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16ねこ イベントに備えよう

 さて、場所を移して行きつけの飯屋。ここはプレイヤーが経営する店で、多彩なメニューとうまい料理の数々が味わえる三ツ星レストラン(俺が勝手に呼んでるだけ)だ。


 そこで食事をしながら談笑なうである。ご主人も、さすがにメットは外している。

 ご主人の顔を見たアカリが改めて恐縮していたが、元より人付き合いのいいアカリだ。わりとすぐに馴染んだ。


「それにしても、なんだかまだ信じられないわ。ペットとこうして話ができるなんて」

「俺もだよ。まあ、科学の勝利ってやつだな」

「そうね、いい時代になったものだわ」


 しかしまあ、ご主人の笑顔がいつもより三割増しくらいだな。やはりこの人は親バカ……もとい、飼い主バカなんだろうなぁ。

 というか、会話が成り立っているのは俺が特殊な猫だからなんだが……それはあえて指摘することではないだろう。


「私は未だにびっくりしています……まさかナナホシさんが本当の本当に猫さんだったなんて……」

「悪かったな、ずっと嘘ついてて」

「いえそんな。知られたらできなくなるかもしれないという懸念はわかりますもの」


 アカリはそう言うと、楚々とした様子で口元に手を当てて苦笑した。

 その変わらない態度が嬉しい。決して長くはないが、ゲームの中で一緒に過ごしてきただけはあるということか。


 と思っていたら、鼻先にオムライスが差し出された。ご主人だ。今日はさすがにアカリから食べさせてもらうのは遠慮している。俺以外にもみずたまの相手もしているから、少しせわしないが。


 もぐりとな。うむ、オムライス最高。ふわふわトロトロの卵。ほんのり香辛料とケチャップの味が染み付いたライスとチキン。シャキシャキの玉ねぎ。どれもリアルじゃ味わえないものばかりだ。ケチャップ自体もいい味してますわ。

 というか、人間だった頃でもこれだけの逸品は食べたことがないんじゃなかろうか。ここで食うたびに思うが、ここの店主って絶対プロだよなぁ。


「……ねえナナホシ、やっぱりペットとしての生活って暇?」

「ぶっちゃけクッソ暇」


 ご主人が俺用のスプーン片手に頰を押さえ、すまなさそうにするが……ご主人のところに来てからはだいぶマシなんだよなぁ。


「そう気を悪くしないでくれよ。正直今の生活はいいほうなんだ。ペットショップにいた頃に比べたらよっぽどな」

「ああー……」


 心当たりがあるのか、ご主人が眉をひそめる。


「ペットショップにいた頃の俺は、他の猫と違いすぎて買い手がつかなくてな。ケージの中で飼い殺しだったんだよ」


 アカリが小首を傾げたので、説明しておく。すると彼女は、さっと表情を崩した。


「退屈すぎて死ぬかと思ったけど、たまーに天才猫としてテレビの取材があってな。あれがなかったら正直気が狂ってたと思う」

「そう……でしたか……」

「今となっては昔の話だよ。まあそんなわけだから、俺を飼ってくれてるご主人には感謝してるんだ。こんな猫だって知っても怖がるどころか、一緒にゲームやろうとする奇特なご主人で本当に良かったと思ってる」


 嘘はない。もっと一般的な感性の持ち主なら、存在を忌避される可能性だってあったのだ。それでも俺を受け入れてくれたのだから、感謝しかないさ。


「猫の飼い主って結構そういうものだと思うけどなぁ」


 そこでそう言い切れるあたり、やっぱりご主人は飼い主バカだろう。普通は割り切れないと思うぞ……。


「マジで」


 と、俺は俺で思わず口に出たが。猫バカな皆さんのエピソードがネットの各所に大量にあることを考えると、確かにそういうものだったりするのか。

 だとしたら、あのペットショップの周囲にはろくな人間がいないということに……。

 ……いや、この話はやめておこう。


「ところでご主人、今後のことなんだが」

「うん、どうかした?」

「ログイン前にも筆談で伝えた通り、俺は普段アカリと行動することが多い。俺の正体はあまり大っぴらにしたくなかったからな」

「うんうん」

「とはいえご主人とも今後はプレイができるわけで、俺の秘密も知っているしパーティを組まない選択肢はないと思うんだが」

「そうね、あたしもそう思うわ」

「だよな。よし、それじゃフレンド登録しようぜ」

「ええ、しましょう!」


 ということで、画面を操作。ほどなくして互いに互いが承認され、晴れて俺のフレンドリストに初めてアカリ以外の名前が載った。歴史的快挙だ!


