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召喚士が行く縁結びの冒険  作者: フクロウ
第一章 縁は異なもの、味なもの
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016 思いがけない援軍

 枷って……傍から見ればまるきり犯罪者の扱いではないか。

これでは無実を証明できても、確実に悪質な噂が学園中に広まるだろう。

さりとて、ここで抵抗しても展開が悪化するだけだ。

最悪、背後の戦闘狂じみた兵士にクーもろとも殺されて終わりだ。

打開の手立ては思い浮かばず、もはや流れに身を任せるしかない。

〝彼女〟の声が聞こえたのは、諦めかけていたその時だった。


「待ちなさい! 何をやっているんですか!」


 殺伐とした空気が漂う校門に、突如として響く一人の女子生徒の声。

多くの生徒が野次馬を決め込み素通りする中、

その生徒は自ら進んで兵隊の中に割って入ってきたのだ。


 何者か知らないが、怖い物知らずにも程があろう。

こんなおっかない兵士がいるというのに、

どういう目にあうか知れた事ではないぞ。

しかし、その乱入者を目にした将軍(ジェネラル)含む兵士の反応は、

僕の予想したソレではなかった。


「げェ!? 何でこんなとこにッ」

「あなたは――」


 兵士たちは皆慌てふためき、

その視線は警戒すべき対象である所の僕から女子生徒へと移る。

将軍(ジェネラル)に恐れず真っ向から意見を述べる事が出来る戦闘狂の兵士すら、

己が役目である僕の拘束を放置して飛び退くように後ずさる。

あの将軍(ジェネラル)も、女子生徒を見て驚きを隠せずにいる。


「今度は一体何なんだよ……」


 これ以上の厄介事は正直勘弁願いたい。

そう思いながら周囲の兵士の視線の先――

乱入した女子生徒がいるであろう方向に振り返る。

そこで見た女子生徒は、昨日会ったばかりの顔見知りだった。

顔見知りではあるが、いや、しかし……

なるほど、これは兵士たちが困惑するのも頷ける。


「その方は私の恩人です! にも関らず、その仕打ちは何ですか!」

「……うっそ」


 腰辺りまで伸びた煌びやかな金髪に、宝石のような翠眼(すいがん)

出会ったばかりの彼女は派手な装飾が施されたドレスを身に纏っていたが、

今は学び屋である学園に相応しい学生服姿だ。

という事は、あの話はおそらく本当だったのだろう。


 彼女――第二王女シャルロッテ・フラッド・リアリスが、

ここ魔術学園の一生徒だという噂は。


「姫……何故このような場所に? というより『認識阻害』の魔導具は?」


 将軍(ジェネラル)が平静を装いつつも王女様に問いを掛ける。


「私は魔術学園の高等部二年生です、

この場にいるのは当然でしょう!

