全ては二人の少女の刀語りから始まった
裏世界最大の組織「ディシプリン」に招かれた志木まもりは、剣道で培った実力が裏世界の実戦に通用するかは未知数だった。その為、力試しが必要である。組織の決闘興行を力試しとして用いる運びになり、その相手には組織の兵隊の一員・小鳥が選ばれた。小鳥は元剣道家で現・居合の使い手であり、まもりにとっては生き別れの幼馴染である。大変、因縁の深い人物であった。
→剣道対居合の異種試合を通し、二人の因縁はどこへ向かっていくのであろうか!?
《登場人物》
・志木まもり
『光速突きの志木』の異名を持つ手練の剣道家、名誉錬士五段。範士八段の剣士を祖父として師として持ち、物心つく前から竹刀を握ってきた。また、父がオリンピック出場経験を持つ柔道家で、まもりは幾らかその才能も受け継いでいる。柔道も国体出場経験ありの実力者で、彼女はいわば柔剣両道を実践している天才である。
・小鳥
小学生の頃に契約して能力者になるが、その直後、能力者を狙った人さらいにあって中東の紛争地域に売り払われる。十年近くゲリラで活躍していたが、ディシプリンがゲリラを統合したため組織入り。そこから得た縁で組織の幹部である三間五木に居合術を習い始める。
・三間五木
小鳥の上司であり、居合術の師匠。まもりには何の怨みはないが、弟子のために負けてもらいたいと思っている。
・ディツェムベル・ツァディーギメル
興行の管理を担当している。まだ正式な組織員でないまもりを預かっている立場にあるが、まもりのことをよく思っていない。
・その他
小鳥派の観客 = 坪谷逍遥 , 梶原アラン
中立の観客 = 上島雄飛 , チャン・メイ
まもり派の観客 = 存在なし
興行主 = ディシプリンの長 , 長の息子
《テレビ電話~VIPルームZ-1からVIPルームM-1へ》
日本人の若い女が二人、映像と音声を介して交信していた。
両者間に緊張はなく、だらけた雰囲気である。中華風の民族服を着た方はつまらなそうに頬杖ついて時たまため息つくし、ゴスロリ調のドレスを着た方は足を楽にして机にのっけている。とりわけ何について語っているという訳でもないようで、会話の途切れ途切れに自分の言いたいことを一方的に言って、話題は二転三転して無理くり話は続いていた。
いつしか中華風の方が、時計を七回くらいちらちら見たあと、試合の時間も迫ってるからと決闘者のことを話題に出す。
逍遥「小鳥が勝てるのか不安になる…。ならない?」
アラン「キミ、まもりちゃんの肩持ってなかったっけ?」
逍遥「小鳥のほうが付き合い長いし悪いやつじゃないしでよくよく考えたら心配になってきた。小鳥はまもりに勝ってほしいな」
アラン「小鳥ちゃんが同じ階級っていじりにくない? 決闘の勝敗次第じゃ小鳥ちゃん昇進だよ」
逍遥「確かに。昇進したらあたいらに見直されるとか思ってそう」
アラン「ないない。あんな性格だしともかく弱いし…」
逍遥「まもりに苦戦するのだろうとは思うけど… それでも体術はコード持ちの上位いけちゃうでしょ」
アラン「体術のみだからこそ小鳥ちゃんはただの兵隊のまんまがいいと思うな。小鳥ちゃんのためにも。偉ぶって失敗するのが目に見えてるしね」
逍遥「それはわかる…」
アラン「小鳥ちゃんだし負けちゃってもどうでもいいでしょ、ぶっちゃけ」
逍遥「………」
アラン「まもりは宿敵らしいから、小鳥ちゃん、勝って晴れ晴れしてくれちゃったらよかったね…っては思うんだけれども」
逍遥「事故ってまもり殺してくれたらお前さん得だしねー…」
アラン「殺す気でいかないと勝てないでしょ」
逍遥「事故でもなんでもそりゃそうか」
アラン「…ねぇ。賭けしない? ボク、まもりちゃんに賭けるから」
逍遥「あんたこそ小鳥に戦い方指導したんでしょ?」
アラン「指導したからこそさ…。小鳥ちゃんじゃ負けちゃうと思う」
逍遥「ひどいな、あんた。あたいでさえ小鳥を信じてるのにさ」
アラン「とかいっちゃって嫌がってるでしょ?」
逍遥「計算だけで考えたら不利かなって思う。確率だけで考えたら」
アラン「ちょっとした遊びなんだからさ?」
ーーー
《西陣控室》
壮年の女が見守る傍ら、能力者の少女が刀を出現させ腰に差した。まだ帯に差しただけで、少女は下げ緒を手に持て余している――長さが通常の倍以上はあった――異様である。壮年の女は、何か考えがあってのことだろうかと弟子の戦いぶりに期待をかけることにした。
弟子の名は小鳥。林崎真伝流の剣術を一年足らずだが教えこんだ者で、今から剣道家と真剣で決闘をする。その前に、彼女とその師・三間五木は控室で決闘の準備をしていたのであった。
師は弟子の準備をただただ見守っていた。小鳥は背丈はあるものの肌は白く、髪もまっさらで、かえって室内では幽々たる感じがあり、いつもより暗い雰囲気があった。師は弟子を心配している。ときおり小鳥が見つめ返し、アルビノの特有の瞳を伺えるが、今日は血の透き通ったようなピンク色をしており弱々しくも感じられた。
念入りに下げ緒を結び、小鳥は刀を差し終えた。下げ緒は鞘と着物の帯に結ばれても地面に垂れていた。長過ぎる気がしないでもない。小鳥は腰帯に巻きつけて邪魔にならないようにするが、不恰好でごちゃごちゃしていて無理が感じられる。この決闘に臨む彼女の心情が吐露されているのであろうか。
―小鳥は刀に小柄を差すと五木に頷きかける。準備は整ったようだ。
五木「無理すんじゃないぞ」
小鳥「うん…」
五木「わかってんのか。相手はあの志木まもりだ」
小鳥「マスコットを預かっていてもらうルールですよ。無理したって死んだって大丈夫です」
五木「勝負は五分ってとこだぞ」
小鳥「ええ。わかってます」
五木「わかってんのか。長引かせれば持久力の低いこちらが不利だぞ」
小鳥「相手も無理してもらわないと勝ったことにならないですよ。魔力が尽きるくらい無理しないと」
五木「因縁のライバルなのだろうが、相手が才女といわれた剣道家なのには変わりない」
小鳥「………」
五木「まともに正面から切り合う場面が訪れればお前の負けがその時点で確定する」
小鳥「こちらがいくら切ったって回復をされれば勝ち目はないです。時間をかけ着実に相手を浪費させていくしかない」
五木「あんたにはあるだろう、必殺の魔法が」
小鳥「しかし…。警戒されて当たるとは―」
五木「当てさせるのがお前の習ってきたことだろ」
小鳥「それは…わかってますが…相手はその才女です…」
五木「………」
小鳥「…。あ、あの……」
五木「いいよ、もうこの話は。私が因縁に口出す気はないからな」すっ
五木、竹刀を差し出す。
小鳥「あ…」
五木「用意できた。上手く使えよ」
小鳥「…ありがとうございます」にや
五木「ともかく頑張れよ。な?」
ーーー
《東陣控室》
決闘者の一人、志木まもりは刀を出現させるなり腰に差した。これで準備は終了である。剣道家である彼女には一振りあるだけで充分だし、一振りのみというのは刀に己の全てを預けているようで様で気風が良い。安直に準備を済ませたが、まもりは戦いに対する意欲なら小鳥はおろか誰にも負けないと自負している。
そんな彼女は一人だった。彼女は剣道という表舞台から、真剣による戦いを求めて、裏の組織へと身を移した。彼女はこの世界では一人であった。だから、組織の行う興行決闘の控室には一人でいる。
一人の剣士が一振りの刀と決闘に臨む――彼女の自負は、彼女の気高い精神は、そんなところに表れるのだった。彼女は身にしみた竹刀の感触、忘れられぬ剣友達の上げる声、馴染んだ防具による高揚感などを脳裏に浮かべ、一振りの刀と共に士気を高めるのであった。
コン、コン、っと――扉が叩かれた。
まもりが開けると、アラブ系の女が部屋に上がり込んでくる。椅子に座るなり「マスコットを預かりに来ただけよ」と彼女は答えた。何やら大きな荷物を携えているのがまもりは気になった。
まもり「マスコット、あなたに預けるのは不安ね。何をされるかわかったもんじゃない」
ディツェン「気が合うのね。私もあなたを信頼してないから」
まもり「とはいえ預けないのは決闘のルールに違反するか」
ディツェン「ルール以前に私は組織の幹部なのよ。私を信頼しないのは組織を信頼してないと取られても致し方ないでしょうね」
まもり「じゃ、預けるわ。組織を信頼してね」すっ
まもりは首輪のようなものを渡す。これがマスコットであった。
能力者は激しい戦闘に体が耐えられるように魂をマスコットというものに移している。マスコットが無事なら魂が無事であり、例え体が死んだとしても、生き返らせるのが可能である。マスコットは命そのものだ。マスコットを壊せば完全な死が訪れてしまうため、マスコットは大事に扱わねばならない。
ディツェンは受取るが帰る様子はない。わざわざ椅子に陣取ったからには話があるのである。
ディツェン「私、あなたのことを認めてない」
まもり(しつこい女だ…)
まもり「評価によってはあなたと同じコード持ちになれるのだったかしら?」
ディツェン「そう。上の者の印象が良ければあなたはコードを貰える。幹部の務まる人材だと認められるわ」
まもり「それを認める人物である組織の長に、忠誠を誓ってるあなたも私を認めざるを得ない訳か…?」
ディツェン「しつこいようだけどまだ認めてないわ」
まもり「まだといっても直にそうなるわよ」
ディツェン「小鳥は粘るよ。あの子はあなたを倒すという夢を叶えるためにずっと生き延びてきた」
まもり「で、やっとチャンスが到来ってわけか。それで…。意気込みはすごいのね」うふふっ
ディツェン「…小鳥は策を立ててあるそうよ。あなたはそれに手こずって、失態をおかしてしまうかもしれないわね」
まもり「ふーん。で? 策なんてそんなもの、いざ戦いになれば実力ありきよ。策があるだけでどうにもならないわ。見当外れもいいところよ、あなた」
ディツェン「小鳥には『必殺』の魔法がある――あなたも知ってるわよね。小鳥は抜き切りの一刀に限られるがどんな物質も両断できる。あなた、まともに食らったら即死でしょ?」
まもり「即死なら私を殺せるかもしれないわね」
ディツェン「そうよ。あなたは殺されるのよ」
まもり「小鳥がその魔法を持つに対し、私は『回復』の魔法を持っている。即死ならその回復が出来ずに死んでしまうってわけね。…あなたが言いたいのは」
ディツェン「そうよ。あなたにとって小鳥の魔法は天敵だ。あなたは圧倒的に相性の――」
まもり「勝負が魔法で決まると思うのは、強い魔法に胡座をかいてきたあなたらしい考えね」ふっ
ディツェン「そうね。否定はしないけど。あなたぐらいなら息をつく暇もなく消し炭に出来るのをお忘れにならないでね。幹部たちにはあなたじゃ太刀打ちすら出来ない魔法の使い手がうじゃうじゃいる。あまり調子にのってるとそのうち痛い目見るわよ」
まもり「小鳥の話じゃないかしら。幹部がどうのって、えらい論点ずらしね。それとも、それともだけど、気に障ったかしら?」
ディツェン「そうね、それたわ。話を戻しましょう」
まもり「ええ…ふふっ」
ディツェン「小鳥は五木の元で修行をしてきた。小鳥にはそれなりの実力があるのはわかって。彼女は弱さにかまけて策を打つのではなく、そんな意味のないの誤魔化しではなく、実力ありきで策を練っているわ。あなたでもいつの間にか引っかかってしまっていてもおかしくはない」
まもり「私はそもそも必殺に無警戒じゃないし、必殺に対して、策を私も練ってるのよ。小鳥から昔、居合は八方のどれかに切ると聞いている。私は小鳥の居合がわかっているのよ」
ディツェン「…それで?」
まもり「剣道で鍛えられた私なら八方を特定して、刀を抜く前に小手を切ることも可能なのよ。抜かせなければ必殺は発動できないし、小手を抑えたなら例え抜かれても避けることは容易く当たらない」
ディツェン「小手を先にとるってことか。小手先って感じね」ふっ
まもり「そうよ。『小手先』って名付けてる。実力者の私が小手先で弄すだけで小鳥の必殺は無ざまに完封されるのよ」
ディツェン「はぁ…呆れたわ。ほんと何もわかってない人ね」にやにや
まもり「きっしょ…。勝手に心配して勝手にキレて勝手に呆れるってどんだけ自己肯定感が強いのよ。小鳥みたいな根暗の肩を持つのも納得ですわ」
ディツェン「もういいわよ、小鳥の話は。あなたと話してても――」
まもり「いやいや。ほんときっしょいわって我慢ならないわね。こんなのに絡まれてる小鳥がかわいそうだわ」にやにや
ディツェン「………」がさごそ
まもり「というかそんなに私に脅しかけるって…。本心ではどんだけ小鳥を下に見てるのよ。わらっちゃうわ」にやにや
ディツェン、無視して荷物を漁りはじめる。
まもり「それとも逆に、私の実力をひどく高く買いかぶっていらっしゃってる?」ははっ
ディツェン「……。ま、そうかもしれないわね。チャンバラなら瞬殺だろうし…」すっ
ディツェン、竹刀を差し出す。
まもり「…?? なんだそれ」きょとん
ディツェン「そろそろ時間が迫ってるし早めに渡しておくわ。これ、上の者が。使いたいなら使えって」
まもり(ああ。私と小鳥が幼馴染の剣友だって伝わってたか。それで竹刀を私達に渡すのが一興だと…)
ディツェン「時間もないしさっさと受け取りなさいよ」
まもり「めんどくさい…」
ディツェン「絶対使えってわけじゃない。冷やかし程度よ」
まもり「何? 持たなくていいの?」
ディツェン「私達は武器も魔法もありの殺し合いが見たい。もちろん竹刀もありって訳用意した」
まもり「真剣勝負に竹刀ってのはないでしょ。…ああ、だから冷やかしか…」
ディツェン「個人的には、激しいのを頼みたい。がんがん互いに振って振って刃が無数にきらめいてるのをね」
まもり「なんだ。あなた達は観客として楽しみたいのか」
ディツェン「冷やかしにも乗ってね。これも評価に繋がるわよ?」
まもり「はいはい。精々、楽しめばいいわ」
ディツェン「精々、楽しませてちょいだいね。つまんないから瞬殺だけはやめてね?」にや
ーーー
《テレビ電話》
二人の話題は――まだ賭け事についてで――続いていた。
逍遥「あたいに喧嘩負けたからってね…あんた必死。どのくらい賭けるの?」
アラン「負けた方が負けた人の控室におちょくりに行く罰ゲームね」
逍遥「金とかじゃないん?」
アラン「金なんてあってないようなもんだしつまらないじゃん」
逍遥「みまっちみたいに全財産賭けたらスリルあるだろ」
アラン「で、また喧嘩する? キミとボクでまたもめちゃって」
逍遥「たしかに。喧嘩の種作っちゃうとあたいとあんたじゃ面倒くさいからなぁ」
アラン「あの子達相手なら喧嘩になっても楽勝だし大丈夫でしょー?」
逍遥「小鳥かまもりが私達の都合(=賭け事)で嫌な思いすることになるけどどうでもいいな」
アラン「ってことで、まもりちゃんが負けたらボクがまもりちゃんに喧嘩売ってくるよ」
逍遥「あたいも負けたら、負けた腹いせに小鳥をバカにしまくればいいのか。そうしてストレス解消っと…」
アラン「うん。そーいうこと」
ーーー
〈VIPルームL-1〉
観戦者の一人は、幹部に対する決闘に備えて偵察に来ていた。
チャン(あの五木の弟子のデビュー戦だから見といて損はないだろう。三間五木の技や勢力が知れる)
ーーー
〈組織の長の部屋〉
組織の長はアラブの小国の出身で彫の深い顔をしている。年齢は五十に差し掛かるくらいだが衰えた様子はない。野心溢れる澄んだ瞳は暗いスクリーンを見つめていた。
また、部屋には彼の息子もいた。ソファの傍らにいる。彼は決闘という興行をいつも楽しみにしていた。
長の息子「親父、はじまるぜ」
組織の長「………そうか」
彼らは小鳥が幹部の務まる人材であるか見極めねばならない。
ーーー
〈VIPルームQ-1〉
ディツェンベル・ツァディーギメルは、興行の運営や試合の審判を長から任されていた。そのため、見ている義務があった。
ディツェン「幹部席は六つにその他百余り、集客はまずまずってとこね。いつもよりは注目されている」
ーーー
部屋のそれぞれにはテレビが設えてあり、そこから決闘を見れるようになっている。
長の息子「あっ。入場してきましたよ」
先に小鳥が現れた。日の下にぬっと現れた白い肌は目立つが、それ以上に髪の輝きが目に入った。人々は小鳥の体質に弱々しさを感じたものの、月が時に強い光を放つような底知れぬ・禍々しい力を感じていた。
続いて入場する志木まもりは、茶色に髪を染めただけの至って普通の日本人である。日の光の下にいても輝きはしない。が、こいつは小鳥より強いと思われた。体格が比べ物にならない。背丈は小鳥が勝っているが、それを覆すくらいに全てが太かった。小鳥が華奢なのかと錯覚するほどだ。
長の息子(小鳥は決して華奢ではないが…。さすがにこれは、まもりは…いたちが野犬に挑むもんだろ)
ついには小鳥が弱いとまで手の平を返す者もいた。小鳥は輝くが所詮は見せかけである。月は日の光を借りた見せかけの光を反射するだけで、決して輝かない。力を持つまもりこそ日のように光を持つ本物だと。
そんな印象を一方的に思う観客らに物申すかのように、魔法式カメラを小鳥が睨んだ時、観客の中の数人が息を飲んで固まる。
おかっぱ髪の下、瞳が赤く輝いていた。まさに月が一層禍々しい、あの赤の色に輝いていた。
ーーー
〈VIPルームU-1〉
観戦者の一人は決闘行為への知的な興味から見ている。
雄飛(二人とも、竹刀を持っているな。…何でだ?)
ーーー
竹刀を互いに持ち込むのは長でさえも聞いていなかった。
組織の長「竹刀のことは聞いていないな」
長の息子「殺し合う前に前座で剣道とやらを見せてくれるんだろう」
ーーー
《闘技場》
決闘場は野ざらしの地面に円形の塀を囲んだだけのものである。広さは野球のグラウンド程で、塀の高さは十メートルを越していてたやすく越えられるものではない。塀そのものの強度も、魔法で補っているために突破できるような代物ではない。魔法のちからを持った能力者が公正に戦うのにはよい舞台であった。
その舞台の中央で両者は睨み合っている。
互いに刀は抜いていない。竹刀があるからだ。
小鳥「こんなもんが支給されたがこんなもんいらないだろ。私たちは剣道で決着をつける気はない」
まもり「そりゃそうね。私の圧勝じゃつまらないもの」
まもり、地面に竹刀をそっと置く。
小鳥(剣道家は竹刀が大好きだもんな。私たちはじぃちゃんに大切にするよう習ったもんな)
まもりの実家にあった道場の匂いを思い出す。
小鳥「……にや」
まもり「…? ガキの頃だけれど、あなた、私に負けまくってたしどうせ今もそうでしょ。手加減してあげる」
小鳥(じゃあなんで剣道で礼する間合いで突っ立ってるんだ)
小鳥、くっくっと笑う。
小鳥「剣道で戦っても構わないよ。が、手加減するなってうるさい癖に自分のことは棚にあげるのか?」すたすたすた
まもり「なら、私は加減なしで戦う。あなたの剣道じゃ満足できない。剣道でない攻めを受けてみたいとも思ってる」すたすたすた
小鳥(いうねぇ。そう構ってる癖に。始めの合図で始まるんじゃないんだぞ)にやにや
小鳥「剣道をとったらお前に何が残るんだよ」
まもり「柔剣と柔道の経験」
小鳥「まともに剣術をやったことがないのにいばるのかよ」
まもり「剣術は剣道がある。あなたこそ取っ組み合いどうするの」
小鳥「五木から柔術も習ってるしアランから付け焼き刃程度には教えてもらった」
まもり「あなた、寝技ザコじゃない。勝てるわけないでしょ」
小鳥「勝てるよ」
まもり「あなた、ガキの頃、私に遊ばれたの覚えてないの?」
小鳥「小さい頃から柔道やってたお前には分が悪いかもな。でもな。私には居合がある」
まもり「ふーん。居合ねぇ…」
小鳥「ともかくお前の挑戦は受けてやるよ」すっ
まもり(あら。まさかこいつ投げ捨てる気か。竹刀を乱暴にするのね…)
小鳥(私が視線を外してぶっきらぼうに投げるなら、お前の性格ならより竹刀を注視するよな)ひょい
まもり(剣道を捨てたってアピールしたいのかしら。素直じゃないんだから)ちら
小鳥(賽を投げる感じに落とすのがコツだ。竹刀にアクシデントを起こせ)
〈とん…〉
まもり「あっ! あなたの竹刀が地面に垂直にたって――」
何か細工をしたのか、落ちた竹刀が倒れずに真っ直ぐ立っていた。
ーーー
〜回想〜
《アランからの指導》
小鳥は、球心流の梶原アランから、一ヶ月ばかり、対柔道の柔術を習っていた。その時の会話である。
小鳥『タックル?』
アラン『うん。タックルなら柔道に勝てる』
小鳥『柔剣での経験もある。タックルは防がる』
アラン『むしろタックルは防いでくれないと決まらない技』
小鳥『??』
アラン『梶原家伝の技なんだけど志木は知らない』
小鳥『まもりが柔剣という団体に所属していたのは知ってますよね?』
アラン『あんなのお遊びでしょ。レベルの低い総合格闘技だよ』
小鳥『武道をやってた人間だけを参加させた総合ルールが柔剣というわけです』
アラン『だからレベル低いし、タックルは使えるでしょって』
小鳥『柔剣はさまざまな武術が入り乱れています。だから、『似たもの』があるのでは?』
アラン『それはねぇ…ないよ。その柔剣はルールで守られてる。この技は使えない。似たものがタックルであって、この技は柔剣じゃつかえないんだよ』
小鳥『タックルと見せかけるのですか?』
アラン『そういう使い方もね。まもりちゃん、足取りやタックルが禁止の柔道しかやれなかったろうし、総合でタックルを覚えただろうから防いでくる。そうしてタックル防いだら、割りと引っ掛かるんだよ』
小鳥『志木に効くのですね』
アラン『つっても、小鳥ちゃん覚えられるくらい簡単だし、まもりちゃんなら一回食らったらもう対処できるんじゃないかな。タックルとは別にも、近い技は柔道にも総合にもあるから尚更さあ』
小鳥『本当に大丈夫なのですか?』
アラン『うん。素人でも習得でき、決まれば素人でも達人を倒せる技。実際、戦後の厳しい時代、ステゴロで流行っていた。実戦によるお墨付きの技だよ』
小鳥『……えっと。…その技とは?』
アラン『卜辻』
ーーー
小鳥は会話の最中に確認をしていた。まもりが竹刀では物足りないと言った後、刀を抜かずに会話を続けたのは小鳥が柔のことを話題に出したからである。この反応を確認したのであった。
つまりは、まもりは素手なら勝てると油断している。
そこへ小鳥は「私には居合がある」と罠を張った。口だけではない。竹刀をまだ持ちながら言ったのである。事前に必殺のことで脅されていたのもあり、まもりは鵜呑みにした。
その直後、小鳥は竹刀を放り投げたのである。
剣道で試合を始めるごく近い間合いで二人は素手で立つ状況――まもりは剣道対居合となると思い込んでいた。まもりは竹刀に気を取られ―竹刀の異変にも気をとられ―緩慢な動きで刀に手をかけようとしていた。
まもりは必殺だけを警戒し素手はないと油断している。小鳥の方は刀に手をかける訳ではなく、素手で、まもりの腰に肩から体当りした。
まもりには竹刀と刀しか見えていなかった。
ここから柔術の指導が生きてくる。
アラン曰く、柔剣という企画に参加していた際にまもりが得たものを警戒すればいい。柔剣の経験の裏をかくのもその場限りなら有効だった。
――柔剣は安全面への配慮から掌底を禁止している。
小鳥(今なら当てられる…!)