「あの、私もよろしいですか?」

「構わないわよ。よろしくね」

「ウチもお願いしたいなー!」

「うぉあ!?」

「ひゃっ!?」


 和やかにフレンド登録をしていたら、突然割り込んで来た声。それまでまったく気配がなかったから、俺とアカリは思わず身体を強張らせてそちらに振り向く。


「ミュウちゃんさぁ……癖なのは知ってるけど、あんまり面識ない人の前で気配消すのどうかと思うわよ?」

「どんな癖だよっ!?」

「あっはっは、わかっちゃいるんだけどねぇ。こればっかりはどうにもー」


 ご主人が半目で指摘し、俺が思わずツッコんだ先。そこには能天気に笑うMYUミュウの姿が。


「いやあホラ。何せウチと来たら、忍者の家系の生まれでしょー?」

「そ、そうだったんですかー!?」

「いやアカリ、騙されてる騙されてる。それはオンミョウジャーでMYUが演じたキャラの設定だから」

「え、あれ、え?」

「ちえー、バレちゃったかー。仕方ない、暴露するとだね? 実はウチ、あまたの異世界を空よ狭しと駆け巡った逸材でね?」

「そ、そうだったんですかー!?」

「うん……それはあれだな、『異世界トラベラーケイ・ねくすとっ!』のケイの決めゼリフだな! ちなみにアニメ版のケイのCVはMYUな!」

「へ? え?」

「あやや、ほしりん詳しいね?」


 誰がほしりんだ。いや俺のことなのはわかるが。


 なお「異世界トラベラーケイ」というのは、俺がMYUと唯一共演したアニメだったりする。ねくすとはその続編だ。俺の死後に制作放映されている。

 内容としては、ケイという女の子が色んな異世界を旅して成長していく、という異世界転移もの。原作は漫画で、確か大元は同人誌発だったか。

 詳しくは梅書房から出ている同名の原作漫画か、前世の俺も端役だけど出演しているアニメをよろしくな! DVD、ブルーレイ共に全6巻だぜ!


「いや、ホントに詳しいわね? ナナホシにミュウちゃんの出演作そんな見せたことあったっけ?」


 アッー、ウカツ! 思いっきり前世の知識で喋ってました!!


「いやほら、こう……ご主人がいない間に、動画サイトで……」


 我ながら苦しい言い訳だとは思うが、ご主人の留守中動画サイトに入っていたこともあるので、あながち間違いでもない。嘘を信じ込ませるためには、真実を織り交ぜるといいって俺は漫画で学んだんだ……!


「そっか。やっぱナナホシって賢いわねぇ」

「いやー……カナちゃん、いやー……」


 MYUの顔が、すごく何か言いたげだ。しかし思い直したのか、表情を戻してえへらと笑う。


「まあいいんだけど。話を戻してさ、ウチともフレンド登録お願いしてもいーかな? ほしりんは特に、例の件でね。場所は常時把握しておきたいんだよね」


 フレンドにそんな機能はなかったと思うんですが?

 GM専用機能ってところかな……。そうと知らずにMYUや他のGMをフレンド登録している人もいるだろうけど、知らぬが花なんだろうなぁ。


「あーうん、了解だ……です」

「あ、敬語はいらないよ? さっきまでみたいに、じゃんじゃんツッコんでもらっていーから。ウチもあんまり敬語得意なほうでもないし、気楽に対応してほしいな」


 そう言って笑うMYUは、この間のシナリオでユニオンを組んだときよりかなり砕けている。テレビや仕事場でこういう姿を見たことはないんだが、これが彼女の素なのか。ここにご主人がいるからかな?


