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2ねこ キャラクターメイキング

『「Secret Wisdom of the World」の世界へようこそ! 我々は貴方を歓迎します』


 不意に明るくなった視界。白一色しかない世界が現れ、俺の聴覚にそんな声が飛び込んできた。

 周りを見渡せばやはり白一色。しかし視線を落としてみれば、そこには見慣れたフォーンカラーの毛並み。


 うむ、うまくいったようだ。猫すら完全に扱えるとは、ダイブカプセルってすごいんだな。生前こんな優れものはなかったはずだが、たった二年でここまで技術が向上するとは。


 そんな俺の感動をよそに、アナウンスは続く。


『只今より、キャラクターメイキングを開始します』


 そして目の前に、仮想ウィンドウが現れた。

 そこに表示されていたのは、どこからどう見ても猫の姿。


『ダイブカプセル起動時にスキャンした、貴方のバイタルデータです。当ゲームは、まだ肉体の劇的な変更を行うほどの技術レベルに達していないので、こちらを基本として使用いたします』


 事前にネットで聞いていた通りだな。

 ゲームの中ならワンチャン人間に戻れるんじゃと思っていたが、無理なら仕方ない。ゲームができるだけでもよしとしよう。


『ただし身体や髪、瞳の色や、音声データ、あるいはある程度の肉体要素の変更は可能です』


 続いたアナウンスと共に、表示されていた俺の毛並が一気に短くなった。

 ……これじゃアビシニアンだな。ある意味当然だが、俺はソマリとしての長毛がなかなか気に入っている。せっかくの例示だが、これは却下させてもらおう。


『それでは、身体エディットを行ってください』


 と言われたものの、今言った通り外見はほとんどいじるつもりはない。念のため、俺の身体最大の特徴である背中の七つ星を消すくらいか。


 俺の存在がどこかからご主人に漏れて、ゲーム禁止とかになったら困る。人間の感覚をほぼそのまま残している俺には、ただの猫の生活は到底容認できないんだよ。気味悪がられて殺処分とかになったら目も当てられない。

 数人は秘密を明かす仲間はできるだろうが、それは最低限にしておきたいのだ。


 というわけで毛色を変えるが、黒点を消すのではなく覆い隠す感じで黒猫になろうかな。ソマリの黒猫は多くないはずだから、そういう意味でもゲームならではの雰囲気を味わおう。


 続いては本命、音声データの設定と行こう。


 事前に調べた情報によると、音声項目はデフォルトだと本人の声が使用されるという。これは当たり前と言えば当たり前。

 しかしこのゲームには、音声合成ソフトなどの最先端技術を駆使して作られた、プロの声優たちの音声データが多数搭載されている。それを利用すれば、あこがれの声でゲームを楽しめるというわけだ。


 そしてこのゲーム、実はどんな障がい者、傷病者であろうとゲーム中はしゃべれるようになる。そういう人たちも楽しめるように、という開発者の努力の賜物だ。

 そんな最新技術が乗っているからか、ダイブカプセルは死ぬほど高い。だから現状、SWWのプレイヤーは平均年齢が高く、かつ富裕層がほとんどなんだとか。おかげでプレイ人口もまだ多くないらしい。

 ……それをポンっとプレゼントしたご主人の友人って、一体何者なんだという疑問は湧くな。金持ちなのは間違いないんだろうが。


 ともあれそんなわけなので、このゲームの中では声が出せない人でも喋れる。ただ、そういう人たちの音声データはスキャンできないわけで、必然的にデフォルト設定も使用できない。

 そしてこの状態が、恐らく今の俺に適用されるはずなんだ。俺だって、今は話すことができない。声を失ってしまった人とほぼ同じ状況だろう?


 というわけで、ドキドキしながら搭載されている音声データを聞き比べる。

 ……うーむ、想像していたより数が豊富で迷っ……って、何ィ!? 前世の俺のボイスデータが存在するだと!?


 なんでだ? 俺が生きてる頃にこんな大規模な収録をした覚えはないぞ。そんな噂もなかった。

 どういうことだろう……と思いながらリストを眺めていたら、俺が死ぬよりも前に亡くなった大御所たちの名前まであった。


 これは……あれか。過去の作品からデータを抽出したのか? だとしたらどんな執念だ。

 いや感心するし、素直に嬉しいけどさ。


 俺は売れない声優の卵だったから、そういう御大たちと同列扱いなのは気恥ずかしい……って、おいおいおいおい、無名の声優まで完全制覇って感じのラインナップだなこれ?