まもり「――垂直にたってるわ。見て。あなたのが勃ってる。………!?」
まもりが竹刀へ目を離した一瞬に小鳥は間をつめていた。
小鳥「卜…」がしっ
小鳥は朽木倒しのように左手で相手の腿を掴み、
まもり(油断したッ!! 私にタックル?!! まずは捕まえて――)
小鳥は右の掌底を顔面へとつきあげた。
小鳥「辻…」どかっ
まもり「ぐふっ」ふわっ
小鳥「卜辻…」残心
まもり「つッ」ごん
ーーー
チャンは気付いた。これは幹部の一人、梶原アランの入れ知恵だと。
チャン「古流の朽木倒し。梶原アランか…」
ーーー
雄飛はその技を観察する。
雄飛「タックルに顔面への掌底を合わせたようだな。…ニータップに近いか」
ーーー
まもりは受け身をとれず昏倒しかけていた。刀を掴んでいたせいで動きに遅れがあり、また、昏倒しかけては抜刀もかなわない。
小鳥(確実に当てるのが大事だった。これが私の戦い方だ)ばっ
まもり「何よ、これ… 小鳥に素手でーー」
まもりが我に帰る頃には既に――
〈ずかっ〉
小鳥(倒したら立たせるな)
――まもりの顔面に踵が重く伸し掛かっていた。
まもり(つッ。踏みつけね)
〈ずかっずかっ〉
小鳥(次は蹴りを絶やすな! 立たせないために殺せ)
まもり(地面で叩きつけられている。避けづらい)
〈ずかっずかっ〉
小鳥(寝技を持たなければ弱いか? 殺しなら当て身で充分だ)
〈ずかっずかっ〉
小鳥(寝技には持ち込ませない。倒れられたら叩いて攻める)
〈ずかっずかっ〉
ーーー
〈VIPルームN-1〉
蹴りで止めを刺すのは五木から習った柔術だった。
五木「そうだ小鳥。それでいい。蹴り殺せ」
ーーー
小鳥の蹴りは激しく、まもりは地面から立てないでいた。
居合の技を学んでいないまもりでは、この制限された状態では抜刀することもできなかった。
〈ずかっずかっ〉
まもり(小鳥なら私のこの状況でも刀を抜けるのかしら。今は抜けないからがむしゃらに蹴ってるようだけど…)
〈ずかっずかっ〉
まもり(このまま倒れていれば居合はない。しかし死ぬまで倒れているわけにはいかないわね)
〈ずかっずかっ〉
まもり(体勢が悪い。蹴ってるのを止めるのは難しい)
〈ずかっずかっ〉
まもり(けれど素人ね。柔剣ならすぐグラウンドに引き込まれておしまいよ)
〈ずかっずかっ〉
まもり(軸足がお留守よ。引き込んで寝技に持ち込む)すっ
小鳥「―!! (させない!!)」ひょい…
小鳥、軸足を蹴って跳躍。
まもり(ちっ。跳ばれたか…)すかっ
小鳥(すぐに飛ぶために構えていたからな。やはり連打で倒すのは難しいか)
小鳥はぴょんぴょんと一間くらいの距離をとった。
まもり(よく逃げれたわね。これは技だったのか…さっきの掌底も。私の知らない技がある。学んだわ、素手も警戒しなくては)
まもり「避けるのね… そんなに離れちゃって…」
小鳥(魔法がある。当身では追いつかず回復されてしまう。遠間から刀で回復困難な怪我をさせる方向にやはりなるか…)
まもり(距離のあるおかげで立ち上がる隙はできたわね)ぐいっ
立ち上がったまもりに金属音が警告する。
小鳥「近づいたら切るぞ」かちっ
小鳥は鯉口を切って警告する。
まもり「ッ! やってみなさいよ。(ちっ。この距離ならもう『必殺』が届くのか…!)」
小鳥「距離が足りない。一歩二歩と突っ込んでこい」
まもり(距離が足りない?? なぜ教える。怪しいわ。まず私は、必殺の初太刀を外すのに過剰な心配は越したことではない)ざっざっ
まもりは離れた。
小鳥「足りないと言うのにさらに離れるのか。怖いか?」
小鳥は追わずにしゃべりかける。
まもり「怖くはないわ」
小鳥(居合の距離が掴めてないのか。怖くないと)
まもり(あなたは考える。私が居合の距離を掴めてないと)
小鳥「そんな離れて馬鹿じゃないのか。そっちの攻撃は届かない」
まもり(近づけたいの? それとも探り? 届くとでもいいたい物言いね)
まもり「見切ってるわ。この距離でギリでしょう?」
小鳥(見栄っ張りが…。これでお前はその距離より動けない。その距離に縛られるんだよ)にや
まもり(見栄っ張りな笑みね。予想よりは離してあるがもう見切ったわ)
小鳥(この距離ならあれが届く)
まもり(次は何でくるか。居合は届かないから――限定していこう。罠か、飛び道具か…)
小鳥(が、まだ警戒しているし当たらないだろう。居合は届かないと安心させなければ。奴の不安な心理は和らぐはず)
小鳥「正直に話すと互いに刃が届かないと思う。こちらから近づいてやる」じゃりっ
小鳥の一歩に反応してまもりは刀を抜く。
まもり(逃げたら角に追い詰められるわね。何かがあるのかしら?)しゃっ
小鳥「いいぞ。それでいいぞ。(抜いた。間合いは確定だ)。来い」
まもりは中段に構えている。小鳥は抜かせるだけ抜かせて立ち止まっている。
まもり(こいつ……居合で勝負しようというのね。小手先、早速キメられるかしら?)
小鳥(居合を警戒している。言葉が効いてるな)
まもり(ダメね。相手から動かなければどう来るかわからない。外させるか…)
小鳥(わかるぞ。お前は突きだ。突きでくる。喉元を狙ってくる剣道の突きだ)
まもり(八方の面の軌跡でくるなら、こちらは線で合わせるか。フェイントの突きを餌に抜かせてやる)
小鳥(突きを打たせて私もそれに突きで合わせる。居合に注視するその目ん玉をとってやるよ)
まもり(控え目の諸手突きならいい塩梅ね。踏み込んだ距離なら、届かずに浮いた切っ先が目線を突く! 釣られてあなたは抜いてしまうのよ)
まもりは刀を下げて打ち気を見せた。
まもり(抜くなら読んで小手先で決める。そして私の勝ちよ)ひゅんっ!
小鳥(見せてやる。林崎流の居合を!)しゅっ!
左に引いて抜き合わせる様はまもりの罠に引っかかったようでもあった。が、小鳥が抜いたのは刃ではなく鞘だった。左手で鞘ごと腰から引き抜いて柄で突きをはじいていた。
まもり(!?? なんだそれ…??)
小鳥(来いよ! 小手で一本とれるぞ)
抜き身でない刀を差し出す腕は赤ら様に無防備だった。
まもり(腕を切ってくれと言ってるのかと思ったが……)たん…!
まもりは正確には突いていない。諸手突きに見せかけただけであり担いで一挙動で切り下ろせる。そうして小手先を決める予定であって、小手先の叶わぬ今はその余裕を用いて他の打突に移る。
まもり(しかし、これは罠だ。面をうて!)
ひゅん、と、刀が鋭く空気を切った。
否、その面も当たらない。小鳥は抜き合わせの動作に体重をかけて後ろに動いている。左半身をとるような形で動いて面は空振った。もし小手を選んでいたとしても当たらなかっただろう。小鳥は身を引きながら、柄と鞘を握った両手を腹に抱えていくのだから。
小鳥(突きは必殺ではないが鞘で守りを補える)かちっ…! しゃっ
腹に抱えられるということは抜けるのである。小鳥は右拳を引くような動作をし、半身をとった時には刃がギラついていた。切っ先を前に向けた形をとるために即放てるのは片手突きのみとなる。
まもり(これは…!)
古流居合の「浮舟」である。まもりは浮舟の名こそ知れないが過去に喧嘩で古流剣術の使い手に使われた経験がある。ふとその時のことを脳裏に掠めたのであった。
が、まもりが驚くのはその経験故だけではない。その経験から「逆胴」を反射的に狙う彼女の目にそれが入った。
まもり(鞘が邪魔だ!)
逆胴は剣道で評価の低い技の一つである。実戦的でないから評価が低い。左胴には鞘がある。だから当たっても中々切れない。しかもこの場合、小鳥は左手で鞘を構えている。
小鳥(まずは目玉だ!)ひゅん!
まもりは反射的に動いた。反射的に逆胴を狙う右手を離し、次に狙うのは片手突き。突発的で無理のある動作ではあったが、志木まもりは天才である。最年少とされる年齢で五段となった彼女は難なくこなす。
まもり(突きで致命傷よ!)ひゅん!
が、それで決着はつかなかった。
古流の片手突きは右手にて鍔元を持ち前腕で柄を抑えるようにして貫く。対し、剣道の片手突きは左手にて柄頭を持ち返して打つ。その打つの前に互いの刃はぶつかり合い、まもりの突きはまた大きく反らされただけだった。
小鳥(目はとれないがまあいい)ごちゅッ!!
小鳥の突きは鼻先の空間を突くだけに留まったが、全くそれたわけじゃない。まもりが剣を引く間に上段に構えている。避ける隙もなくそれは打ち下ろされた。まもりのどたまに拝み打ちが決まった。
ーーー
逍遥「おおおおお!!」
ーーー
圧倒した動きに観客が沸いた
ーーー
雄飛「こりゃ決まったな! 即死だ!」
ーーー
ディツェン「やったじゃない」
ーーー
が、小鳥は決まっていないと切った感触からわかっている。
小鳥(まるで鉄の塊に打ち付けたみたいだ)
小鳥の更なる打ち込みを外そうとまもりが刀を打ちつける。
〈ガンッ〉
つばぜり合い。互いに押し合い離れる。
まもり「やるじゃない」だらー
まもりは血を垂らすだけで、平気にしている。
小鳥(骨が硬い。肉しか切れてないな)
まもり「頭が割れるかと思ったわ」
小鳥(ヒビは入ってるだろう。踏みつけ時のダメージが既に回復しているから割れないと見るべきか)
小鳥「石頭っていうやつだろ」
まもり「それは頑固なあなたのことでしょ」
小鳥「頑固さはお前には負けるよ」
両者、隙を覗い睨み合う。
小鳥(回復の速さと骨の硬さを確認できたからよしとするか。それにしても動かないな)
まもり(動かないわね。納刀したり隙を見せたら片手突きを届かせられるのだけれども)
小鳥(回復をするためにか。踏みつけで動きが鈍ったことから察するに脳に効いてるってことか)
まもり(よし。回復完了。攻めるか。相手には回復手段がないから一撃が大きくなる。突き一つで大きく上回れる)
小鳥「頭、大丈夫か? 朦朧としてるのか?」
まもり「今、治ったばかりよ。覚悟することね」
小鳥「そうじゃない。血を拭わないのか? 垂れるぞ」
まもり「つッ…」
小鳥(止血は終わったがまだ脳は揺れているようだ。やるなら今しかない)チャッ
まもり(くそ。拭ってる間に納刀された)ざっざっ
小鳥(そうとっさにお前は距離を取る。間合いの外と油断して止まるってことだ)
まもり(してやられた。ともかくはなれましょう)ざっざっ
小鳥(そうだよ。お前はその距離を取る。その距離を、だ)
まもり(さて。次はどう抜かせ――)ぴた
小鳥(抜附之剣!!)ばっ
小鳥は自身の跳躍力を長所と見なしていた。跳躍だけを自身が身体能力でまもりに勝てる部分と見なし、そこを上手く用いることが勝利に繋がると確信している。その跳躍を生かせる技の一つがこの神道流の抜附之剣だった。
まもり(えっ!?!)
小鳥の跳躍はゆうに5メートルを越えていた。まもりとの距離であったその5メートル強を一気に跳んでつめ、跳躍の勢いを使って抜いた刃がまもりの右上腕を掠った。
まもり(手をやられー!?!?)
が、それが小鳥の狙いではない。腕をとったのは偶然に過ぎず、抜きつけたこと自体が単なる陽動に過ぎない。刀は抜きつけたのである。
小鳥(よし!)ずぶっ
抜附之剣の骨子は跳躍して切ることではない。跳躍した場所での『踏み込み』を利用した添え手突きである。跳びついた瞬間には、本命である左目を刀がついていた。
まもり(か…貫通している。網膜を貫かれちゃった!)
小鳥(左目をとったッ!)
まもり(やりやがった! あなたの穴にも突っ込んでやるんだから)ひゅん…
〈すかっ〉
小鳥(右腕を切れたのがよかったな。打突の威力も精度も半減だ。今もこうして避けれたし、もうしばらくは回復しない)
小鳥、受けつつ下がる。『距離』をとる。
まもり(くそっ。今のは取れていた。抜き付けの魔法にやられていた。こんなに切られない。油断しなければ突きにも対応できてたはずだわ)
小鳥(性格はわかってる。なぜ一歩踏み込めたら勝てるのにと考える、過ちを責める性格だ。今の状況で傷を治す)
まもり(しかし抜かした。納刀を牽制して剣道に持ち込む。この間合いから回復しつつ攻める)
距離は剣道で牽制をしあう一足一刀であった。
小鳥(回復することからお前の考えは手にとるようにわかるよ! 『牽制』だ!)タンっ
間合いが近いから牽制しつつ回復しつつ打ち合いをしようと考える。そこが間違いである。小鳥の間合いは広い。小鳥にとって間合いが近いは間合いがないに等しい。小鳥が腰ごと回って右足を後ろへ踏み込む一瞬――小鳥はその体重移動の勢いのまま跳んで、片足を踏まずに身体ごとさらに詰める。添え手突きを狙っていた。
まもり(!!? 左半身をさらして何を――)ぶちゅ…
まもりはまたもや添え手突きを食らう。体当たりのような小鳥の飛び込み―密着した間合いではなす術がなかった。刀は裏鎬を抑えて右目を突いていた。
小鳥(志木まもり。両目失調)にやり
間合いで油断させた。既に『距離』の罠は張っていた。既に一度使ってさえいた。罠に一度はめた事実を利用してカモフラージュし、その罠にもう引っかかりまいとしたところで、カモフラージュした同じ罠にはめる。小鳥のやり方だった。
――小鳥にとっては間合いはないに等しい。
まもり(見え…ない…?)
まもりは深い暗がりの中で後悔する。
まもり(押された。牽制なんてしているから! 既に小鳥の間合いだった! なのにッ!)
小鳥(間合いが広いことと目を失ったことでどう考えるだろうか?)
まもりは前から人の気配が消えているのに気づく。
まもり(見えない。目しか狙ってない。もう最後だ。次は近づいてくるはず!)
小鳥「覚悟しろ!」かちんっ
まもり(納刀した音だ! 必殺の居合で来る! 私は最後の賭けに出るしかない!)
小鳥「―トドメだ!」すっ
まもり(来た! そこだ!)しゅっ
〈ガンッ〉
小鳥「どこを狙ってくるかはわかっている」ずさ
まもり(??! 小手を取られている?)
まもり「なっ! 抜き身?」
小鳥「誰も納刀したと言ってない。音で騙して試させてもらった」
まもり(奥の手がバレてしまった!)
小鳥「見えない状態とはいえ、成功すれば必殺を防げるのか。やる価値はあったか、八分の一の賭けは死ぬよりましか」
まもり「ずるいわよ。せこい。正々堂々きなさいよ」
小鳥「抜刀の軌道を読んで小手を打てば居合を防げる。せこいね。せこいのはどっちよ」
まもり「あなたが正々堂々居合をしていれば勝負はついていた。長引かせるな。あなたの慎重さは昔から命取りなのよ。未熟なのよ」
まもり(傷が浅い。腕、もう動かせるわね)
小鳥「助言か? その手じゃもう今の技は使えないだろうな。小手先の技に縋る負け犬が助言か?」
まもり「私には回復がある。もたもたしてると回復するわよ?」
小鳥「剣道の精神を捨ててせこく動くからお前の負けだよ。お前は今、回復を目的として、話を長引かせているようだが――」
まもり(突いてやる。動けないと油断して納刀した隙を突く。小鳥は今、慢心しているぞ!)
小鳥「手遅れだ。油断したな。私は既に鯉口を切っているよ!」しゅっ
まもり(いつ納刀した?? 話で気をとらせて静かに納刀していたのか?!)ひゅん…
〈ずさ〉
まもり(間に合っ――?!??!)
小鳥「ありがとう。小手を2回もくれて」
まもり(ま、また騙されたッ!)
小鳥「まず納刀をしてないよ。焦らせるためにまもりとしゃべったってことだ」
まもり(こいつ、今ここで、勝負をつける気ではない。最後の詰めがくると私は勘違いしていたのか)
小鳥「一回目は納刀したような音を聞かせて納刀したと思い込ませた。二回目は会話とお前の慢心を利用し、納刀した音を聞かせないことで納刀したと思い込ませた。
これ、気づいた? 距離か音かって話で、さっき目をとった罠の張り方と同じなんだよ。気づかなかったよな。お前、バカだろ」
まもり「………」
小鳥「抜き身で切り上げただけ。でも極近い場所に2回切ったから再生力は著しく下がると思うが間違ってるか?」
まもり「………」
小鳥「黙ってても直にわかるさ。私から今から一方的に切りつけられるんだから、お前はごまかせないさ」
まもり(この窮地で同じ技を使った。奥の手がないことはバレている。次こそ、居合で来るのかしら?!)
小鳥「隙があれば居合を使おうと思う。勝負はその時につけてやろう。まだ我慢してくれ」
まもり「じらす気ね! 跳んで間合いの外からまたチクチクと!」
小鳥「いや。回復させる隙を作るようなものだ。作らせない」
まもり「回復するわ。今までみたいに居合だけは避け続けて完全に回復する」
小鳥「逆だ、逆。いつかは居合は来るだろう。いつかは。それまでまずは手を切り、次は目を潰し、次はまた手を切り――ローテーションだ」
まもり「隙をつくらせる気ね!」
小鳥「違う。隙をつくらせないでやる! つくらせないでやるから怯え続けてろ!」ばっ
ーーー
ある者は小鳥に賞賛を送った。
雄飛「まもり相手によく考えたじゃない」
ーーー
ある者はまもりへの追い込みに感激する。
アラン「よっしゃ。やっちまえ!」
ーーー
まもりは何もできないでいた。
小鳥は跳躍しては切り跳躍しては離れを繰り返し遠間から攻撃してくるわけだが、そんな無駄に跳ねるだけの動きをまもりなら軽くいなして一方的に斬り返せる筈だった。
けれどもそれはまもりが万全の体勢でいるならであり、目が見えなければ一方的にまもりが切り返されるのであった。仕掛け技であれ、応じ技であれ、まもりは闇を切るだけで小鳥には届かない。対し、小鳥の太刀は闇の彼方の分からない所からとんできて、まもりの体に痛々しい傷をつくる。
が、まもりは痛みを恐れて逃げる訳にはいかなかった。逃げれば小鳥に納刀させる隙を作ることになる。闇の中で小鳥を捕らえねば。痛みに耐えながら、音や気配を頼りに小鳥を攻めて小鳥へ納刀の隙を作らせず、小鳥が跳躍をやめぬように小鳥が納刀に移らぬように願うしかなかった。
まもりは身を守るために必死で闇を切っていたのだ。身を切り裂くような痛みが増していくだけで何かを成せたわけではないのだ。
まもり(小鳥の言っていた意味がわかったわ)
〈ずばっ〉
まもり(とんだドSじゃない。私に居合の隙をつくらせないでやるから、代わりに私は回復する隙を作らせてもらえない)
〈ずばっずばっ〉
まもり(私は守ることに精一杯でくらい続けるしかない。居合の隙を作らせちゃお陀仏だし、その代わりに回復する隙を与えてもらえない。現状の打破ができない)
〈ずばっずばっ〉
まもり(敏感なところばっかで痛いわ。目が見えなくては戦えない。気持ちいいかも。手が使えなければ戦えない。興奮してきた)
〈ずばっずばっ〉
まもり(まるで歓喜で叩いて悦楽をわかちあってるみたい。下品な言い方すれば、突かれまくっている。私はそれを受け入れていて、あなたも楽しんでいる)
〈ずばっずばっ〉
まもり(あなた、潜在的レズだったのね! この変態!! 興奮してきた)
〈ずばっ〉
まもり(これは互いに愛しってるからこそできることよ。こんなになってるのだし相性もいいのね。だから絶対にこれはセックスよ!!!)
〈ずばっずばっ〉
まもり(幼馴染が愛してくれている。間柄恥ずかしいからって決闘してる振りしながらね。私はそれに答えなければ。あなたの剣に対し、私は私の剣で答えなければ。興奮してきた!)
志木まもりは楽しんでいる。志木まもりが剣道界を追放される一因となった性癖が発露している。彼女の闘争的な感情は性的な興奮を伴って昂ぶっている。彼女の決闘への意欲は高い。
ーーー
まもりの実力を知る者が声をこぼした。
逍遥「あーあ。さすがにまもりはそこまで弱くないよね…」
ーーー
――剣道家の体捌きは尋常じゃないな、と小鳥は悟ったのである。
まもり「―ッ! ―ッ! 両方を攻められちゃうぅッ!」
〈すかっどすっどすっ〉
小鳥(居合の間を外されている。間合いを掴まれてしまった)はぁはぁ
まもり「早くあなたの太刀を突っ込んで! ハリィ! ハリィ!」
小鳥(隙を作らせずに攻めてるが消耗する気配がいない… 目も…回復された)ひゅっ…ずばっ!
