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無職だけど異世界で旅がしたい  作者: 橘麒麟
創世記:序章
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Prologue

不景気。は、言う。「お前ら副業や経営、商売だけで金を儲けられると思っているだろうが金なんぞ所詮は紙切れ。じゃ、誰が本当の価値を作るんだい。そりゃ労働者だよ。貴様らなあ、全員労働しなくなったら誰が金の価値を、そもそも作るんだい。」

不景気。それすなわち労働力の枯渇である。


歴史…それは、分からない。生命の歴史は途轍もなく長いのだから。


ただ、歴史書は言う。「そういやー、昔労働者ばかりの国があってな。その国にだけ、世界が労働力の源泉を求めておったんよ。しかしそいつらが反乱を起こしおってなー、働かなくなった。金の価値は失墜。生産する、ちゅう過程のことを全く知らんかった経営者も飢えて死におった。人類の集団自殺、と言っても過言じゃないのお。」


人類、滅亡。幾億年も前のこと。


今や異世界にも、


労働者確保のため見過ごされる奴隷の存在。


開拓事業によって荒らされる異種族の住処。


革命の火種。


宗教観の崩落。


それらに関わり資金を集め、国を裏で支配する様々な商会の存在。人身売買、薬物取引、戦争、ありとあらゆる悪は人が生きるために行われる。


今日の温かい食事のため使う金は誰かの血によって渡ってきた寂しい対価だったかもしれない。


異世界も数億年前の例のごとく、腐っていた。


今。ここには異世界が広がる、魔法、獣人、亜人、エルフ。それらは懸命に生きようとして、懸命に滅ぼし合うのだった。

どうしてなのか、分からない。生命の歴史は途轍もなく長いのだから。



彼女はものを売る。


体は小さいが、自分の身の倍はあるだろう風呂敷を背負っている、いつも形が違うので何が入っているのかそれを背負ってどこへ行くのか、道行く人は噂する。


時には金まで賭けて、彼女の行く先を知ろうと楽しむ。

そういう魅力のある少女だった、どこからやって来たのかすら分からないが、行く先の反面それは語られることがないので誰にも目は当てられない。


砂漠を歩く、海を渡る、雪の吹きすさぶ高い山の尾根を越えて、果てには街を闊歩する。


いつ死んだっておかしくない道を進むものだから、町から町へと噂が彼女の足に先行した時には、皆驚く。


「ああ、どうしたってそんな道を歩くんだ。女の子の小さい足で…なあ俺はいくらここの街に来るって賭けたっけ?そうかそんなものか、それじゃあ!」


人々の噂には金欲が先行する。


たまには彼女が少女だからといって哀れみをかける人もいる、だけどお後は知れている。


彼女がたどり着く街は酔っ払いで溢れることがほとんどだ、だから彼女は良い商人だ。そういう商人だ、歩けば金が動く、だから彼女も儲かる。ただ彼女は依頼の品は自身で選別して、どんな貧相な村へも最上級の品を届けるので…結局懐は潤わない。


さあ、そんな商人なのだが。名前は誰も知らなかったし、前述の通りどこの土地を故郷と呼ぶのか、知る人はさっぱりいなかったけれども、どんな町を歩こうにもその商人、生まれ故郷を歩くような足取りで歩いて


「私はここに帰ってきたかったんだ。やっとだ。」


そんな目をして商売をする。それも街に溶け込んでそれが人々を金蔓にするとは誰も思わなんだが、我に帰ると思う人がある。


彼女が町から旅立つ時、こいつはやられたと思い驚くのだ。彼女が作り出した雰囲気に金を払ってしまったなと。


「しかしその足取りと目、どこで名付けられるものか。」


一つここで特筆しておこう、彼女が目を引くのは足取りでも目でもない、こいつだけはどこの町の人もハッとさせられたそうな。


その髪型だ。それはちりちりカラッとした赤っぽい栗毛の混じるちぢれ模様。それに理由の付けようはないけれど、


誰も遠い故郷と家族を思い出した。そう聞く…


例え故郷の消えようとも、家族を痛く憎もうとも、だ。


それは風になびくような長さがあったわけではないが、ボロいローブのフードを取ると垣間見えるそれが、人の気に入った。


(というわけで著名な詩人が彼女を名付けようと試みた、これは自然なことと言えよう。そいつは虚ろな目をしてこう言った。

「ふと、はた、ほと」

そうして彼女を今は皆こう呼ぶ、小さな露天商


「リリルア・ララルア」


彼女を歌いたい…)



これは昔のはなし、リリルア・ララルアは歩けば儲かる商人。


だった。


しかし腐りきった世界の社会情勢は彼女が商人でいることを許してくれず、今や遠い北国で寂しく生きる。


今や彼女の生活は支離滅裂、自暴自棄。もう旅に出る気力もなく、資金は生み出せない。彼女は暗い、借りアパートの一室でウィスキーの小瓶を一口に飲み干すと壁に投げつけた。


「くだらない…くだらない!」


と、言ってばかり。小刻みにしゃっくりをする彼女はくだらない、と無為に呟き続け、俯き続ける。


「お腹、空いたな…パン、買えるかな…」


彼女は千鳥足で歩き、床に投げ捨ててあった小さな財布をさぐった。中からは小さな銅貨が四つだけ出てきた。寒いこの国でカチコチに固まった小さなパン二個分である。

もう、リリルアの有り金は底をつき、生活すらままらないところまで追い詰められている。


けれど、働きたくない。人と会うのは怖いし、特にこの国で体を動かすのは辛い。


とりあえず、外へ出てパンを買ってくることにした。生きるためには外へ出ていかなければ。相変わらずフラフラと、外へ繰り出して行く。


もう商人なんてやっていられない!と、リリルアは思う。

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