19ねこ イベント攻略中
最初の戦闘からおよそ2時間後。何度か小休止を挟みながらも、俺たちは順調に探索を進めていた。
みんなそこそこにキューブの獲得数があり、最低限の限定アイテムには手が届くくらいにまでは集まっている。全員目当てのものには届いていないようで、プールしているようだが。
そんなこんなで探索を続けていると……。
「何か来る。音の感じからしてまたホムンクルスだろう」
「わかりました」
「おっけー、それじゃ先手必勝と行こーか!」
「はいはい、合わせるわ」
みんなここの敵との戦いに慣れてきて、余裕が垣間見える。
弛緩しているようにも見えるが、実際今のところ余裕なので無理もない。敵もあまり代わり映えがしないというか、種類が多くないから対応するのも難しくなかったんだよな。高レベル帯のフロアに入り込んだらその限りではないだろうが。
「そこの通路だ。……今!」
「とりゃーっ!」
「せぇぇーい!」
そして俺が示したタイミングで、ご主人とMYUが先制攻撃をしかけた。
現れたのはやはりホムンクルスで、まったく戦闘を想定していなかったのかまともに二人の攻撃を食らう。
そこにアカリも加わり、一気に乱戦状態になるが……出鼻を挫かれた敵たちは彼女たちの猛攻に対して後手後手で、効果的な対応ができていない。
もちろん俺も後ろから魔法スキルで攻撃する。これでこのダンジョンは大体の敵に勝てる。少なくとも今の所は。
「ん……?」
そうしているうちに今回の敵群も半分を切り、そろそろ俺も前に出るかと思っていたところで、俺は一つ違和感を覚えて首を傾げた。
少しの間、何が違和感なのかわからなかったが……。
「……武器を持ってないやつがちらほらいるな」
今までの経験上、ホムンクルスはすべて両手が何らかの武器になっていた。一度中ボスっぽい感じの場所で、両手が破城槌だった大きいやつがいたが……そいつも両手は武器だった。
しかし今、後ろのほうでまごついている個体は手が武器ではない。だがそれで何か武器を持っているのかといえばそうでもなく、完全なる無手だ。
チャージゲージが見えるから魔法系のユニットなのだろうが、今のところスキルが飛んでくる気配はない。いやまあ、チャージしきる前に誰かの攻撃が当たってキャンセルされているからだが。
それはともかく、一体何者だ?
単に低レベル帯のフロアに入り込んでしまったことで現れたザコなのか?
それともザコっぽいだけで、何か特殊な挙動をする厄介なやつなのか?
「何はともあれ【鑑定】の出番か」
************************
名無し イビルホムンクルス・コピー Lv40
称号 イベントモンスター
守護神 ニャルラトテップ
守護星 天蠍宮
************************
「イビルホムンクルス……コピー?」
なんだそれ。いや、なんとなく察しはつくが。
まさかとは思うが、こいつって……。
『【ステータストレース】』
俺が猛烈に嫌な予感を覚えた、まさにその瞬間。
コピーと名のついた一体のホムンクルスが、ようやくとばかりにスキル名を宣言した。今までのどのホムンクルスにも使わせなかったが、さすがに数がいるから完封はできなかったようだ。
直後、魔法系スキルのエフェクトがそいつの足元に現れる。
「おおう?」
「何これ?」
「これ、振りほどけないです……!」
その魔法陣は、みんなの足元にも出現していた。同じ色、同じ規模、同じエフェクト。
と来ると、だ……。
「ええっ!? 敵がMYUさんカナさんに変身しちゃいました!? わ、私もいます!」
「やっぱりマ○マネ系モンスターか!」
国民的RPGの片割れ、ドラゴンなクエストのアレやソレだと、4作目から出てきたわりと厄介なやつ。こっちのキャラに変身して同じステータスになり、大暴れをしてくれるあいつみたいな敵と見た。
厄介なのは、無手だったホムンクルス……コピーと名のついたやつが全員一斉に変身したことだ。これでは誰が誰だかわからないぞ。
************************
カナ ヒューマン Lv48
称号 テイマー
守護神 天宇受売命
守護星 金牛宮
************************
おいおい、【鑑定】も騙されているぞ。これじゃあ本当に見分けがつかないじゃないか!
……いや待てよ、そういえばレベリング中に【鑑定】がレベル10になって、【スーパースキャン】なるスキルを覚えていたな。使用感が普通の【鑑定】と同じだったから気にしていなかったが、もしやこういうときに使うのか。
************************
カナ(名無し) ヒューマン(イビルホムンクルス・コピー) Lv48(43)
称号 テイマー(イベントモンスター)
守護神 天宇受売命(ニャルラトテップ)
守護星 金牛宮(天蠍宮)
************************
どうやらビンゴのようだ。多少の集中を要するが、俺は全員の見分けがつけられる。
しかし他のメンバーはどうだろう。とりあえず、自分と同じ姿のやつを攻撃するようにすればいいかな?