それとあの指輪は外しました。

王女として、是非ともお会いしたい人物がいるので」


 高等部二年って、僕と同い年じゃないか。

そんな身近にいたのに今まで気付けなかったのは、

将軍(ジェネラル)が言っていた魔導具による装備スキルのおかげだろう。


『認識阻害』か……聞いた事はないが、。

名前の響きからして盗賊(シーフ)暗殺者(アサシン)のクラススキルと似たようなものに違いない。


「おいおい、誰だあの子。あんな可愛い子今まで学園にいたか?」

「すっごい綺麗な髪……羨ましい」

「あの将軍(ジェネラル)もうろたえていますし、何者なのかしら?」


 突然の見慣れぬ美女の登場により、校門は途端に騒々しくなる。

僕が近衛兵に絡まれてた時は無関心だったくせに、現金な奴等め。


「……何だ、オレの聞き違いか?」


 動揺から落ち着きを取り戻し出した近衛兵から、

あの戦闘狂じみた兵士が真っ先に口を開く。

その声色はどこか不機嫌そうだ。


 先程まで背後で拘束されていたせいで姿を見る事が叶わなかったが、

今になってようやく彼の姿を視界に収める事が出来た。


「……ッ!」


 その姿は、一言で言えばまさしく異形。

近衛兵特有の銀の鎧を一応は身に着けているが、

両腕の部分は剥き出しになっている。

軽量化が目的かとも思ったが、どうやらそうではないらしい。


彼の両腕の肘から先は茶褐色の固い岩石のような外皮で覆われており、

そこだけが不自然に盛り上がっている。

彼の場合、その一部分に限って言えば皮膚こそ鎧と言えるのだろう。

または、そもそも鎧の構造からして着けられないのか。

そして何より目を引くのが、額に生えた同色の角。


「バルキュロス……」


 戦闘に特化した、多種族にはない固い外皮と角が特徴の人型種族。

冒険者というあちこちを渡り歩く職業柄故か、バルキュロスは良く見かける。

見掛けはするが、一般的なバルキュロスは、

異形であっても徳と義を重んじる礼儀正しい種族である。

しかし、この戦闘狂はどう見てもその枠組みから外れているに違いない。


 バルキュロスの兵士は岩石のような手で僕を指差しながら、

その三白眼で王女様を睨み付けるように言う。


「姫さんよゥ、アンタさっき、コイツが命の恩人だっつったんですか?」


 王女様に対してなんて不遜な口の聞き方だ。

しかし、周囲の誰も、上官である将軍(ジェネラル)ですら彼を責めようとはしない。

慣れているのだろうか。

慣れるなよ。


「はい、この方は私の命の恩人です」


 王女様は彼の視線に怯むことなく、ハッキリと答える。

命の恩人って……まぁ、間違いなく僕の事だよな。

あの炎の槍の軌道を逸らした後、王女様とは一度顔を合わせている。

勘違いされても無理はないが、僕はそもそもクーを追いかけただけであって、

初めから王女様を助けようとしていた訳じゃないんだけどな。


 もっとも、その後クーが影の女を追いかけ始めたから、

碌に事情を話す事すら出来なかったんだけど。


「何言ってんすか、コイツァ正真正銘の襲撃犯っすよ。

証拠だってあるんすから」

「証拠?」

「ほら」


 言って、バルキュロスの兵士は将軍(ジェネラル)の横にいる兵士を顎で指す。

指された兵士は突然話を振られた事に戸惑いつつも、

僕のギルドカードを取り出し王女様に見せる。


「コイツの落し物ですよ。襲撃犯が逃亡した後、氷塊の上で発見された」

「……それが何か?

彼が氷の魔術を使用した際に落としたと考えれば、

極自然な出来事に思えますが」

「いえ、それはありえません」


 将軍(ジェネラル)がバルキュロスの兵士と王女様の会話に割って入る。

王女様は若干ふくれっ面で将軍(ジェネラル)を睨む。

その仕草がどこか子供っぽくて、初見に感じた大人らしさとはまた違った印象を感じられた。

服装が違うせいでもあるのだろうが。


「彼は氷ほどの稀少な属性を扱えるという記録はありません。

……奇妙な事に、四大元素全てを同時に扱ったという記録をありますが」

「そんな、カイネ……アナタまでそう仰るのですか」

「まだ確定した訳ではありませんが、重要人物には違いないかと。

ところで、姫は彼が氷の魔術を行使する場面を目撃したのですか?」

「え……えぇ! 終始目を瞑っていましたが、もちろん見てましたとも!」


 それは見てたって言わないです王女様。

まあ、確かに王女様が見たのは、

僕があの影の女を追いかける直前だけだったしな。

それまでずっとうずくまっていたので、

僕が――もといクーが氷の魔術を扱う場面は見ていなかったのだろう。


 将軍(ジェネラル)とバルキュロスの兵士は胡散臭そうな目でこちらを見ている。

忠誠を誓った王族の意見とは言え、

流石に全面的に信用する訳にはいかないだろう。

かと言って、このまま(ないがし)ろにする訳にもいかない。

そこで将軍(ジェネラル)は、王女様に対してある提案を申し出た。


「では、この場で彼が氷の魔術を扱える事を証明できれば、

我々も手を引きましょう」

「な――」

「おーそりゃー良い。何より分かりやすいしな」

「いや、証明するって」


 淡々と話を進める近衛兵たちに待ったを掛ける。

証明って、それはもう、この場で氷の魔術を使えって意味だよな?


「……ここで?」

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