血と暴虐の歌(カンツォーネ)
私は上半身だけになったカミラの腹の上にまたがった。
抵抗しようとする左手が邪魔だ。日本刀を突き立てて地面に縫いとめる。
「ブ、ブラド様、眷属たる私をお助けください」
「ブラドだと」
レイが、カミラが叫んだ名前に驚きの声をあげるが、私の関心は他のことに向いていた。
両拳を固めると、高々と振り上げカミラの胸に振り下ろす。
「やっ、がは、ごっ、がっ!!」
拳を振り下ろすたびに、カミラが獣のごとき悲鳴を上げ暴れる。その拍子に縫いとめられていた左肘から先が切り落とされ灰になって崩れ去った。
抵抗する術を失ったカミラの苦悶の悲鳴と、湿った肉を叩き潰す音、両手に伝わる肋骨を砕く感触に、頬が緩む。
「秋穂! やめてくれ! もう、やめてくれ……」
レイの叫びも私の耳には届かない。そして、頭上に形作られる人影にも、気がつかなかった。
ただ、カミラの漏らす悲鳴と、両の腕に伝わってくる感触に酔いしれる。
もう一度拳を振り下ろすと、カミラの皮膚を突き破り白い肋骨が顔を出した。その破れ目からどす黒い血液が湧き出す。
「た、助けて…ブラド…様…いや、死にたくない…た、すけ…がはっ」
突き出した肋骨を掴み、引き剥くとその辺に放り投げる。放り投げられた肋骨は、地面に落ちると音も立てずに灰となる。
あはっ、カミラが何故、人間をいたぶり殺すか理解できた。この性的快感すら伴う感覚は、癖になる。
「もっと、声をあげてよ。うふふ、絶望の悲鳴を聞かせて…… ね?」
私の言葉にカミラが絶望の表情を浮かべる。今の私にはそれがうれしくてたまらない。
私はもう一本、肋骨をゆっくりと引き抜く。
「がっ、くはっ、ブラド様、ブラド様」
カミラが私の頭上を見上げながら懇願する。その表情すら私に快感をもたらす。
「うふふ、濡れちゃいそうよ、カミラ」
カミラの苦悶の表情が、その悲鳴が、私の身体を熱くさせる。
「ブラド様、ブラド様、がはっ、がふっ」
カミラの胸に開いた孔に指を突っ込み、力いっぱい左右に押し開く。
瞬間、カミラの絶叫が辺りに響き渡る。胸を左右に裂き開かれ、内臓を露出しながらも強靭な生命力を誇るヴァンパイアは死なない。いや、死ぬことを許されない。ただ苦悶の悲鳴を上げ続ける。
「カミラ、よくやった」
頭上から声が掛かる。首だけ声の方向に向けると、30代ぐらいの男が中に浮いている。やや細身の銀髪金眼の男。整った容姿もどこか貴族的な上品さが伝わってくる。
「ブ、ブラド様、お助けください。がぁっ!」
私は頭上に現われた男を無視して作業に戻る。頭上の男のことよりも、カミラをいたぶることのほうが今の私には重要だから。
そして見つけた。暗褐色の力強い鼓動を刻む臓器。その紅い宝石を見て口の中に湧き出した唾液を飲み込み、口の端をなめる。
その私の仕草を見たカミラが、頭上の男に助けを求める。
「ブラド様!」
涙と苦悶の表情で顔をくしゃくしゃにしたカミラ。少し前に、余裕の表情を浮かべ、私たちを見下していた美女はもうそこにはいなかった。
死の恐怖におびえ、絶望を突きつけられた女の姿がそこにある。
「黄金律の血肉を持つヴァンパイアの覚醒。我が幾千年待ち続けた瞬間、お前やそこの若造のような紛い物の真祖ではなく。真に私と同族たる者の覚醒。カミラ、お前は最初の糧となるのだ。覚醒のための糧に」
「そんな…い、嫌…助けて、おねがい、助けて」
カミラの哀願の表情、それすら今の私には快感でしかない。私はカミラの心臓を崩さぬようにすくい上げ、繋がっている血管を切り離した。
「そ、そんな。ブラ…ど……」
カミラの動きが止まり、サラサラと崩れはじめた。完全に灰と化して崩れ去ったカミラの心臓を掲げる。両腕を伝い、紅い血が滴り落ちる。
そして、まだ脈打つその心臓を、ゆっくりと口元に近づけた。
秋穂が怖いです……
ちなみにカミラはまだ生きてます。心臓を破壊されない限りとりあえずは再生可能(一度灰になりますが)です。
では本日の更新はここで終了です。ただ来週の更新は火曜日になります。