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13ねこ 彼女の暴露

 まさかのMYUミュウ遭遇から、リアル世界で2日後。

 この日はご主人がまるまるオフで、午前中を掃除にあてておられたのだが、猫を掃除に駆り出すのはどうかと思う。確かに「猫の手も借りたい」なんて言葉があるけどさ……。


「ナナホシ、雑巾持ってきてくれる?」

「うにゃー」


 いやまあ、それに従う俺も俺かもしれないが。

 ご主人なしでは今の生活は成り立たないので、これくらいはと思っているんだよ。なんだかんだで感謝の気持ちはあるのだ。


 ただ、俺が猫で、かつ去勢手術を済ませているからと言って、薄着でそこら辺を歩き回るのはどうかと思う。目のやり場に困るんだよ。なまじ視界が広いから余計だ。

 特に何が問題って、その豊満な胸だ。爆乳とは言わないものの、明らかに巨乳の彼女が薄着で動き回ると、ばるんばるんと揺れるんだよな……。


「いつもありがとねナナホシー、お礼におやつあげるわね」

「にゃぁん!」


 ソーセージ! ソーセージですねご主人! ありがとうございます、ありがとうございます!

 うひょー! ソーセージたまんねーな! このほのかに漂うアミノ酸系らしき調味料の匂い、最高だぁ!

 ……アッ、もうなくなってしまった! もっとだ! もっと俺にソーセージをよこせください!


「ニャッ」

「もう食べちゃったの? これ以上はダメよ、太っちゃうもの。だからまた今度ね」

「ぐにゅうぅぅぅ……!」


 俺はこの世の絶望をすべて味わったような顔と声で、ぐったりとその場に伏せた。


 何が憎いって、そう言うご主人が昼飯として親子丼を作っていることだ。殺人的な匂いが充満している! 俺もそれ食べたいよ!

 でもダメだよな! 猫にとっては味付け相当濃いだろうし! 何よりめっちゃ玉ねぎ見えるし! ちくしょう!


「ナナホシってホント人間と同じもの食べたがるわよね……そんな顔しないでよ……」

「ぐにゅうぅぅぅ……」


 これがしないでいられるものか! 元は人間なんだ、人間と同じもの食べたいに決まってる!


「ニャァ……」


 この場にいると匂いで発狂しそうになるので、とぼとぼとその場から離れた。そのままリビングの端まで行くと、クローゼットを押し開けて中に入り込みふて寝する。


 寝たい時に寝れるのは猫の特権だが、やはり食事の不自由さがすごくきつい。SWWの中ならそれも無視してあれこれできるから、もっともっとゲーム内で食べ物関係全般が発展してほしいところだ……。


「……に?」


 どれだけ時間が経ったか。うつらうつらとまどろみながらも俺がなお現実と戦っていると、不意にインターホンが鳴り響いた。

 そういや、客が来るって言ってたっけ? だから久々に部屋の掃除をしてたんだったか……。


 まあ、どっちにしろご主人の客に俺が関わることはあまりない。むしろ客人がいると、ご主人がSWWをしていないにもかかわらず俺もSWWができないから、いっそ早く帰ってくれないかなって感じだ。それに騒がしいと、猫の聴覚が敏感すぎて寝れないし。

 今だって、玄関先の会話がここにいてもはっきりと聞こえてくる……。


「ィヤッフェーイ! カナちゃんおひさ! 来たよー!」

「いらっしゃいミュウちゃん、リアルで会うのは久しぶりねー」

「ぶううぅぅ!?」


 客人ってMYUかよ!? 聞いてねーぞ!?


「やーやーホント久しぶり! 先々月の戦隊映画の撮影以来? あ、お邪魔しまーっす」

「そうねー、あれからちょっとお互い立て込んでたものねー」


 大丈夫かこれ!? SWWの中でかなり近い距離で会話してたけど、バレたりしないよな!?


 と、とにかく、とにかくだ。俺はしばらくここから出ないぞ。意地でも出てやるものか。万が一にも今の生活を手放すわけにはいかないからな!


「そういえば猫ちゃん飼い始めたんでしょ? どこー?」

「え? たぶんクローゼットの中にいると思うわ。あの子、何かあると大体そこに隠れるし……」


 ご主人んんんん!!


