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12ねこ 彼女のネタばらし

 ボス戦はその後、実にあっさりと終わった。やはりMYUミュウによるバフが強すぎたんだろう。

 俺のSWW史上、こんなにあっさりと片付いた戦闘はザコ戦でもなかなかないんだが……なんだろう、釈然としないのは。


「魔法使いってなんぞよ!?」


 そして帰りの道中。いくらなんでもこれはもう辛抱ならぬとMYUに凸った俺は、彼女のネタばらしを聞いて今日何度目になるかわからないツッコミを入れた。


「あ、ちょっ、しーっしーっ、声が大きいですっ」

「ぉあ、す、すいません……でも俺の気持ちもわかるでしょう?」

「いやまー、それはそうなんですけどねぇ……」


 頬をかきながらたははと笑うMYU。俺はその肩で揺られながら、次に何を言えばいいのかわからなくて固まっていた。


 俺のリアルを知っているかもしれない人間にここまで接近するつもりは、当初なかったのだが。やはりそれだけあの光景は衝撃的すぎたのだ。

 おまけに、MYUと近づきたくないから他の人間に質問してもらおうとしたのに、誰もMYUの行動に疑問を抱いていなかった。


 やはり何かがおかしい。俺がチャージタイムのことを指摘してもなお、誰もそれを疑問に思わないのだから、何か良からぬことが起きているとしか思えない。

 具体的にはチートとか。仮にそうだとしたら、色んな意味で放っておくわけにはいかないじゃないか。


 そこで先の発言だ。ちょっとよくわからない。ツッコミを入れてしまったのも仕方ないだろう?


「この世界において、魔法と魔術って2種類の技があるのは知ってます?」

「え……あー、ああ、まあ……」


 とは答えたが、すまん見栄張った。

 なんだっけ、公式ページの世界観のところにそんなような話題があったような気はするんだが。確か魔術が一般的にプレイヤーが使っている、いわゆる魔法系スキルで、魔法はそれとは一線を画した超常現象……だったっけ?


 うむ……身バレを警戒して、ゲーム的な説明を求めなかったからだと思うけど、MYUの説明まだちょっとよくわからないな!


「ん。魔法の内訳は色々あるんですけど……ウチが主に使ってるのは魔術をタイムラグなしで放つっていう魔法でしてー。ゲーム的に言えばスキルオートモードをオフにしてる、ってことなんですけど……まあそれはキミに言ってもしょうがないか」

「お、おおう……あ、うん、後半はちょっとよくわからないけど……」


 思わず絶句しかけたが、とりあえず取り繕うことはできた……はず。よかった、このゲームにプレイヤーとNPCを見分ける手段がなくて!


 しかし……スキルオートモードと言えば、オフにしたら一切の技が使えなくなるという、存在意義のわからないコンフィグ要素じゃないか。

 ということは……何か特殊なフラグを立てないと、スキルオートモードは切っても意味がないように調整されてるってことか?


「他にも魔法使いになると自分の力量次第で色んなことができるようになるんですよー。たとえば、こうやって威力と推進力を抑えたりー」


 MYUはそう言いながら、ぴんと空に向けた人差し指の先に、小さな光の球を浮かべて見せた。【ホーリーショット】のそれによく似てるが、大きさも光度も段違いに小さい。おまけに、光の球がそこに留まり続けている。

 ……いや、それは確かに【ホーリーショット】なんだろう。つまりこれが、彼女が言う「色んなこと」なわけか。ゲーム的に言うと、計算式を都度弄って威力や規模を自由に変えられる、って解釈でいいのかな……。


 そうやって俺が目を丸くしていると、MYUは次いで他の四本の指も順次立てていく。


「……ラ・ゾ・ー・マ」


 同時に、一文字ずつ言いながら。それに応じて、それぞれの指先に先ほどと同じような光球が生まれていく。


 ……それ以上はいけない、並の人間がやったら寿命を縮めるぞ!

 って言いてえぇぇーーっ! でも言ったらプレイヤーってバレるしなー!