まもり「あん。入ってる…」
小鳥「少しは怯えろ」ひゅっ…
〈すかっ〉
まもり「いやよ? だって楽しいだもの」
〈どすっすかっずばっ〉
小鳥(…くそ。切ったと思ったら他の傷口が回復してしまっている。際限がない)はぁはぁ
〈すかっずばっずばっ〉
まもり「跳ねすぎてお疲れみたいだけど私は満足してないわ」
〈ずばっずばっ〉
小鳥(こいつの言う通り、疲れがやばい。このままでは致命的に鈍ってしてしまう)はぁはぁ
まもり「もっとよ。もっと跳ねるのよ」
〈どすっすかっすかっ〉
まもり「跳べ! 飛べ! 翔べ! 私のかわいい小鳥ちゃん。私を楽しませなさい! 翔べ!」
〈ずばっずばっどすっ〉
小鳥(回復するのにこいつは魔力を消耗しているんだ。私の有利は揺るがないんだ。ダメージを負う危険をおかすこともない)はぁはぁ
〈すかっどすっどすっ〉
まもり「さもないとおしおきしちゃうわ」
小鳥(もう体力の限界だ―!!)
〈ぴたっ〉
まもり「………!」
小鳥「はあ…はあ…」
まもり「………」
小鳥「はあ…はあ…」
まもり「え………終わり??」
小鳥(こいつ、なんで息一つ乱れてないんだよ!)はぁ…はぁ…
まもり(…………ありえない)
小鳥(予想外だ…。く、息をとと…のえ…ねば…)はぁ…はぁ…
まもり(なんで?? なんで? なんで? なんで気分ものってきたのに終わり?)
小鳥(…!? ぎりぎり…までねばったか…ら…思考が…やばい…。脳みそ…酸素…だ)はぁ…はぁ…
まもり(私が喋ってから止まったわ。私がいい気になって声をあげたのが悪かったの? お…あずけなのッ!!?)ぞくっ
小鳥(距離は…あるが…攻められたら…もたない…。早く息を…)はぁ…はぁ…
まもり(真正のSだわ! こんなに息を荒らげて本当に変態みたいね!?)ぞくぞく
小鳥(なにか知らんが…考え…込んでるぞ…。早く…息をととのえろ…)はぁ…はぁ…
まもり(――って、あれ? こいつ、なんで何もしないのうごくの?? 跳ねすぎて疲れたから? 完全に止まってるわ)
小鳥(まずは…頭を落ち着け…ろ…。考え込む…隙にそしたら…会話でやれ…さらに…時間を稼げ…)はぁ…はぁ…
まもり(いや止まったのと荒息と私の発言は同時なんだから因果関係があるはず。私の発言で息を荒らげてとまった。私の発言で興奮したってことか?)ちらっ
小鳥「………」はぁ…はぁ…
まもり「………」じろじろ
小鳥「ふぅ…」はぁ……はぁ……
小鳥(息も思考もばっちりだ。今ここでこいつの長考を私からの会話で遮っていいものか――)
まもり「まさかだけど一つ聞いていいかしら? まさか、信じられないな、とは思ってるのよ」
小鳥(よし。…まだ身体がだめだ。会話をして攻めない方に誘導していくんだ)
まもり「おしおきがされたかったの? まさか小鳥がマゾ豚だなん――」
小鳥「それはないッ!!」
まもり「えらい否定してくるのね」ふーん…
小鳥(こいつの性癖に直結してる! 絶対に否定しないと。やばい。本気で攻められる。やばい)はぁ…はぁ…
まもり「にしてはさっきより息を荒らげてるわね。なんか恐怖でも感じたの? それとも興奮――」
小鳥「そんなわけないだろッ」はぁ…はぁ…
まもり「怖くて否定してるなら安心して。私は受け入れるわ。安心して。私はあなたを嫌いになんかならないわ」すたすた
小鳥(どうする? 近づいてきたぞ。どうすればいい!?)はぁ…はぁ…
まもり「むしろ『次はこっちから攻める』っていう展開が大好物でね。あなたとはすっごい気が合うんだなってめっちゃ興奮してる」
小鳥(クソッタレ! なんなんだよ!!? 耐えられるわけないし殺される!)はぁ…はぁ…
まもり「ここまで興奮したの初めてよ! あなたとはずっと一緒に入れてたらよかったのに!」すたすた
小鳥「こ、こないで…」ひぃぃ…
まもり「嫌なら抵抗してみなさいよ」
小鳥「く、くるなァッ!!」ぶんっ
まもり「つっ。刀で叩かないでよ」
小鳥「あ! わたし慌てている! (まだ頭が…!)」
まもり「ふん、なによ?」
小鳥(や…やっちまった。力が入らない。これはやばい。おそらくまもりの反応がやばい)
まもり「抵抗してる、にしては、なんか力が入ってないわね。こんなの気持ちよくないわ」
小鳥(慌てるな!! 冷静になって! 策を思い出せ!!)はぁ…はぁ…
まもり「その反応は図星ね!」
小鳥(会話で話を長引かせて体休めるつもりだったろ。手を出したんじゃ本末転倒だ)
小鳥「一つ、確かめたい――」
まもり「言い訳しても無駄よ。体は素直だってすぐにわかっちゃうから。今すぐに攻めてあげるわ!」
小鳥(あ…終わってる。もう手遅れだ。もうこいつは会話を聞かない)
まもり「あなたの自尊心を保つための言い訳も許さないで、徹底的にやってあげるわ。この変態マゾ!!」
小鳥「ヒィ! くるんじゃない!」ぶんっぶんっ
まもり「だから気持ちよくないって言ってんじゃないの。つっ。腫れたじゃない」
小鳥(こうなったら怖がり慌てふためくのを装ってみて、時間を稼げ!!)ぶんっぶんっ
まもり「刃筋くらい立てなさいよぅ〜。気持ちよくないんだから」
小鳥「なんで? なんで! なんで! 切れないの!??」ぶんっぶんっ
まもり「私の回復魔法は体の治癒力に作用するもので、それを長年使ってきたため体が強く成長してしまった。巻藁を何本も切るつもりでないと皮膚に傷一つつかないよ」にやにや
小鳥(知ってるよ。何重も小手切ったの効いてるってことだろ。重なる傷が再生しにくいのは切りまくるうちに確かめてんだ)ずかっ
まもり「おっ! 首に来た! いったい! これは切れたかなー?」
まもり、首筋を抑える。そしてすぐに離す。
小鳥(やっぱりこいつ、まだ手を回復しきっていない。こいつ、刀を利き手じゃない方で持ってる。今の打ち方で首にうちこめたのだから…)じー
まもり「ふふ。キレテナーイ!」
小鳥(そして今、首を右手で確かめた。切れてるな、その左手。わざわざそっちで確かめたんだからな。確信した!)
まもり「刃くらいたてなさいよぅ〜。ちんこしゃぶってんじゃないだから。むしろそっちが太刀を振るってるって自覚を持ってよ」
小鳥(まだこちらの有利は揺らいでいない! まだ戦える!)
まもり「そうじゃないなら適正なしってことでこっちが太刀やるわね〜」
まもり、すっと構える。
小鳥(刀で尻尾振って煽っているな…。私はまだ構わない。私も煽るよ)
小鳥、恥ずかしそうに刀を下げる。
まもり「なぁに?? 私の太刀がこんなにぴくぴくはねちゃってるのに~。我慢ができなくて幸せ汁じゅくじゅくだわ!?」ふりふり
小鳥(昔からお前は我慢が下手だよ。おあづけされたら余計に欲してしまう)
まもり「ほらほらあなたもおっ立てなさいよ! ぶち込んであげるから!!」ふりふり
小鳥(こちらが構えるなり打つように誘導したい。下馬だ。打ち込みの瞬間を誘導しろ)
まもり「幸せ汁ぶちゃーってぶちまけたいのよ!! 頭ん中ぶちゃーって!!!」ふりふり
小鳥(お前は相手を刺すことしか考えてない猿だ。疲れた私も頭すら使わず対応だ!!)
小鳥、すっと構える。
小鳥(疲労で体も思考も当てにするなッ!)ひゅん
まもり「ほお!? いっっちゃえー!!」ひゅん
〈がちんッ〉
小鳥(目を使うな!! 相手を見ることすらせずに己から動けっ)すっ
まもり(まさか反撃、まさかスコップ突きなんて…。良かった、運良く相打ちで――)
小鳥(当たらないがよし。刀を押さえた!!)
〈ぎちぎちっ〉
まもり(こいつ、演技だった…。鍔迫り合いが目的だったのね)
小鳥(今のまもりの腕に対してなら片手で競り合える。鍔元を掴む左手を離し――)すっ
まもり(次は持ち替えてきて勝ちにくる。でも残念、そんな隙はない。剣道は体で動くの)ずんっ
〈どすっ〉
まもり「つッ…!!?」
小鳥(晒した喉に当てる。体当たりよりも早く。晒させた瞬間だから早く)
まもり(鯉口で叩かれた。鞘を掴んでいる!?!)
小鳥(さあ納刀だ。上半身だけ居合の逆の動きをする。下半身はそれに伴い反転、右に踏め)どんっ
まもり(おばかちゃん。納刀してる間に死ね!)ひゅん
小鳥(反撃は一瞬現れる三角の構えで避ける。浮舟と同様に―この場合納刀だが―当たらない)
〈すかっ〉
まもり(避けr―――?!!)
〈がつっ〉
小鳥(三角を構えるのは切るためだ。当たらずに当てられる。よし)
〈がつッ…!!〉
まもり(つっ、柄あて…!!)
小鳥(樋打ちだよ! 抜き打ちの用意も出来ている)かちっ
まもり(剣を外したのを当て身して…。これはまさか次は――)
小鳥(次に突き入れ、次にこれは近間での抜き付けの一つだ! )しゃっ
〈すっすかっ〉
まもり(避けたが…頸を狙ってきていた!!)
ひゅん…
まもり(矢張り必殺だった。必殺は避けた――)
〈どちゃっ〉
小鳥「燕返し……」ぼそっ
まもり「………!?!?」
小鳥「さっきよりもしっかり物打ちにいったな」
まもり「どうやって…真向…切り……を……」どさっ
小鳥「初太刀を避けたはずなのにってか。昔からある燕なり蜻蛉なり言われてるやつだよ」
まもり「脳が…揺れてる……」ぐらぁー
小鳥「最初、右足前で剣道の構えをしたから逆の納刀を挟めた。あとはそこから何も考えずに型のとおりだ」
まもり「何…? 何を…言って……る…?」
ーーー
多くの決闘の敗因が頭を割られたというものだった。
チャン「ははっ…やったぜ。次こそ終いだ!!」
ーーー
まもりを買っている逍遥でさえも不安があった。
逍遥「これでも立ち上がりそうなのがまもりなのだけれど…」
なのだけれど、小鳥が追撃しない訳がなかった。逍遥はいつか蹴り込んだのを思い出す。
逍遥(今のまもりは攻められたら。次は体を守れない…?)
ーーー
小鳥はまもりを狙ってあからさまに睨んだ。まもりはそれすら気付かずにぼんやりとして感傷に浸っていた。
まもり(頭を狙われすぎた。まさか小鳥に膝をつかされるとはね)ぐら~
小鳥「………」
まもり(素直じゃないだから。嘘がおじょうずなことあるね。かわいい)ぐらぐら~
ーーー
膝をついた人間に必殺を抜きつけるのはたやすい。必殺を常に警戒しているまもりに対しては唯一のチャンスと知れなかった。
五木「効いてる。なにをした。首をはねろ」
ーーー
小鳥は回復したばかりの体力を連携技ですぐ消費した訳である。息切れをしていた時ほどではないが動くのに躊躇がある。小鳥は、チャンスだからこそ慎重に動かねばと考えていた。
小鳥(思考の中で語りが多い。自分だけだ。相手を見れていないからそうなる)
まもり「かわいいん…だからね。あなた…」
小鳥(体が鈍っているからそうなっている。悪いことじゃない。思考を自身の体だけに向ける必要がある。つまりもう思考力は回復した)
まもり「相当な…鍛錬…したんでしょ? 負けたくなくて…」
小鳥(慌てるという失態をしたがもうあの時とは違う。相手の体、反応や動作を考えるのがまずい。つまりもう思考力を回復した)
まもり「体もたくましいけど…テクが…凄いわ、特に…」
小鳥(もう失態しない。こう来たらこう切ってやるの思考じゃなく、こう来るの未然に体を動かすのが居合だ。刀に任せよ。先を取れ)すっ
小鳥、柄の端で片手持ちに構える。
小鳥(距座の技を持っている可能性を危惧する以前に、立たせる隙を与えるな)たんっ
まもり「身体能力に…限ってじゃ下なの…に…。この私を――」
〈ずかっ〉
まもり「ッ!?!? 何を――」
小鳥(納刀はまだ早い。立たせずにそのまま追い詰めろ!)たんっ
〈どかっ〉
まもり(いたっ。…片手突きッ…!!)
小鳥「一度膝をついて立てると思うなッ!」
〈ずかっずかっ〉
まもり(間合いが広い。突いた時の重心が低すぎる……?? まるでしゃがんでいる)
〈ずかっずかっ〉
まもり(バカみたいね。今の私はそのバカみたいにしゃがんだ隙を狙える状態ではないけれど)
小鳥「お前は這いつくばるんだよ!! 立てなければ剣道家は最弱だ!」
まもり(弾き返すのはせめて出来るけど…。そんなんじゃ刀はすり抜けるし、腕の傷と頭のゆれがダメで、まるで防げてない)
〈かんっずかっ〉
まもり(避けるのは…? 間合いが最長ではあるけれどそれは縦のみの話ね。その動きじゃ横に動けないじゃない)すっ
〈すかっ〉
まもり(よし。立ってやるわよ。剣道家のおそろしい実力ーー)
〈かんっ〉
まもり(避けたのに一心不乱でまだ突いてくる。フェンシングみたいにちょんちょんやめてよね)
〈すかっかんっ〉
小鳥「柔も強いって? 剣ありで戦ってるのにそれかなんになるんだよ」
まもり「あ…!!」くらっ…
〈すかっすかっ〉
まもり(こ、こいつ…。立たせない気なんだ。立たせないから横に避けさせてもいい)
〈すかっかんっ〉
まもり(くらくらしてて横に避けては重心が邪魔して立てない!)
小鳥「おらっ! 踏ん張って立ってみろよ!! そしたら突いて立たせないがな」
〈ずかっすかっ〉
まもり(頭がバカになる。そしたら押し倒されてしまう。後ろに避ければ――いやダメだ)
〈すかっずかっ〉
まもり(間合いが広すぎる。無理によければ今の私では後ろに倒れてしまって……)
〈かんっ〉
多くの決闘では、倒されたものは中々起き上がってこれなかった。
初決闘のまもりでも倒れたら負けると理解した。
まもり(今、納刀をしないということは倒れてから納刀をするということだ)
〈かんっかんっ〉
まもり(そしたら必殺は避けられない…。無理矢理立つしかない!!)ぐぐっ
小鳥「どうしたーっ!? 剣で強いんだろう? 剣道家なんだろっ!?」ははっ
〈ずかっずかっ〉
まもり(守りを捨てろ。日々の鍛錬はここで生きる。剣道家の足腰をなめないで頂戴)ぐっ
〈ずかっ〉
まもり(少しずつだが腰を浮かせられる!! 立つまで何度でも踏ん張ってみせるわっ!)
小鳥「すっとやりゃすぐ立てるんでしょー?! すこしは刀を使えよ。居合だろ、居合。い・あ・い・じゅ・つ!!」あはっ
〈ずかっ〉
まもり(優勢になるなり煽るわね。なめないで)ぐぐっ
小鳥「まさか座った状態で戦うのを想定してない? それって刀振る練習って剣道ではない?? 何やってたんだ、お前ーっ!?」あはーっ
〈ずかっずかっずかっ〉
まもり(あなたみたいな負け犬と違って私は全力で生きてきた。なめるな、剣道も私も)ぐっ
ーーー
逍遥「マジかよ… 頭をあれだけ突かれまくりながらだよ…?」
小鳥は一心不乱に頭を狙い始めたのだが――
まもりはそれを抵抗なく食らい続け、ついには立って満足そうに構えるのだった。
ーーー
小鳥はそんなまもりにさほど驚いていない。まもりの力ならありえなくもないことであるし、小鳥自身にも原因があった。小鳥は居座の技を警戒し、もしもの対処をするために手を抜いていた。
小鳥「よく立てたな」
まもり「頑張ったからね」凛っ
小鳥「違うよ。私が手をぬいたんだよ」
まもり「何が…?」
小鳥「煽れば立つだろうし、手を抜いてお前に行けると思わせ、確実をとって、連続的に頭を叩けるのがいい」
まもり「あれは立たれそうだから慌てて頭を狙いだしたんじゃないってことね。でも効かなかったわね、腕に力ないわよ」
小鳥「だから防がなかったという気だろうが立つために出来なかった。頭のみ叩かせることで気休め程度でも安定させた気だろ。騙すのはちょろいな」
まもり「それでなんでさっきからべらべらしゃべる? 打ち続けてたら気持ちいいのに」
小鳥「あんだけ打ったのに、呼吸を荒らげるどころか吐き気も催してないようだな」
まもり「脳挫傷が酷いわね。変に興奮してしまう。頭が馬鹿になりそうだわ。ちゃんとはぁはぁしてるわよ」
小鳥「そうは見えないな。喋らせてもいるのに呼吸の乱れが確認できない」
まもり「私はあなたと違って負け犬じゃないから鍛えられてるのよ」
小鳥「毒をやる気だったが諦めたよ」
まもり「はっ?? 毒っ!?」
小鳥「逆を言えばあまりに息が激しければ毒殺するよ。頑張れよ、努力厨」
まもり「卑怯よ、毒なんて」
小鳥「私は体力が回復したことだしそろそろ激しくしてやる。逝かせてやろう。嬉しいだろぅ?」
〈かんっ〉
小鳥(そんな受け方があるかよ…。動きがなまってるな)
まもり(小鳥の策は正しい。上手い。実際、ここまで反応も動きも鈍っているとは)
〈すかっすかっ〉
小鳥(打突も甘いしもはや剣道の動きじゃない。私でも戦える。流して打てる)ひゅっ
〈こつんッ〉
小鳥(一本にはならんだろう打ち込みだか面をとってしまった)
〈かんっ〉
まもり(足さばきがまともにできないし、肩もぐらつく。だめだ、体が休みたがってる…)くらっ
〈すかっすかっ〉
小鳥(いけるッ…!!)
〈どかっ〉
まもり「つッ…!」
小鳥の胴が入った。その直後互いの呼吸があって、二人は距離をとって互いを眺めた。
まもり「中々やるじゃない。こんなへなちょこな胴を私に食らわせられるとは」
小鳥「いつもの強がりか?」
まもり「あなたの策を誉めてるの」
小鳥「私も誉めたいよ。この朦朧とした中を慣れた感じは剣道家だなって」たんっ
〈すかっ〉
小鳥「動じないなんてすんごいよ」
〈かんっひゅんっ〉
まもり「確かにね。とんでもない中でも稽古を絶えず続けてきたもの」
再び互いに距離をとる。
〈つー〉
小鳥「最高だろ。この状況。私は元剣道家だ。興奮してきた」
小鳥の頬から、つーっと血が垂れる。
まもり「あら。我慢汁たれてるわよ」
小鳥「頬を切っただけだろ。かすり傷程度にな」
まもり「それを我慢汁っていうのよ」
小鳥「…?? まあ、ともかく…自惚れるな、興奮しすぎるなよ。体に悪いからな」
まもり「毒でしょ? 真偽はともかく…。この程度でへたばる軟弱者でないから安心して」
小鳥「(真偽はともかく、か…)。最高だな。試合の相手としてずっと一緒にいれればよかったよ」
まもり「…私もそう。これで1回きりであなたとはおしまいかもしれないのはね…」
小鳥「最後なら告白しよう。今さら気づいたが、お前のことが好きだったんだよ」
まもり「ふお!?」きゅん…
小鳥(好きあり…じゃなくて、隙ありだ!!)
〈ひゅん〉
まもり「それって愛の告白と――」
〈ずかっ〉
小鳥(真偽はともかくだ。毒を警戒してくれている)
まもり(いったいな~。なんで切るのよ…)ひゅん
〈すかっ〉
まもり(きゅんときてたのに…なんでよ…? また照れ隠しなの…?)
〈すかっ〉
小鳥(呼吸に関連するという情報から吸わせる毒と考えられる)
〈がんっすかっ〉
まもり(いや…待てよ。あれはそもそも照れ隠しだったのか?)
〈すかっ〉
小鳥(吸わせるものは気体か粒子だから扱いが難しいとはまもりでも想像がつく)
まもり(慌てふためいて叩いてきたから私から攻め始めたじゃない。その結果、脳挫傷になったのじゃない?)
〈すかっがんっ〉
小鳥(部屋に散布するような大掛かりな仕掛けはない。直接しかけるしかないんだ)
〈ずかっすかっ〉
まもり(あの怯えはことりの芝居とみるのが妥当。演技だったわよね)
小鳥(組み付かれるのを警戒してくれれはいい。まもりから組み付くことがゼロになる)
〈すかっどかっ〉
小鳥(まだまもりの体術を確認してないから情報不足だが、毒のブラフが効いてる今なら大丈夫だろう)
〈がんっすかっ〉
小鳥(あっちのプランを試しても大丈夫だろう。柄突きだ。今こそ効く)
まもり(こいつは私が好きとは自覚していない。勝ちたいだけって考えなんだわ…策だわ)
〈すかっすかっかんっ〉
まもり(そっちがその気なら私も勝つ気で臨むまでよ。もう愛のない計算ずくの勝負をしましょう)
小鳥(効くさ。毒のブラフを再び効かせられる。両目や小手をとったようにな)
〈すかっすかっ〉
まもり(この嘘つきめ! 逆に嵌めてやる)
〈かんっ〉
小鳥(息を荒らげるどころか息の根止めてやるよ)
〈かんっずばっ〉
まもり「いやん。あなたらしい騙し討ちにほれぼれしちゃうわぁ! それでこそ小鳥ちゃんね」
〈かんっすかっすかっ〉
小鳥(顔には出ないが相当なもんだな。脳挫傷までいったのは本当みたいだ。ここまで弱体化してるとはな)
〈すかっすかっすかっ〉
まもり(まず毒はブラフね。わさわざ使うのを宣言したってことはおかしいと思う)
〈すかっすかっずかっ〉
小鳥(だが、体の硬さは変わらない。さっきの胴は肋骨にヒビすら入ってないだろう。私が剣道風に切っても効きはしない)
〈すかっかんっすかっ〉
まもり(つまり、この策を裏手にとる――つまり、毒があると知らないように戦えばいい)
〈すかっかんっがんっ〉
小鳥(ぶった切ってやる。肉を切る剣道の打突はやめ、私は剣術で骨を断ってやる)
〈ずかっすかっすかっ〉
まもり(見当外れで毒を受けても効く前にあなたの心臓を突き刺しちゃえば――)
〈かんっすかっかんっ〉
まもり「なっ!? (打ち方を変えた?!?)」
〈かんっかんっすかっ〉
小鳥「避けるとはさすがだな」
〈かんっすかっかんっ〉
まもり(これは剣術か…。やりにくい)
〈かんっかんっ〉
小鳥(距離を離したら剣道の餌食になる。詰め続けろ)
〈かんっずばっ〉
まもり(刀を合わせるのが多い。故意にやってるのか。やりにくい)
〈すかっすかっ〉
まもり(というより避けたい。また鍔迫り合いから納刀に移行されては危険だ。しかし――)
〈ずばっかんっ〉
小鳥(嫌がってるな。まあ、刃溢れぐらいは問題ないさ。必殺の魔法がある)
〈すかっかんっ〉
まもり(刃溢れはおかまいなしか…。そんなに当てる剣術があるものかしら?? 少なくとも身代わりに刃には当たりやすいのね)
ーーー
観客は段々興奮していく。
ここの観客は切り合いが続くと盛り上がる傾向があった。
ーーー
チャン「切り合いが応酬している。まるでチャンバラだな」
ーーー
ディツェン「盛り上がりどころね…」
ーーー
切られている間にまもりはとある考察をしていて、まもりは今、一つの結論に至ったところだった。
まもり(………。……よし)
〈すかっすかっ〉
まもり(逆転には届く一手を考えられたけどまだそれを打てる隙がないわね)
〈かんっすかっかんっ〉
小鳥「おうっ!」ひゅん…!
