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召喚士が行く縁結びの冒険  作者: フクロウ
第一章 縁は異なもの、味なもの
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001 世界の歴史は神秘と共に

○世界の歴史 序章 創造神の神秘


 昔、まだこの世界に大地も空も、脈打つ命もなかった頃。

静寂と暗闇が支配する空間から、突如として一つの生物が誕生した。

いずれ世界を生み出す聖者となるその命は、

産声を上げたその時から全知と無から有を生ずる神秘の力を持っていた。


聖者は神秘の力で大地と空を作り上げ、

木々や水、炎など多くのものを生み出していく。

それが後に、我々の住処となる世界となる。


 一通り基盤を作り終えると、

聖者は次に世界を管理するものとして命を生み出し、

それら全てに神秘の力と知恵の片鱗(へんりん)を与えた。

特に、自身と似た姿を持つ生物、人間にはより大きな力が与えられた。


 人間は与えられた知恵により文明を築き、貪欲にその個体数を増やしていく。

数に応じて団体が出来上がり、それは村となる。

そうして加速度的に文明が発展していく一方、生物全体に大きな変化が生じる。

命に心が、感情が、欲が芽生えてしまった。


 心を手にした人間の変化は著しく、

欲を満たすため人間は必要以上に他の生物の命を摘み取り、

自然を破壊していく。

いずれ人間の中で貧富の差が広がり、他の人間と戦争が勃発した。

戦争において剣や防具よりも重要視されたのが、

創造主から与えられた神秘の力である。


 神秘の力は後に魔法と伝えられるようになり、

戦況を大きく左右する協力な武器として扱われた。

戦争による魔法の発展は凄まじく、戦争では必ず魔法が、

魔法があるところでは必ず戦争があった。

しかし、魔法は数人がかりで行う大規模な術式がほとんどであり、

鞘から剣を抜くほど簡単に扱うことができない。


いつしか戦争では、魔法に威力よりも扱いやすさが求められるようになる。

そこで人間は知恵を絞り、魔法の規模を縮小し、

一個人でも扱うことが出来る魔法を開発した。

〝魔〟法を技〝術〟でもって扱う技――

今の我々が日々の生活を送る上で欠かせない魔術は、こうして誕生した。


 人間は魔術を用いてさらに住処と数を増やし、新たな文明を築き、

そして欲をかき、絶えず戦争を繰り返していく。

そういった歴史の中で、住処と文明に応じて姿を変えた人間が現れた。

人間の中で種族が誕生したのだ。

彼らは同じ種族通しで団結し、国を作り上げた。

以下に示すのは、誕生した計八種類の人間の種族である。


 オリジン――創世記からその姿を変えず、最も安定した能力を持つ種族。

 エルフ――空気に漂う魔力、マナの扱いに秀でた種族。

 ライカン――獣へとその姿を変える事が出来る、体力に秀でた種族。

 グレム――細かい作業を得意とする、小柄な体が特徴的な種族。

 バルキュロス――戦いに美学を求め、高い戦闘能力を有する種族。

 ローレライ――水中を住処とし、体の一部分を鰭に変える事が出来る種族。

 ドラゴニア――協力無比な竜の力をその身に宿す種族。

 オートマタ――出自が一切不明の機械の体を持つ種族。


 オートマタは比較的新しく人間の種族と認定されたため例外ではあるが、

種族誕生当初では種族間で戦争が絶えず行われていた。

互いに互いを異分子として世界から排除しようとする戦争は何世紀も続いた。

しかし、個人間での歩み寄りから始まり、団体での異種族交流、

次いでは国家間での和平交渉が広まり、次第に争いの火種は小さくなっていく。


 現在では一部の思想家による人種差別が僅かに見られる程度で、

人間は異種族とも手を取り合い、平和な日々を過ごすことが出来ている。

しかし、この平和は戦争で散った尊い犠牲の上に成り立っていることを忘れてはならない。


そして、快適な暮らしが送れるのは魔術、

元を辿れば人間の創造主である聖者が神秘の力を授けたおかげであるということも。


 多くの人々がその恩恵に感謝し、世界中で数多くの教会が信仰に掲げている。

信仰に応じ、信徒に救いを授けることから聖者を架空の存在である神に(なぞら)えて、

