自身が猫ということもあってそんなことをするつもりはないけどな。あれ、結構きついんだよ。ご主人はもちろん、アカリ並みに付き合いのある相手ならある程度気にならないんだが。


 ちなみに、俺は不思議と動物型NPC勇者との接点が多かったりする。あと、不思議と好感度も高かったりするが、それはさておき。


「いや本当に久しぶりだねえ。最後に会ったのはいつだったかね?」

「俺がセントラルを出て行くときッス。もう一ヶ月以上ッスよ」

「そんなに経つかい。いやあ、歳を取ると時間が過ぎるのは早いもんだ」

「何言ってんスか、クロちゃん先輩まだ若いじゃないスか」

「いやいや、よる年波には勝てないよ。そろそろ引退も考えてるんだが、なかなか踏ん切りがつかないのも事実でねぇ」


 とまあそんな感じで、ギルドの隅のほうで世間話をする猫が二匹いる。俺ともう一匹。


 彼女の名前はクロルティ。通称クロ。今まで語ってきた動物型のNPC勇者その人だが、その中でもかなり実力者に入る人物……もとい、猫だ。見た目ではわかりづらいが、年齢はぶっちゃけ老婆の域にある。同じ猫だからわかる。

 話し振りから穏やかな人格者に見えるが、年齢に関わる類の発言をすると面倒なリアクションを繰り返すし、敬老精神ありますとアピールしておかないと不機嫌になる辺り、リアルでもわりとよくいるめんどくさいババアの猫版と思ってくれて差し支えない。踏ん切りがどうこうというのも単なるポーズだろう。


 ついでに言うと、クロちゃん先輩というのも俺が言いたくて言っているわけではない。そう言えと言われているだけだ。俺自身はババアと呼びたいのだが、そうするとレベル差の暴力にさらされるので逆らえない。とことんめんどいババアである。

 しかしその実力は、前述した通り高い。動物型NPC勇者で最強の呼び声が高いのは、定期的に掲示板にも話題が上がるガン=カタドーベルマンが特に有名だが、クロもかなりの実力者で最強談義には名が上がるくらいには強い。


************************


クロルティ ファミリア・キャット Lv???

称号 ウィズダム ??? ???

守護神 ???

守護星 蛇遣宮


************************


 ステータスもこれだもんな。前より多くの情報を抜けるようになった辺り、俺のレベルも確実に上がっているんだろうが……まだ勝てそうにない。

 シヅエさんと比べたらどうなんだろうなぁ。わからない。わからないが、猫の身で三つの称号と確実に俺より上のレベルを持つんだから、弱いわけがない。


 ……しかしウィズダムか。ここでその称号名を見ることになるとは思わなかった。


「それよりナナホシ。あんた、魔法使いになったんだね」

「アッハイ、おかげさまで」


 思っていたことをズバリ言われて、ぺこりと頭を下げる俺。


 そう、ウィズダムとは魔法使いを指す称号。これをつけているものはシステムのくびきから解き放たれた存在であり、己の意思でスキルを改変できる技術を持っていることを示す。

 MYUミュウと初めて会ったとき、そして彼女から教えられた魔法使いとしてのチュートリアルでそれらを知って今に至るわけだが、そりゃNPCにもそういうキャラがいても何もおかしくないわけで。

 たぶん強いNPCは、大体持っているんだろう。今思えば、シヅエさんだってノータイムで【ディペンディング】やってたしなぁ。掲示板情報じゃセットされた称号にウィズダムはなかったらしいが、称号は着脱可能だし。


「見込みがあるとは思っちゃいたが、やるじゃあないか」

「あざっす」

「どうだい、あんた一緒に例の邪神殿行かないかい? 今のあんたなら足手まといってこともないだろう」

「え……えーっと、まだ俺じゃクロちゃん先輩との差が激しいかなー……なんて……」

「見たところ今日は一人なんだろう? 贅沢言ってる場合かね。男が一人寂しい思いをしているのを見かねた年寄りの温情なんだ、ありがたく受け取りな」


 言いながら、カッカッカと笑うババア。温情って言うよりはそこそこお年を召した方特有の、どうせパーティを組むなら若い相手がいいというアレだろうに。


 それに、こいつとパーティを組むのはしんどい。いや、別に敬老的扱いが面倒とかそういうわけじゃないんだ。口は悪いし戦闘中は蘇生以外一切助けてくれないけど、レベル的にも戦闘の勘的にも成長に繋がることは間違い無いしな。

 ただそれは、普通のダンジョンならの話だ。今回のイベントダンジョン「古の邪神殿」には、特殊なルールが設けられている。そう、ダンジョンへの突入地点はパーティの平均レベルで変わる、というルールがな。


 このルールは、パーティを組んでいるNPC勇者のレベルも関わってくる。当然、ババアのレベルもだ。

 しかしババアのレベルは現状不明。少なくとも俺とかなりの差があることは間違いなく、であるならば、ワンパンで沈められるようなエリアに連れて行かれる可能性がかなり高い。