まもり(見慣れない剣の使い方なのが一番の要因。まず見切らないと…)
ーーー
観客の中に一人、今の状況に不安を感じる者がいた。
五木(つまらんな。演出じゃないんだ、長引かせるな。殺陣の、役者でも気取ってんのか)
ーーー
まもりは回復の魔法にものを言わして耐え、逆転の糸口を探していく。小鳥は妙な太刀使いで攻防を長引かせ、大技を当てるのに必要な情報を探っていく。
まもり(踏み換えを利用してくる。剣道の構えでは、試合のやり方ではありえない頻度で…)ひゅん…ひゅん…
小鳥(私が勝ってるな。まだかすり傷しか負わされてない)
まもり(私に対処できない技か…。確かに剣道との差異を知れるだけで、この私に有効なこの動きがなんなのかが全くわからない)
小鳥(弱体化か…。矢張りな)
まもり(例の抜刀の振り下ろしと同じく私に分からずに有効だ。密着状態、若しくは鍔迫り合いが危ないのはたしかだ)
小鳥(脳は再生するようなものじゃない。魔法で底上げしてもはるかに時間を掛けてしまう)
まもり(離れては跳躍の餌食になる。間合いは近くしないと、密着ではない小鳥の遠い間合い)
小鳥(思考が鈍ってるならまた嵌めてやる。長い鈍りなら矢張りこのプランで正解だ)
〈かんっすかっがんっ〉
まもり(鍔迫り合いで相手を寄せて間合いを離せばいい。引き面なら当たる!!)たんっ
小鳥「……!!」たんっ
まもり(相手から近づけ私へは遠く打つ!!)ひゅ…
小鳥(その『距離』だよな)にや
しかし、小鳥にとって間合いが近いことは
まもり「なっ――?!??」
間合いがないことに等しい――。
〈どかっ〉
まもり(体当たり?!? 詰められた??)
小鳥(目には届かないか…)
まもり(たが、好機だ。押し返して引け!!)どんっ
小鳥(また引き技か…。確かに狙い目だがまた張ってるよ)たんっ
まもり(引き面――)たっ…ひゅ…
〈どかがっ!〉
小鳥(体ごと突き込め!)
引いたところの刃に小鳥の添え手突きが絡みつく(かち合った刃、粘る鍔迫り合い)。
まもり(なっ。この技は…!?)
小鳥「固いな…。さすがのお前でもこれは二回目三回目、完全に防げるか」
まもり、恐れて間合いを一足一刀にす。
まもり「………」
まもり(右目をとったあの技、剣道の引き技に対応できるのね。というより引いた瞬間からでも後追いで打ってこれるから、引いて使う技に私は移行できない)
小鳥(ちっ。構えられたら顔には中々当たらないか…。実質、射程のある体当たり剣道のといったとこか)
まもり(切り返しのような体当たりって感覚ね。鍔迫り合い以前に切り合いで当てられる体当たり)
小鳥(まもりにも―朦朧してるがな―十分対応できるってわけだ。それでいい。対応しろよ)
まもり(目を取られる心配はないし問題ない。所詮体当たり。いくらやったって剣道じゃ一本にならないものよ)たんっ
まもりの一刀、斬り合いが再び開始する。
〈すかっ〉
まもり(恐るるに足らない。まず把握しているこの体当たりに絞って対処する)
〈かんっすかっ〉
小鳥(剣道家は蹴り技を知っている。覚えの悪い私は人一倍蹴られまくったものだよ。憎いな。お前もたまに蹴られてたな)
〈ずばっかんっ〉
まもり(引き技を打つと見せ自分は食らってもいい。何発でも食らい、食らいながらも隙を見極めるんだ)
小鳥(教える側で蹴ったってのはわからんが食らってたのは見てたよ。じいちゃん隙あると少しでも蹴るからな)
〈かんっすかっ〉
まもり(よし、チャンスだ。引け!)
小鳥(慣れさせろ。これはそのための技!!)
〈がんっ〉
まもり(確かに、あの技だ。掴めてきた)
小鳥(次で五回目ではない。次は横隔膜に柄を当ててやる。こいつの回復は筋肉の不調をケアすることができない)
〈かんっすかっ〉
まもり(引いた足で踏んで進むのね。剣道の跳ぶというのに似ている)
〈すかっずかっ〉
まもり(妙な動きと言ったって間合いを詰めるのに代わりはない。それだけよ)
〈すかっずかっ〉
まもり(足使いが特殊だというだけで私にも対処できる。タイミングを掴むだけでいい。残念だったわね)
ーーー
小鳥が用いたこの技に「伝えられた名」はなかったが、小鳥は密かに『飛影』と呼んでいる。
この技は居合の開祖・林崎甚助が林崎明神に祈願し居合の秘奥を開眼する以前の技――。齢八歳で仇討ちを宿命付けられた林崎甚助が奥州の地で修行した刺撃の術の一法であると、今は名はなきこの技は伝えられていた。
小鳥がこの戦いで用いた抜付之剣や浮舟もその一法として伝えられたものである。同じく飛影にも対剣道・対まもり用に工夫を加えていた。
密かに名をつけたのは愛着がある故ではあったものの工夫をしたことの現れでもあるのだった。
ーーー
小鳥(飛影は五木に初めて習った剣術だった。一番工夫し一番ものにした技だ)
戦国の時代に飛影という名の駿馬がいた。影が飛ぶような速さから飛影の名をさる武将から送られたそうだ。しかし、小鳥はこの駿馬の「速さ」を思ってこの技に名をつけたのではない。
〈かんっがんっ〉
まもり(来たっ! あの技だッ!!)
小鳥にとって『飛影』の言葉は馬蹄の様相を持っている。小鳥にとっての飛影は、その速さを生む馬蹄の蹴り込みの力強さだった。
〈たんっ〉
小鳥(腰を進むのに使わない。それはフェイントだ。腰の代わりに足を使えッ!!)ダンッ
例の添え手突きの最中、急遽左足を踏み込み全体重を突き放すように右足を回し蹴りにした。
〈どかっ〉
まもり(!!? ぐがっ。何を…)
小鳥(蹴ったらそのまま脚を捉えろ)
まもり(――って、蹴りだ…蹴られ――)
小鳥、まもりの脚に滑らせて蹴り足を着く。
小鳥(膝カックンの要領で相手の膝関節に膝頭を宛てがい――)ぐいっ
まもり(ッ――!?!)
小鳥(――体勢を崩さんとする勢いで手に握った柄を水月に突きあげる)ずかっ
崩れずにいたまもりの腹に柄がのめりこんだ。
まもり、目を見開き、動きを止める。
小鳥「実戦で防具をつけてるとは限らんだろ。どうだ、痛いか、剣道家?」
小鳥、さっと距離をとる。
まもり「ぅうう…ぅ……」
小鳥「突けたな。苦しいだろ」
まもり「げほっ…げほっ…」
小鳥「水月を突いた。呼吸が一瞬とまった程度だが、今の今まで呼吸を頑張ってたところだからな。効いただろ」
まもり(これも剣道ではありえない…腹への突きと、足払いの蹴りか)はぁ…はぁ…
小鳥(効いてるな。次はぶっ刺してやる)
まもり(気絶するかと思った。息が苦しい)はぁ…はぁ…
小鳥「(もう呼吸を我慢できないか)。もうお前はごまかしが効かないよ。嵌められて死ぬだけさ、私の毒にな」
まもり(息が……。嵌められたの?? 毒は本当だったのに深読みしてしまった…の?)
はあ…はあ…
小鳥「息、大丈夫か?」
はあ…はあ…
小鳥(既に呼吸と脈拍は充分に上がっている。仕上がってるんだ。毒より能力者に効果的なものを食らわせてやるよ)
はあ…はあ…
まもり(どうする…? 新たな動作で勝機は消えたし、毒を食らっては――どっちに転んでも勝機はない…)はぁ…はぁ…
小鳥(毒がないと踏んだら私はそれを食らわせればいい。あると踏んだらこのまま斬り合いで殺していく)
まもり(どっちに転んでも…はめてくるのかもしれない。それでこの子にしてやられてきた。両目、両手をとられてきた)
はあ…はあ…
まもり(二回に嵌める嘘かもしれない。また何かを取られてもいいのか? 既に私の呼吸が小鳥の腕に掴かまっている)
はあ…はあ…
まもり(その腕で次に奪うのは息の根だ。次はない。気をつけろ。嵌まれば死ぬ)
はあ…はあ…
まもり(あなたの言葉を聞く気はない。やはり逆転には、刀を『壊す』しかない。その腕を削いでやる)
ーーー
~回想~
《先の斬り合いのさなか》
まもり(このチャンバラじみたもの、観客は盛り上がってるのかしら。少なくともディツェンベルは望んでたものでしょうね。
ほんと、こんな刀が当たる剣術があるもんかしら。魔法で作った刀でなかったら、茶番だわ)
〈すばっ〉
まもり(私達は魔法で刀を具現化させてるから切りあえてるけど、魔法でない普通の刀ならとっくに使い物にならないわよ。
しかし、その刀がかんかんぶつかるのを観察してきたことで分かってきたことがある、刀そのものについてよ)
〈かんっ〉
まもり(刀は曲がらず折れずよく切れずとはいうけれど、その三要素は勝ち残るための経験則だ。経験に乗っ取る作り込みは刀同士で差異が出来る)
〈かんっ〉
まもり(私の切り方は剣道だから刀が折れると話しにならない。だから、しなるようにしてある。竹刀に近くしなれば使いやすいのもあるし、折れる代わりに曲がる。刀が曲がってても剣道なら戦える。切れ味で皮膚をすっと切れれば充分だ)
〈すかっ〉
まもり(しかし私とは逆に、小鳥の刀は曲がる代わりに折れる刀だろう)
〈かんっ〉
まもり(曲がって鞘に納められなければ必殺が打てない。小鳥の必殺は曲がれば使えなくなる。柄当てが頻繁にできる茎なのは確認している。頭蓋骨を割ろうとしたことから、私のようにただ切れ味や重みに頼らず、刀を動作で切るといった感じだ。この二つを成り立たせるのは力の分散を避け硬度も必要になる)
〈すばっ〉
まもり(今、刃と刃を合わせてるので、刀の違いがはっきりと感じられている。絶対的な確信を持てるわ)
〈かんっ〉
まもり(小鳥の刀は私とは逆の成長をしている。過負荷を加えれば、曲がるよりも折れるはず!)
〈すばっ〉
まもり(逆転できる。折れば何もできまい、魔法を持たないちょっと頑丈なくらいの人間だ)
ーーー
長は画面の向こうを見つめる。息を切らすまもりを見つめながら、こう囁いた。
組織の長「お前は『剣道』に縋るか…? この組織を選んだのだろう?」
ーーー
はあ…はあ…
まもり(逆転の一手にはもう届く)
はあ…はあ…
まもり(このペテン師に今度はこっちがハメてやる。ハメてやるわ!)
ーーー
逍遥「よく倒れないな。タフなのは認めるけどこのまま強がったってもう手遅れでしょ」
ーーー
以前、小鳥が息を切らしていたが、今は立場が逆転している。
跳躍のし過ぎでバカに息切れした小鳥がいた事実は、消耗を狙う小鳥の何らかの魂胆を感じさせるのである。それは「毒であるに違いない、だろう…」と推察させ、推察は時に正解を求める絶対の心理に誤解を迫られる。
〈はあ…はあ…〉
小鳥は声を殺して笑った。
小鳥は獲物が罠にかかって悶えだす瞬間に立っていた。
小鳥(良い顔だ。もっと苦しめ。苦しめば苦しむほどお前は術中にはまる)くくっ
まもり(もう毒のこともあなたの言葉も効かない。牙を削いでやる。ともかく刀を壊す)はぁ…はぁ…
深く腹で息を吸い出すまもり。
小鳥「ひゃッ!??」ビクッ
まもり「ヒョエエエオオオエオオエオオオオオォォォ……」
小鳥(び、ビビったぁ~…。け、剣道家が切りかかる前にやる奴いる大声かぁ…。なぜに今になってやり始める)
まもり「ヒェオオオオオォォォ…」
小鳥(呼吸がやばいからか。呼吸がやばいからか口を開き始める)にやり
まもり「ヒェオオオオォォォ…」
小鳥(殺し合いであることを故意に忘れ、哀れに縋るための叫びだよ。まもりは剣道だけで戦うと決意してしまった。もう思い通りだ)
ーーー
二人のやり取りを見て、長は口の端を歪めた。
組織の長「………見せてみろ。剣道とやらを」
ーーー
まもり(ほら、来なさい! ほら、ほら、ほら!!)ふりふり
小鳥(次は跳躍に添え手切りを混ぜて正中線を払ってやる。水月に突き刺すと見せるのが肝要だ)
小鳥、攻め気を見せて自分から打ち出す。
まもり、擦り上げ気味に防ぐにとどまる。
〈かんっすかっ〉
三度開始される刃の応酬。紛れるまもりの粗い息遣い。そして、二つの音を掻き消すような剣道家の叫び。
まもり「シィアァアアァアアァ!」ひゅんっ
〈すかっ〉
小鳥「ふふ…」にや
〈すかっ〉
まもり「デュォォオンっ! ドォン!! ドォン!!」
〈すかっすかっ〉
小鳥(今さら剣道を始めたって手遅れだ。竹刀はなしにしただろ)
〈すかっすかっ〉
小鳥(気合で奮ったってもう体が終わってるんだ。手遅れだ)ひゅん…
〈ずばっ〉
まもり「つっ…。シャアアアア! シャエッシャエッシャェェエエエエッ!」
〈すかっずばっ〉
小鳥(弱いなあ。弱くなったなあ。まもり…ちゃん)
〈ずばっずばっ〉
まもり「シャェエエッツ! ドゥォオン!」
〈すかっずばっ〉
小鳥(全部空振り、こちらは全て当たる。まもりの剣道を負かしてしまってるよ?)
〈すかっすかっ〉
小鳥(このまま殺してあげるよ。来なよ、六度目の引き技を)
〈すかっすかっ〉
小鳥「来い!!!」
〈ずばっすかっ〉
まもり「ふうっ!!」
〈たんっ〉
小鳥(来たっ!)たんっ…
まもり(来る! あの技が!!)すっ
〈たんっ〉
まもり(よし、蹴りでくるぞ!!)ふんっ
飛影の最中に左足を踏んだ。足払いと同じ挙動であったため、まもりは芯を外そうと跳躍に合わせて詰めて蹴りを構える。しかし、小鳥はそう見せかけて上に向かって跳躍した。
が、そうする小鳥も半ば予想を外していた。小鳥は剣に固執したまもりに蹴りはないと踏んでいたのである。
まもり「つっ…」
小鳥「うぐっ…」
結果、小鳥の添え手切りは確かにまもりの正中線を払ったが、その代わりにまもりの蹴りが無防備な下腹部に刺さっていた。蹴りが来ることは小鳥の予想外であり、相打ちとなる。
〈がんっ〉
――いな、相打ちではない。
小鳥(なにぃ?…鍔迫り合い!?)
体力の差は大きい、特にこの痛み分けをした一瞬からの立ち回りの速さにおいてはだ。
〈ぐぐぐっ〉
まもり(嵌め返してやった。なんとか狙い通りだ)
小鳥(強い! 鞘を使う隙はないぞ!)
〈くっ〉
小鳥(動いた! 相手の狙いを呼んで勝つしかないぞ!)
まもり(またハメてやる。左足を前にした状態で柄を鍔で押し上げて読ませる)かっ
小鳥(――八寸胴か…。ケレンな学生剣道だなあッ!)
小鳥、誘いに乗ったように引く。まもりが面を空けるが胴を守ることに専念する。
まもり(…かかった、平を打て!)ぶんっ
八寸胴返しは、鍔迫り合いで相手の竹刀を鍔で押し上げそのまま右回りに抜き銅を打つ、もしくは、押し上げに警戒し引いた相手に面を誘い右足を出して銅を打つ技である。
しかし、八寸胴を餌にした実際のまもりの動きは、「左足を引いて刀を上げた八相構えから、峰を叩きつける」であった。
ーーー
五木「正面から戦うなっていっただろ!!」
師が叫ぶが、画面の向こうには届かない。控室での忠告は小鳥には届いていなかった。
ーーー
高い金属音が小鳥の耳へ鳴り響く。
〈キィィーン〉
小鳥「なっ! 武器破壊!?」
ーーー
長は笑みを再び浮かべた。
組織の長「………」にや
ーーー
折られた切っ先が乾いた音を放ち、場の静まりを感じられた。
〈からん…〉
小鳥「う、う、嘘でしょ…。小烏が折れた…?」
手に持つ刀には一尺ほどの刀身しか残っていなかった。
まもり「あなたのそーとーかちこちなのよ。ぐにゃってなっちゃった。私のも使い物にならない」
手に持つ刀は直角に近い角度で曲がっていた。
小鳥(よかった。曲がってない。納刀しておけば時間はかかるが回復できる)かちゃん…
まもり(こちらの刀がやられるのは予想外ね。中折れしちゃった♡)ぽいっ
小鳥(それまで素手で戦ってもたせられるのか?)
まもり(小鳥は素手で戦う気になっている。逃げられないだけましか…?)
小鳥(逃げるとしても四方は壁に囲まれてるし、武器に出来るようなものはない。やるしかないのか…?)
まもり「逃さないわよ。かかってきなさい」
小鳥「総合も経験している柔道家相手に、か…」ぼそっ
まもり「そうよ。綺麗に投げて、そのまま寝技で逝かせてあげる」
小鳥「や…。やってやるよ…」
まもり「声、震えてるけど? 安心して。おねぇさんが気持ちよく逝かせてあげるから」
小鳥「武者震いだ。柔道家に勝ってやるってな」
小鳥(柔道を煽る。これが正解なんだ)
まもり「そうね。今からあなたと寝技できるってなると私も震えてきちゃうわ」
小鳥「ふーん…。きもいこというな…」
小鳥、構える。
小鳥(蹴ったり騙すような技を使ってきたが剣道でしかなかった。所詮応用だけだ。外の発想はできない。やってやる!)
ーーー
卜辻の時のような不意打ちはない。正面からの素手による格闘を誰もが予感した。
ーーー
アラン「ボクの指導がとれほどか見れるかな…」わくわく
ーーー
小鳥(アランの解説によれば――卜辻がまもりに効くのは柔道をやったかららしい。柔道の朽木倒しは足取り禁止によって今の形になった。その柔道しかやってないから実戦型の朽木倒しを知り得ない)
まもり「こうふんしてきた」
小鳥(最悪なことに―柔剣を始めたことにより―純粋なタックルしか知らないはめになる。柔道をタックル規制後しか知らないのも 大きい。タックルしか知らない。掌底が禁止の柔剣では朽木倒しを知り得ない)
まもり「あなたからかかって来なさい」
小鳥(アランの扱う球心流柔術にはまだそういう対現代柔道に使える裏技がある。それをいくつか教えられたが状況状況でどれを使うかはセンスを問われるようだ)
まもり「あなたの震えを受け止めてあげたい」
――アラン『完全な反則を打て』
小鳥(私は足がらみを選ぶッ!)ぶんっ
小鳥は蹴りで崩してから組もうと考えていた。が、小鳥の選択は正解とは言えなかった――。
蹴りは読まれていた。柔剣の総合ルールの経験から、グラッピングを警戒する時に小鳥のような者は蹴りで来るとわかっていた。が、小鳥の蹴りは柔剣の誰よりも低かった。だから、当てることには当たったのだが――
まもり(なんだ、これは…?)
――全く効いていなかった。しかし、それでいい。小鳥は蹴りで倒すつもりはない。
〈たんっ〉
小鳥はその蹴りによって『詰める』。次の蹴りで相手の足首を踏もうとする。しかし、詰めが甘いかった。
まもりの方がタックルが早く上手い。小鳥が詰めて来たのに怯むどころか狙い目だと思っただけだった。小鳥にはまもりが掴みかからずに動くという予測が抜けていた。
結果、蹴りは失敗に終わる。
まもり(正直、雑魚ね…)
小鳥はとっさに外すが既に遅く、蹴り足で浮いた右足を完全に捉えられた。小鳥は片足タックルになるのだけは堪えるには堪えたが――
小鳥(まだだ! 体重差がある! まもりはこのまま力で倒せるんだ!)ぐっ
まもり(―倒してやる!)すっ
小鳥(マウントを取られたら対処ができない。被さって肘で何度も頸を叩いてやる)
が、しかし――。
小鳥は頸にダメージを与えようと肘をおろすがそれも叶わず小鳥は倒された。まもりの体に押されてではない。まもりの突きだした掌底によって突き倒されていた。
ーーー
指導が裏目に出た。
アラン「ちょっ、マジか! パクったっぽいじゃん! 微妙にまもりちゃん!?」
ーーー
不意打ちではなく正面から勝ったまもりに評価がうつる。
チャン(色々と対策してたろうが志木のが一枚上手だったな…。
ん…? 早くマウントを取れよ)
ーーー
まもりは投げたのは良かったが、いつものようにグラウンドに移行できない。学んだばかりの技を使って体がついてかない、戸惑っているという訳ではなかった。
小鳥は受け身と同時にまもりの股間を蹴り上げた。三間に習った柔術がとっさに出た。
小鳥(動きを止めた。立ち上がる隙を逃すな)
まもりは予期せぬ攻撃に戸惑った。股間特有の痛みに腰が引けてその瞬間は動けなかった。出来る事は立ち上がった小鳥の襟をとっさに掴むことだけだった。
小鳥の選択は致命的ではないが失敗だった。まもりは襟と袖を引いている。戦況はまもりに傾いた。
まもり「刃がなかったら跳べない小鳥ちゃんね」
小鳥(捕まったッ?! さっきからなんなんだよ!)
小鳥も同様に組んで牽制している。
小鳥(硬すぎるんだよ。あの蹴りを受けてなんで立っていられる…)ぐっ
まもり「やっとね、捕まえちゃった♡」ぐっ
小鳥(が、効いている。私でも踏ん張れるのだから股間にある程度のダメージがある。もしや組んでも勝てる!)