「ほーほーこことな。悪い子いねがー?」

「うにゃああああ!?」


 光が差し込んできてまぶしいと思う間もなく、俺は現実の世界でMYUとの対面を果たす羽目になった。


「うはー、かわいー! 抱っこしていーい!?」

「いいわよー」


 だからご主人んんんん!!


 ええい仕方ない、ここは逃げるのみ!

 SWW内ならともかく、リアルで人間が猫の瞬発力に勝てると思うなよ!


「つっかまーえたーっ♪」

「にゃああぁぁ!?」


 あっれー!?


 MYUさん!? 今、俺の動き完全予測してませんでしたか!? 何その的確すぎる未来予測! おまけに立ちふさがるまでの動き、目で追えなかったんですけど!?


「わはー、ふかふかだね! ふっかふかだね!」

「あんまりモフり倒さないであげてよ? ナナホシ、あんまりそういう扱い好きじゃないから」

「そーなの? わかった、これ以上はやめとくー」


 そう言いながらも、俺を抱き上げるMYU。そのまま腕の中に抱きかかえられた俺は、もはやまな板の上の鯉。ただされるがままになでられることしかできない。


「ミュウちゃん何飲むー?」

「ココア!」

「はいはいわかりましたよーっと」


 俺を構うMYUを置いて、ご主人がキッチンに立つ。それを恨めしく見送る俺。


 しかし、そんな俺の頭の上に、そっと重めのものが乗った。何事かと思って視線を上げると、MYUが顎を乗せていた。

 何をしてくれるんだこの人は……と思って顔をしかめたんだが、


「……別に心は読んでないし、未来も見てないよ? ただ、視線と筋肉の動きで次にどう動くか大体わかるだけー」

「!?」


 ぼそりと告げられて、俺は飛び上がらんばかりに驚いた。


 しかし、抱きかかえられていて身動きは取れない。それでも首から上はそれなりに激しく動いたので、その瞬間にMYUの顔は離れた。

 そのまま彼女の顔を凝視する。たぶん、向こうからはぎょっとした顔の猫が見えるんだろう。


「ふっふっふー、なんでって顔してるねー。色は違うけどその顔、見覚えあるよ? やっぱりキミ、SWWのナナホシ君だよねー?」

「……!?」


 やっぱバレてんじゃねーか!!


「はいココア、お待たせ。ナナホシと何話してたの?」

「ありがと! んーっとね、そうだなあ、これからのことについて、かな?」

「はあ? またミュウちゃんったらわけわかんないこと言うー」


 あっはっはー、と女二人がにこやかに笑う。


 しかし俺には、とてもじゃないが笑うことなんてできそうになかった。

 これからのこと。それはきっと、俺のことなんだろうとしか思えないから。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 二人はしばらく、とりとめのない雑談を続けた。俺としては、いい加減本題に入ってくれと思わざるを得なかったけど……。


「ところでカナちゃん、実は今日来たのは一つ用事があるからなんだけどさ」

「用事? どんな?」


 そのやり取りを聞いて、俺は身体を固くした。来た、って感じだ!


「うん。あのね、こないだSWWの中でナナホシ君に会ってさー」


 やっぱりな!


 や っ ぱ り な ! !


「はあ? ゲームの中で、ナナホシに? 何言ってるの?」

「言葉の通りだよ? ゲームの中で、この子に会いましたー」


 えへらと笑いながら、MYUが俺を抱き上げて顔を並べる。俺は間違いなく、死んだ魚のような目をしていたと思う。


 一方、対面のご主人はかわいそうな人を見るような目でMYUを見ていた。よかった、ご主人は普通だ。


「あっ、カナちゃん信じてないでしょ!」

「いや、そりゃ……ねえ? 信じられるわけないっていうか……」


 そうだ! その通りだご主人! もっと言ってやれ!


「まあ、そう言うと思って証拠持ってきたんだけどね。はいこれ、SWWのログインデータ」

「……え?」


 は?


