「西の果ては滅びた王国です」
ひょんなことから空中で龍を討伐したのはいいが、荒野の真ん中に不時着してしまった。ただ、人気のない荒野に落ちたことは幸いといえよう。
遠くにお城のようなものが見える。
けれど、幾らか前に滅びてしまった王国なのか廃墟と化している。
二人とも、笑い終わった後で静かになると、リリルアがラケルからもらった録音機を鳴らして見せた。
『妖精ども俺を見捨ててどうなるか知らんからな!!おい、誰かあるか!俺本当は飛べないんだぁぁ!?』
二人とも沈黙のまま。
リピート。
x2
『妖精ども俺を見捨ててどうなるか知らんからな!!おい、誰かあるか!俺本当は飛べないんだぁぁ!?』
ラケルが笑いをこらえ始める。リリルアは淡々とリピートボタンを押す。
x3
『妖精ども俺を見捨ててどうなるか知らんからな!!おい、誰かあるか!俺本当は飛べないんだぁぁ!?』
ラケルが吹き出した。リリルアも笑ってみせる。
「録音したんだ!きっと高く売れる、お前の望みどおりだね。」
「いや、売る気はないよ。これといった恨みがあるわけじゃないし。取ってはおくけどね。私だって知ってる、龍を拠り所にしてる人間がどれほどいるか。無闇に使えるものでもないよ。」
再生を止めると、ポンと録音機を高く宙にあげてキャッチして見せた。
笑い合う雰囲気から一転、神妙な顔をするリリルア。商人には切り替えが大事だ、そして雰囲気に流されないこと。
ラケルも頷きリリルアの考えに合わせる。
恐らく龍は自分の名目を守るため、「落とされた」ことは決して話さない。噂されたとしても、一商人と長らく国を離れていた王女に白羽の矢は立たないだろう。
つまり、面倒なことは起きないだろう。
リリルアたちの一人勝ちだ。
二人は飛行機から飛び降りる。
「しかしひどくやられたね。私の操縦がよくなかったかな、もう飛べないや、左翼が半分やられてる。」
「とりあえず保管しておこう。私が受け持つ。」
ラケルが持っていた魔石を輝かせ、機体が透明の液体になると瓶詰めにした。
「なにそれ?」
「保存の魔法だよ。物質は姿を変える、鉄の塊が液体にだってなる。魔力の供給源さえあれば…私は一般の魔法なら一通り使えるんだ。供給源がないと使えない。」
「どうして?」
「女性は特別な職の者以外…婚姻を結ぶと、主人に体内の魔力源を捧げることとなる。夫人は大抵魔法を使えないんだよ。」
実年齢が幼いとはいえラケルは王女だった身だ。この世界において結婚の年齢は定められていない。できないのは特定の異種間交際のみ。
リリルアは職業柄あまり魔法を見たことがなかったので、これは初耳となる。
とりあえず、機体は保存されたらしいので直してくれる人さえ見つかれば、また飛べる。それは嬉しいことだった。
機体が消えると、今まで目に止まらなかった看板が目に入った。
ーー西の果て
と、書いてある。
そうか、西へ行っていると思っていた時、龍に追い返されやってきたのが、結局西だったというわけだ。
ただここがラケルの言っていた国のある「西の果て」だったとすれば向こうに見える城の廃墟は…
「私の国だ…」
看板に目を向けた後、廃墟の方を向いて唖然とするラケルがいた。
荒野に閑散たる風が吹く。暖かいけれど草木は見えない、街が側にある土地の風には程遠い。
国が滅びる理由としては。
【違法取引の市場がここ数年で大幅に発展したため、他国のものを自国に取り入れることを頑なに拒んでいる国は多い。
裏で金を手に入れ、平民を働かせるのは容易だからだ。
例えば今のご時世、差別対象である亜人族の人間の集落を制裁と称して襲う。日照りや自然災害、流行病などあれば話が早い。濡れ衣を着せるのだ。
とらえられた亜人は裏の人身売買に回される。
上層部の後ろ盾に違法取引の類が貴重な収入源としてある事は決して否めず、それは市民も薄々街の雰囲気から感じ取れるものであろう。
しかし、一つのプロパガンダ。
「我が国の誇りを取り戻せ」
確かに自国を閉ざせば、自国の文化と経済基盤の発展は進む。全ての国がそうなることを可能にしたのが、国際的裏社会なのだ。
自国と裏の商会だけで安寧を得るに足りる、すべての国々は一つの不干渉条約を結んだ。国家間の交易は全て途絶える。
足りない食料など資源を回すのは全て裏の商会。ただ、商会も決して一つではないのでなんとかバランスを保っている。
そんな安心感と誇りを糧に生きているのは平民であり、それを支える上層部はその維持費を不当に入手していく。大体国家に属する場合、生活には困らない。
それがまず第一段階。異世界における不景気の大きな理由といえよう。小さな村や国は滅んでいく。
そして第二段階。
こんな中でも亜人を擁護する国は出てくる。ほぼ通貨同然に扱われる亜人などを匿えば、「金持ち」として見られてしまうのは必然。(ところで亜人の人口は異世界中、ドワーフなどの労働者階級に次いで随一)
また、亜人の集落を自国の領土内に持たない国家もある。そのため「亜人」という通貨を求め不安が募るのは当然。
もちろんその通貨が流通しないことには裏の商会も不満を抱く。
というわけで、国家の擁護活動を不満のある国家に流し、武器や資材の生産。戦争の大部分を闇のうちで受け持つのが裏の商会なのだ。
力があるとなれば、戦争は勃発する。あたかも自国の人間たちが人種差別の反対者。義勇軍であるかのように戦争は片付き、金は潤う。それが使われれば裏の商会も潤う。
そんなふうに、ウィンウィンの関係で裏社会と国家が繋がっているのである。
(とりあえずこれは人身売買を例に挙げた場合。他にも様々な形態の闇取引が世界にはびこっていることであろう。)】
なので、恐らくラケルの国は本当に亜人たちを匿おうと回った側…
ラケルが走り出した。滅びてしまった自国の真相を確かめるため。
リリルアも後を追う。
本当に本当に、寂しい風が荒野に吹く。