 俺自身は、別に敬語でもいいんだが。さっきのはツッコミの勢いというか。

 まあでも、本人がいいと言っているわけだし。今後はざっくばらんにやらせてもらおうかな。


「ん……あいよ、了解だ。これでいいか?」

「おっけー! あ、これはそっちの……えっと、アカリちゃんだったっけ。キミもそれでいーからね」

「え、で、ですが」

「なるほど、敬語系キャラなんだね? リアルじゃなかなか貴重だね!」

「ふえっ!?」

「気にするところそれかよ……いや決して間違いってわけでもないだろうけどさ……」


 この間から思ってたけど、MYUって思っていた以上にオタクだよな。テレビとかで見ていても別に隠してはいないが、こういうプライベートでの会話はそこで見るよりさらにネタ発言が多い気がする……。


「あは、ごめんごめん。でも敬語使うななんて強制はしないから、安心してほしいな。アカリちゃんのやりたいようにしてもらえれば」

「は、はい……」


 アカリがまだ目を白黒させている。以前一緒にユニオンしたときとの落差に驚いているのかな。


 気持ちはわかる。あの時も気安くはあったが、それこそテレビに出演している時くらいの普通のテンションだった。

 しかし今は、かなり……うまく言えないが、こう、弾けている。やはりご主人がいるからか。


「はいはい……ミュウちゃん、ほら。席着きなさいな。お店の人に迷惑よ」

「おっとっと、そりゃそうだね。あ、せっかく来たのに何も頼まないのも悪いよね。ウチもなんか食べちゃおっと」


 ご主人の指摘を受けて、MYUはアカリの隣に座ってメニューを物色し始めた。

 ……フリーダムだなぁ。


「……まあ、なんだな。注文終わったらでいいから、フレンド登録しようぜ」

「あ、そうだね! なんかごめんね、ホント」

「いや俺たちもまだ飯終わってないしな……主に俺が」


 ご主人にもらいながらだから、どうしても遅くなるんだよな。猫舌だし。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 その後は無難にフレンド登録をした。なんだか周りが一気に賑やかになったのは、気のせいではないだろう。以降、俺はこの三人を中心としたメンバーでSWWをして行くことになる……のか?


 よくよく考えればめちゃくちゃ贅沢なパーティだよな、これ。4人中半分が第一線クラスの芸能人で、アカリも器量良しの可愛い子だし、一種のハーレムというやつじゃないか。

 にもかかわらず、特に深い感慨はない。これが去勢……まったく人類ってやつは恐ろしい技術を開発したもんだぜ……!


「ところでこの後のことなんだけど……」


 全員がしっかりデザートまで平らげた頃合いを見計らって、ふとご主人が声を上げた。


「この後のこと、ですか?」

「ええ。ほら、週末にイベントが始まるじゃない? みんなはそれに向けて何かするのかなと思ってね」

「あ、なるほど」

「アカリとは前々からゲーム内で話してたし、ご主人とはログイン前に少し話したが……俺はもちろん参加するし、できるなら報酬は色々ほしいと思ってるからしばらくは準備だ」

「ウチも似たようなものかなー。自分のプレイスタイルに対応したやつは少なくともほしいよね」


 空のグラスをこれまた空のスプーンで、名残惜しそうにすくいながらミュウが言う。


 彼女の言う通りだ。今度のイベントで報酬として提示されたのは、それぞれのプレイスタイル……すなわち称号に対応したものが中心だった。

 逆に言えば、対応したものを手に入れないと効果が実感しづらいわけだが……それはすなわち、手っ取り早く効果を実感できるものが少なくとも一つはあるということでもある。


 そしてその入手方法は、イベントダンジョン内で敵を倒しまくり、ドロップするイベント専用アイテムを大量に集めて交換するスタイル。余っても他に有用な報酬はいくつもあるし、腐りにくいから個人的には好みの報酬スタイルだ。