「ダイブカプセルって一個一個にシリアルナンバーあるんだよ。だから誰がどこからログインしてるかってのも全部残るんだ。これがカナちゃんのキャラ『カナ』のログインデータ。それでこっちが、一週間半前に登録された『ナナホシ』ってキャラのログインデータ」

「……え、ちょ、ミュウちゃん? え?」

「この二つのキャラは、同じシリアルナンバー3199でログインしてる。つまり同じダイブカプセルからログインしてるってわけ。で、このナンバーのダイブカプセルがあるのはもちろん一台だけで……」


 さらっと出てきたタブレットの中身が、MYUの指でスクロールしていく。彼女はその間もぺらぺらと何やら説明を続けているが……ご主人、どうやら理解が追いついていないっぽい。


 しかし俺はそれどころじゃなかった。

 ダイブカプセルにシリアルナンバーがあるのはおかしくない。そこからログイン情報が逐次記録されてるのも普通だろう。


 だがそんな守秘義務マックスな情報を、なんでMYUが普通に持ち歩いてるんだよ!? あんたあのゲームのなんなのさ!?


「あ、これ守秘義務あったからカナちゃんにも秘密にしてたんだけど……観察対象者の保護者ってことで暴露しちゃうとね。ウチ、実はSWWのゲームマスターなんだよね」

「……は?」


 ……は?


「いや、だからウチ、ゲームマスターなんだよね。運営側の人間だったりするのだ」

「…………」

「…………」


 俺が人間のままなら、間違いなく漂白されたように真っ白な状態で、「なん……だと……!?」って言っていただろう。MYUの暴露は、それくらい衝撃的だった。


「ってなわけで、今日カナちゃんちに来た用事ってゆーのはね、実はお仕事なのです。SWW運営の人間として、カナちゃんとナナホシ君にお話があってきましたー」


 そう言って、再びえへらと笑うMYU。


 ……もうダメだ。おしまいだぁ。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「……ってわけなんだけど」


 MYUが後ろ頭をかきながら、様子を窺うようにしてご主人の顔を覗き込んだ。


 さっきまで、MYUによる2度目の説明が行われていた。あまりにも衝撃が大きすぎて、ご主人の理解できる範囲を完全に超えていたのだ。

 俺はといえば、これ以上何が出てくるのかと生きた心地がしなかったわけだが……。


「……まだちょっとよくわかんないんだけど。つまり、ミュウちゃんはバグとか不正がないかを実際にプレイしながら探す仕事をしてるわけね?」

「イグザクトリー、その通りでございます。正確にはそのうちの一人ね。そんなわけだから、ゲームマスターって言っても大した権限はないんだ。プレイヤーとNPCを見分ける機能が使えるくらいで」


 ……GMならそんな機能があってもおかしくはないよな。ってことはつまり、俺の哀れな努力に意味はなく、最初から正体はほぼバレてたわけか……。


「なんでミュウちゃんがそんな仕事やってるのよ……っていうかいつの間に……」

「カナちゃんに勧めたとき言ったでしょ、ウチSWWの初期からずっとテスターだったって。その縁だよ。適性が高いとかで」

「……ああ、なるほど」


 へえ、MYUは初期からのテスターだったのか。適性ってのはよくわからないけど、少なくともあのすさまじいプレイヤースキルを見た後だと、妙な説得力がある。


 ……プレイヤースキルなんだよな? まさかGMがチートしてるなんてことはないだろうし……いや、何か特殊なスキルが他にも……?


「まさかとは思うけど、あたしにカプセルくれたのって」

「あ、それはホントにウチのミス。ゲームマスター引き受けるに当たって専用機支給されたんだけど、製品版予約してたの忘れてて……」

「……そう。それはまあ、なんていうか、ありがとう?」

「えへへ、どういたしまして。

 ……でね、話戻すんだけど、そんなだからウチにはゲームで異常とか不正があったら報告する義務があって。だからさっきもちょっと言ったけど、プレイ中でも相手の各種データなんかが表示されるようになってるんだ」

「なるほど、それでプレイヤーとNPCを見分けられるわけね」

「そゆこと。だから動物型のNPCだと思ったナナホシ君にプレイヤーだってシステムメッセージ出てて、最初はびっくりしてさぁ。

 おまけにさ、ウチだけが見えるデータの中にさっきも見せたダイブカプセルのシリアルナンバーもあるんだけど……カナちゃんのはさ、一緒にできる時は一緒にプレイしてたじゃん。だから番号覚えちゃってたんだよね」

