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【ウメ種】勇者を辞めた勇者の物語  作者: ウメ種【N-Star】
第一章
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第十三話「異変1」


「ったく。なんで俺が子守りなんかしなくちゃいけないんだ」


 呟き、俺は隣を歩いている二人の子供へ聞こえるように溜息を吐いた。


 茶髪の少年、パム。その幼馴染みである赤毛の少女ベリド。

 二人は朝食を食べ終わった後に学校が休みだからと……まあ、暇だったらしく俺の家を訪ねてきて今に至る。


「いいじゃん。ちゃんと報酬も出すんだし」

「報酬って、昼飯を奢るってだけだろうが……まあ、暇だからいいけど」

「お昼ご飯釣られて私達の相手をしてくれるユウヤお兄ちゃん。私は好きですよ?」

「へーへー。そりゃあ嬉しいね」


 どこで覚えたのか、可愛らしくしなを作って言うベリドに適当な返事をすると、そんな反応が面白くなかったようで赤毛の少女はぷくっとほほを膨らませた。


 その表情のほうが子供っぽくて微笑ましかったので小さく声に出して笑ってしまうと、今度は拗ねてそっぽを向いてしまう。


 この年頃の子は扱いが難しいなあ、と。


 まだおねしょをしていた頃から知っているからか、どうにも子ども扱いしてしまう。二人にはそれが面白くないのかもしれない。


 そんなことを考えながら、あくびを一つ。

 涙の浮いた眼をこすって周囲を見回す。


 場所は王都の大通り。王都の中央にある王城へと繋がる一本の広い道だ。

 大通りの左右には大小様々な店が軒を連ね、空いた場所では露店が開かれている。

 売られているのは装飾品や質の悪い武具、そして新鮮な野菜たち。

 道の脇にある店舗では値の張る装飾品を初めとした王城お墨付きの質のいい商品を売る店舗。

 安物で済ませようと思うなら露店で、高級品が欲しいなら店舗で。


 まあ、そういう住み分けがされている。


 その露店に並んでいる商品を眺めているのは、茶髪を角刈りにしたパムと赤毛を無造作に伸ばしているベリド。近所の子供だ。


「今度、学校の授業で使う剣を選んでよ」

「お願い、お兄ちゃん」


 パムは特に気にした様子も無く、ベリドは小動物のように首を傾げながら上目遣いに俺を見ながら言ってくる。

 この辺りに二人の性格の違いが現れているなあ、と思いながらもう一度溜息。


「授業って、剣を使うのか?」

「剣でも槍でもいいけど、剣の方が格好良いから剣が良いな」

「私も」

「……格好良いからって」

「授業の準備で今日は学校が休みなんだけど、何を買えばいいのかわからなくて」

「自分の装備を選ぶのも勉強だー……って事らしいよ。先生が言うには」

「ふうん」


 まあ、間違ってはいない……のかな。

 この年頃の子供に武器の良し悪し、目利きなんて望むべくもないだろうけど。もしかしたら、自分に使える装備を揃える事が出来るか確かめるためだけの授業なのかもしれない。


「予算はいくらまで、とかはあるのか?」

「よさん?」

「……先生から武器は銀貨何枚までとか、親父さんから今月の小遣いはいくらだ、って言われてないのか?」

「ああ。使っていいお金?」

「なるだけ安いと嬉しいなあ。今月、まだ始まったばかりだし」

「俺に可愛く言っても、武器の値段なんざ変わらんけどな」

「……私、かわいかった?」


 変なところに食いついたな、こいつ。

 年頃だからなのか、ここ最近妙に色気づいたような気がするベリドへ視線を向ける。

 赤毛の少女は何かを期待するように俺を上目遣いに見つめていて――。


「いや、全然。いつも通りの、どこにでもいるフツーの顔をしているぞ」

「…………」

「ぷっ――あいたっ」


 笑ったパムが思いっきり脛を蹴られて悲鳴を上げた。

 そんな感じで子供達を揶揄っていると、露店を開いている中年の男性が俺の方を見てきた。


「値段の割にはいい品が揃っていると思いますが、どうですか?」


 愛想の良い笑顔を浮かべながら言ってくる。

 会話の内容が聞こえていたのか、露店に並んでいるのは剣と盾。それに革製の胸当てや手袋といった子供の小遣いでも何とか買えそうな値段の軽装備が置かれている。


 剣は数本、地面の上に敷いた布へ鞘へ納められたまま置かれ、その剣とセットで販売しているらしい盾がその隣に飾られている。

 鎧も同様だ。

 乱雑に置かれているけれど、県も鎧も綺麗に磨かれている。手入れはちゃんとされているのが一目でわかった。


「剣、ねえ」


 呟いて、パムとベリドの体格を見る。

 先日仕事を受けたジェシカと同じ十五歳。まだまだ子供……成長しきっていない体格だ。


 そんな二人が手に取ったのは、王都を守る兵士や騎士が腰に帯びているような長剣だった。

 標準的な大きさ、刃渡り一メートル近く、幅もそれなり。


