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無職だけど異世界で旅がしたい  作者: 橘麒麟
預言者たち:滅びた王国
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「これが王国再興の策です」

西の果て、王国の地下室でラケルは旧友との邂逅を果たす。


この王都は滅ぼされたものの殺された者は確認されていない。奴隷になったか、もうどこかへ労働者として売り飛ばされているか。

それは分からないが、生きていることに希望を託せる。不景気の最中に貴重な労働力だから無闇には殺されまい。


国ごと労働者にする力も持ち合わせているのか…


恐ろしい、いよいよ闇社会の底力が計り知れない。世界制服でもするつもりなのだろうか。


ただ、一夜にして国を廃墟へと仕立て上げた少女。興味本位で会ってみたいという気持ちはある。どんな人だろう…

綺麗な人、美しい人、それとも大穴で可愛い人?

どんな人生を送ってきたのだろう。成り上り、それとも生粋のエリート。

闇の天才…とか、そんな肩書きだったらかっこいいな。


とも思うリリルアなのだが、ここでそんなワクワクを吐露してしまうと殺されかねない。ラケルもヴィンセントも、そいつのために故郷をなくしたのだ。


「とりあえずこの国が辿った道を今一度詳しく説明してくれ。まずはそこからだよ。」


ラケルが背丈の関係で見上げながら話しているのはヴィンセントという男。真っ赤なコートに真っ黒な、長い髪の毛。背中に長弓を背負っている。

リリルアの推測した通り王国が健在だった頃ラケルの警護を任されていた人間らしい。近衛兵団の団長ポジションだ。


ヴィンセントは神妙な顔つきで、経緯を詳細に至るまで長々と語りつくす。


「はい…もはや亜人の類が人身売買の問題に広く巻き込まれていることは、承知のことと思います。


世は不景気。


多くの国が鎖国状態になったとはいえ、労働力が枯渇しております。各地で貴重な資源である鉱石を採掘するドワーフの一族が反乱を起こしているのも周知の事実。

大体金絡みの問題を起こすのは人間です。


異種族による革命の火種は着々と育まれております。自治区に追いやられ、森の木々を納めるよう指示されているエルフの民の不満もいつ爆発してもおかしくない…近年木材の需要は急加速。彼らは森を何より大切にしていますから怒りは必然。


そんな者たちを救おうと考え立ったのが国王殿下。

異種族との共存を図り、広く、故郷や職を失った難民を受け入れておりました。その噂はたちまちに広まり、人口は王女さまが姿を消してから倍までに膨れ上がります。しかし、それに不満を持つ国は多くあります。そして闇社会の者も。


国王殿下の行ったことは、労働力の独占として諸国の目に映り、白羽の矢が立ってしまったのです。そして派遣されたのが裏の商会のエージェント。労働力の再分配がこれから行われるのでしょう。」


つまり要約すれば…


表面上鎖国しちゃったから給与、食糧払えず労働力消えてく

そんな労働者を雇う国王殿下

諸国が奪われた(?)労働者を取り返そうと思い立つ

大っぴらにすると体裁悪いので裏社会に委託

報酬として国は裏社会の手に入れた労働者を購入する契約


鎖国状態の国が多い中、汚れた金を綺麗にみせかけるのも容易か。

と、大雑把にこんなとこだろう。国が滅びるには結構複雑な事情があるなあ、くらいでいい。


まだヴィンセントの中で、国を滅ぼした少女がどんな人だったかとか。どういうふうに攻撃されたのか、ということは整理がついていないらしい。


明らさまに触れて欲しくない雰囲気が醸し出される。


「そうか…つまりもし王国民を取り返すことが可能だったとしても、今度は反逆者として虐殺されてもおかしくはない。と。八方ふさがりなのか…」


ラケルが拳を強く握りしめる。


しかし、自国を保護しなければならないということなら…


「でもないみたいですよ。」


リリルアが口を挟んだ。一つひらめいたことがある。


「…?と、申しますと?」


「何か案があるのかアリル!?しかし、何をしても結果は変わらないのでは…」


リリルアが笑って、ポケットから龍の声を録音したレコーダーを取り出す。ボタンを押す。


『妖精ども俺を見捨ててどうなるか知らんからな!!おい、誰かあるか!俺本当は飛べないんだぁぁ!?』


意外にすんなり役に立つものだな。


「それは…!」


「して、アリル。それをどうするんだ。」


ヴィンセントは龍の声が録音され、その実態が龍本人の声で暴露されていることに驚く。しかしラケル共々それが現在の問題とどう関わっているのか分かっていない。


「簡単です。龍の存在が絶対的で、歴史のどこを見てもそれに対する信仰心が揺らいだ記録はない。それほどまで世界にとって大きな存在の龍神族国家とその龍。あそこは世界から外れた場所です。

