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抵抗

「や、やめろ! 秋穂!」

 カミラの心臓を口元に近づける秋穂に向かい、俺は叫んでいた。つぎの瞬間、腹部に衝撃が走る。

「黙って見ていろ!」

「がはっ」

 ブラドが俺の腹部に足を乗せ、体重をかける。

「さあ、飲め、喰らえ、そうすれば永遠の命はお前のものだ!」

 だが、秋穂の動きは、目の前に心臓を掲げた姿勢で止まっている。

「どうした。飲みたいだろう。喰らいつきたいだろう。それでいいのだ。さあ、舐めてみろ」

「秋穂! がぁ」

 再度、腹部に走る衝撃。

「黙っていろと言っている。それとも、このまま滅びたいのか」

 再生したばかりの両腕で、ブラドの足を持ち上げようとするが、びくともしない。

 秋穂の両腕が震える。そして…… 両手にある心臓を握り潰した。小さな心臓に詰まっていたとは思えないほどの血液が飛び散り、真紅に秋穂の姿を染める。

「ふ、ふざけないで…… あ、貴方たちみ、みたいに…… ひ、人の命を弄ぶ…よ…な……達の…思い通りに…らない」

 秋穂がブラドを睨み付け、突き立ててあった刀を杖代わりに立ち上がる。肩で息をして苦しそうな表情が浮んでいる。

「ほう、あの状態から、人としての理性を取り戻したか。たいしたものだが、苦しかろう?血を飲めば楽になるぞ。幸い予備もひとつある」

 ブラドが俺を蔑むような目で見る。

 しかし秋穂は、俺を見ると何かを決心した透明な笑みを浮かべた。




 私の中には血を欲する衝動が渦巻いている。少しでも気を緩めれば、ためらいなくレイを襲い、その心臓を取り出すだろう。

 意識にもやがかかったみたいで、はっきりしないが大丈夫、まだ自分自身の意思で動いている。

「ほう、あの状態から、人としての理性を取り戻したか。たいしたものだが、苦しかろう?血を飲めば楽になるぞ。幸い予備もひとつある」

 レイを蔑むような目で見るブラドの言葉を否定する一方で、認めてしまえ。私はもう吸血鬼なんだ。という声が心を揺らす。けれど、私はレイに笑みを向けた。

 刀の刀身を握り、切っ先を自分の胸に向ける。私は一度死んでいる、それが二度になりだけの話。罪の無い人の命を奪ってまで生き延びようとは思わない。

 ごめん! レイ!

「や、やめろ!」

 レイの叫びとともに、両腕に衝撃が走り、刀が地面に転がる。ブラドの蹴りが刀を叩き落したのだ。

 湧き上がる、怒りと攻撃衝動。

 まずい! もう見境なくなってきている。自分でも、いつまで抑えられるのかわからない。 私は攻撃衝動を押さえつけるように、自分自身の身体をギュッと抱きしめる。

「勝手にリタイヤしてもらっては困るな。私とて何千年と捜し求めてきたのだ」

「考えは…… 変わらないわよ」

 精一杯の強がり。今にも意識が跳びそうだ。

「我々は、いや、原種と呼ばれるヴァンパイアからは昼間でも活動できる。人間と変わらない生活ができる。何が気に食わない? 血への欲求も最初だけだ、一度飲んでしまえば、後は血液なしでも生きていける。いや、死ねないというべきか」

 くう、また血への渇望が湧き上がってくる。抱きしめた自分の腕に指をめり込ませる。強化服に穴があき破れた皮膚から血が滴り落ちる。痛みで、その欲求を押さえ込む。その私の行動を、ブラドが興味深げに見つめる。

「くっ…… ハァハァ」

「永遠の若さを、欲しいとは思わないか? 何者をも凌駕する力は? 能力は? それがあれば、思い通りに生きていけるぞ」

 確かに魅力的な考えなのだろう。法とは無縁の所でその力だけを頼りに生きていく。でもその先に待つものは永遠の孤独。

「でも、その生き方をする貴方の瞳は、何故、寂しいの? ……どうして、自分と同じ仲間を求めるの? そんな孤独と引き換えの強さなんていらない」

 ブラドは私の問いに答えない。その代わりにその瞳が揺らぐ。

「私が欲しいのは、私が好きな人たちが私の周りにいてくれること。そのうちに愛する人ができて、その人の子をはぐくみ、子や孫に囲まれて…… 逝く…… そんな当たり前の小さな幸せ」

 そうなのだ。私が本当に欲しいのは、そんなちっぽけなもの…… ちっぽけだけど、それを得るのは難しい。でも、それを得るのに、大きすぎる力もいらない。

 ハンターであることも、大事なことではない。そのちっぽけな幸せの邪魔になるなら、ハンターの地位、力など手放してもいい。その程度のものなのだ。

 地面の上をすべるようにして近づいてきたブラドの手が、私の首筋に触れた。

「娘、半年の猶予をやろう。その間よく考えるのだな」

 私の腰まで伸びた銀髪が抜け、元の黒髪のショートカットに戻る。おそらく瞳の色も元に戻っているだろう。身体から力が抜け、立っていることも出来ない。

「ヴァンパイアウイルスは、休眠させておいてやる。精神的に壊れても困るのでな」

 血を欲する欲求、他者への攻撃欲求が引いていくと共に、私の意識も闇に包まれた。


心臓を破壊されたので、カミラが消滅しました。

(-人-)ナムナム


さて来週で、この金髪のヴァンパイア編 (カミラのことですね)も終了となります。

第3話はサイドストーリー的なものになるので、本編は第4話に続きます。

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