まもり「あなたの震えを感じるわ。ほんとにかわいらしいんだから」
小鳥(アランの球心流の技は付け焼き刃でしかないだろ。忘れろ。私が五木から習ってきたのは居合だけではない。私はそっちの柔術ならしっかり戦える)
まもり「このまま見つめあってるのも幸せよ。吐息をこのまま近くで感じていたい」
互いに組んで牽制している。
まもり「でもね、もう互いに震えを抑えられないわ。早く抱き合って鎮めましょ?」
ーーー
~回想~
《ある日の晩餐》
小鳥が五木に柔を習い始める日の昨晩の話だった。
小鳥は杯に酒を注ぐ。その杯をちびちびと飲む酔った五木。小鳥の問に、五木は杯を置いて答え始める。
五木『高校通ってたとき柔道やってた野朗がしつこかったんだ。柔術なんか雑魚だろってなぁ。頭来たから喧嘩買ったら柔術でこいぜーって煽るもんだから髪とか耳とか掴みまくって地面から立てないぐれぇに投げまくってやった』
小鳥『柔道にも通用するのですか?』
五木『組まなきゃねぇ。相手は相手で強かったよ。最後は頑張って両手刈――というかほぼタックルから寝かせてきやがった。うざいから目付きして外してそのまま首締めて落として最後にしてやった』
小鳥『やりすぎですよ』
五木『まだまだ。インターハイ行ってるとかで部員どもに恨まれてねぇ。逆恨みだってのに。一回レイプされそうになったから、その後全員闇討ちしてセックスできない体にしてやった』
小鳥『話がよくわかりません。さすがにそんなには…』
五木『4月だったから、引退前から新入生まで。いっぱい潰せて楽しかったよ』
小鳥『もってません?』
五木『こ〜と〜りぃ〜、酒の席だってな〜、なあ? 師匠の話を疑うのかー、疑うのかー』
小鳥『そんなことないですよ…』
小鳥は一杯煽る
五木『奴らごついから引っ掛けやすいんだ。どたまから落として金玉踏んで無事そうだったら目玉つぶしてやった。ほんとに弱かったよ』
小鳥『………』
小鳥(酔ってるし支離滅裂ツッコミどころあるけど、たぶん実際に幾らか効いたんだろう。まもりに勝つのも可能ってことか)
酒の匂いが鼻につく、五木が喉を鳴らす。
小鳥(習得してやる。柔でも志木まもりを倒す)
ーーー
小鳥は今までの五木の教えを脳裏に写し出すような感覚に襲われる。今まで習った全てに結果をだそうと言う気概に駆られていた。
小鳥(組んだ状態で狙える仕掛けは限られる。眼や耳や髪―頭は狙えない。どう投げるかでも変わってくる)
小鳥、腕をとって投げることにする。
〈ぐいっ〉
小鳥(――腕の筋を仕掛けとして崩す!)
〈どすん〉
小鳥の腹がまもりの尻の下敷きになっている。
小鳥「な…なんだってぇ…ぇ?」
まもり「今までのは柔術かしら? そういうのなら裏技としてスポーツでも使われることがあるって覚えといて」
小鳥(仕掛けたら一瞬で馬乗りにされた!)
まもり「過去に肛門にぶっ刺す裏技を使われたこともあったわね。成長を実感したわ」
小鳥(マウントからどうやってエスケープする?)
ーーー
逍遥(その手はバレているからダメだ。どうする?)
その手とは噛みつきだった。
ーーー
まもりの言うアレとは噛みつきのことである。
まもり(アレを教えられてる可能性は高いわね…)すっ
小鳥(やはり組みに来た! いける…!!)ばっ
ーーー
やはり、小鳥は歯を立てた。噛みつきを選んでいた。
結果、噛み付こうとするも……
アラン「突込締めか…。寝技できない小鳥ちゃんは終わりかな」
ーーー
まもりはマウントの体勢のまま襟締めをし、体を地面に押さえつけて噛みつきを防いだのである。
まもり「歯、立てないでよ。これは教育が必要だわ」
小鳥(口を開いてたからもろに締まっている…!)
まもり「苦しそうね…」
小鳥(このままでは死ぬ!?)
まもり「逝かせてあげる」
小鳥(切り落として――)
まもり「ふふっ…」しゅばっ
小鳥「ぐっ…」みしみし
まもり「いけないお手手ね…」ぐぐっ
ーーー
五木「腕ひしぎ十字固め…」
小鳥の右腕がまもりの脚に挟み込まれ、そのまま まもりの両腕に捕まり肘関節を逆にとられている。
ーーー
逍遥「右腕やられたら居合が使えない」
右腕をやられた小鳥は負けたも同然である。
ーーー
小鳥が抜きつけんとしたところを防いだ腕ひしぎ十字固めであって、小鳥の腕と共に刀が鞘ごと脚に巻き込まれていた。
とはいえ、極まらないわけでない。無問題である。
まもり「このまま関節を抜いてあげるわ。お股に挟んで抜き抜きしてあげる。緊張することないのよ?」
小鳥(危なかった。腕十字は……やると予測できた。対策はしてある)
〈ごそごそ〉
まもり「股ぐら触るなんてえっちね? 興奮してるの?」すりすり
小鳥(腕と相手の足の間に刀を挟んだからすぐには腕を抜かれないし、固め方も緩い。相手の油断もある…が、時間の問題だ)
まもり(刀を抜く気ね。けれど私が刀を巻き込んだから引き抜くことができない。どう? 工夫したでしょ?)
小鳥(これなら抜けるな。脚で死角になってるから気づかないだろう)
〈ごそごそ〉
まもり「抵抗しちゃってやあね」
小鳥(これは抵抗じゃない)
まもり「それとも我慢できなくておまんこサワサワしようとしてるのかしら?」
小鳥(まだ下調べだ。そしてもう終わった。刺してやる)
まもり「まだ早いわ。もっと熱くなりましょう」すりすり
小鳥(大腿上部、股関節間近の『房』と呼ばれる禁穴――)すっ
まもり「さ・あ・て、まずは私から。このままごりゅっと抜――」
〈ぐさっ〉
小鳥(股動脈の浅い所に刺し込む!!)
ーーー
アラン「あっ、ボクが教えたのだーっ」
がたっ
アラン「ガチの喧嘩でそのまま余裕ぶるなんてね…。有頂天なんじゃないかと」
ーーー
通常、能力者は痛覚を遮断している。戦いにおいて痛覚がないのは、普通の人がアドレナリンで痛覚を麻痺させるのと同様に利にかかっている。
しかし、まもりは痛みを快楽と考えていたため、痛覚を遮断していない。更には痛みによるアドレナリンの放出を期待していたため、まもりは痛みも恐怖もない間は意図的にアドレナリンを減らしていく。小鳥に刺されるまでまもりは圧倒的な優位だった。まもりは痛みを極限に感じる状態で小鳥に刺されたのであった。
――まもりが悲鳴を上げる。
――小鳥は刺すだけに留まらず、深く刺さるように掻き回す。
小鳥の刺したのは脚の付け根である。そこはあらゆる筋が神経に張り巡らせてある場所である。掻き回せば神経が更に悲鳴を伝えた。
――まもりは激しい痛みによる刺激に悲鳴を上げ、同時にアドレナリンの爆発的な放出の快楽によがり、力を抜いていた。
ーーー
坪谷逍遥は小鳥を賞賛した。
逍遥「……おみごと。しかし、何を狙った?」
小鳥は怯んだところを巧みに―アランの指導か―抜け出していく。
逍遥「噛みつきでわざと襟締めにさせた。刀で腕を取らせたのもわざと。噛みつきを『バラした』のもわざとならこいつがおかしい」
ーーー
まもり「つっ…。何を…」
小鳥、怯んだまもりから逃れる。
小鳥には理屈はわからんが、怯ませたらアランに言われた通りに力を入れたり動かして行ったらするすると抜けられた。
まもり(刀は抜いていない……。ナイフか何かを隠し持っている…??)
まもり、「逃げられちゃった…」
睨み合う二人。警戒する二人。
小鳥(まさか自分の殻を破ってくるとはな。いや、私のものを真似てきたのか…)
まもり「………」じー
小鳥(騙したところを打って鍔迫り合いで勝つ―私のスコップ突きの時と同じだ。八寸胴のフェイントは蹴りを用いた飛影のものと同じだ。こいつ、私の思考回路を完全に読んでいる)
まもり「………」じー
小鳥(問題は思考回路をなぞるだけでなく技をパクろうとしていることだ。総合でグラッピング一筋だった奴が掌底を使ってきた。掌底なのだから総合で敗けまくった悔しさからじゃないだろう。私の見様見真似に違いない)
まもり「何を…隠し持って…いるの? ねぇ…」
小鳥(思考を変えるならまだしも、剣道や柔道で戦わないとなると今までやってきた対策が無になる。泥試合になれば負けるぞ。当たるわけもない必殺の居合を当てるしかなくなる)
まもり「………」じー
小鳥(しかもまだ折られた刃は再生していない。ピンチだ。刃を折った行為が剣道でこないことの現れで鬼気迫る。狭ったピンチだ)
まもり「脈を切ったの? 血が…溢れてるわ」
小鳥(しかし――)にやり
まもり「……? 何か答えなさいよ…」
小鳥(――もう大丈夫だ。やっと刺せた。問題はいかに時間を稼ぐかだ。さすがのまもりも武器を持った奴に素手で挑まない。鞘を竹刀がわりに使うことくらいはあるだろ)
まもり「…怖気づいたの? 小鳥ちゃん」
小鳥「(まもりの進化を念頭に置けばそれも対処できる。もう大丈夫だ)お前から来いよ」
さっきからずっと左手を隠して構えている。
まもり「何か刺されちゃって血が出ちゃって。いったい何を貫通させたの? 奪われちゃった…」
小鳥「何だと思う?」
まもり「私のお股のとこの皮膚…じゃないわ…ふふ……脈の処女膜」
小鳥「ごまかすなよ。何をって、何によって刺されたか気になってるんだろ」
まもり「………」ちら
小鳥「まもりに教える気はないけどね」
小鳥(折られたのを直してる途中だ。今は刀身が1尺しかないからな。こんなことも出来る)ぐい
まもり(柄を上にむけた?? 帯をねじってまで何がしたい? 居合なの…?)
小鳥、鞘を右手逆手に握る。左手は柄を順手で握っている。
まもり「何かしら得物を持ってるってことだし、こちらも使わせてもらうわね」
まもり、刀を手元に出現させる。
小鳥「えっ…?」
小鳥(こいつ、刀をまだ作れるのか。どんだけ魔力が多いんだよ。体力といい魔力といいスタミナの化物だな)
まもり「居合っぽい何かを構えてるみたいでもあるし、剣で勝負ね」
小鳥(まあいい。今となっては好都合だ。何本でも作ればいい)
小鳥「―そうだな。今から能力者といえど即死級に有効な居合を放とうと思う」
まもりの晴眼の構え。笑いで剣先を乱す。
まもり「笑わせに来てるの? その嘘、毒のと一緒だし、そもそも何よ、その変な構え。かめはめ波でも打とうとしてるの?」ふふっ
小鳥「おしいな。どっちかというとギャリック砲だ」
まもり「あなたのギャリック砲で突かれてみたいわね」
小鳥「何を言ってるんだ…?」
まもり「つーか、ほんと何よそれ。なんかぼっきちんこの根本抑えてるみたいでさっきから変態チックわよ」ふふっ
小鳥「ふざけてられるのは今のうちだ。ちゃんと避けないと私のギャリック砲がお前のどたま打ちぬくぞ」
まもり「おまたの方がいいわね。おまたの方にくださらない?」
小鳥「いいよ。このぼっきちんぽおまんこに突っ込んでやるよ」かちっ
まもり「………。…え? 小鳥ちゃん、マジですか――」
〈すーっ〉
まもり(鞘を上に抜くのか!! そんなので刀が拔けるわけ――)
小鳥、膝を抜いてその場で上げる。
まもり(あ、こいつまだ治ってないのか! ということは、刀身の長さがわからない!)
小鳥(引き抜いて長さを隠しちゃうと気になっちゃうね!)ぴしっ
まもり(左手で抜いてどんな攻撃を――)
〈ぶんっ〉
小鳥「め~ん(笑)」
小鳥の発言と共に飛来する何か。小鳥はその場から動くこともなかった。
〈すかっ〉
まもり(とっさに避けたが何を、飛び道具か…。右手を動かしたのが映った…!)
〈ぱしっ〉
小鳥、下げ尾を引いて飛ばした鞘を手に戻す。
まもり(鞘だ…! 鞘をなんで。当てたって大したダメージになるわけない)
刀の方は動くこともなく左手に収まっている…、のが見える視界が妙におかしい。
まもり(あれ? なんか視界が狭まった? よ、避けたわよね?)
小鳥「剣道ってスポーツだろって思うことがあるんだよね」
まもり「こいつ…」ちらっ
煽る小鳥が視界の端で赤く霞んで見える。
まもり(左目が熱い…。というか見えない…? 鞘に何か目潰しを仕込んだ?)ちらっ
小鳥「よく『はい肩ならセーフ』ってドッヂやってる小学生みたいなことするじゃん。肩でぶつけて面にしなかったり、面が当たるからって首とっさに曲げて」にやにや
まもり「今関係あるの? ろくに知らない癖に非難するとこ滑稽よ。無知すぎて痛々しい」
小鳥「無知じゃなかったら目をとられてなかったろうし、滑稽なのお前だよ」
まもり「危ないとはみんな思うけど、禁止とか反則にしないから試合のレベルが保たるわけで――」さわっ
小鳥「それが?」
まもり(何かが刺さってる。棒状の何かが挿さってるわ)さわさわ
小鳥「お前やっぱりバカだな」
まもり「…どうでもいいが現状よ。曲がったことして怪我してたそいつが悪い。スポーツではなくって武道なのよ。当たり前でしょ?」
小鳥「そんなことしってるよ。やっぱりバカだな」
まもり(しかし、いつ投げた? 左手は動かしてないのを見ているし、右手は鞘を投げていた。目にピンポイントに当たるのか?)
小鳥「胸突きって黒歴史もってるくせに何が武道だよ」
まもり(股を刺したものか、これは。小鳥はまだ隠し持っているのか? いや、これはおそらく――)
まもり、剣を構える。
まもり「胸突きだって武道の研鑽の中であったことで、悪くはないわ」
まもり(おそらくというより、間違いなく――小柄だ…!!)
小鳥「ひどいよー…。自分で認めちゃってるよー…。その武道とやらがスポーツだろって話だよー…」
小鳥、まもりに応じて下段に構える。
まもり「有効打突の話なら――」
小鳥「剣道家ならとっさにそう避けるよな」
まもり「…?? 何を言おうってのよ?」
小鳥「私の鞘を避けさせたんだよ。そしたらその鞘の横に打っていた小柄に当ったわけだ」
まもり「………。狙って鞘を投げたの…?」
小鳥「さっきの腕ひしぎだってそう。お前、守りに入ると試合の癖がとっさに出るよな。その癖を実戦でつい出しちゃうって…。
ルールにも防具にも守られてるから武道って主張、恥ずかしくないの。なにが試合のレベルだ、今、怪我してるのお前だろ」にやにや
まもり「………」
〈ぶんっ〉
まもり、刀を振って挑発する。
まもり「話す暇あるならそれを実力で示してみなさいよ」
小鳥「話し合ってるのはどうやって目を打ったか警戒しているから。もしや目を手裏剣で狙えるのか―だから目から抜かずに構えてたんだろ」
まもり「見当外れもはなははだしいわ。誇大妄想を考えてばかりでなく刀で示しなさいよ」
小鳥「で、仕組みが理解できた途端にお前は今、刀を動かし―刀を振って―煽りだしたんだろう。ちょっとは言動考えたらたらどうだ」すっ
小鳥、刀を陰に構える。
小鳥「解答も済んだしひっこぬけよ。刺さったままじゃ回復できないんだろ。私がお前に組みつく暇に抜くくらいは出来るんじゃないかな」
まもり「こいつ……」
まもり(組むかもと思わせるのが目的ね)
小鳥、一歩つめる。
まもり(目を狙って投げたのは私と今、切り合いたくないからなのは確かだ。両目をとってから切り合うか、切り合いを私自ら避けるように仕向けるか、というところだ…)
小鳥「それとも今から切り合うか?。こっちは
頭身が短いしお前は片目がない――良い勝負にはなるだろう」すたっ
まもり(組みつく暇があるなら必殺を放てるということだ。但し、それは納刀をしていればの話だ。なぜその機会はあったのにしない?)
小鳥「お前がどちらを選ぼうと私はお前を殺せるがな」
まもり(小鳥の言う通り、頭身が短いが、なぜそれを知らせる。今の構えは正中線にまっすぐ刀を向けている。なぜ不利な刀身を隠さない?)
小鳥「………」
まもり(どっちも殺せるという小鳥だが、やってることがどっちでもない。半端だ。組みもするし刀も使うのだろう。私に二択の選択肢を与えることで不意を突くつもりだろうが、もうはまらないわよ)
小鳥「ふん…こいよ」
まもり(相手は小太刀を構えてるようなものだ。問題ない。そもそも小鳥が煽ってるのは切りあいを避けたいがためだ。今切り合えば私が勝てますよって教えてるようなものね)ふふっ
ーーー
五木(浮舟の真髄は色付けだ。すでに小鳥はまもりをはかっている…)
画面の向こうの小鳥は微笑んでいるように思えた。
ーーー
小鳥はまもりの様子から、切り合いに勝てるだろうと確信した。
小鳥(二者択一だがどっちでも出来るんだよ。お前から動くように誘導さえできればな。お前が策を看破できたって先に動くのを避けることにまで至らなければ出来るのさ)
まもり、跳ぶ。
まもり「ツキェェェエェェッ!」ひゅん…
小鳥(片目を負傷した今なら当たる)ひゅん…
ーーー
ディツェン「よしっ。また突き同士ぶつけてはじいた!」
ーーー
〈ガンッ〉
まもり(こ、これは…。最初の突きと同じだ!)
小鳥(失明で距離感を乱したから小太刀を切り落とせなかったんだな…狙い通り)すっ
まもり(刀を戻す暇はないッ。避けろ。真っ向切りはない。何だッ?)
〈ぐいっ〉
まもり(!! 足を引っ掻けた! まさか――)
小鳥(距離感を掴めずにいたお前に太刀の長さを再確認させる…)すっ
まもり(この刀身私には威力が足りない。速さ重視で柄を急所につく…………それだ!)
ーーー
五木『当流の柔術の基本は掴まないことにある。掴まずに相手を掴まえろ。実戦に組む暇などない』
ーーー
まもり(まさか切ることもせずに刀の柄で。まさかまた水月ね。当て身から組む気か!)ぐっ
まもり、とっさに刀を引き戻すことにする。
ーーー
五木『当て身による仕掛けだ。関節を狙って引っ掻け相手の動きを掴まえろ!』
ーーー
まもり(なら、相討ちでいい。私も柄当てよ。頭蓋骨割ってやる!)ぶんっ
〈ずかっ〉
小鳥の左拳によってすかされるまもりの両腕。
〈すかっ〉
まもり「なっ…」ぐらっ
小鳥は同時に足も引っ掻けている。
小鳥(剣道家は転ばせろ!)
まもり(柄当てがくる!)
〈ぐいっ〉
まもり(こいつ、私の柄を――)がくんっ
小鳥(左手で柄を引っ張り体を開き――)
まもり(完全に崩された!)
小鳥、小太刀を逆手に持っている。
〈ばっ!〉
小鳥(まもりの腕に腕を滑らせて目に突き込む!)ぐちゃっ…
ーーー
再び小鳥は正面から捌いてまもりを打ち破る
観客達にあの驚きが再び訪れる
ーーー
五木「うおう! うおう! うおう! おっ! うおおおおっ!」
ーーー
長の息子「また目を。まじか…」やばぁ…
ーーー
アラン「すごい…。…。つーか、まもりちゃん、バッカじゃねーの? 」
ーーー
引き抜かれる刀。まもりはその感覚を最後に闇の中で硬直する。
まもり(まだ小鳥の居場所はわかる。小鳥はまだ私の刀を――左手で私の柄を掴んでいる?。じゃあ、右手、刀は…?)
〈ちゃきっ〉
まもり「…はっ!!」ばっ
〈すかっ〉
まもり(危ないわ…。居合! 狙いは腕だったか!)
一歩下がり、潰れた両目で正面を睨み付ける。
小鳥「良い刀だな。惚れ惚れする」
まもり「腕は守ったわよ。残念だったわね」
小鳥「刀を捨てててでも腕を守るか。まあ、良いんじゃないかな」かちゃっ
小鳥、小太刀をしまい刀を構える。
小鳥「要らないなら私がもらっとくよ」
まもり、刀を再び出現させる。
まもり「ちっ…」
まもり(刀を狙って組みついたのか…)
小鳥「にや」
小鳥(一連の反応―こいつ、まだ気付いてないのか…)
小鳥「お前は何も学んでないな。真似っこしただけで何も学んでいない」
まもり「あなたこそね。これで2回目。次は最初から跳躍の間合いは見抜いてるのよ」
小鳥「お前に何がわかる?」
まもり「前に眼が見なくなった時、あなたの跳躍の間合いを学んでしまったわ」きっ
小鳥「私だって努力してるんだ。お前みたいに栄光を掴んだことは一度切りもないがな。陰でずっと修行してきたんだ」
まもり「なに? いきなり論調を根性論かなにかに逃げたの? それで?」
小鳥「眼が見えない癖にな。お前に何がわかる?」
まもり「じゃあ私は剣道でやってやろうじゃない。すぐに現実を感じさせてあげるわ」
小鳥「やはりお前は何も学んでいないよ。ちょっと触れたら満足した気になって弱点を学ばないんだ」
まもり「まだ言うの? もう時間稼ぎに付き合いたくないわね。馬鹿なお話には飽き飽きよ」すた
小鳥「……ふふ」にや
まもり「今、跳躍の間合いを外させて――」っ…
〈ごつん〉
小鳥「壁際でやる剣道はない」どや
まもり(―!! 下がれないッ!)
小鳥「ふふ…」
まもり(思えば、初めから小鳥は攻めてきていた。ずっと狙ってたのか!)