創造神ユミルと呼称している。


しかし、創造神を実際に目の当たりにした者は存在せず、

姿形も『人間に似ている』という情報以外皆無であり、

創造神の実在を証明できるものは歴史上のどこにも存在しない。

にも関らず、不思議なことに多くの人間が聖者の実在する事を信じている。

憶測でしかないが、創造神は創世記から今も尚、世界のどこかで我々を見守り、全ての人間に自身の存在を知らしめる魔法をかけているという――



――――



◆リコルピア王都リアリス 魔術学園学生寮


「――ふう」


 机の上に広げていた教本から目を離し、

両腕を上に上げて思い切り背伸びをする。

学園の授業の復習を行っていたのだが、序章で集中力が切れてしまった。

一通り目を通しておこうと思ったのだが、如何(いかん)せんやる気が出ない。


「参ったな……」


 リコルピア中央魔術学園。

僕が通う学園の名称であり、僕の住まう国、

リコルピアが誇る世界でも有数の規模を持つ学園だ。

基準として定めてある成績も他所よりも高い位置にあるため、

能力を示せない者は相応の処分を受けることになる。


現段階での僕の成績は平均値。良く言えば問題はない無難な状態、

悪く言えば余裕がない状態だ。

そして期末テストを迎えた今、

僕は崖っぷちとは言えないまでもそれなりの危機を迎えている。


「あ~。何で歴史ってこうも頭に入り辛いのかね」


 歴史が苦手という人間に対し、歴史が得意な人間は皆こう言うだろう。

『暗記するだけだし、簡単じゃん』と。

ふざけるな、そんな問題ではない、そんな問題ではないのだ。

確かに同じ国の出来事とか、

年代順に起きる事件を覚えるだけならそう苦労はしないだろう。


しかし、複数の国や人物が絡んでくると話は別だ。

覚えていくうちに頭が混乱していき、

結果として全てうろ覚えのような状態になってしまうのだ。

それが事前に分かっているとなるとやる気が削がれるのも仕方がないというものだろう。


 そんな言い訳じみた持論を脳内で大仰に語りつつ、

脚を意味もなくバタつかせていると、

すぐ近くの足元で何やら犬のような鳴き声が聞こえてきた。


「ワッフ、ワフ!」

「? クーか、どうしたんだ?」


 鳴き声の正体は、僕の使い魔(ファミリア)であるクーだった。

クーは真っ白な毛皮に覆われた蒼い瞳を持つ(てのひら)サイズの子狼であり、

その愛くるしい見た目に反して使い魔(ファミリア)としてもかなり優秀な能力を持っている。


 クーは真っ白な綿毛のような尻尾を振りながら、

ワッフワッフと何かをねだる様に鳴く。

クーと何の関係もない一般人や、

多少接点がある程度の者では今のクーが何を求めているのか分からないだろう。

しかし、


「ああ、散歩か。確かに、息抜きとして外に出るのも悪くないかな」


 このように、主である僕にはクーの言いたい事がハッキリと分かるのだ。

別に他者の心意を読み取れるような能力を持っている訳ではなく、

ただ自然と、同じ言葉を用いて話をするよりも通じ合ってしまう。

加えてクーの知能は人並みだ。


人語を解す事も文字を読む事だって出来るため、

こちらの意思も問題なく伝わっている。

その証拠に、散歩について前向きに検討している僕の発言を聞いて

クーはとても嬉しそうにしている。


 テストを控えたこの時期に遊び呆けて良いものかと思ったが、

行き詰った状態で勉強しても頭に入らない、とは学園での教師の弁だ。

何より、大事な使い魔(ファミリア)の要求を断ってでも勉学に励むほど

根を詰める必要はないだろう。


 ……決して、勉強したくないからではない。僕は決して言い訳なんかしてない。


 よし、決めた。

教本を開いたまま椅子から立ち上がり、しゃがんでクーの頭を軽く撫でてやる。


「それじゃ、少し出歩くか。軽く身支度するからちょっと待ってろ」

「ワッフ!」


 喜び勇んで足早に玄関へと駆け出すクー。

鳴き声はあげないが、早く早く、と急かしているようだった。

まったく、相変わらず可愛い奴だ。そんなに散歩が楽しみだったのか。

僕が外出するときはほとんど一緒にいるから、

余程天候が悪くなければ毎日散歩に行っているようなものなのに。

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