 男のパムならともかく、女のベリドが持つには少し大きい。現に、ベリド派遣を両手に持っていても持ち慣れない重さに足元をふらつかせている。


「貸してみろ」


 ベリドが持っていた剣を手にして、周囲を歩く人たちに当たらないよう注意して軽く何度か振る。

 重い。

 体格が出来上がっている俺なら問題無いけれど、子供では剣に振り回されてしまう重さだ。


「お前達にはこっちの方が合ってるだろ」


 抜き身の長剣を店主へ返すと、露店に並んでいた一回り小振りな――刃渡り六十センチ程度の剣を手に取る。


「短いよ!?」

「どうせ重くて振れないだろうが」

「成長期なんだから、すぐ大きくなるって」

「ばーか。大きくなる前に死んだら意味がないだろ」


 パムの手からも長剣を取り上げて、二本の剣を渡す。


「格好良さとかいうのは、学校を卒業してからでいいんだよ。学校では、見栄えとかじゃなくて生き残り方を学ぶもんだ」

「うーん……確かにそうかも」

「でも、学校に来ていた友達は、皆が大きな剣を持っていたよ?」


 ベリドは納得したようだけど、パムは長剣に未練があるようだった。

 聞けば、あまり仲が良くない友達は事前に剣を用意していて、自慢されたらしい。それが長剣だったから、自分も負けない剣を――ということだ。


 なんとも子供だなあ、と。からからと笑うと、パムはむっとした顔になる。


「お前達と同い年だろ? どうせまともに振れやしないよ。授業で剣の使い方を教わるんなら、俺とその友達、どっちが正しいかすぐに分かるさ」


 別に、こいつらが怪我をしようが何しようがどうでもいい。こいつらの責任だ。

 怪我をしないように頑張るのは当然だが、怪我をして、痛みを知ってから学べることもある。

 けど、一応顔見知りなのだ。武器選びくらいは真面目にやっておく。

 ……死なれると目覚めが悪いし。


「短い……」


 渋々といった調子で俺が選んだ刀身が短い剣を手に取って、パムが呟く。


「だったら坊ちゃん、こっちはどうだい?」


 そう言って露天商の男性が差し出したのは、刀身が細い――刺突剣、レイピアだ。

 しかも、柄の部分には豪華な飾りが施されている。宝石のような物は付いていないけど、拳を囲むようにあるガード部分に掘られた細かな細工は綺麗なものだ。


「おおっ、これ格好良いっ!」

「銀貨三十五枚ですがね、どうですか旦那? 軽いですから、これならお子さんでも簡単に使えますよ」

「商売下手だな。レイピアなんて、重い長剣以上に扱いが難しいじゃねえか」


 刺突剣はその名の通り、突いて攻撃する武器だ。

 刀身は細く攻撃を受けるのには向いていないが、相手が防ぎづらいという一面もある。


 けれど、刀身が細いという事は軸がぶれ、狙った場所に検索を命中させることが非常に困難である。何より、強度が無い。


 こんな細い刀身では、魔物を一突きしただけで折れてしまう。


 地球でフェンシングという競技があったが、アレで使っているレイピアよりは実戦向きで刀身が太いとは言っても、使いこなすには剣以上の熟練が必要になる。


 とても子供……まだ学校に入ったばかりの二人に使いこなせるとは思えない。

 それに。


「コイツらは俺の子供じゃないし、なにより銀貨三十五枚なんて大金は持ち合わせてない」

「……相変わらず貧乏だなあ、ユウヤ兄ちゃん」

「カイショーなしだよね」

「あん?」


 そんな事を言う二人の頭に軽い拳骨を落として、短めの剣を二本買う。露天商の男性が、溜息を吐きながら商品を手渡した。


 そりゃあ、商人からしたら一番安い剣二本という成果では溜息ものなのだろう。


「ほら、貧乏人からの入学祝いだ。大切にしろよ」

「え?」

「いいの?」

「折角だからな。まあ、大人の見栄ってやつだ」


 しめて、銀貨四枚である。

 ……俺のへそくりからの出費だ。


「もっと体が大きくなったら、さっき買おうとした長剣を買って、この剣は予備にでもしたらいい」

「うわあ……うん。ありがと、に――」


 パムとベリドが俺へ礼を言おうとした時、遠くで――外壁の北門辺りから悲鳴が上がった。

 甲高い、女性の悲鳴だ。


「な、なに!?」

「お兄ちゃんっ」


 悲鳴を聞いて、パムとベリドに視線を向ける。怯えた表情で、服の裾を掴んでくる。

 数秒待つが、人が逃げてくる気配は無い。

 大通りに居る人達も、悲鳴に驚いて足を止めているが、混乱した様子もない。


「様子を見てくる。お前達はどっかの店に入ってろ――もしみんなが逃げだしたら、大人についていけ。いいな?」

「う、うん」


 本当は家まで送ってやりたかったけど、周りが慌てていないので特に問題無いだろうと判断。


「いいか。剣は抜くなよ――危なくなったら逃げろ」

「う、うんっ」

「わかったっ」


 二人の返事を聞いて、悲鳴が上がった方向へ走り出した。


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