小鳥「障害物くらいお前も警戒するだろうし悟られないようにするのが大変だったよ」
まもり「一旦見えなくて見えるになると見えなくなるものね」
小鳥「(日本語でおkw)。跳躍の時に間合いを掴まれた時を考えてなかったと思うか? そうなったら乗らせて避けさせて壁際に誘導することにしてたよ」
まもり「やはりそういうものね、小鳥」
小鳥「ふふ。と言っても目の回復が早く、明ら様にやれず、壁に近づける程度で終わらされちまったよ。あん時は焦ったよ。だが、以後の攻防で逃げずに陰で頑張ったから今ちょうど功を成したよ。小鳥ちゃんがんばっちゃいました」
まもり「わかってるわよ……最高ね、あなたの頑張り」
小鳥「………お前の快楽の為にはやってないからな?」にやにや
まもり「勝つ為にはほんとに抜け目ないのね。至るところに罠を用意しすぎだわ、あなたの戦い方」
小鳥「壁に追い込まれたあんたには抜ける方法もないし目すらないからな。仕方ないさ、死ねよ」
〈ひゅん…〉
まもり「!」さっ
〈すかっ〉
小鳥「おらっ!」ひゅん…
〈ずかっ〉
まもり(だめだ、避けきれない――)
〈ずばっずかっかんっ〉
まもり(普通に切ってくる。壁際だから跳躍の必要はないのか)
〈ずばっずばっずばっ〉
小鳥「よく切れる。良い刀だな。素直に誉めたいよ」くくっ
〈かんっずばっずばっ〉
小鳥「こんな良い刀を捨てるなんて――まず刀を捨てるなんて剣道家としてどうなのってお前は誉めたくないがな」くっ
〈かんっずばっずばっ〉
まもり(捨てなかったから眼をとられて切られてるってのならそうかもね――、けど……)
〈かんっずばっかんっ〉
まもり(けど…小鳥が長話をしていてくれたおかげで右目は回復した)
〈かんっかんっ〉
まもり(壁際のせいで守りに徹するのが現状。でも私も下がらずに頑張れば巻き返せるかしら? 体力にものを言わせて)
〈ずばっかんっかんっ〉
まもり(また回復してしまえば、また同じように小鳥がばてておしまいよ。攻勢に転じて犯してやる)
ーーー
逍遥「ここまで小鳥が無傷って事実がなぁ…。やべぇとしか言えないよ」
テレビ画面の向こうで強さを見せつける小鳥。
逍遥「抜き付けを当ててないし、魔法を一度も発動させてすらいないんじゃないか?」
ーーー
小鳥(魔力を尽きさせろ)
〈ずばっ〉
小鳥(こいつは魔力がないと傷が回復できない。そうなるまで傷つけまくれ)
〈がんっずばっかんっ〉
小鳥(魔力が尽きれば体力も尽きる。そしたら完全な死だ。まもりは物理的に殺せるよ)
〈がんっがんっずばっ〉
小鳥(幹部連中が好き好んでる「魔法で楽勝」なんてものじゃない。私は剣だけで『完勝』する)
〈がんっかんっがんっ〉
小鳥(残念だが、コードを貰って幹部になるのはお前の代わりに私だ。私に違いないよ)
〈かんっすばっがんっ〉
小鳥(この確信は傲りじゃないよ。なぜならお前だからだ。因縁の志木まもりを倒すからだ)
〈がんっがんっずばっ〉
小鳥(組織で燻ってた私の前に試練の相手としてお前が現れたんだ。運命を実感したよ。神様が、因縁を凌駕するためにお前をな)
〈ずばっずばっずばっずばっ〉
小鳥(お前は私を一平卒扱いする幹部共への見せしめに…。私はお前を殺して過去を乗り越え輝く谷を歩み始めるんだ!)
ーーー
組織の長「……試練あっての規律だ。剣士よ、その剣で規律を示してみろ」
ーーー
小鳥(あともう少しで勝てる!――が、お前は最後まで諦めないだろうな)
〈ずばっずばっ〉
まもり「……くっ」ぐぐっ
小鳥(試練の最後…最後の試練か。私は、お前が膝をついてから立ち上がるまでの踏ん張りを知っているよ)
〈かんっすばっ〉
攻撃を受けても粘り、壁から少しずつでも離れていくまもり。
〈ずばっがんっ〉
小鳥(立ち上がっために私が片手突きを出来ずに助かったお前。同様に壁から離れれば剣道を発揮できるから戦えると思ってるんだろう)
――五木『正面から戦う場面が訪れれば負けが確定する』
小鳥(師匠の話はよく理解できた。あいつはまもりは剣道に強い以前に闘いに強いってことだったんだな)
〈がんっずばっずばっ〉
小鳥(定まった技術を持っている以前にとっさの機転に強いってことだ。機転で強いからお前の技術は練磨されている訳だ)
〈がんっがんっずばっ〉
小鳥(だがな。私もまもりと同様に技を磨いてきたわけだ。八寸胴同様の機転の強打を私だって出来るんだよ)
〈ずばっがんっ〉
小鳥(だから壁との間を開こうたって無駄だ。私には、間合いがない!)すっ
〈たんっ〉
まもり(なっ!)
〈がんっ〉
まもり(まあこの技はもう避けれ――)
――飛影
まもり(って、さがれないんだった)カベッ
〈どかっ〉
まもり「つっ…」ドンッ
〈ずばっがんっずばっ〉
まもり(私が壁にぶつかるなんて何年ぶりよ)
〈がんっずばっ〉
まもり(この技は体ごとぶつかってくる。体当たりか…。こういう使い方も出来るものね)
〈がんっ〉
まもり(この技を見切ったばっかというのによ。次は壁に押し戻すという『目的』で利用されてしまっている)
〈ずばっがんっずばっ〉
まもり(剣じゃ――。悔しいけど剣じゃ小鳥の方が上と見て思われても仕方ない。剣では)
自分が捨てた二つの刀を交互に見る。小鳥の振る刀、地べたの曲がった刀。
まもり(折るしかないのか。折って柔で抑えるしか小鳥を猛進を止める手立ては――)
〈かんっずばっかんっ〉
まもり(折っても居合が残っている。そもそも小鳥が剣と柔を合わせてつかうのを見ているでしょ。私には出来ないそれを)
小鳥の腰に収まるそれが瞳に移る。
――小鳥『でもな。私には居合がある』
まもり(魔法の方も……必殺を警戒しなきゃならない段階なのか? 刀身がどこまで回復したかもわからない。もう手遅れか?)
ーーー
ディツェン「これで盛り返してももう飽きたわね。またかよって、もう散々思ったわ。小鳥、早くとどめ刺しなさいよね」
ーーー
まもり(私は今、壁で動きを制限されている。対し、小鳥は自由だし八方に抜きつけることが出来る)
小鳥『いつかは居合でくるだろう――』
まもり(小手先の防御はもう効かない。手遅れならば私は避けれない。私は必殺を放たれたら死ぬ)
ーーー
チャン「次こそ死んだな。ぽっと出の新入りが五木の弟子によく頑張ったな」
ーーー
雄飛「お前は相変わらず強いな。勝てよ、小鳥」
ーーー
まもり(居合抜きを防ぐには? 考えましょう。居合抜きを防ぐには?)
〈がんっずばっずかっ〉
まもり(受けは不可能だ。必殺の魔法が付加された太刀は受けられない。防御不能の太刀だ。壁際で八方だから避けれもしない)
〈ずばっがんっがんっ〉
まもり(避けれないのなら事前に抜くのを阻止しなくては。しかし牽制を許すだろうか?)
――小鳥『距離か音かの違いで同じ罠の張りかたなんだよ』
まもり(むしろ牽制の先に何かを構えている…のか?)
まもりの懸念は正しかった。
小鳥はむしろ状況をつくって誘っているところもあり、まもりの首がはねられる事態も起こりえたかもしれない。
小鳥が習った林崎流居合には『柄取』『手取』をはじめとした、抜くのを素手で防いで来た場合を想定した型がある。小鳥はこれを五木に徹底してまなばされたため、現状でももちろんのこと、即対応して抜きつけられるレベルにある。
〈ずばっずばっがんっ〉
まもり(居合を剣と柔の中間として使う、剣と柔の両者に対する技として使うというのは現に見ているし…。それに、初めからそう宣言していたじゃない――私には居合があると)
〈ずかっずばっがんっ〉
まもり(よく考えれば、居合と思わせて柔で仕掛けるのはさいしょからじゃない)
〈ずかっずばっずばっ〉
まもり(最初の竹刀から怪しかったわね。あれは何かを仕込んで意図的に起たせたのか。居合を話に出しながらそうして柔で仕掛けた)
〈ずかっがんっがんっ〉
まもり(次の抜刀もおかしいでしょ。鞘ごと抜いて必殺は放たずに突きできた。あれも読まれていたのか。八方への警戒の突きに、九方目の居合、突きの居合で後の先をとって)
〈ずばっずばっがんっ〉
まもり(しかも似たような乗り突きを後に再び食らっている)
〈ずばっがんっずばっ〉
まもり(二度目の突きは小太刀だった。あの独特の構えは突きを誘っていたのか。それに引っ掛かって、柔と剣を組み合わせた技で目をとられてしまった)
〈がんっずばっずばっ〉
まもり(つまり――後ろに引きつつ抜く・小太刀を立てて構える――両者は出方を見て見させたのか。色を付けるって言ったかしら―色仕掛けなんて魅惑的なことしてくれるじゃない…ふふ…)
〈ずかっずばっがんっ〉
まもり(あ、そうだ)
〈ずばっがんっがんっ〉
まもり(良いこと思い付いたわ。血を指摘されたのを真似て、血を小鳥にぶっかけしちゃえば現状を打破できるんじゃない?)にや
〈ずばっ〉
まもり(あっ…)サッシィ…
〈がんっ〉
まもり(私の出血を既に避けている。今まで切りまくってるのに血を頭に被らない。そ、そういう人切りをあなたは学んでるのね)ぞくっ
〈がんっずかっ〉
まもり(思えば私のばらまいた血はこんなにもだったのね。私の血で辺り一面…ぬるぬるなのに動けている。小鳥はなんて恋人に気遣いできる子なのぉ!)ぞくっぞくっ
〈がんっずかっ〉
まもり(こんなに真摯なのに態度はツンデレ…まさか私を楽しませるためにツンツンしてるのぉ? 楽しみたくてツンツンしてるんだ)
〈ずばっずかっ〉
まもり(ツンツンどころかズバズバしてるけど、これも愛なのね。気持ちいいわよ! このおませさん! なんてテクニシャンなの! 匠だわ!)
〈ずかっずばっ〉
まもり(つっ…。感じちゃう! 感じちゃってるわ! 真剣が刺さってる…こんなの全身が血でヌルヌルで、傷口からはち切れそう)
〈ずばっがんっ〉
まもり(次々と小鳥の愛が! 思い返す度に発見が大発見! す…すばらしい! テクニカル)
〈ずかっがんっ〉
まもり(人切りの技、細かな気遣いが! なんてことでしょう! 思い返す度に早変わり…性的ビフォーアフター)
〈がんっずばっ〉
まもり(た…匠の技だわ! 私が逆転しかけた突込締めにも匠の技が光ります!)
〈ずかっがんっ〉
まもり(…やばいわ、やばい。落ち着きなさい。興奮し過ぎて気持ちが暴走している)
〈ずばっずばっ〉
まもり(やめて…。逝っちゃう。これ以上はやばい…。切らないで…。止めて…)
〈ずばっがんっ〉
まもり(い、い、意識をし過ぎた。無意識になろうにも切られてしまい、官能の園が切り開かれてしまう。止まらない。やめられない)
〈ずばっがんっ〉
まもり(臨界点を越えた。まもりのボルテージはマックスだ。これ以上は…しごかれるのをやめられたっていずれ暴発してしまう)
〈ずかっがんっ〉
まもり(もう出来上がっちゃって――はぅわ…)
〈ずばっずばっ〉
まもり(あうっ! はっ! ほう! ふぉぉおお!)
〈ずばっがんっ〉
まもり(抑えろ抑えろ抑えろ抑えろ抑えろ性的スイッチ抑えろ抑えろ性的抑えろ抑えろー!)
〈ずばっずかっ〉
まもり(いやいやいや落ち着けって。切られたら気持ちいい。気持ちよければそれで――)
〈ずばっずばっ〉
まもり(ダメだ。そしたらマグロになれば必殺を隙ありってドビュッシーしてしまう。んっほおおおおおっ!)
〈ずばっがんっずばっ〉
まもり(ドビュッシー? 何を言ってるの。落ち着くんだ。一回思いっきりしたからしばらく興奮を抑えて冷静に…)
〈がんっがんっずかっ〉
まもり(確かにこの絶頂状態で切られるの気持ちいいし、必殺で逝かされるのは本望よ。でも、まだ小鳥に愛撫すらしてないのはいけないわ)
〈ずばっずかっがんっ〉
まもり(そう…私は寝技で優勢だったけど、あれは愛撫できてたとは言えないのよ)
〈ずばっがんっがんっ〉
まもり(話を戻しましょう。マウントから逃げたのは偶然でないという話よ。私は優勢でもなかった)
〈ずかっがんっずばっ〉
まもり(首を絞められたら普通は腕をどうにかしようと掴むのに抜きつけてきた。ちょっとした機転で抜けるような体勢だろうか? 抜けつつあったのだからすごい技よ。そのような練習もしているのね)
〈ずかっがんっがんっ〉
まもり(そして股に刀と腕を挟んだわけだ。あれを私は刀を抜けなくしたと得意気になったが、本当は小鳥の都合もあったんじゃないか。腕ひしぎへの時間稼ぎに挟んだとか)
〈ずばっがんっずばっ〉
まもり(つまり、あの寝技にも匠の居合術が、だったってことね)
〈がんっずかっずばっ〉
まもり(思考に先走って感じてしまいった今の快感は、思考すると理に叶っていた。まもりん、頭がおかしくなってなかったのね)
〈ずかっがんっがんっ〉
まもり(マグロじゃセックスじゃないわ。死体を使ったオナニーよ。きちんと私もあなたにこの太刀ぶっこんで、逝かせてあげるわ)
〈ずかっずかっずばっ〉
まもり(あなただって逝きたいのでしょう?。一度くらい素直にぶっこまれればいいのに、ツンデレさんねぇ…)
〈ずばっずばっがんっ〉
まもり(私はあなたが欲すからまだ死なないわ――。必殺おちんぽは魅惑的だけれど、私は欲さない。だって、あなたと同じで素直には終わらせたくないもの)
〈ずばっずばっがんっ〉
まもり(心中を見透かされたように犯されるのが一番大好きだもの。見透かして犯すのが大好きだもの)
〈がんっがんっずばっ〉
まもり(しかし、冷静になってやっとわかったわ。あなたを勘違いしてたんだって。でも許してね、次は私が見透かすんだから…)
〈がんっずばっがんっ〉
まもり(プレイが満足いかないままにプレイを切り上げられたくはないわ。私もあなたを理解しているのよ。満足させてあげるわ)
〈ずばっずばっずばっ〉
まもり(今の私の理解は居合であり―もう一つ掘り下げて語るなら―以前の私の誤解は必殺だった)
〈がんっずばっがんっ〉
まもり(私は必殺に隠されて居合というのを捉えられていなかったの。『私には居合がある』を必殺のことと勘違いしていたのを見透かされていたのだ)
〈がんっがんっずばっ〉
まもり(必殺を恐れて諸手突き――色をつかれて真っ向切り。必殺を恐れて距離をとる――跳躍で切られて目をとられる。必殺を恐れて刀を注視する――目を再びとられる)
〈ずばっがんっがんっ〉
まもり(正解だった。今、さっき、柄を押さえようとしたのをやめたのは正解だった。おそらく小鳥は対応できて無意味に終わる)
〈がんっずばっがんっ〉
まもり(ほら、理解しているのよ)
〈がんっがんっずばっ〉
まもり(最高のプレイにしましょう。まだ終わらせないわ。終わらせないでね)
ーーー
小鳥(長い…。まだ魔力枯渇にならないか)
はぁ…はぁ…
小鳥(諦めるな。効いてる。効いてはいる)
はぁ…はぁ…
小鳥(頑張れ。努力は報われる)
はぁ…はぁ…
小鳥(私はやればできる子なんだ)
はぁ…はぁ…
小鳥(心配はない。無駄な心配をするな)
はぁ…はぁ…
小鳥(無心になって切り続けろ)
はぁ…はぁ…
小鳥(思考のなかに語りが多い)
はぁ…はぁ…
小鳥(心配するな。刀に任せて切りまくれ)
はぁ…はぁ…
小鳥(私はできる。諦めるな。頑張れ)
はぁ…はぁ…
小鳥(まもりには効いている。諦めるな)
ーーー
まもり(さらに推理していきましょう、この愛に包まれたミステリーを)
〈ずばっずばっ〉
まもり(こんだけ時間をかけても必殺を放たないところを私が一切疑問にしていないところに気づいたわ。必殺を恐れすぎて思考が麻痺してるのかしら。恐れすぎてるのは食らってみたいって期待の裏返しかしら)
〈ずばっがんっずばっ〉
まもり(昔からだけど、私の思い込みは倒錯的な癖があるようね。一種の性癖か…。彼女も愛してるという自惚れた確信を私自身の確かな愛に転嫁しているのかもしれない)
〈がんっずばっずばっ〉
まもり(今、その腰に納めた逸物を使う気はないのね。ふふ…。楽しませてくれるのね。罪深い人。期待だけさせて…恋しいわ)
〈がんっ〉
まもり(それにしたても小鳥は何をやっているのか。愛情抜きに考えてね…)
〈がんっ〉
まもり(回復してる限りいたちごっこなのだけれど、そこから脱する方法があるのかしら。オーソドックスなのは魔力枯渇だけれど――)
〈ずばっがんっ〉
まもり(魔力が尽きる訳ないわ。マスコットが手元にないからわからないが――私が千の魔力を持っているとして――百もまだ消費していないだろう)
〈ずばっずばっがんっ〉
まもり(しかし…。小鳥は元々魔力が少ない。十にも満たない魔力しか持たない彼女は、私の千の魔力を想像すらできないのかしら。彼女はそこで誤解をしているのかしら?)
〈がんっずばっ〉
まもり(私の魔法の才能が常識はずれだからですって小鳥が哀れね)
〈がんっ〉
まもり(違う。また転嫁している。私が小鳥を理解してるってのは性癖からくる奢りよ)
〈ずばっずばっ〉
まもり(これも奢りですって? どういうことよ、閃いた方のまもりさん、どういうことでして?)
〈がんっずばっがんっ〉
まもり(おちついて考えましょうよ、まもりさん。とりあえず閃いたこと、脳裏によぎったことを)
〈ずばっがんっずばっ〉
まもり(小鳥はこの戦いが成立する以前、仲良く大会で協定を結んでいた時にすでに私を殺す気でいた。私は小鳥と仲良かった気でいるのよ)
〈がんっがんっがんっ〉
まもり(その上であったイベントが林崎流の奥義を教えてくれたことよ。今じゃ柔道の崩しみたいに当たり前になった技法、なんて前置きしながら、もっともらしくね。実際はよっぽど複雑な動きを見せつけてくれてるじゃない。話が単純すぎる。あれには幾らか嘘が組み込まれている)
〈がんっずばっずばっ〉
まもり(彼女は左で鞘を抜くという居合の基礎が卍抜きといった。また、それを奥義として、速度に任せて八方の太刀筋で抜く八方萬字剣が当流の剣技ともいった。そして自分はその太刀が全て必殺であって防御不能の太刀なのだと)
〈がんっずばっがんっ〉
まもり(全て創作という気もしないではないが――一点だけ、どうも怪しくないかしら?。最後の必殺を付け足すとこ、不自然よね。必殺が強いという印象があって奥義の話ではない。必殺を八方から放てるが狙いの嘘なのよ)
〈ずばっがんっずばっ〉
まもり(普通の居合で八方に切るのは造作もないだろう――実演すらしてくれていた。だが、必殺には通常の抜きつけよりも複雑な条件があるんだ。そのせいで必殺では八方に切れない)
〈がんっずばっがんっ〉
まもり(奥の手をさらしたのは失敗でもなく有効だったんだ。八方に抜かれたら八分の一の賭けだけど実際は一分の一の『確定』だった。だから、いつかは抜くかもと言葉を濁し、跳躍で切り刻み煙に巻いたのか)
〈ずばっがんっずばっ〉
まもり(必殺が当たらないから魔力枯渇を狙う――辻褄は合いすぎるわね。必殺を放てない、か)
〈がんっずばっがんっ〉
まもり(あり得ないくらい弱点を誤魔化してるのね。確実をとるためと誤魔化す騙し打ちの数々、息を切らせた失態を誤魔化す毒のブラフと柄当て…etc探せばきりがなさそうね。情報操作を戦いが予定される以前からやってるんですもの、いつからよほんと)
〈ずばっがんっずばっ〉
まもり(でも、辻褄は合うけど憶測の息を出ないわね。だって、必殺を食らった試しがないもの。とはいえ、食らったら、首か体なら即死してしまう)
〈がんっずばっがんっ〉
まもり(まるで私を試してるようね。嫌な恋人だわ。でもそんなとこが好きよ)
〈ずばっがんっずばっ〉
まもり(折ってしまっても構わないのでしょう? 始めに言った通りあなたの技を全て受けたい。あなたの必殺で絶頂を迎えてみたい気持ちがある)
〈ずばっずばっずばっ〉
まもり(でも、気持ちが噛み合わないならあなたを指導するしかないわ。あなたの役目を教えてあげなきゃならない)
〈ずばっがんっずばっ〉
まもり(倒錯してるなら自分を理解することで相手を理解できるのよ。セックスとはそういう舞台装置になりきるみたいなものよ。互いのあなたのための舞台装置にね)
〈ずばっずばっがんっ〉
まもり(あのねっ、小鳥ちゃん…。最高のセックスにしようよ)スッ
小鳥(おっ?)
まもり、左足を前に踏み出す
小鳥(八寸胴からの思いつきか。左身を晒して誘うなんてさっきから私がやってるだろ)にや
さらに真半身になる
まもり「かかった!」たんっ
小鳥「!」かんっ
〈どんっ〉
小鳥「飛影…?。こいつ、なんで…」
まもり(当たらなかった。私のは未完全で当たらないが当たらないなりに生かせばいい!)
小鳥(飛影は予想外だ。『八寸胴』との相性が良すぎる)
まもりの飛影は小鳥のものより遥かに劣り、勢いがなく、壁際から押し出るような力はなかった。ただ刀をつけたに過ぎない。故に間合いが八寸に近い状態になったのである。
小鳥(居合だ。払った天縦で切り下ろす)
小鳥は八寸胴は元より『刀の破壊』を警戒し、刀を横一文字に構え誘いだす。突きを誘っていた―光速突きの志木の異名を持つ剣道家の突きを。まもりは誘いに乗ったように切っ先を突き出した。
〈かんっ〉
小鳥は刀を縦に上げて刀を当てる。相手の刀を払いながら構えで避けて切り下ろす。が、空を切って空振る。目の前からまもりが消えていた。諸手突きを放ったまもりは忽然と消えていた。
小鳥(ぬん!?)
小鳥は脇に違和感を感じ、一つ勘違いしたことに気がつく。小鳥は刀を出すのを見て、刀を払った。そして刀を払ったから突きを防いだと確信したのである―そこが唯一の間違いだった。
次にまもりが使ったのは、飛影でも、武器破壊でも、光速突きでもなく、八寸胴返しだった。
しかし――小鳥は胴ではなく突きを払ったのである。その工夫をまもりは小鳥の背で呟いた。
まもり「陽炎…」ぼそっ
まもりは八寸胴による抜き胴を「無手」で放っていた。小鳥の誘いに引っ掛かった刀を囮に捨て、小鳥の胴を小突くように抜け、小鳥の横をすり抜けていった、のである。
〈どすっ〉
――まもりの捨てた刀が打ち落とされて鳴る音
小鳥(切らずに抜けたのか!?)ばっ
小鳥は後ろに切りつけようと回るが振り向くだけに終わる。既に密着され掴まれている。
小鳥(か…髪を…)
まもり『裏技としてスポーツでも使われるって覚えといて』
小鳥(投げだ。逃げられないからもう投げられろ。その隙に抜き打つ! )
ことりは刀を捨て、腰の刀に手をかける。
小鳥は狙う、股間を蹴りあげたように。受身にうつりながら刀を放ち、股間から切り上げようと考えた。
が、――。無手がおとりだった。
まもり「あなた、私が刀を持たない状態でないと必殺を放たないんでしょ?」
小鳥の抜き付けんとする腕は阻まれていた。右腕が小柄によって押さえられている。
小鳥(この展開は知っている…??)
小鳥は居合の研究として独自に他流の型をパクっていたが、独自では付け焼き刃にしかならず、それはただ見ただけの知識で身に付かず、無惨にも目を指で突かれていた。
小鳥(あ…れ? どうすれば…?)
