婚約破棄→決断
私の名前はルシア・フォン・リトライン。前世の名前は、湯品 梓(ゆしな あずさ)。唐突だけど、私には前世の記憶があります。
前世の私は、公務員の両親とスポーツが大好きな四歳下の弟がいて、そこそこ有名な私立の中学校と高校を卒業し、看護大学に入学して保健師の資格と養護教諭の資格を取得し、東京の高校に就職したその日の帰りに交通事故で命を落とした……はずだった。
目がさめると、目の前にとてつもない美形の男の子がいて、しかもその顔にとてつもなく目覚えがあるのよね…。
こうして、この世界が前世でめちゃくちゃハマっていた乙女ゲーム『奏でる音色は誰が為に』の世界であることに気が付いたのは良いんだけど、一気に色々思い出し過ぎて気絶しちゃった。
取り敢えず、この世界のことを頭の中で纏めてみると、
一、ここは『奏でる音色は誰が為に』の世界で、私ルシア・フォン・リトラインは、最低災厄の悪役令嬢である。
二、先ほど婚約者として引き合わされた少年は攻略対象の一人でカルクーナ公爵家の嫡男キリト・フォン・カルクーナである。
三、この世界での私の立ち位置は、『リトライン公爵家の長女』、『キリト・フォン・カルクーナの婚約者』、『婚約者をヒロインに横取りされて自暴自棄になってしまう当て馬役』の三つである。
四、ルシアには婚約破棄後の自殺、他殺、暗殺、追放、病死、脂ぎった中年豚への輿入れというバッドエンドしか用意されていない。
結論…詰みすぎじゃね?私そんなに嫌われること何かしたっけ?してないよね⁇
取り敢えず、キリト・フォン・カルクーナとヒロインに関わらないようにしよう!
私は恋なんかのために死にたくない‼︎
と、なった訳よ。
で、婚約者とゲームに関わりのあることを避けに避けまくったんだけど…何故かキリトには好かれるわ、来年学園に入学することを避けられないわ、挙句の果てには私自身もキリトを好きになってカラダの関係を持ってしまうわもう散々。
でも、こんなに愛し合っているんだから今更ヒロインの事を好きになって婚約破棄したりしないわよね⁇
そんな風に思っていた過去の自分を叱り飛ばしてやりたい…
「ルシア・フォン・リトライン。君との婚約を破棄する‼︎」
たった今目の前で最愛の人が私にそう言い放ちました。いや〜ゲーム補正って凄いわね!彼、入学前夜まで私しか目に入ってませんって感じだったのに、いざ蓋を開けてみるとたった三ヶ月でこれよ。いやマジで。
あれほど毎日私の事を『愛している』と言っていたその口でそんな事を言われ、しかも身に覚えのない罪(私がヒロインを虐めたとかなんとか)で断罪されて、結果着の身着のまま隣国との国境の森に追放されました。ちーん。
まぁ、大事なものとか必要なものとかは、部屋に置かずにアイテムボックスに保管してますから、別に困ったりしないんだけどね。
あぁそうそう、忘れてたけど、この世界は魔法有り、魔物あり、精霊有り、錬金術に召喚術に何でもありのいわゆるファンタジーな世界で、転生チートなのか何なのか私、魔力が平均男性の50倍はある上に、なぜか主属性は使えないけど、特殊属性を何種類かと稀属性あと神属性も一種類使用可能で、プラス結構いろんな種類のスキルを習得してるチート人間なのよ。
これだけ何でも出来れば、二人で平和に生きていけるわよね。
ん?なんで二人かって?そりゃ、私のお腹に小さな命が宿っているからよ。結果的に裏切られてしまったけど、それでも私はキリトの事を愛してると言い切れる。
それに、何だか様子がおかしかったのよね〜。多分だけど、ヒロインの魅了か何かにかかっているんだと思う。
だから、きっといつかまたあの優しい私のキリトに戻ってくれると思うから、私はこの子とふたり、取り敢えずほとぼりが冷めるまでは森で過ごして、冷め終わったら街に降りて暮らそうかな。
前世で保育士のバイトもしたことがあるから、子育てと家事には慣れてるし、何とでもなるわ。
さぁ頑張るわよ!この子を立派に育て上げて見せるわ‼︎