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ジョブチェンジしました

私を見つめる幾つもの目。騎士9人、侍女6人、侍従3人、執事1人、王様1人、正妃さま1人、王太子殿下1人。計22人。

その誰もが、真剣な眼差しで私を見つめている。どうせいつかはバレることだし、長年大人達の欲望蔓延る社交界で公爵令嬢として培ってきた私の勘が、この人達は信用出来ると教えてくれる。

ここはひとつ自分の勘を信じてみますか。……もし失敗だったとしても、トンズラこいて逃げるだけよ。


私はすっとできるだけ優雅に座り直すと、可能な限り余裕があるように見せかけながら傅いた。


「お初にお目もじ仕ります。陛下の御慧眼の通り、わたくしはトワイライト王国リトライン公爵が元娘ルシア・フォン・リトラインと申します。事情があってこの国に逃れてまいりました。」


私は周りの人達から驚愕の視線を感じながらも、まだお許しが出ていないから頭を上げない。背中に抱っこしているフィオが滑り落ちないように気を付けながらも頭を下げ続ける。


「リトライン公爵令嬢?あの、国外追放されたカルクーナ公爵令息の元婚約者のか⁇」

「はい」

「面を上げよ。そなたの話は噂で聞いたことがある。なんでもトワイライト王国では今、1人の女に国の主要人物達の子息が入れ込み、お粗末な理由で自身の婚約者や家族を国外追放や死刑に処すなど、愚かな行為に及んでいる、と。噂は誠か」


はぁ……死刑ですか。

て言うか、近隣諸国まで知れ渡ってるとか…。

もうダメね、あの国。キリト、無理やり正気に戻して連れて来たほうがいいのかもしれない。


「御恥ずかしながら、その通りに御座います」

「ふむ…では、そなたの子供はその元婚約者との子供か?」


あぁ、やっぱり気になるわよね…


「はい。この子は、正真正銘カルクーナ公爵令息の娘です」

「身重の婚約者を国外追放とはなんて残酷な!」


正妃さまがその美しいエメラルドグリーンの瞳に涙を湛え、遠い祖国の元婚約者殿を罵った。

そして、ゆっくり優雅に私に近づいてくると、優しく私を抱きしめた。


「1人で子供を産んで育てて、大変だったでしょう。でももう大丈夫よ。あなたは息子の恩人だもの、これからはわたくし達が、あなたの事を支えます」


この方は、今年で23歳になられたばかりと年が近いからか、いもしない姉に抱きしめられているように感じて、うっかりポロっと涙が溢れた。

溢れた涙の勢いは止まらず、次から次へと頬を伝って柔らかな絨毯の上に落ちていく。


「ぅっ…ひっく…」

「よしよし。もう大丈夫ですからね。」

「これから先、我がトバリ王国は、そなたら親子を歓迎し、出来うる限り助力すると誓おう」


うぅっ…なんですかこの方達は⁉︎

祖国の王族の方達はこんなに優しくありませんでした。

泣きじゃくる私から抱っこ紐を外し、フィオを傍にいた侍女に預けると、正妃さまはポンポンと、リズム良く幼子を落ち着かせるように、私の背中を叩いてくれた。

その暖かな手が、もう声すら思い出せない前世の母と、数ヶ月前までは優しかった今世の母の姿に重なり、また目から涙が溢れた。


騎士や侍女侍従達、それに陛下と殿下も私を温かく見守って下さっている気配がする。


「息子を助けてくれた礼に、そなたに褒美を与えたいと思う。何か欲しいものはあるか?」


どれほど時間が経ったのか、ようやく泣き止みいい年した大人が号泣してしまったのが恥ずかしくて、縮こまっていた私に陛下がそう言った。

ん〜〜欲しいもの、ね。


「でしたら恐れながら申し上げます。先先代の宮廷薬剤師長様がお使いになっていたと言うフルートを頂けませんでしょうか?」


この城に勤めていた先先代宮廷薬剤師長様は、私と同じフルート奏者で、彼女が使っていたとされている美しい星が瞬く夜空の模様のフルートが王立博物館に展示されているのだ。

いや〜あの綺麗なフルートを一度でいいから吹いてみたかったのよ。


「わかった。では、そのフルートをそなたに褒美としてつかわす。だが、ひとつ条件がある。」

「なんで御座いましょう?」

「我が息子、アルディオの乳母を努めて欲しい。」

「乳母、で御座いますか?」


王族の男子には、5歳になるまで専属のナニー(乳母)がつくしきたりがあるから、しっかりされているとはいえ、御年3歳の殿下には確かに乳母が必要だ。

けれど、前の乳母はどうなるの?


「実はな、先程アルディオに毒を盛ったのが、アルディオの乳母で、新しい乳母が必要なのだ。そなたならば治癒魔法も使えるうえに、そなた自身が一児の母だ。出来るであろう?」


陛下のその言葉に正妃さまと殿下が目を輝かせた。お二人は本当にそっくりで、微笑ましい。


「ほんとうですかちちうえ!かのじょのむすめさんもいっしょですか?」

「あぁ、勿論今まで通り子連れで出勤してもらって構わない」


殿下がキラキラした目をそのままに、私に近づいてきた。


「これからよろしくおねがいします!えっと……」


私を本名で呼んでいいかどうか、本気で悩んでいるその姿がとても可愛い。

この可愛い殿下が、祖国のアホ王太子みたいになるなんて絶対ダメ、何としても防がないと‼︎。


「どうぞリュシーとお呼び下さいませ、王太子殿下。」

「わかりましたリュシー。ぼくのことはなまえでよんでください。」

「はい。アルディオ殿下」

「ふふふ、はい!」


というわけで、私ルシア・フォン・リトライン。宮廷薬剤師から王太子殿下専属乳母にジョブチェンジ致しました。




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