小鳥の右目にまもりの指が入っている。潰されていた。
小鳥(引くな。抜きつけろ!)
抜きつけろと考えるには右手は自由だったのである。まもりが小柄を離し次を放とうとしていたから自由なのである。無論、その自由を小鳥は理解したために応じて抜きつける。
俗に、万事抜きと謂われている型のものだった。相手が抜きつけんとするのを首に柄を突きつつ抑え、こちらはさらにそのまま抜きつける―といったのが大まかなものである。
〈タッ!〉
まもりの切り上げを―再出現させた刀を―防ぐような柄当てからそのまま抜刀を試みるが、柄を当てる前に、すでに刀を再出現させた段階で、まもりは引き下がるのに徹したため、かすりもしなかった。
まもり(今のは切られていた。やはり、今までずっと必殺をブラフにして居合を隠していたのか)
まもり「うふふ。やっとね。やっとあなたに突っ込めた」
まもりの左指を濡らす小鳥の血。
まもり「生暖かいわ、あなたの愛液。そんなに溢れさせちゃって」ぺろっ…
小鳥は叫ぶ。まもりの意に反して、小鳥の意識はもう一つの傷口に向いていた。
小鳥「腕がぁぁあぁぁああ!」
まもり「ほんとあなたってアマノジャクなのね。私の気持ちや感動がわからないの」はぁ
小鳥「小柄を腕にィ!!」うわうああ
まもり「あなたのおめめの処女もらったってなってるのに、また冷やかすんだから…。罪な人ね。また恋しくなっちゃう」
小鳥「あああああ! ああっ!」
まもり「両目奪えばあなたも私が望むような行動を見せてくれるかしら?」
ーーー
逍遥「腕をとられたが今居合は放てたわけじゃん…。びびってんのかしら…」
ーーー
まもり「あのさぁ…。落ち着きなさいよ。ガキみたいに喚かれると萎えちゃうわ…」
小鳥「知るかっ。ちっくしょぅ…」
まもり「私、そーいう趣向はないんだなー」
小鳥「なんてことだ、なんてことをしれくれたんだっッだああ!」
まもり「喚かないでって…わかってくれないんだなー」
小鳥「目も見えない、右目も見えないよ…右目も見えないよ…」あっ…あっ…
まもり「私はね、剣士達の、剣士達による、剣士達のための、ホモセックスがしたいのよ。触りっこに過ぎない剣道を生活や名声もろとも捨てて、私は本当の突き合いを求めて生きようとこの組織に入ったのよ」
小鳥「………なんで痛いよ…」
まもり「あのさぁ…。最初の相手となったあなたの体たらくは何よ。せっかく盛り上がったのに…。剣士でしょ。その刀を拾いなさい」
小鳥「だめだもうだめ。もうだめだだめ――」
まもり「いい加減にしないと殺すわよ」ぶんっ
小鳥「ヒェッ」びくっ
まもり「でもこんな殺し方いやだってわかって。気持ちよく逝きたいのよ」
小鳥「やだやだ私やだ…やだやりたくない」
ーーー
雄飛「まさか。ことり…芝居だよな?。俺は…俺はまだお前を信じてるからな」
ーーー
小鳥は喚きながら刀を拾う。
小鳥「ピギャイアアアア!」がしっ
〈ぶんっ〉
まもり「そうよ。来なさいよ」すかっ
ーーー
ディツェン「小鳥…。刀を使えるってことは芝居か。見映えのしない芝居ね」
スマホポチー
ディツェン「みっともない。観てる人が不快になるじゃない、評価に響かないかしら…」
ーーー
実際のところ、小鳥は混乱していた。小鳥は斬りつけまくっていた反動で疲れきっており、朦朧とした頭にまもりからの反撃という衝撃はがつんと来ていた。小鳥の軟弱な精神・才なき魂に、「ここに来て取り返しのつかぬ傷を負った」という事実の影響は絶大だった。
小鳥(おしまいだぁ…)
小鳥は壁際で逃げ惑う。立ち向かう素振りすらなかった。いつしか転げた拍子からは地面に手をついて転げ回り、決闘であることを忘れ誰かの助けにすがろう態度でしかなかった。観客の八割はこう思った―志木の白刃を受け入れろ、それか潔く腹を切って死ね。
ーーー
息子「親父、勝負ありだろ。あとはディツェンに任せようぜ」
長「まだみていろ。まだ一悶着あるかもしれんぞ」
息子「………もう小鳥は終わりだろ」
小鳥は捨て鉢を吐きながら逃げまどう。
長「試練というものには、終わりの鐘が敗者のために用意されているのだよ」
ーーー
五分後――
小鳥に変化が訪れる。
小鳥(私は錯乱していたようだ…)
〈かんっかんっ〉
小鳥(もう大丈夫だ。私は正気にもどった!)
〈すかっかんっ〉
小鳥(なぜ殺されなかった?。壁を背にしてるからか…いや、剣道家の技術はそんなに甘くないか。まもりが甘いから手を抜いていた)
〈かんっかんっ〉
小鳥(ありがとう、まもり、時間をかけてくれて。今、私は兆しに気づいて意識を取り戻したよ。天啓を受けたような気分だ)
〈かんっかんっ〉
小鳥(最後は自分との戦いってのがにくい試練だ)
〈かんっかんっ〉
小鳥(あの治らぬ傷口は試練の終わりの兆しだな)
ひゅん……、小鳥の小手打ち
まもり(小手を狙ってきた)かんっ
〈すかっ〉
静寂。
まもり、攻撃を止める。
小鳥「まもり…やっと気付いたよ」
まもり「中々しぶといのね。逞しいわ。メンタルは全く逞しくないけど活を入れてやったわ」
小鳥、立ち上がる素振りで密かな居合腰。
まもり「さっぱりしたでしょ。はやく起っきしなさいよ。続き、するわよ」
小鳥「まもり、やっと気付いたよ」
まもり「………?」
小鳥「まもり、やっと気付いたよ。お前、必殺のことに気付いたんだってな」かちゃ
小鳥、柄を掴んでるのを見せつける。
まもり「………」
小鳥「必殺…仕組みがあるんだよ。私が魔法を作るときに若かったから失敗した」
まもり「目をやられて戦えないあなたはもう必殺にすがるしかないものね」
小鳥「………」
まもり「言葉で騙して必殺が当たる確率を上げようってことでしょう?」
小鳥「お前、どこまで気付いたんだ?」
まもり「知りたいなら今ここで必殺を放って確めてみなさいよ」
小鳥「今ここでと言っても仕組みがあるんだよ。放たないんでなく放てない」
――まもり『私が素手でないと必殺を放たないんでしょ』
小鳥、左手で右腕の傷口を触る。
小鳥「あの八方がどうのってのは小説からテキトーにとったデマカセでね」
まもり「………」
小鳥「必殺は一方向でしか放てないんだよ。これ。小柄で抑えただろ。切り上げだよ」すっ
まもり「最後の賭けで打ち明けてるのか、誤魔化すために偽ってるのかはもう考えないわ」
小鳥「………」かちっ
まもり「理解されたいからそんな心理術を使うのだろうけど、刀で語らないなら興味ないわ」
小鳥「刀で語ってやるさ。条件はクリアしたんだ。必殺にはもう一つ条件があったんだよ」
まもり「ぶちこんでやるわ」
小鳥「時間稼ぎだよ。真の必殺を食らえ」ひゅん…
小鳥が放ったのは抜きつけではなかった。
まもり(――!?)
そもそも小鳥は何の柄を掴んでいたのか。密かな居合腰は居合腰を隠した中腰であったものの、その中腰は立つ体重のかけ方に見せかけた故に腰の刀を体の陰に隠していた。
まもり(貰った!)ひゅん…
小鳥は会話の最中、右手で腰の刀を掴むように見せかけ、抜き身の刀を持ったままでいた。それを放つのをまもりは見切ったわけである。
まもり(受けをはずして小手を貰った!)
が、まもりの小手打ちは、もう一つの刀の柄で抑えられていた。
〈がんっ〉
そもそも小鳥は何を掴んでいたのか。
小鳥は右手で抜き身を掴み、左手で腰の刀の濃口を掴んでいた。
そもそも何のためか。
まもり(何が目的だ!? 柄を使った―居合の技か!!)
小鳥と三間五木の流派・林崎真伝流には大小二本を用いた『両刀居合』がある。抜いた脇差しと差したままの柄で相手を倒す型があり、それに則った操法を今の小鳥は見せていた。
まもり(今まで多用している柄当てか!? 一旦避けろ、小鳥は距離をとれない。近づかせようとしている!!)すっ
型の通りならば、星合に向かう脇差しを囮に相手を動かして柄当てで相手の首に突き入れる。まもりの推測は当たっていた。しかし型は身につけてあるものでありそれを推測されても問題がない。
まもり(…!?)
むしろ小鳥は推測をさせた。直近で見せた柄当てからの抜刀――それに似せたのはあえて直近だからであり、小鳥は反射的に見せてしまった技をもブラフに仕立て上げた。
ブラフに隠したのは『必殺』『居合』に並ぶ小鳥の第三の武器である。まもりにはついぞ気づけなかった、まもりに勝てる長所である。
まもり(跳んだ…?!!)
〈ひゅん…〉
小鳥は何のモーションもなく、軽々と、浮かび上がるように跳躍した。まもりの咄嗟の斬りつけを上回るその到達点は、己の身長をも一寸ばかしか超えている――造作もなく跳ぶ姿を前に鳥が空気を切る音をまもりは聴いた。
まもり(鳥もいずれ地に着くものよ!)
小鳥はさらなる跳躍を見せる――落下の瞬間を狙うまもりを嘲笑うかのように、壁を蹴り上がって。一歩二歩とよじ登り、最終的な到達点は3メートルは超えていた。あとは落下するだけである。
まもりは瞬間的に悟った。
――小鳥『真の必殺を食らえ』
まもり(受けきれない!。刀ごと頭をかちわられる!)
〈ビュンッ〉
小鳥「食らえー!!」
〈すかっ〉
小鳥「………」
まもり「………」
小鳥「………………」
まもり「重力の影響下、上空からただただ落下してる奴が攻撃を当てようって…。ライトノベルの読みすぎなんじゃないかしら?」
小鳥「ラノベじゃなくて小説だし…。というか今のは竜〇閃ぽかったよ。マンガ、マンガ」
まもり「あのさぁ――」
小鳥「わざわざ食らえって宣言してから大技食らわすって考えたお前のがマンガ脳だよ。私は必殺に繋げにくいから位置をずらしただけさ」
まもり「期待はずれはいいとこよ。今はうだうだ言い訳言ってるって女々しいわね」
小鳥「お前こそなぜ避けた。相討ち以上の成果を得られたぞ。食らえって発言に怯え」
志木まもりには回復の魔法がある――。
小鳥「あの高さから落ちた私は殺せただろ。お前は致命傷でも回復すれば立ち上がれる」
志木「賭けに出ずともあなたは満身創痍だし時間にまかせて……。はぁ??。あれ…?。えっ…??」
小鳥「お前に時間は残されてないわ。回復はもう機能しない。賭けに出るのも叶わないかった」
まもり「治せない…?? えっ?! なんで??」
小鳥「言葉で探ったがやはり気付いてなかったようだな。惚けた振りしてね、気づかせてやったわ――傷、なんで治してないんだ? 私を攻めたてるのに夢中だったの?」
まもり「治せない? 傷がそのままに――なんで…? えっ?? あれ?」
小鳥「違うよな、ついさっき攻めてる間に止まったんだよ。治してないのではなく治せなくなった、私のせいでな。切っても切っても魔力が尽きないから苦労したよ。気分はどうだ、まもり、えぇ?」
まもり「………。魔力切れ…なわけない…」
小鳥「いいわ、いい気味よ。まもりちゃん、回復にかまけたまもりちゃん。間に合ったよ。私がやられてしまう前に間に合ってよかったよ。何をしたかわかるかな?」
まもり「………」
まもりに時間が充分にあったにも関わらず血は未だに滴っている。
治せないのは客観的に見ても明らかであった、画面の前の観戦者達もその事実を受け入れ始める。
小鳥「天狗という毒だよ」
ーーー
能力者は自身の魂を入れ物に封じている。この入れ物は個人で様々であるがマスコットと呼ばれ、そこから外部にある肉体を魂が操っているのである。これは元々は妖怪や魔物の類と戦う時に魂を抜かれないための処置であると共に、肉体を激しい戦闘に耐えうるように生者としての限界を取っ払うためであった。人間はゾンビの不死身さをもってして、妖魔に立ち向かったのである。
だがしかし人間のこの行いには、一種の背徳を含んだ矛盾が満ち溢れている。ゾンビの不死身さ―されどまだ死んでいない―ゾンビと能力者の違いは魂は生きている点にあった。魂が枯れ果て死ぬときに能力者は完全なゾンビとなり、妖魔の側に落ちるのである。魂の枯れを満たすために妖魔の魂を人間として欲す必要があった。
能力者は背徳にゆらめいて妖魔の魂を欲している。能力者は妖魔に近づく者である。妖魔に近づくことで力を得た彼らは戦いの中で洗練されていった。その先で生まれたものが魔法である。マスコットにある魂をあえて枯らすことにより魔の力を発生させる。そして、魔力を消費し妖魔のように超能力を引き出せるようになった。
ここで着目してほしいのが、妖魔の魂を欲するのはまだ肉体と魂とが人間であるからということである。妖魔と違って魂を維持せねば肉体を保てないし、逆に、穢れきって妖魔になれば魂は体はおろか魔力すら心配する必要がない。人間であるが故に、魂を妖魔の側に落としてはならず、肉体が人間の側でなくてはならないのだ。
もし完全な人間である筈の肉体の側に妖魔の肉体が紛れた場合、魂にどのような作用を及ぼすのか? ――無事ではすまない。妖魔の肉体が人間の肉体を乗っ取ることはない。逆もしかりである。だからこそ人間の肉体に流れ込む魔力を妖魔の肉体が不可逆に取り込んでいく。人間の肉体には作用せず(何の反応も示さず)、ただマスコットの出す魔力に作用し漏電を起こさせる。
この作用を、小鳥が起こしたのである。六道の外道・魔縁の象徴たる「天狗」の名を関した毒は、妖魔の肉体を材料としていた。それをまもりの不死の肉体の中に仕込んだのである。天狗により、能力者は「生きながら」に妖魔の領域の境目へと至る。
ーーー
小鳥「この毒は肉体に摂取すると魔力に作用しマスコットを蝕みはじめ魔力をすり減らしていく。致死毒ではないが魔力を空っぽに出来る」
まもり「毒はあったのね!? 息切れの時の…」
小鳥「あっちは嘘だが、天狗は初めから仕込むつもりだったよ。魔力の流れは不可逆だ。マスコットが手元にない限り回復もできない。この決闘ルールで一番効力を発揮する」
小鳥、刀を霞に構える。
小鳥「わかるか、まもり。お前は罠にかかった野獣なんだよ」
まもり「…!!」
小鳥「必殺を当てる必要もない。罠にかかったお前を槍で突つくように狩ってやる」
まもり、構え直す、覚悟を決めたように。
まもり(相打ちは避けられない。相打ちで一手勝つしかない。考えろ、魔力枯渇は初めてだ)
小鳥(こいつは過ちを犯した、手遅れだ)
まもり(魔力がない。手段は限られる。私に何ができる!?)
小鳥(捨て身の相打ちは絶対に避ける。さっきの落下でしない――手遅れだから今もやらない)
まもり(刀はあるものしか使えない。小鳥が奪った刀、私が手にもつ刀で一対一)
小鳥(そして、あの落下切りは更に意味がある。位置の調整だ。今、私達は壁を背景にして睨み合う形だ)
まもり(小鳥は自身の刀があり一歩リード、いや、まだ一つあった。私が八寸胴の囮に捨てたのがある。拾えるかしら!?)
小鳥(刀を心配してあの刀を拾える位置をとりたくなる。取りに向かえば、私が回り込み、まもりは壁を背にすることになる)
まもり(小鳥の刀を一本破壊。こちらの刀を犠牲にし。私があれを拾えれば必殺とのサシ勝負になる。ここまで持ってこなくては)じりっ
小鳥(動いたな。やはりまもりは私の予想通りになる。両刀居合を見せたから恐れている。一刀では分が悪いと勘違いしているからな)じりっ
狙いの刀は小鳥が払い飛ばした訳で壁際に落ちていた。まもりは壁際には向かわず、狙いの刀を背に対峙する位置を取った。
まもり(壁に近づく訳にはいかない。まだだ。まずは刀を破壊する。それから隙を見て壁際に跳ぶ。すんでで全て見切るんだ)
まもりは打ち合いの末、武器破壊から柄を投げつけ隙を作ろうと考えた。その隙に後方に跳び刀を拾う。壁際の背水の陣で必殺との相打ち、そこで見切り相打ちにて勝つしかないと考えた。
が、それは『小鳥の予測』の範疇であり叶わない。
小鳥(裏をかけ。まもりの策を私が先んじて使ってやる)
ます、小鳥から攻めた。その一の太刀、その最初の最初に刀が触れ合うや否や、互いの刀が跡形もなく消えていた。
まもり(刀が…消えた…?)
断罪――魔法製の物質同士をぶつけ対消滅させる
断罪という魔術は小鳥の隠し種であった。
小鳥(あの時の判断で一本奪っといて正解だったわ)たんっ
小鳥は素手になったまもりに向かって詰め寄る。小鳥は柄に手をかけていた。居合の技か、必殺の魔法であった。
まもり(大丈夫だ、前後しただけだ。必殺は死ぬから必ず避けるのよ)たんっ
まもりは後方へ跳ぶ。武器を取らなければ相打ちで勝つ事など不可能だ。仮に今の攻撃を素手で防いだところで、居合の技の餌食だ。小鳥の優位を奪わなければ、武器を拾わなければ。
まもり(必殺となるのは首か胴体を両断した場合。着地でしゃがみ避けると同時に刀を拾う!)
しかし、小鳥が先にしゃがんでいた。詰め寄る小鳥は跳んだのでなくしゃがんだのである。小鳥は両足をぺたんと曲げて両膝を地につけている―正座だった。
〈!!〉
小鳥の必殺の魔法は居合道の母体・夢想神伝流の初伝初発刀の動きを前提にしており、それが必殺の条件についての真相だった。
まもり(なんで『正座』をしている??)
――第一の条件が正座をすること
まもり(これはつまりッ! これが必殺の条件だったの!?)
まもりは空中にいる。翼を持たぬ彼女に避ける術はない。
抜刀の瞬間は時が止まったような宙ぶらりんな心地がした。対し、小鳥は右足を出し強く地を踏み鳴らす。
――第二の条件・肩から伸ばすような水平切り
相手がまだ立っていたために膝蓋腱に当たっていた。
小鳥「断罪と必殺の合わせ技・『絶刀零閃』」ぼそぼそ
決して必殺の技ではなかった。掠るような脛切りである。
しかし、必殺になる太刀筋ではなくとも魔法は発動している。なら、掠るなら掠るぶんだけ必ず両断しているのである。
〈どさっ〉
志木まもりは座り込んでいた。辺りは血溜まりである。そこにべったりと。膝がついていた。
小鳥「今まで足を狙わないでおいておいた。最終的にこれを当てるために。斬り合いの急所でありながら剣道では打突部位にされていない足よ」
まもり「小鳥……あなた……」かちゃっ
小鳥「ふふん…お前はもう手遅れだよ。負けだよ」
まもりが刀を拾ってしまうが小鳥は脅威を感じない。まもりに居座の技はない。片手突きの連打の時に確認は終えている。
小鳥「次はたてないだろ。私のが弱いって認めるんだな。膝を着いて私を下から見詰めながら。惨めに降参するんだ」
まもり「誰が降参するもんですか」
小鳥「なら、最後は必殺で締めくくろう。お前の首をことりと落としてやる」
小鳥は棒立ちになっていた。そこから必殺で正座になればちょうど首をはねられる。正座という制約が今この瞬間のためにあるようにも感じられた。
小鳥(勝ったな。あとは見せしめに首を跳ねるだけだ)ひゅん…
小鳥は勝利の余韻に浸りながら血振るいをした。残心もなく、刃の銀色だけが空にきらめいた。刀を取られる心配もない――緩慢な動作で納刀に移ろうとした――その刹那!!
〈ずぶっ〉
小鳥の胸に刀が刺さっていた。
小鳥「はああああ?」
志木まもりの光速突き
小鳥(なんで!? どうやって!? なんで?!?)
まもりは立てないはずなのに平然と立って構えている。
〈どさっ〉
小鳥は痛みを堪えて座り込む。それをまもりは見下ろした。
まもり「私も驚いてるわ。膝は切断されていない…。必殺を使うの忘れてたの?」
小鳥「間に合わなかった…!」
ぴたぴたとまもりの刀から血が垂れる。傷は深いようだ。
まもり「小柄ね… あなたの刀は魔法製で仕込めないから小柄に仕込んでおいたのね」
小鳥「!? ぐふっ…」べちゃ…
止まらない吐血と驚愕。
まもり「………」
小鳥「ぐがっ…ぐぁ…ぐぁ…」べちゃ…べちゃ…
止まらない震えと恐怖。
まもり「………」
小鳥「ひっく…ひっく…」べちゃ…べちゃ…
まもり「ながい射精ね…」にやにや
小鳥「ひっく…ひっく…」びくんっ
まもり「そろそろ収まったかしら?」
小鳥「ぐぅぅ…ぅうぅぅ…」びくっびくっ
まもり「にしてもね毒を自分でくらっちゃったんだ?」にやにや
小鳥「胸ぎぃあが! ぐああ…!」
まもり「一人で盛り上がってないで話聴きなさいよぅー」にやにや
小鳥「ぐぅぅ…ぅうぅぅ…」びくっびくっ
まもり「胸突きされたくらいで敏感すぎぃ」にやにや
小鳥「はっじ…ぃい…ぐぅ…!」
まもり「ん? 目に指つっこんだ時の慌てようは怪しいわねって思ってたのよ」
はあーはあー
小鳥「あ…あん。あんうならあ…。んあらなん…で…」
まもり「? 次は何を言ってるの?」
小鳥「ぺっ…」べちゃ…
はぁ…はぁ…
小鳥「…わからないッ。私のが後に食らったのになんで…」
まもり「あなた、魔力が元から少ないからね…。私と違って才能がないって言われたでしょう?」
はぁ…はぁ…
まもり「魔力は不可逆。いくら鍛えられたって魔力は増えないわ。残念だったわね――惨めね」
小鳥(私は毒の強さを見誤ったのか…!)