つまり、もし人々を取り返すことができたなら。これと、必要に迫られれば何がしかの古代技術を提供することで同盟関係。またはこの国を庇護下に置いてもらえるよう打診するんです。

この国は異民族の混在する理想郷、聖地となります。」


格好の古代技術があれば妖精たちの重労働ももしくは。そして、手出しできない異民族が多数生まれれば鎖国などとも言ってられない国家は必ず生まれる。


何か闇社会も龍神族と繋がっているとか…あずかり知らぬ奥の手がない限り、会心の一撃。


この録音は自国の防御と、闇社会の通貨(労働者/奴隷)を大きく停滞させる刃となる。


「ま、まずはどうやって国を滅ぼすほどのエージェントを持つ商会から。人々を取り返すかですけどね。」


「戦力では勝ち目がないな。潜入だよ。」


ラケルの飲み込みと、反応が早くて助かる。そうなるな。

なんとか商会に潜入し暗に国民の解放をまずすることだ。脱走劇さえ始まれば、その時点で同盟締結の宣言をすればいい。

ヴィンセントが未だ動けずに国にとどまっているあたり、滅亡から一週間経っていなくてもおかしくない。


国民はまだ捕虜の身、売り飛ばされていない可能性が高い。


次の問題は国民たちの場所。


「ヴィンセントさん、今国民たちがどこにいるか分かりますか?」


「あ、ああ…それならば商会と繋がり、国への攻撃を手引きした亜人をここに捕らえてあります。奴に聴きだすが一番かと。」


「アリル、行ってくれ。感極まって私はそいつを殺してしまうかもしれないんだ。」


ラケルがそっぽを向いた。


国家再建の光明が見えたとはいえ、彼女の中に沸き立つ怒りは決して消えない。

しかし潜入作戦を敢行するとなれば、行くのはこの国の残党であるヴィンセントかラケルに限られる。それまでにもう少し落ち着いてもらえればいいのだが…


リリルアはそっと頷き、ヴィンセントに地下の一室へ案内される。


重い鉄の扉に閉ざされた部屋に入ると亜人種独特の体臭と、それの作り出すジメジメとした空気が感じられる。亜人が跪き俯いたまま、手錠をかけられている。長い舌を出せないようにと、口枷までさせられていた。


体がボロボロだ。

ヴィンセントも重要な情報源と知っておきながら、怒りを抑えられなかったのだろう。


「ヴィンセントさん、出ていて。あなたがいると落ち着きません。聞けるものも聞けない。」


囁きかけると、室内は彼女と亜人の男だけになる。


リリルアが対峙する中、ヴィンセントとラケルが元いた部屋で話し始める。


「王女殿下、しかしあの方はどうしてここまでして…命すら落とすかもしれない戦いです。」


「アリルは優しい人だよ。そして自由すぎる…数億年前から転移してきた記憶を持つ人、だからこの世界に愛着が湧かない。私たちのように定住しないよ、彼女は自由に生きたいだけなんだ。」


「数億年前から!?それはどういったことで…!」


「さあ。けれど、それが彼女の運命だった。前世の記憶を持つような人間が、今の世界に現れるというのは必然かもしれないね。彼女の出現は世界の意思だ、世界が彼女の存在を望んでる。

呪われていた私を解放してくれた。空も飛ぶ、龍神族だって利用してやろうと考えてる。正真正銘の救世主なのだ。」


名前のない救世主。リリルアは自由気ままに、滅びた国を再興するため動き出す。

ラケルもヴィンセントも、会って間もない彼女に惹かれ始めていた。


奇想天外。


彼女ならどんなことだってやってのけてくれる気がする。


そんなふうな会話を亜人のいる部屋の中、リリルアは盗み聞きすることに成功してしまった。ものすごく照れくさい気持ちになっていたことは言うまでもない。

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