銀髪金眼の少女
「くそったれ」
アルセクトは悪態をつく。いつもより傷の再生が遅く感じる。主人クラスのヴァンパイアでは、レイやカミラのように失った四肢を、瞬時に再生するという芸当は出来ない。
「……」
月明かりをさえぎり、少女が金色の瞳で、アルセクトを覗き込んでいた。アルセクトの瞳が驚愕に開かれる。
バカな。気配どころか、足音一つしなかった。ヴァンパイアの感覚をもってしても感知できなかったというのか。
「ハンターの葉月秋穂か?」
金色の瞳に腰まで届く銀髪、外見はだいぶ変わったが面影は残っている。輪廻転生を信じたくなるほど、自分の娘と瓜二つの少女。
少女はコクンと頷いたが、その瞳に感情の波は反映されていない。何も考えていないかのように無表情のまま、アルセクトを見つめている。
「ヴァンパイア化したのか?」
主人クラスのヴァンパイアではない。レイやカミラと同じだとすると、自然発生したヴァンパイア。
ピクン。少女の身体が振るえ。手にした刀をギュッと握り締める。そして、アルセクトの背筋を凍らすほどの邪悪な笑みを浮かべた。
「血の臭い。でも貴方じゃない…… あっちね。見つけた」
少女はアルセクトに背を向け歩き出した。
「ぐはっ」
強烈な蹴りを受けて、俺は瓦礫の中に倒れる。
両腕をもがれ、再生にすべてのエネルギーをまわすが、なかなか再生しない。
血を流しすぎた。再生にエネルギーをまわそうにも、エネルギー自体が尽きかけている。だが、カミラもそれは同じだ、右肩から引きちぎられた腕は、まだ再生していない。
「ふん、ここまで苦戦するとはね。そろそろ貴方を倒して、エネルギー補給しないとね」
ゆっくりと近づいてくるカミラ。
秋穂、ごめんな。俺もここまでらしい…… 約束…… 守れなかったな。
もう一人、弓道着を着た少女の姿が脳裏に浮ぶ。
美月…… 君が救ってくれた命だが、もういいよな? 何の当てもなく、復讐だけを目的に生き続けるのも疲れた……
目も前までカミラが来て、歩みを止めた。
「何か、言い残す事はあるかしら?」
「やれよ。偽善者ぶるのは似合わないぜ。お・ば・さ・ん!」
カミラが憤慨してなにか喚くが、俺は聞いていなかった。静かに目を閉じる。
死ぬのは、いや、元々滅びるべきなのは、俺だったのだろう。秋穂や美月を巻き込んでしまったのが悔いといえる。
「この、覚悟なさいよ」
カミラの声。俺は、死神の鎌が振り下ろされるのを待つ。
だが、いつまでたっても、死神の鎌は振り下ろされない。代わりに暖かい液体が顔にかかる。そして、生臭い鉄の臭い。
目を開いた俺に飛び込んできたのは、上半身と下半身に両断されたカミラの姿と、返り血を頭から被り壮絶な笑みを浮かべた。金眼、銀髪の少女の姿だった。
「あはっ、あははははは、そうよ、この臭い。この血の臭い」
カミラの下半身が、灰となり崩れ落ちる。
「あ、秋穂なのか…」
俺の呟きは少女に無視される。少女は、上半身だけになったカミラの上に乗ると、笑みを浮かべたまま言った。
「私、喉が渇いているの。もう我慢できない。貴女の血、いいえ、命をもらうわよ」
その声は、喜びに満ち溢れていた。
秋穂の乱入であのカミラが、ずんばらりんと真っ二つ(笑
いや笑い事でないし、最後にとんでもないこと口走ってるし。
というわけで、今夜にでも続きを更新します。