「……それと同じ番号だった、と……」


 う。ご主人、そんな目で見ないでおくれ。

 ……って、こうやって顔をそむけるのは逆効果だったかな……。


「そゆこと。で、本部にかけあってもっと詳しく調べた結果、間違いないってわかって。まあ、番号の一致くらいは正直問題じゃないんだ。カプセルの使い回し自体は合法だし。だから問題なのは、このカプセルで使われているアカウントのバイタルデータのほう」


 一度そこで言葉を切ったMYUは、改めてタブレットを操作する。そして「一部は絶対開示できないから歯抜けだけど」と断ったうえで、画面を見せてきた。


 そこに表示されていたのは、どう見ても猫だった。マスターデータのほうだからか、リアルの俺と同じ姿の猫だ。これが元になってSWWでの俺を構築しているのだろうが……。


「……完全に猫ね。しかも背中に七つの黒点のある猫なんて、あたしが知る限りこの世に一匹しかいないわ……」

「でしょ。で、バイタルデータの改ざんなんてそうそうできないし、これは本物って本部も言ってた。ナナホシ君はバグでアバターが猫になったって言ってたみたいだけど、そんな痕跡も見つからない。

 ……ってことはつまり、猫がSWWをプレイしてることになる。これはちょっと気にしとかないとまずいぞ、って上が判断してね。ウチが派遣されましたー」


 ……完全に筒抜けじゃねーか。

 まさかそんなに細かくデータが取られているなんて思っていなかった。MYUとの接触自体は偶然だったんだろうが……こういう立ち位置のGMがMYU一人とは到底思えない。となると、遅かれ早かれ俺の存在は気づかれていたのだろう。

 そういう意味では、ご主人の親友であるMYUに見つかったのは、むしろ運が良いほうなのかもしれない。


「……で、でもミュウちゃん、いくらナナホシが頭いいからって、ゲームの中でプレイなんて……」

「それがさあ。ナナホシ君、普通にプレイヤーと会話してて、普通にプレイしてたんだよ。動画も撮ってあるよ」


 うむ、完全に詰んでいるな。完全に証拠が固められている。MYU以外の、見知らぬ誰かに追及されなくてよかったと思うしかなさそうだぞ。


 ある意味解脱の境地に達した俺の目の前で、先日のシナリオでのやり取りが映し出された。魔法を放つ俺がそこにいる。その頭上には確かに、俺の視界にはなかった細かいデータが表示されているようだ。

 ……ツッコミを入れているところまでバッチリじゃねーか。なんだその無駄に高性能な動画機能。結構俺とMYUは離れていただろうに、音声もバッチリ拾っている。それもGM権限か何か?


「……ナナホシ」

「にゅ……」


 俺が真っ白になっていると、ご主人に抱きかかえられた。そのまま視線を強引に合わせられる。

 思わず視線をそらそうとしたけど、がっちりホールドされてしまった。


「正直に答えてナナホシ。あなた、あたしがいない間にゲームやってた?」

「…………。……にゃあ」


 ここまでされて、否と答えられるはずもない。

 俺は観念して、しぶしぶ頷いた。


「ナナホシ、あんたって子は……」


 深いため息が俺の耳朶を打つ。俺の優雅なゲームライフも終わったか……短かったな……。


「ホント天才なのね!」

「……にゃ?」

「スタジオで見た時から思ってたけど、やっぱりナナホシすごいわ! あ、今度あたしとドラマ出てみる? 今度の役、ペットと同居してるのよ!」

「ええ……ウチが言うのもなんだけどカナちゃん、それは親バカがすぎるでしょ……」


 残念ながら、今回ばかりは俺もMYUに同意だぞご主人よ……。

 ただ、だからと言って喋れるはずもないので、俺には視線を泳がせるしかできないのだが。


「……まあそれは半分冗談だけどさ」


 つまり半分は本気ってことじゃねーか。


「よくわかんないけど、つまりナナホシは人間とまったく同じ思考ができるってことなのね?」

「と、思われるんだよ。心当たりはいっぱいあるでしょ?」

「まあ、ね。今日も掃除手伝ってもらったし」

「猫の手も借りたいと申したか」

「申したわ」


 はい申されました。


「……まあそんなわけで、ナナホシ君は観察対象者に指定されちゃったのね。あ、そんながっかりしないで」


 MYUの言葉にがっくりとうなだれる俺。

 それを見たMYUは、少し慌てた様子で両手をぴらぴらと振った。


「観察対象って言っても、別に何かするわけじゃないんだ。どっかの研究所に連れてったりとか、そういうこともないよ。

 ただ、フルダイブVRっていうシステムの中で動物が実際に・・・どういう風に動くかとかを……そだね、文字通り観察したいってだけらしいよ。ゲーム以外でも今後何かの役に立つかもしれないしね」