「なんちゃって。こういうスキルの複数同時発動もその『色んなこと』の一つってわけです。ある種のながら作業って言えばいいですかねー」


 そして彼女はそう締めくくると、にっこりと屈託なく笑った。と同時に、指先にあった光の球を一斉に握りしめてかき消す。


 想像が当たったのはいいが……いやいやいや、ながら作業だって? そんな簡単なものにはとてもじゃないが思えないんだが?


 そもそも、スキルを自力で発動するってのが誰にもできなくて、ある種話題になっていたはずなんだが?


 それに、彼女はどこでそんなフラグを立てたんだ? そんな話は掲示板はおろかネットのどこにもなかったと思うが……。


「……いやまあ、それはいいや。もっとおかしいことがありますよね。なんで周りの連中はMYUの……あ、いや、MYUさんのやってることを不思議がらないんです?」


 今もそうだ。俺とMYUが現在進行形で話をしているという点では気にされているものの、今まさに彼女がやってみせた技に対しては誰も反応していない。

 あのアカリですらそうなのだ。ちらちらとこっちを見てはいるが、あれはスキルのことで気にしてるというより、俺から引き離されて不安だからだろう。あるいは嫉妬……って、それはさすがに考えすぎか。


「それはもちろん、認識阻害のサポートスキルが自動発動してるからでーす」

「やっぱり何かしてたっ!?」


 その手の発言を、いつもにこにこしてるMYUがするとすごく黒く聞こえるな!


「ああ、そんな身構えないで。これは仕方ないんですよー、そう言う風に設定されてる……えーっと、そうしろって師匠たちからも言われてるんですもん」

「い、言われてる……?」

「そう。スキルオートモードオフ時のチュートリアルを受ける前に……じゃなくって、魔法使いの修行を受ける前に、絶対にそうするように言われてましてね?」

「……はあ!?」


 ますますわけがわからなくなってきたぞ!? なんでそんなことをする必要があるんだ!?


 っていうか、そんなチュートリアルが存在するんだ!? いつ!? どこで!?


「ですよねー、それが普通ですよねー。大丈夫、ちゃんと説明しまーす」


 あははと笑いながら、MYUが説明し始めた。


 それによると、どうやら魔法使いの修行ことスキルオートモードオフ時のチュートリアルは、特定の条件を満たしたプレイヤーにしか開示されないのだという。

 その条件はプレイ開始直後からやろうと思えば満たせるもので、受けるタイミングはシナリオの進行度合いとは関係ない。


 そしてチュートリアルを終えると同時に、スキルオートモードをオフにして技を発動させることを不思議に思わないように周囲が認識する阻害スキルが、別枠のサポートスキルとして自動付与される……と。

 ……回りくどい。エンドコンテンツの一種なんだろうが、そこまで徹底して隠さなくてもいいんじゃないのか。


 それに……。


「……状況は、まあ、大体把握した……しましたけど。じゃあ俺はなんでそれが効いてないんです?」

「答えは簡単、キミも魔法使いになれるだけの腕前に到達したから、でーす!」

「は!?」


 軽いノリで拍手しながらどんどんぱふぱふー、などと口で言うMYUに、俺は目を剥く。


「いや実はね、この修行を受けるための条件ってさ、認識阻害のスキルを無効にできるかどうかなんですよね。これがゲームに慣れてくると……あー、えっと、一定以上の実力を身に着けたら大体みんなできるようになるわけで。まあ基準はレベルとは別枠なんですけど」

「……は、ははあ……」


 よ、よくはわからないが、一応はわかった。

 仕組みはさっぱりわからんが、格ゲーで言うところのコマンド入力を覚えた、シューティングで言うところの弾幕パターンを覚えた、みたいな現象が俺に起きている……ってこと、だよ……な? キャラクターとしてのレベルが関わらないプレイヤーの実力というと、そういうたとえしか俺の貧相な頭では思いつかない。