 だから、今回ばかりはババアの要請は断りたいんだが……。


「安心しな。今回は使い魔の育成も兼ねてのことだ、不必要に難度の高いところには行きゃしないよ」


 なんて思っていたら、先を越すように言われてしまった。

 さらに、俺の顔がよっぽど間抜けだったのか、


「カッカッカ、あんたの考えそうなことなんて丸っとお見通しさね」


 と笑われる始末。亀の甲より年の功か……。


 しかしそこまで言われてしまったら、もはや俺には断る口実が思いつかない。完全に逃げ道を塞がれた形だ。

 仕方ない、腹くくるか……。


「例の仕事ってわけッスね……やれやれ、仕方ないッスねぇ……」


 俺はため息をつくと、目の前に浮き上がっていたパーティ申請のウィンドウを肉球でタップした。そこに記されていたものが、はいとイエスに見えたのは気のせいではないと思う。


「よし、いい返事だ。それじゃあ早速行くよ!」

「えっちょっ、クロちゃん先輩!? もうッスか!? 俺、まだ何も準備できてないんスけど!?」

「四十秒で支度しな!」

「俺は炭鉱夫じゃねぇんだぞ!?」


 そりゃ武器も防具も、下手したらアイテムすらろくに使えないから、他よりは早く済むだろうけどさ!

 というか、よりにもよってその返しって! プレイヤーに教えられたのか、運営がそうあれと仕込んだ設計なのか、あるいは実はプレイヤーか。どれだ!?



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 あれこれあって、結局ほとんど準備できないままイベントダンジョン「古の邪神殿」に連行された俺。

 しかしそこの入り口で、俺たちはあっさりと低レベル帯へと案内された。


 ……とは言っても平均30台のエリアだから、難易度がめちゃくちゃ低いという場所でもない。レベル50の大台に乗った俺にはいささか物足りないが、初心者が来ると危ないだろう。


「……マジで低レベルエリアじゃないッスか」

「なんだい、あんた私を疑ってたのかい?」

「ハハハハハまさかぁ、そんなことあるわけないじゃないスかぁ」

「ふん。下手な嘘はやめておくんだね」

「い、いやぁ、なんのこ……ぶはう」


 どこまで否定しておくべきか、なんて考えていると、横から割り込んできた存在に俺は言葉を遮られた。頰を押されるという物理的な手段で。


「ごろごろにゃぁん」

「にゃあん」

「ええい寄るな寄るな、俺はお前たちのママじゃないんだぞ!」


 あまりの圧にたまらず跳びのきながら、俺のセリフを頬ずりで遮った下手人どもにツッコむ。

 ありていに言ってしまえば、それは子猫の群れであった。細かく言うなら、四匹の子猫の群れである。色も大きさも、さらには品種すら様々だが、いずれも例外なく額に蛇遣い座の模様が描かれている点は共通する。


 この模様は、こいつらがクロの使い魔であることを示すものだ。こいつらに限らず、使い魔を用いるスキル【使役術】の影響下にあるものには例外なく、使役者の守護星の模様がどこかに浮かぶ。

 つまりクロは【使役術】で戦う後衛系のキャラで、いまだ【鑑定】で見通せない二つの称号のうちどちらかは、ファミリアスト系の上位称号だと思われ……。


「こら待て、それ以上寄るな! ステイ、ステイだぞ!」

「にゃあん」

「にゃーん」


 子供に理屈は通じないとはこのことか。離れた端から殺到される……というか待て、今おじさんと言った奴はどいつだ!? 失礼な奴だな!


「誰がおじさんだ、俺はまだ二歳にもなってな……ぅわっぷ!? おいやめろ、群がるな! 俺はお前らの家族でもなんでもないんだぞ! ドゥーユーアンダースタ……ぬわーーっっ!!」


 返答は、もちろん抱擁であった。俺は四匹の子猫に一斉に飛びかかられ、そのまま揉みくちゃにされる。子猫に全力で反撃するわけにもいかず、八方塞がりだ。


 くそう、わかっちゃいたが、こいつら言葉が通じない! 完全に普通の子猫だ!!


「ちょっとクロちゃん先輩! なんとかしてくださいよ!」


 仕方がないので保護者に投げようとするが、


「子守の手間が省けてありがたいねぇ」

「ちくしょう! 糠に釘刺してる気分だ!」


 あっさりと投げ返された。


 うん、知ってた!

 これが今回のパーティメンバーってんだから、まったく先が思いやられるよ!!


ここまで読んでいただきありがとうございます。


実はナナホシには隠しステータスとして、人語を発せられない動物と会話が可能なサポートスキル(猫系に対して効果が最大となり、猫から離れるにつれて効果が下がる)がユニークスキルとして搭載されていたりします。

データ上では、彼のプレイヤーデータは一般的なプレイヤーより動物型NPC勇者に近い扱いだったり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