 フルダイブ型VRというだけでもとんでもないのに、どうなってるんだぜ。22世紀の猫型ロボットでも関与しているのか?


 ……まあ、考えても仕方ないか。どうせこういう技術的なことは問い合わせても答えてはくれないだろう。前世なんですって言ったところで信じてくれるはずもないだろうし。

 それならいっそ、前世の声がそのまま使えることをラッキーと思ったほうが建設的だろうな。


『身体エディットは以上でよろしいですか?』


 問いに頷くと、直後光が生じて俺の身体が変わる。

 あちこち見てみれば、黒くはなっているがやはり猫の身体。背中の特徴的な黒い七つ星は見事に黒で隠されているはずだから、どこからどう見てもただの黒毛のソマリだろう。


 そして……。


「次はどうすればいい?」


 言葉を発してみて、俺は感動した。


 間違いなく、俺はしゃべれている。猫に転生してからと言うもの、ずっと欲していた能力の一つを今、俺は取り戻したのだ!

 しかも、前世の声そのままだ。発した声に違和感はかけらもなく、とてつもない技術力を感じる。素晴らしい、科学の勝利……!


「な、涙出るんだな、このVR……」

『はい、現実で行えることのほぼすべてが実行可能です』

「……マジかよ」

『設定で不可能にすることもできますので、そちらはお好みで設定ください。なお、痛みや出血などは、デフォルトではオフに設定されております』

「……覚えとくよ」


 その辺りは絶対オンにしないぞ。痛いのは嫌だ。


『では続きまして、ステータスエディットを行います』


 俺が痛み設定におののいていると、目の前に再びウィンドウが現れた。さっきとは違い、数値や文字が並んでいる。


************************


[Big Dipper] 猫 Lv1

称号 アプレンティス

守護神 [天照大神]

守護星 [白羊宮]


************************


 わー、なんてシンプルなステータス画面。


『一般的なゲームに存在するステータスの類は、当ゲームではすべて表示されません。存在しないわけではありません。表示されないのです』


 らしいね。事前に調べて知ってはいたが、改めて見るとなんだか新鮮だ。


 説明は続く。


『それらステータスはプレイヤーの行動次第で、レベルアップ時にランダムで上昇します。プレイの過程で、それらの上昇値に補正を加える要素は多々ありますが』


 この辺りは、フルダイブ型VRならではって感じだな。現実に限りなく近い仮想現実の世界で、能力を細かく数値化するなんて難しいのかもしれない。

 ゲーム的にはすごく不便そうだが……。


『また、クラスやジョブと一般に呼称される概念もありません。称号がそれに該当しないわけではありませんが、ここは各自がプレイの過程で獲得した複数の称号から、己のプレイスタイルに沿ったものを選択するという方が正しいです』


 ジョブ選択はある意味で、MMORPGの醍醐味とも言えるものの一つだ。それを最初から切り捨てるとは、これまた随分と思い切ったゲーム設計だな。

 やっぱりある意味では現実的とも言えるんだろうが……その設計がゲームをどういう風にしているんだろう。いざ目の前にするとちょっと不安になってきた。


 ただ、それとは別に気になるところがある。


「種族が猫で固定なのはどういうことだ? 確か色んな種族が選べたはずだが……」


 人間の身体から逸脱しない範囲で、選択肢は複数あったはずだ。種族によってステータスに差が出るから、最初の選択は結構重要と聞いていたんだが……。


『お客様のバイタルデータでは、これ以外の種族は選択できません』

「……え? それってつまり、猫とかの動物がプレイヤーに適応できるデータとして最初から存在するってことか?」

『その質問にお答えすることはできません』


 う、うーん、まさかとは思うけど、動物がプレイすることも織り込んで作られているのか?