「というわけで、条件を満たしたキミに朗報っ。どの街でもいいから、ギルドでこれを提出してくださーい」

「これって……」

《【魔法使い入門許可証】を入手しました》


 オフィス勤めのリーマンが着けている入場許可証みたいなプレートだった。よくわからない文字やら記号やらが掘り込まれてる辺りは、一応ファンタジーゲームっぽいが……。


「魔法使いってのは要するに、秘められた世界の叡智に迫った人のこと。だけどその分他の人よりとんでもない力を発揮できるから、世間からは徹底的に秘匿されてるんですねー。だからこんな回りくどい形になってるわけで。魔法使いの数は増やしたいんだけど、迂闊に情報を公開できないからー、って」

「はあ……」


 またベタな。でもそういうのはどっちかって言うと、現代舞台のローファンタジー系の鉄板じゃないのかね。魔法少女モノとか。


「そんなわけだから、この話は魔法使いじゃない人には言っちゃダメですからね? クラスのみんなには、ナイショだよ」

「その割に、随分とハッスルしていたみたいですが……」

「あは、バレました? いやこの辺りはさ、条件を満たしてるっぽい人が近くにいたら派手にやっていいって言われてるんですよ。注意を引いて、キミみたいに突っかかってくれるのを待ってたわけ」

「綱渡りにもほどがある! 慎重なのか軽率なのかどっちなんだよ!?」

「でもキミ、無事引っ掛かってくれましたよね?」

「うっ、い、いやそれは……まあ、確かにそうだ……ですが……」


 そう言われると思惑通りにほいほい行動したわけで、かなり悔しい。

 得意満面なMYUの顔が、それに拍車をかけてくれるぜ……。


「……ちなみに聞きますが。呼び込み? までしてるってことは、俺みたいに条件を満たしている相手がいたらバラしていいってことですか?」

「うん、それは大丈夫でーす。チュート……じゃないや、修行が終わって称号を手に入れてからなら話してもいいみたい。それで今ウチがやったみたいに、ギルドに誘導してほしいんです。そうやって魔法使いをひっそり増やしてるみたいで」

「あー、なるほど」


 そこで改めて許可証を見る。本当に回りくどいな……世界観とリンクするシステムって、多くの場合めんどくささが先立つ気がする……。


 って、待てよ。まさかタイトルの『Secret Wisdom Of the World』ってそういう意味か……!? 秘められた世界の叡智ってなんだよって思ってたけど……!


「イグザクトリー、その通りでございます」


 タイトルの意味を理解して静かに驚いていた俺は、MYUのその言葉にさらに驚いた。

 思わず顔を上げて彼女の顔を見る。と、そこにあったのは、まるでいたずらが成功した子供のような顔と、それでいて何かを見透かされているかのような目。


 おいおいおい、このゲームの魔法ってのは、相手の考えていることまでわかるのか?


 それとも……俺の正体に気づいてる?

 いやまさか、そんなことは。ご主人ならともかく、今の所リアルでMYUとの面識はないし……さすがにない……よな? ご主人が写真を見せている可能性はめちゃくちゃあるが……。


 い、いずれにせよ、これ以上関わるのはまずい気がする。アカリのところに戻ろう。いつもの彼女の肩に戻ろう。


「あー、その、なんというか。色々話、有難うございましたっ」

「んーん、いつでもウェルカムですよー。さよーならー!」


 内心で冷や汗をかきながら、どうにかMYUから離れる。特に追いかけられたりということもなくアカリの下へ戻れたが……俺はその後、クレセントの街に帰りつくまでずっと戦々恐々として過ごすことになった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


ゲーム中で魔法使いになると、称号をセットできる数が増えます。称号はステータスに補正をかけるので、単純にそれだけ強くなります。

他にも称号のセット数を増やすイベントはいくつかありますが、MYUはゲーム中のそのたぐいのイベントをすべて消化済です。

要するに認識阻害など一部はシステムですが、MYUの大ハッスルはほぼすべてプレイヤースキル。

つまり彼女は……。

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