「……にうぅ?」

「それホントに? 解剖なんてことになったりしないでしょうね?」

「それについては信じてもらうしかないかなあ……。ウチも上司に言われただけだからさぁ」


 こういう場合、上役が真っ当に考えてるとは限らないのはフィクションのお約束だが……。


「わかったわ、あたしはミュウちゃんを信じる」


 即答ですか、ご主人。


「大丈夫よナナホシ。ミュウちゃんとあたしは固い友情で結ばれてるわ。仮にミュウちゃんが騙されてたとしても、いざって時は絶対味方してくれるわよ!」

「親友の信頼が重い件について」

「またまたぁ、嬉しいくせに」

「えへへ、まあね! と、まあそんなわけでナナホシ君。ウチを信じるカナちゃんを信じてあげてくんないかな? 絶対悪いようにはしないから。何かあっても助けるから!」


 銀河を天元突破するつもりなのか、彼女は。


 しかしまあ、なんというか本当に仲がいいんだなぁ、この二人。普通そんな簡単に誰かを……と思ったけど、そうだな。俺も前世、そういう無条件で信じられる友達が数人はいたな。

 今彼らは何をしているんだろう。いや、SNSで生活の一端は垣間見えるが。SWWにはまり込んでいて、直接なコンタクトは結局いまだにできていない。いい加減重い腰を上げるべき、だよな……。


 VR貯金をしていたあいつくらいは、そろそろプレイし始めていてもおかしくないだろうし……しばらくはそっち方面で少しがんばってみるか。


 ご主人が許すなら、だが。

 いずれにせよ、俺に選択肢なんてない。せっかく得た第二の人生まだ死にたくないし、かといって猫のままゲームを楽しめる今の生活も捨てたくないのだ。


「にぁーお」

「おっけー、いい返事だね!」


 俺が頷くのを見て、MYUはにっこりと笑った。その隣で、ご主人もにこにこしてる。


 不安がないわけじゃないが、今はこれでいいと思うしかあるまい。運営の思惑はわからないままだが、わからないことをあれこれ考えたところで仕方がない。何かあったらその時はその時だ。

 行き当たりばったりだと我ながら思うが、あいにくとこの性分は前世からのもの。バカは死ななきゃ治らないとは言うが、死んでも治らなかったのだからどうしようもない。


 そんなことを考えていると、


「では受け入れてくれたナナホシ君に、ウチら運営からプレゼントです」

「え?」

「にゃ?」


 いたずらを仕掛けた子供みたいな笑みを見せながら、MYUがタブレットを触っている。


 ……なんだ、今度は何をするつもりなんだ。嫌な予感しかしないぞ。


「なんと! ダイブカプセルをどどーんと進呈しちゃいます! ええい持ってけドロボー!」


 ばっと見せられた画面に表示されていたもの。

 それはよくあるフリーメールのメールボックスで、ダイブカプセルの発送手続き完了通知メールがアップで映し出されていた。


「……ええぇぇぇ!?」

「にゃああぁぁ!?」


 それを見た俺たち主従が声を上げたのは、言うまでもない。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


暴露と言いつつ、まだ隠していることはたくさんある罠。


念のため言っておくと、MYU自身は本当に裏切るつもりなんてみじんもないし、加奈子との関係もお互い本物です。ただ言えないだけなのです。

この辺りのことは感想でもちょくちょく考察や質問が来るので、次の話投稿したらちょっと予定を変えて運営側の描写も入れようかなと思ってるんですが、あったほうがいいですかね?

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― 新着の感想 ―
[一言] もう書かれてるかも知れないけど、少しは運営側の描写もあった方が、より物語に深みが出るかも。面白そうですしw
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