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2016年/短編まとめ

私に相応しいのは、誰ですか

作者: 文崎 美生

臭い、生臭い鉄臭い血生臭い――腐臭死臭、兎に角顔を歪めてしまう臭い。

お気に入りのパステルカラーだったはずのカーテンには、赤黒い液体が飛んでいる。

毛の長いカーペットにも、同じ液体。

白い壁のは塗り替えなきゃどうしようもない。


「お帰り」


「……何してんの」


人の家で、そんな言葉は飲み込む。

いつの間に合鍵を作ったのか、とか、私の部屋で何をしているのか、とか。

聞きたいことは大量にあるが、吐き出せそうにない。


部屋の真ん中で立っている男は、にっこりと人懐っこい笑みを私に向けた。

薄暗い部屋に溶け込む黒髪が揺れている。

首だけで振り向いている男の頬には、部屋中に飛び散った赤黒い液体。


男はニコニコと笑顔を見せながら、その足元にある何かを蹴り上げた。

反応はなく、ゴロリ、重そうな音。

あーあ、心の中で吐き出されたのは、大きく深い溜息だった。


「ゴミ処理」


笑顔で言ってのけた男は、ゴロゴロ、足元のそれを転がして遊んでいた。

悪趣味悪趣味、気色が悪い。

換気をするために、台所の換気扇を回す。

それからベランダへ出るための窓も全開にした。


薄暗い部屋の中に新たな明かり。

ぼんやりとした月が部屋の中を見せ付けるように照らして、その惨状を露わにした。

飛び散る鮮血が部屋を彩っている――不快な色だ。


男は醜く歪めた口元で、綺麗になったよ、なんてサイコパスな発言をした。

頭のネジが全て吹っ飛んでいるらしい。

ここまで来ると、恐怖らしい恐怖もなく、呆れ返るばかりだ。


数ヶ月前から付き合っていた男性がいた。

その男性は今、私と男の間で横たわっていて、確認こそしていないが、その息は既に止まっているだろう。

男は相変わらず、それを足の裏で撫でるように転がしながら笑っている。

――ほんの数分前まで生きていると思い、愛していたはずの私の恋人。


これで何度目だ。

もう数え切れない。

その度に部屋の壁を塗り直し、鮮血に塗れた全ての家具雑貨を買い直した。

何度繰り返したのだろうか、何度繰り返していくのだろうか。


「こんなゴミ、君には相応しくないよ」


「……そうね」


「だから言っただろう?僕が一番だって」


私の肯定に、ぱあっと表情を明るくして無邪気に笑う男。

僕が一番君を愛してるよ。

僕が一番君に相応しいよ。

僕が僕が僕が僕が。


うっとりと頬を染めながら、私へと歪みに歪んだ愛情を吐き出すのは勝手だが、その手に持っている血塗れの刃物を下ろしてからにしてくれ。

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