「龍神族のパーティです」
夜になってリリルアは龍のシュラに言われた通り、「ロディニア・フローレンシア」というこの国のトップがいる場所に来ている。
大きなお城。
夜になると街の中にある水路が月明かりを反射し城を照らす。そこは青白い光に包まれていた。
潮風になびく水辺の反射する光はゆら、ゆらと揺れる。
もちろん魔力で点灯する明かりも内部には見られたが城壁は全て幻想的な雰囲気をたたえる。まるでこのお城は水の中にあるようだ。
正門まで行くとここは国の正門と同じようにはいかず、二人の衛兵がリリルアを引き止める。長い鉄の槍がリリルアの眼前に突きつけられた。
「貴様、どういったものだ…?」
さすがは平和の国、すぐに捕縛されたり殺されたりはしない。心なしか衛兵の語り口も穏やかである。
「私はリリルア・ララルア。シュラという龍の紹介において馳せ参じております。」
「シュラ様の紹介で参ったものか。よい。」
「フローレンシア様がお待ちになっています、どうぞ旅の方。」
衛兵の話から、龍であるシュラも間抜けに見えながら国では一定の地位を占めていることがわかる。リリルアが城内へ入っていく、衛兵の一人が付き添いをするようだ。衛兵は重そうな鎧に体を包んでいる、顔も見えない。
衛兵に連れられ幾らか階段を登り、大広間に出るとそこでは盛大な宴が催されていた。様々な種族のものが踊り、また食事を楽しんでいる。
それを眺める王座などあるかと思ったがそれはどこにも見当たらない。
リリルアは抱える諸々の疑問を付き添いの衛兵に小声で尋ねることにした。
「フローレンシア様はどこにいらっしゃるのですか…?」
「あそこに。」
衛兵の指差した先には無邪気に魔物の子供と踊る若い女の姿。この町を象徴するかのような水色のレースをまとい、真っ白なタイツやシャツをその下に着ている。
魔物はリリルアが「キノコの森」で倒したことのある小鬼の種の子供だ。
魔物と踊るお姫様… この関係には驚くばかりだ。確かに街の人々のお母さんと称されるフローレンシアの優しさに頷ける。
「シュラは?」
「会場からすぐに出られるテラスにおられます。シュラ様はここへ入れない体格の持ち主ですから。」
衛兵がお辞儀をしてリリルアの元を離れていく。さすがに今すぐフローレンシアに話しかける勇気はないし、街の服屋で取り繕って正装をまとってきたもののまずシュラに会おう。こういう場の新参者にとって知り合いがいないとちょっと怖い。
なんとか人目につかぬようテラスへたどり着くことができた。幸いなことに、ここには誰もいない。顔をのぞかせているシュラがいる。
「シュラ!」
『おお、リリルア。来たか。どうだパーティは、うまいものもあるぞ。』
シュラはひたすらに大きな肉を貪っている。口の横から垂れる涎に、口元についた肉片。それはちょっと可愛かった。
パーティは確かに楽しそうでリリルアも参加したいものだが、ラケルらのタイムリミットのことを考えると悠長には構えていられない。どうやってフローレンシアに真面目な話を持ちかけられるか聞かなければならない。
「首尾は…?」
『ああ、そうだな。パーティは小一時間ほどですぐに終わる、だからお前も楽しむといい。ちゃんとその後面会の時間がある、お前と俺とフローレンシア様の三人でな。』
「先ほど地下街に裏の商会の手が伸びていると聞きました。この国大丈夫なの?」
『それは前々からの問題だ。表沙汰になれば警備隊が動くさ。』
リリルアが黒づくめの男に聞いた情報だ。それが真か偽か考えが至らないでいたが真だったのだと悟る。
そして「警備隊が動くさ」という発言。これには裏があるような気がする、例えばそこの長に裏の息がかかっているとか、ありえない話ではない。
とにかくシュトロハイム王国を庇護下においてもらえる協定を結べた後は、この国にとんぼ返りして内情を解決する手伝いをしなければならないかも知れぬ。そういう気がする。
ただ、今は「楽しんでいい」と聞いてリリルアの乙女心に火がつく。王宮のパーティ、目一杯楽しんでしまおう。その後のシュラの話は聞こうともせずに彼女はパーティ会場へと走って行った。
彼女の正装は淡い赤色のドレス。その裾がひらひらと風に舞っている。
魔法の明かりに照らされるパーティ会場へとリリルアは入っていった。