「うえっ、気色悪っ! 鏡でもないのに自分と同じ顔の人間がいるって、すごく嫌な気分だわ!」
見た目を完全コピーされたご主人が、心底嫌そうに顔を歪めている。気持ちはわかる。
「……まあでも、展開自体は使い古されてるわよね」
が、即座に気を取り直すと、遠慮なく自分と同じ顔に拳を叩き込んだ。
ちゅ、躊躇なし!
「えええええ、いいんですかカナさん!?」
「え? 同じ顔でも敵じゃない。じゃあ倒さなきゃ」
「そ、それはそうでしょうけど……!」
ご主人、慣れてらっしゃる……。これが世界を一度救った人間の貫禄か……。
「あはは。アカリちゃん、ウチらはこういうシチュはオンミョウジャー時代に大体見てるんだよ。むしろコピーに攻撃したらその分のダメージが返ってこないだけ良心的っていうかさー」
あ、うん、MYUも遠慮なく自分と同じ顔に殴りかかってますね。
なるほど確かに、そんな回もあった気がする。オンミョウジャーって元ネタが陰陽師だからか、そういうコピー系の敵が中盤のボスで出てたっけか。人形を使った呪いの傀儡師とかなんとか……。
「そうそう。まあさすがに撮影で同じ顔の敵が出て来るとかはなくって、後から合成だったけど」
「ねー。それにこいつら、見た目とステータス、それにスキルまではコピーできてるみたいだけど、スキルレベルはできてないっぽいからわりとザコいよ」
「ね。オンミョウジャーのあいつはその辺も完全コピーだったから苦戦する流れだったし、あれと比べたら軽いもんよ」
「ホントホント。あいつの回はしばらく負け演技とメイクばっかりでしんどかったよねぇ」
「イエローの成長回も兼ねてたから、あたしは特にしんどかった覚えがあるなあ」
もうあいつらだけでいいんじゃないかな。
和やかに笑いながら敵(ただしその一部は自分も含め仲間と同じ見た目だ)を蹴散らす二人を見て、俺はそう思った。
と、そのとき……俺の横を、【ホーリーショット】が通り過ぎていった。
「……明らかに元とは体格が全然違うはずだが。それでも俺もしっかりコピーされてるのな」
大元に目をやれば、そこには空に浮かぶ黒猫が。俺だ。
俺だが……なんだろうこの感覚。攻撃しづらいとかそんな感覚はなく、むしろ腹立たしいぞ。
というかだな。
「……なるほど、確かにスキルレベルが足りてないらしい」
そんな威力で俺を倒せると思うなよ。確かに俺は紙装甲だが、魔法防御に関してはそこまでペラくはないぞ。
だから俺は思わず久々に声を作ると、
「【ホーリーショット】はな……こうやるんだぜ」
そう言い放ち、昼寝が得意な小学生じみた早撃ちをお見舞いする。
白い弾丸はそのまま狙いを過たず、偽物の眉間を撃ち抜いた。現実に限りなく近いこの世界で、それはクリティカルヒットだ。偽物はそれで消滅した。
おお、今のちょっとかっこよくね? セリフも着弾点も完璧だ。いや、当たった場所は偶然なんだがな。
「ううう、やりづらいです……!」
アカリはダメそうか。
と思って彼女のほうに目を向けると、俺の偽物から猫パンチを食らっているところだった。ライフゲージはまったく削れていないので、なんていうかじゃれられているだけのようにも見えるが。
「偽物とはいえ、ナナホシさんを殴るなんて私には……!」
「そっちかい」
確かに猫好きにはきついかもしれんが!
そいつの中の人は敵だからな、アカリさんや!
「きゅー!」
そんな俺の心の声が届いたのか。
俺の偽物は、みずたまによる弾丸タックルによって文字通り粉砕された。ほとんど一瞬の出来事だった。
「あ、ありがとうございますみずたまさん……」
「きゅっ!」
少し呆けた様子のアカリに対して、みずたまはえっへんとばかりに鳴き、胸を張った……ように見えた。
苦戦している仲間を助けた心通じるモンスター……という構図としてはなかなかのものだが、一つ気になったことがある。
俺の偽物、多分ステータスは完全にコピーしてたと思うんだよ。それで一撃で粉々になったってことは……つまり、俺はみずたまから全力で攻撃されたら即死するんですね……?