「ってことは、みんなは別にガチ勢ってわけじゃないのね」

「猫してる俺は腐るほど時間があるし、ワンチャン狙えなくはないと思うが……そこまで同じ作業は続けたくないかな。レベル的にも中堅くらいだし」

「ウチも周回系は苦手ー。ほしいのが手に入るまではがんばるけど、報酬全部はいいや」

「私は嫌いではないのですが、それだけの時間を確保できるかは不透明でして……」

「あたしもどっちかって言うと時間が確保できない感じかしらね」

「ってことは、全員準備はそれなりにするが、イベント期間中は時間があったときに組めればいいってところか」


 俺の言葉に、みんなが頷いた。


 ふむ、このメンバーと組めないときのことは考えておいたほうがよさそうだな。

 とはいえ、MMORPGのしかもイベントで目的の一致しない人とパーティを組むのは色々と障りがある。特に報酬は集め切りたいような人とは、モチベの差で悲しい結果に終わりかねん。

 今回のイベントはNPCも死に戻りできるし、場合によってはそっちの線で行ったほうがいいかもしれないなぁ。ガン=カタドーベルマンとか雇えればいいんだが……。


「……でもそれはそれとして、とりあえず一回はナナホシたちと日程合わせてやりたいわね」

「俺はいつでもウェルカムだ」

「私は土日なら融通がききます」

「ウチは今度の土日なら、かなー」

「あたしもミュウちゃんと同じ……ってことは、初日と二日目くらいはこのメンバーでアタックできそうね?」


 今度はご主人の言葉に、頷く俺たち。


 その後も特に異論が出ることはなく、ひとまず初日に合わせてレベリングや装備更新のための素材集めや金策に精を出すことで意見の一致を見たのだった。

 主にご主人の。


「ちなみにみんなのレベルって今いくつなの?」

「俺は45だ」

「私は42です」

「ウチ43ー」

「……あたしのレベル上げと装備集め、手伝ってくれると嬉しいなって……」


 なんてやり取りがあってなぁ。


 いやまあ、なんとなくわかってはいたけどな。俺とアカリ、MYUは第三の街ミスリルに入ってそこそこ経っているが、ご主人は辿り着いてすぐらしいからな。レベル差があるのは当然だ。


 別にそれで俺たちが遠慮することはないが、今度のイベントダンジョンはパーティの平均レベルでスタート地点が変わるらしいんだよな。同時に、出現モンスターの強さもそのスタート地点で変動する、とか。

 つまりパーティの中でレベル差があると、低いほうの人は全体的に苦戦を強いられるわけで。


 ついでに言えば、ご主人は自身のテイムモンスターであるみずたまよりもレベルが低い。彼(?)はむしろ俺たちにレベルが近いから、今のままだと割りを食うのはご主人だけということになるわけで……。


「気にするなよ、ご主人。こういうところでしかできんが、日頃の礼はさせてくれ」

「私もほしい装備がいくつかありますし、どのみちいっぱい稼がないといけませんから」

「もちろんウチがカナちゃんに否なんてあるはずもなく!」

「きゅっきゅっ!」

「ありがとう……お世話になるわ……」


 現実相手に打ちのめされたようにうなだれながら、礼を口にするご主人。そんなにか。


 いや演技だと思うが、とりあえずみずたまと一緒に癒して差し上げよう。この身体でな!

 さあ、ソマリネコの長毛を思う存分モフるがよいぞ!


 あ、こらみずたま、俺が先だ。俺のほうがご主人のペット歴長いんだからな!

 たぶん!

ここまで読んでいただきありがとうございます。


先週は各地のバレンタインイベントに精を出していたらほとんど執筆できていないっていう、この。

ソシャゲは嫌いじゃないし好きな作品もいっぱいあるけど、自分のメイン趣味である創作の時間が減るので、まったく働いてる暇なんてねえなって思うます。

海〇コーポレーションカップはレベル13どまりだったぜ・・・みんな強い・・・!(ぁ

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