はぁ…はぁ…
まもり「そんなことよりやりましょう」
小鳥「く…来るな!」
まもり(やさしい小鳥の血。胸元から垂れている…)
まもりの興奮。小鳥の体を見つめるのをやめられなくなっていた。
まもり「私を楽しませなさい。小鳥の美しい歌声を聞かせてもらいたいわ」
小鳥「や…やめて…。もう動けないから」
まもり「やめてって…私はあなたの気持ちがわかってるわ。私はあなたが大好きだもの」
小鳥「勝負は…ついたから。やめて…やめてください」
まもり「またまたぁ~。素直じゃないんだからぁ~。――ってことで約束通り、次はこっちが太刀やるわねぇ~」
まもり、せいがんの構え。
小鳥「許して。許してよぉ。もう痛くて、私もうしょうがなくて――」
まもり「痛みも羞恥もいずれは気にならなくなるわ。気持ち良かったらそれでよくなっちゃう……そうでしょう?」
ーーー
五木「やっぱり小鳥にはまだ実戦は早かったかね…」
ーーー
アラン「ちぇっ…、使えない子だなー」
ーーー
かくして小鳥の最後の悪あがきは終わった。かくして試練の終わりの鐘が鳴り響く。用意した毒を使ってすら勝てない、小鳥の完全な敗北を知らせる、鐘がなったような悪あがきのお終いだった。
まもり「一度膝ついても立ってみなさいよ。私だって立ったのよ。あなたのもまたちゃんと立つわよ」
小鳥「私はもう動けない!! 降参だ。決闘は私の負けでいい」
まもり「大丈夫、まだあなたは立てるわ。受け入れなさい。痛みを通り越して快感になるのよ! 巡るめく快感に変わるわ!!」
小鳥「私の負けです。ディツェンベル様、早く審判を。私の負けです。お願いします」
まもり「早く立ちなさい。刀を構えなさい。勃起したところを隠しなさんな。私は今、血で乱れたあなたに我慢してあげてるのよ。あなたが我慢してるから」
小鳥「助けてください。後生です。お願いします」
まもり「なのにあなた、我慢する必要ないでしょ。プライドが邪魔してる、快楽を受け入れなさい。痛みを受け入れるのよ!!」
小鳥「私の負けです。私の負けですから。私の負けです」
ーーー
ディツェン「………」トン…トン…
ディツェンベルはスマホを操作している。
ーーー
まもり「うひょっ。もう我慢できないっ」
〈かんっ〉
小鳥「痛い!?」たらー
〈がんっがんっずばっ〉
まもり「感じてるのねっ!?」
〈かんっがんっ〉
小鳥(マスコットがオシャカになった。だから肉体の外付けが意味をなしてない。感覚を正常に遮断できないのか)
〈がんっがんっ〉
小鳥(掠り傷でも致命的だ。今までの通りには動けない!)
ーーー
逍遥「刀を奪えたのは小柄を投げたから。しょうがないけどあれが敗因か…… 小鳥はしゃーない」
ピー、ピー、テレビ電話の着信音
逍遥「けど、ディツェンベルは何をしている?」
ーーー
ディツェン「………」トン…トン…
ディツェンベルはスマホを操作している。
ーーー
小鳥(閉幕はまだか。何かトラブルがあったんだ)
〈がんっがんっ〉
小鳥(対応が遅すぎる。何かトラブルがあったんだ)
〈ずばっがんっ〉
小鳥(まもりが手を止めるってことはない。それでも私はこらえきれるのか!?)
〈がんっがんっ〉
小鳥(守ってたら攻撃はやまないし、トラブルがある以上ただ助けを待つ訳にもいくまい。少なくともすぐに助けはこない)
〈がんっがんっ〉
小鳥(いつになる!? どうすればこらえきれる!? 掠り傷しか受けてないが致命的だ。痛い。どうすればいい!?)
ーーー
五木「魂を預けてるから死ぬことはない。体が死ぬまで続行するかはディツェンベル次第だ。魂が無事なら死ぬことはないからな」
五木は立ち上がる。
五木「けれども続けるメリットがない。興行を優先するにしても見苦しいから終わらせるはず…まだか??」
ーーー
ディツェン「よし………」トン…トン…
無音の中に呟きが漏れる。
ーーー
テレビから悲鳴。小鳥は痛みに耐えかねていた。
チャン「まもりが前に出てきた途端これか。今まで運が良かっただけか。つまんね試合」
ーーー
ディツェン「………」トン…トン…
ディツェンベルはスマホを操作している。
ーーー
〈がんずばっ〉
小鳥「うっ………うっ…………」ひゅん…ひゅん…
〈がんっがんっ〉
小鳥(消耗しては体も刀も持たない。勝ち目はなくなる)
〈がんっがんっ〉
まもり「感じてくてるわね。本気出しちゃおうかし――」
〈すかっ…〉
まもり「あれっ??」
〈すかっすかっ〉
小鳥「刀は…なしだ……」
まもり「刀が消えた…。さっきのか…」
小鳥「断罪――という物質を消す魔術だ」
両者は睨み合う。
まもり「なんで断罪しちゃうのよ。びびってんだー。びびってんだー」
小鳥「違う。びびってない。消耗すれば――」
まもり「一回マウントとられた時に素手では勝てないと学ばなかったの?」
かん、と鐘がまた鳴った――
小鳥(ああっ! 私には打つ手がないのか!)
まもり「今さら負けに気付かされたような表情ね。かわいいな」
すた…すた…
小鳥「な!? 来ないで! 来ないで!」じりっ
まもり「褒めてるのに。素直じゃないんだから」
すた…すた…
小鳥「謝るからやめて。やめてください。後生だから」じりっ
まもり「今から楽しみましょうって言ってるんじゃない」
すた…すた…
小鳥「私にはその気はないし! 負けを認めるからやめて!」
ぴたっ
まもり「嫌がるのは恥ずかしさの裏返しでしょ? あなたは私が好きなのよ。始めればきっと楽しめるわ。魔法の素質はないあなただけれど、こういうことにはたぶん潜在的な素質がある」
小鳥(こいつ、もう出来上がってる。完全にやる気だ)ぶるっ
まもり「どちらにもちんこついてないから、こういうプレイしか出来ないけれど」がしっ
小鳥「はっ」
小鳥(怖気づいた隙に掴まれ――)
どさぁ…
まもり「痛み分けましょう」
小鳥「はぁ??」
一瞬で訳もわからず内股で投げられた小鳥。
まもり「ひぃちゃん。昔みたいにやりましょうよ」はぁはぁ
小鳥(ああ逃れられない!!)じりっ
小鳥は訳解からなくなって無防備に逃げ出す。まもりに背中を向けただただ這いずり、どうにかこうにか逃げようとする。
まもり「四つん這いで構えられてもさあ。ちんこはないんだって…言わなかったかしら…??」
小鳥(逃げなきゃ…!。逃げなきゃ…!。寝技になってはダメだ!!)どたどたどた……
まもり「あらそんな速く動くの。鍛えられた足腰だこと。アナル締りも良いんわね。がん堀したいわ私もほんと」はぁはぁ
すたすた…すたすた…
まもり「尻振って誘っちゃって…。そんなに欲しいのね。なにか突っ込めるものあったかしら。刀は生成できないし」
どたどたどた……
まもり「そうだ。まだ鞘が残ってたわ。おまんこに突っ込んであげる。アナルも寂しいわね。あなたの鞘、貸してよ」
すたすた…すたすた…
まもり「いやあなたの鞘は私よ。私がつっこまれ。私はあなたの鞘ずこずこされ。あなたは私の鞘で…ぶっ刺し合わないか?」
どたどたどた……
まもり「でもそれじゃ、お尻が寂しいわね。あなた、欲しいのよね。どうしたものかしら… どうしましょ…」
すたすた…すたすた…
まもり「――あ、そうだ。二穴双頭ディルドーみたいな、鞘の反りを使って上手く出来ないか?」
どたどたどた……
まもり「あえてクロスしたらジースポットと前立腺、シーソーみたいな感じにぎしぎし刺激しそう。どう? 貸してくださらない。お互いの穴に互い違いに挿入して…。名づけて『相互 二穴 鞘ディルド』」
すたすた…すたすた…
まもり「ほら、あなた、さっきちらちら私の鞘見てたでしょ。むっつりさん。私も刀ガン見してたけどあれのお…返し……??」
小鳥、いきなり立ち上がる。走り出した。
まもり「あなた、起ったのね。立った、立った、小鳥が立った」たたっ…!
まもりも走って追いかける。
まもり(また投げてやるわ)たたっ…!たたっ…!
小鳥(振り向きざまにかけれるのは足技だけだ。警戒を怠るな、足技を避けろ)
まもり「捕まえたわよ」とっ
がしっ
小鳥(足払いだ!! よしっ)
すかっ
小鳥(隙あり。関節に蹴り――)
どさぁ…
小鳥「はぁ??」
蹴り足を払われたのは小鳥
まもり「燕返し…」
小鳥「何が起こってるぅぅーっ!!?」
小鳥は―嵌めたにも関わらず―何も出来ずに地に伏していた……!!
小鳥(な、なんで…!? 何が起こってるんだ?!!)
小鳥は汗に塗れる。真夏の夜に嫌な夢を見ているように。
小鳥(早く立たなきゃ。早く逃げなきゃ)
がしっ…
まもり「また立つのね。また投げてあげる」
小鳥「やめて…。お願いだから」
まもり「立つから投げられたいのでしょ?」
小鳥(小内刈り…!! いや――)
とんっ
まもり「頭からパーンって潮吹きさせてあげる」
すかっ
小鳥(背負い投げだ!! かかるかよッ!)
ふわっ
まもり(投げやすすぎるわ……ほんと綺麗に…)
どがァァっ!
小鳥「あぅ……!!? ぅぅ………」
巴投げが決まっていた
まもり「ふぅ……」
まもり(背中がひんやりしてきもちいいわ)
動かぬ小鳥
まもり(あなたの横で。しばらく安らかに眠ろうかしら)
〈じゃりっ…〉
まもり「じゃりっ?? あら、綺麗に投げすぎちゃった、てへっ」
小鳥「げほっ…げほっ…」
小鳥(受け身は取れた…か? 頭は打ってない…)
まもり「散々お預け食らったんだし私も思わずしちゃったわー…」
小鳥(背中を思いっきり打った。吐き気がする…。一瞬、気を失っていたかもしれない)
ぐらっ
小鳥「っと!」ばしっ
まもり「ふふっ。くらっとしちゃった? そんなにお預けされるの嬉しいのー?」
小鳥、ゆっくり立ち上がる。まもり、応じて先に立ち上がる。
まもり「あなた、かわいいわね」
小鳥、しっかりと立ち上がった。
まもり「またお預けね、うふ」がしっ
どさぁ…
小鳥「つっ…」
――大外刈
小鳥(これは悪夢なんだ。いつもの悪夢なんだ)
立ち上がる
まもり「どんだけ元気なのよ。幾らでも起つのね」
小鳥(人さらいにあったあの頃から私は悪夢の中にいる。現実でも夢の中でも負け犬として踏みにじられてきた)
がしっ
小鳥(私は羽ばたけない。夢の中にいるのに羽ばたけないんだ)
まもり「………」にやにや
小鳥(いくら走り回ったってベットは飛びやしない。夢の中で)
ふわっ
小鳥(あの頃から見ている悪夢だ。私は悪夢しか見ない)
どさぁ…
まもり「あなた、大好きよ」
小鳥(でも、これは現実だ。そしてやっぱり私は勝てないんだ)
ーーー
照明が落とされて暗かった。
静寂。誰もいない。
長の部屋は既に無人だった。
ーーー
敗者に鐘は鳴り響く――。
小鳥(武器をッ! 何か武器はないのか!?)
小鳥は何度投げられていたことか。
頭を割られることは未だなかったが何度も揺さぶられた。
しかし、いやに頭は落ち着いていた――。
小鳥(逃げてても拉致があかない。現状を打破できる石ころ一つでも縋りたい!)
小鳥は投げられては逃げ、掴まれば投げられを繰り返していた。
彼女は何度も地に伏されこのまま眠りたかったが、悪夢の中へと眠ることは彼女の魂が許しそうになかった。
小鳥(どうすれば! どうすれば!)
現実は鮮明に写り眠ることはない――。
敗者に鐘は鳴り続ける――。
どさぁ…
どんっ
ふわっ
どさぁ…
どんっ
どさぁ…
どんっ
ふわっ
どさぁ…
小鳥「私はいつまでこれを続ければいい…? いつまで続くんだ?」
どさぁ…
どんっ
ふわっ
どさぁ…
小鳥(助けてくれ…。なんでもいいからなにか…)
どんっ
どさぁ…
小鳥「!!!」ちらっ!
どんっ
ふわっ
どさぁ…
どんっ
ふわっ
どさぁ…
小鳥(……そ、そうだ…。アレだ!! 武器はまだある!)
小鳥、最後の力を振り絞って走り出す。藁にも縋る思いだ。
まもり「待っちなー。待ちなさいよーだー」だっ
小鳥が向かった先は――
小鳥(取ったぞ。私は『竹刀』を取ったッ!)くるっ
まもり「ん!?!」
小鳥(私が有利を得たぞ)ぶんっ
ドカッ
まもり「うぐっ」
小鳥「面!!!」
しっかりと入っていた。まもりは首を捻ったままに動かずにいる。
まもり「あぁ……」
小鳥「はぁはぁ…」
まもり「あぁ〜、気持ちいいわ〜、最高だわ〜」
小鳥(まるで効いてない)
じろっと睨み合う
まもり「はぁはぁ…」
小鳥「はぁはぁ…」
まもり「あなた、かわいいわ!。最初はあんな態度で竹刀を放り投げてたのに、今はすがるように拾って面なんて叫んじゃうなんて!」
小鳥(体力は大丈夫だ。限界まで動ける)ふー…ふー…
まもり「ときめいてる! ぞくぞくするわね! どストライクにもえることしてくれたわ! ときめいてくる!」
小鳥(このまま有利のまま狩ってやる)
小鳥、晴眼に構える。剣道の構え方そのものの晴眼だった。
まもり「……ほぅ…」ぞくっぞくっ
小鳥「何度だって打ち込んでやる…(お前が立たなくなるまで!)」
まもり「あなた、やっぱり剣道好きねー…」
小鳥「――やってやる! お前が立てなくなるまで!」
まもり「嬉しいこと言ってくれるじゃないの。私も剣道大好きよ♡」
小鳥「殺す!!!」ひゅん…
どかっ!
がっぼかっ!
がしっ!
ぼかっ!
がっぼかっ!
まもり(もっと打て! もっと打て! まだ私物足りない!)
がっぼかっ!
がっぼかっ!
小鳥「面! 面! 胴!」
がっぼかっ!
がっぼかっ!
まもり(くっ…ちょっと届いたかも! がんばれ! がんばれ!)
まもりは効いてるかのように後退りし、小鳥を心から応援する。
小鳥「小手! 胴! 胴!」
がっぼかっ!
がっぼかっ!
まもり(がんばれ! がんばれ! 童貞並みね、かわいいぞ! がんばれ!)
がっぼかっ!
がっぼかっ!
小鳥「面! 面!」
まもり「ちっ…」いらっ
がっぼかっ!
がっぼかっ!
まもり(がんばれって言ってんでしょーが! ぜんぜんダメ! 頑張ってもほんとダメ! まるでダメ!)
がっぼかっ!
がっぼかっ!
小鳥「面! 胴! 小手!」
がっぼかっ!
がっぼかっ!
まもり(手伝わなきゃ! 手を出さなきゃ!)ぺっ
小鳥「面! めn……」
べちゃっ
小鳥「!!? …?! (み、見えない。血を…かけられたか…!)」
小鳥、まもりにかけられた血を拭う。下がりながら。
まもり「どんだけ私を快楽に溺れさせたいのよ。まだ全然よ…。あなた、竹刀じゃ物足りないわね」
ひゅん…
まもり「打ち合いなら満足できそうに思えるわね。一緒に快楽の海で楽しみましょうよ」
………。
見えるようになった視界に、竹刀を構えるまもりの姿。
小鳥「あっ…!?」
小鳥(竹刀を拾われた)
まもりは竹刀の調子を確かめている
ひゅん…ひゅん…
小鳥(あぁ…忘れていたぁ! こいつも竹刀を…使えるかぁ…)
ひゅん…ひゅん…
小鳥(うぎぎっ…こいつ、わざと食らって下がっていたのか!!)
ひゅん…ひゅん…
まもり「この竹刀は大丈夫ね。これならあなたを充分楽しませることが出来そうね」
小鳥(どうする…!? 勝ち目があるのか??)
まもり「私、わかってるんだからね」うふっ
小鳥(竹刀を落とさせないとどうにもならない。だが、剣道で戦って叩けるわけない)
まもり「頑張ってね。おねぇさん、有利なんだから」
小鳥(違う、防具はない。決めた。小手と見せかけ、籠手に守られていない指をへし折る)すっ
〈たんっ〉
まもり(来た!!)すっとんっ
かんっ
小鳥「小t……」
びしぃ!
まもり「シエッシッェシッエエエエオオオオ!!!」
――小手すりあげ小手
小鳥「はぁ…??」
腕に力が抜け竹刀がこぼれ落ちる
小鳥「グゥぅ……」ずきずき
まもり「痛いでしょ、気持ちよくない? 早く拾いなさいよ」
小鳥「痛くなんかない! このくらいでへこたれるか」がしっ
まもり「気持ちよくないならなるまでやったげるわ。すぐに打ち合いを続行しましょう」
両者、晴眼で構える。
小鳥(隙がない。攻めたら打たれる)
ずきずき…
まもり(にや…)
たんっ
小鳥(まだ来ない。どうくるん――)
ひょい…
――飛び込み銅
ドカァァ!!
小鳥「うぐぅ…」
まもり「ドゥオァ!!」
ずきっ
小鳥(反応が追いつかなかった。起こりが見えない)
まもり(にや…)ひゅ…
小鳥(いや、狙ったのか。私が痛みで無意識に刀を……上げ…)
かちっ
小鳥「!?」
たんっ
小鳥(鍔迫り…う、裏交差……!?)
ひょい…
小鳥(え?? あっ……)
ドガァァ!!
まもり「ドゥッ!!」
――引き銅
小鳥「うぐぅ…」
まもり、距離をとる
小鳥(裏交差と見せて、私の刀を浮かせたのか!? その瞬間に…これは引き銅か!?)
まもり、距離をつめる。
まもり(あなたの癖よ。その三所避けも。昔からね)にや
たんっ
小鳥(来た。面を返して……)ひょい…
ドガァァ!!
まもり「ドゥア!! ドゥア!!」
――引き逆胴
小鳥「うぐッ…!?」
まもり「痛みを受け入れなさいと言っている。何を恐れているの。何を恐れている…?」
小鳥「………」ぜー…ぜー…
まもり「あなたは今日から生まれ変わるくらいの気持ちになりなさい。あなたは『目覚める』のよ。私と今から深く深くへと愛し合っていくのよ? わかるかしら?」
小鳥(肺が痛い。胴に入った。呼吸が乱れている…)ぜー…ぜー…
まもり「深く深くへ、愛し合って深く深くへ。深い底で痛い痛いと付き合ってどんどん深く、意識は深く体は痛い痛みと絶頂を迎えましょう」はぁ…はぁ…
小鳥「………」ぜー…ぜー…
まもり「深いそこであなたと私は深く深く繋がる愛を…実感するの!! 痛みは絶頂を迎え続けあなたは体を気持ちよさに震わすわ。私と一緒に竹刀を突き合って突き合って…あなたは止まらない!」
小鳥「………」ぜー…ぜー…
まもり「あなたはその時に目覚めるのよ。深い深い愛のそこで私とあなたはひとつになったような感覚、がんがんと体を揺らす絶頂の感覚、巡るめく快感に、あなたの潜在した性癖は発露する!!」
小鳥「くっ…」はぁ…はぁ…
まもり「目覚めましょう、本当の自分に。私はあなたの体を竹刀で叩きまくり、あなたの自我を切り刻み続けるわ。そして、本当のあなたは目覚めるのよ」
ーーー
五木「ディツェンが電話に出ない。何かが起こっている…」すっ…
三尺三寸の刀を引っ掴み腰に帯びる。
五木「…小鳥にもう逆転の目はない。直接乗り込んでやめさせるようディツェンに言いに行こう」
ーーー
小鳥(こんなにも当たらないなんて……)
敗者に鐘は鳴り止まぬ。
ごんっ
かんっ
いやに頭は落ち着いていた。
ごんっ
かんっ
小鳥(いつまで続くんだ… 終わらない…のか…)
かんっ
鮮明に写り眠ることはない。敗者に鐘は鳴り止まぬ。
ごんっ
ごんっ
始まりの鐘のない戦いに鐘がなっていた。
まもり「竹刀に重りを仕込んでいるね」
小鳥「はぁ…はぁ…」
まもり「最初から始まっていたのか。ディツェンが上の者からと渡してきた竹刀だけど、本当はあなたが渡してきていた」
小鳥「はぁ…はぁ…」
まもり「開口一番に竹刀のことをいいそれに注視させる。初手をあの掌底のタックルで決めるために、重りで竹刀を立たせて私の視線を奪った」
小鳥「はぁ…はぁ…」
まもり「結果、私は体術で競うってことをさけ無意識的に剣で戦いだした。竹刀の一連のことで剣術を煽ってたのもあるし、あなたが私の知らない転ばし方を知っている恐れでね」
小鳥「はぁ…はぁ…」
まもり「中々やるじゃない。今はそのせいて若干、不利かしら。その竹刀、扱いやすさはどう?」
ごんっ
かんっ
ごんっ
ごんっ
かんっ
始まりの鐘のない戦いに終わりの鐘が延々と鳴り続ける。
まもり「素敵よ…。竹刀勃たせてるだけで素敵ね。こんなに打たれてもまだ立ち向かってくるのね」
小鳥「はぁ…はぁ…」
まもり「まだまだ始まったばかりよ」
ごんっ
ごんっ
ごんっ
…
…
…
その後、ある時に鐘の音はやんだ。
つまらない芝居に飽きたディツェンはスマホで遊んでおり、夢中になっており、小鳥の降参に気づかないでいた。三間五木が観戦室に乗り込むことでやっと彼女は事態を把握した。悲しいことに小鳥は、その頃には意識を失ってただ打ち続けるだけの人形になっていた。
〈雑記〉
物語シリーズ.好き。その合間に書かれた刀語、時代小説風味で嫌いじゃないし好きじゃないよ。
メフィスト出身みたいなもんかね。
同じ出身のヒーラー良い子ちゃんもどき嫌いじゃない。
ほんと存在が笑える。笑えるからセーフ。
同じ出身の純文学のヒモ(恥ずい奴)も嫌いじゃない。
こいつも存在が笑えるからセーフ。笑える、うふふ。
舞城?。知らない子ですね。
ジョジョのつまんなかったから興味ない。無毒化ワクチン。
西尾維新しかろくに残ってないよね、メフィスト、あれ、ファウストだっけ。ゲーテ(笑)。太田??
ファウストだった、うふふ。
西尾維新ウィルスが他ジャンルに侵食する。
信者は嫌い。それと同じ理由でワクチンが漫画やアニメを通して散布されねばと思う。
咲の凄さに気付かなかった異能力バトルクラスタが沢山いた。
奴らはめだかボックスにハマっていた。
その時から異能力バトルは衰退しました。クラスタは衰退しました。
おかゆ うま。うまかっ です。
せりなずな、ごぎょうはこべら、ほとけのざ。
金!! 暴力!! SEX!!
ワクチンが二つあればわくわくなチンチンなんですよ。
ピンキーは置き去りで。あたいはドッカーン!!
西尾維新ウィルスもセカイ系のレトロウイルスに過ぎないよ。
ポジみたいなもん。
豆しば知ってるhivって毒性が薄まってるんだって。
そのための右手。そのための拳。金田まさるの大冒険
go is god は死んだ