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「ねえミュウちゃん、キューブいくつになった?」
「891個ー。とりあえず下限の限定アイテムには届くけど、欲しいやつじゃないからこのまま貯めてくつもりだよん」
さらに数時間が経って、そろそろダンジョンから一旦出ようかという頃合い。
ご主人とMYUはキューブとそれに伴う報酬のことで盛り上がっている。セーフポイントでもないので相変わらず警戒は怠れないが、彼女たちはまあ大丈夫だろう。
891個が早いのか遅いのかはわからないが、MYU、次いでご主人の獲得キューブ数が俺たちの中では早いのは間違いない。
「うーむ、まだまだ先は長いなぁ」
「ナナホシさんのお目当ては【かんなぎの勾玉】でしたっけ。【ディペンディング】の効果時間を自動延長する……」
「ああ。よりにもよって最高値なものが一番ほしいわけだが……」
一方で俺は、アカリとともに報酬に想いを馳せていた。
各種クラスに対応した報酬はいくつかあったが、シャーマン向けの中では勾玉以外は防具だったんだよなぁ。猫という種族上、武器と同じく防具の類は大半が装備できないから選ぶ意味がないんだ……。
「1万個はちょっと先が長いですよね……」
「ああ……まだMYUでさえ1000に達していないことを考えると、先が思いやられる」
ちなみにさっき言った通り、これが一番報酬の中で高値だ。同値の品は複数あるが、いずれにしてもこのイベントにおけるエンドコンテンツであることは間違いない。かくなる上は、ご主人たちと都合が合わないときも極力潜り続けるしかあるまい。
「アカリは身体防具の【祠堂院式巫術装束】が目当てだっけ?」
「はい。カタログによれば、シャーマン系統クラスのプラス補正値にさらに追加補正がかかるとのことなので、ぜひにと」
「ステータスに補正じゃなくて、補正値に補正ってのはよさげだよなぁ。今後クラスランクが上がっても腐らないだろうし」
まあ防具として見たときのステータスがどうかという問題も、ないわけじゃないだろうが……少なくとも第二の街であるクレセント周辺なら余裕で最強装備を名乗れるだけのスペックがあるんだよなぁ。第四の街以降で入手可能になる装備だから、それは当たり前なわけだが。
俺? うん、装備できませんが何か?
「ですがこれも……勾玉ほどではないですが高価なので、私はこれ一本に絞らないとダメそうです」
「8000個だもんな。まあ先の街で買うとしたら目ん玉飛び出るくらいの価格らしいから、それを思えば安いんだろうけ……おや? ずいぶん広い部屋に出たな」
話している途中で不意に視界が開け、俺は言葉を切った。
見渡してみればそこは、装飾が施された柱が林立し、壁や天井にも凝った装飾がついていたり刻まれていたりする場所だった。
それでいて天井はかなり高く、何かのホールか礼拝堂かって感じだ。一段高くなっているところもあるが、あそこは祭壇か何かかな?
ゲーム的には、いかにもボスなりイベントなりがありそうな雰囲気だが。
「出口はなさそうね」
「だねぃ。宝箱とかがないか探したら引き返そっか」
「俺たち以外の気配はとりあえずなさそうだ」
「こういう感じの場所だと、以前の破城槌のホムンクルスみたいな敵がいてもおかしくなさそうですが」
「そういえばあいつと戦った場所と雰囲気似てるわね。ボス戦にはちょうど良さそうだけど……先を越されたあとってことかしら?」
などと会話しながら、部屋の中央あたりまで来たときだ。
突然部屋全体を覆うほどの巨大な魔法陣が地面に現れ、黒い光を放った。それは目を覆うほどの強さではなかったが……。
「……どうやら先は越されてなかったみたいだぜ、ご主人」
「……みたいね……」
「か、囲まれてしまいました……!」
次の瞬間、俺たちは大量のホムンクルスどもに囲まれていた。どいつもこいつもしっかりこちらを向いている上に、両手の武器をがっつり構えている。
「あは、いわゆるモンスターハウスってやつだねぇ」
そんな状態にも関わらず、MYUが緊張を感じさせない顔と声で言った。
俺たちに与えられた猶予は、そこで切れたらしい。まるで計ったかのように、ホムンクルスどもが一斉に動き出した。
「とにかくやるしかないわね! みんなやるわよ!」
それを受けて、ご主人が声を張り上げる。
彼女に応じると共に、俺は翼を広げて空に舞い上がった。他のメンツも即戦闘態勢に入り、それぞれが派手に初撃をぶちかます。
モンスターハウス? そんなことで怯んでたらゲームなんてできやしない。
なーに、ピンチはチャンスだ。逆に考えようぜ、連中を全員倒したらその分大量のキューブが手に入る。そう思えばやる気だって湧いてくるもんさ。
見たところ、極端にレベルの高い相手はいないっぽいしな。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
すいませんめっちゃツクールしてました。
やりたいことが多すぎて本当働いてる暇なんてないぜ・・・!