 ……いや、さすがにそんなことはない……よな? そうだと信じたい。


 そうやって首をひねっているのを、問題ないと判断したのかアナウンスが続きを発した。


『守護神は地球上で何かしらの文献が残っている神々がほぼすべて登録されていますので、お好きな神格をお選び下さい』

「え、ああ、うん……って、うわ。聞いてた以上だなこれ」


 眼前に現れた一覧は、もはや一覧というレベルではなかった。多すぎるとは聞いていたが、まさかこれほどとは……。


 日本、エジプト、メソポタミア、ギリシャ、北欧……メジャーどころは完全に揃ってるな。メソアメリカやインド、アフリカ少数民族なんてのもあるぞおい。


 この中から好きなのを選べって言われても困るわ! 日本だけでもとんでもない数の神様がいるんだぞ!


「おまけに選んだ神様によって得意武器やスキル、ステータスや特定イベントの発生に至るまで差が出るんだから、マイナーなのもありなんだったか」

『その通りです』


 つぶやきに応じてくれるとは思わなかったが、どちらにしてもせめて日本神話だけにしてほしかった。


 一応事前に調べた限りでは、各神話の主神、あるいはそれに準ずる神様が鉄板らしい。

 ……んだけど、そもそも選択肢が膨大すぎてろくに検証が進んでないとも言われていた。これを見れば納得だよ。ここは悩むだけ無駄かな。


 そうだなぁ……よくはわからないけど、一度死んで転生してる身だし。死後のことや冥府を司る神様にしてみようか。

 日本でそういう役の神様は確か、伊弉冉神イザナミノミコトだったかな?


『守護星はお客様の誕生日の星座がデフォルトで入っていますが、変更可能です』

「えーっと、プレイヤーはもちろんNPC、敵に至るまで設定されてるんだったっけか。守護星ごとに相性があって……」

『その通りです。また、攻撃をはじめ各種行為の威力、成功率にも影響を及ぼします。すべての守護星は有利な星と不利な星、乱数で極端に有利か不利かが決まる星がありますので、特にこだわりがなければデフォルトのままで問題ありません』


 これも事前に調べてある。守護神のみならず、守護星でもステータスなんかに差が出るらしいから、ここも悩みどころだ。


 とはいえ、こっちは守護神より検証が進んでるようだから、一応考えはある。ここはよどみなく決定だ。こういうところは後発組の有利なところだな。


 あ、ついでに名前も変えておこう。アカウント名そのままはさすがにちょっと味気ない。


************************


[ナナホシ] 猫 Lv1

称号 アプレンティス

守護神 [伊弉冉神]

守護星 [処女宮]


************************


『ステータスエディットは以上でよろしいですか?』

「大丈夫だ、問題ない」


 プレイヤー名は、前世のハンドルネームを使うことにした。今世の名前とかぶるから、本名を直接使っていることになるが……猫の名前なんて別に気にする人なんていないだろう。

 むしろこの名前、この声を気にする人がいたら、それは俺の前世の知り合いである可能性が高い。そっちと巡り合うこともプレイの目的である俺としては、前世と関係のある名前のほうがいいと思ってな。

 まあ、ご主人にバレるリスクもあるが……そもそもダイブカプセルを共用している以上、ゲーム中にご主人と会うことはない。彼女にカプセルをプレゼントした友人に会わないよう、気をつけるくらいか。要は虎穴に入らずんばってやつだ。


 話を戻そう。守護神は先述の理由で伊弉冉神。

 守護星は、魔法系全般にプラスがかかる処女宮だ。得意武器がないデメリットがあるらしいが、このキャットハンドで武器を装備できる気がしなかったからあえての選択である。


『では続きまして、スキルエディットを行います』

「よっ、待ってました」


************************


サポートスキル(0/10)

[]


アクティブスキル(0/5)

[]


残りスキルポイント [5]


************************


 ふむ。

 サポートとアクティブ合わせて15個もセットできるスキルを、わずか5つだけ選べとはなかなか厳しいことをお言いになられる。


『本作はこのスキルの組み合わせで、無限とも言えるプレイスタイルを実現しています。ですが、最初はやはり、戦闘のためのスキルを習得しておくことをお勧めします』

「おっけー。それじゃスキル一覧は……って、うわ」


 ずらずらっと、ウィンドウにたくさんの名前が表示されていく。さっきの守護神並みの量だ。

 これだけある中から五個しか選べないとなると、取捨選択が大変だな。プレイし始めてからもいろいろ悩みそうだ。


 ……おっと、【バトルモーション(攻撃)1】。これが例のやつかな。


『「モーション」と名のつくサポートスキルは、すべてプレイヤーの挙動をサポートするスキルです。これらのスキルがあれば、一度も戦ったことがない人でも無理なく戦うことができるでしょう。もちろん、戦闘に関係しないモーションサポートもあり、こちらは生産用などになります』


 つまりプレイヤースキルがない人は、これに頼るしかないわけだ。

 今の平和な日本で、剣や槍なんかを握ったことのある人間なんてほぼ皆無だろうからそれは理解できる。生産にしても、たとえば鍛冶なんて今の時代、一握りの人しかやったことがないだろうし。

 そんな人たちが剣と魔法の仮想世界で遊ぶとなると、こういうスキルが必要になるのは当然だ。この辺りもフルダイブVRならではだろう。


 しかし逆に言うと、多くの人はその分サポートスキルの大半がこれで埋まることになる。結果として、自前で技術がある人との差は埋めがたいものになる……というのはウィキに載っていた分析だが、俺もそう思う。動きのサポートがいらない分、純粋に強化系のサポートスキルを多くセットできるわけだからな。


 ただ、俺の場合少し勝手が違う。


「この身体で武器防具の装備は絶望的だよなぁ……。剣術とか武器にまつわるモーションサポートは削ってもいいか……」


 俺だって男の子だ。剣を振り回すのには憧れるけど……今の身体でそれはできない相談だと思う。ここは潔く諦めよう。

 いや、チャレンジはしてみたいところだけど、限られたリソースからわざわざできるかどうかわからないものを選べるほど、俺はチャレンジャーではない。


************************


サポートスキル(4/10)

【バトルモーション(攻撃)1】

【バトルモーション(防御)1】

【バトルモーション(回避)1】

【空中ジャンプ1】


アクティブスキル(1/5)

【巫術】Lv1


残りスキルポイント [0]


************************


 というわけで、こんな感じになった。


 モーション系は割愛するとして……空中ジャンプは読んで字のごとく、空中でジャンプができるようになるサポートスキルになる。最初はアクティブスキルを2つ取ろうと思ってたんだが、ほら、二段ジャンプとかあこがれるじゃん?

 それに猫という種族上、瞬間の機動力には自信があってな。長所はやはり伸ばしていきたいなと思って。

 ……うん、ツッコミは遠慮していただけると嬉しい。


 一方、アクティブスキルの【巫術】ってのは、妖精や精霊を身体に宿して戦うスキルだ。彼らはそれぞれ得意なことが異なり、宿すもの次第でプレイヤーは様々な戦闘スタイルを発揮できる。

 つまり宿すものを使い分けられれば、色んな状況に対応できるわけだ。その柔軟性に惹かれた。ついでに言えば、処女宮の得意スキルの一つでもある。


 逆にデメリットはと言うと、開始直後は契約妖精がないせいで死にスキルってことか。

 妖精との契約は全部イベントらしいし、選択肢を増やすのも苦労するってのもデメリットかな。

 一応契約はチュートリアルの一環でできるから、そこまで悲観することじゃないが……選択肢を増やすのが他より遅いのは間違いない。要するに大器晩成型かな。


 でもこのゲームはMMORPGなわけで、常にソロプレイをする必要なんてどこにもない。コミュ力に自信があるわけじゃないが、皆無ってわけでもないから、そこはなんとか臨機応変にやっていきたい。


『スキルエディットは以上でよろしいですか?』

「ああ、これで行くよ」

『以上でキャラクターメイキングは終了です。この他プレイングに関するチュートリアルは、ゲーム開始後に行います』

「了解」

『それでは改めまして……「Secret Wisdom of the World」の世界へようこそ。我々は貴方を歓迎いたします』


 アナウンスと共に、俺の足元にいかにもそれらしい魔法陣が浮かんだ。

 すぐさま視界があっという間に白で染まり、下降時のエレベーターみたいな独特の浮遊感が俺の身体を包み込んだ。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


VRものを書くに当たって、入れるべきかどうかで悩んだ最初にして最大のポイント。

一応入れましたが、どうなんでしょうね。冗長なような気もするけど・・・?

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[一言] 国生みの神が守護神で処女宮ってw 面白いです
[一言] クトゥルフ神話・・・ ニャル様・・ いるの?マジ?
[一言] わしもVR物書き始めたんですけど、思いっきり簡素化してましたw(数行でキャラメイク終わり)
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