刑事依頼
う、気まずい。テーブルの上にはラプサンスーチョンとキャッシュロレーヌが並んでいる。
目の前に居る二人が、今回の依頼人らしいが、ハンターが私と知ってからは無言でラプサンスーチョンをすすっている。
確かに私は、ちんちくりんの小娘よ。高校生どころか中学生に間違われることもあるわよ。だけど、あらさまに困った顔する事はないじゃない。そんな事を考えていると、向こうの方から口を開いた。
「俺は、ニュートウキョウ27分署の田坂だ。階級は警部」
「自分は、同じく27分署の佐藤孝巡査です」
二人とも警察手帳を開いて自己紹介してくれた。
「私は葉月秋保。ヴァンパイアハンターです。登録IDはV776H」
私も、ハンター証を提示してみせる。
ハンター証は、ハンター試験合格と一緒に発行され顔写真と登録IDが記されている。身分証としても使えるし、飛行機、電車、バス、タクシー等の交通機関はこれを提示すると無料になる。そしてハンター協会のスポンサーになっている企業の商品を5割引で購入できる。私用で使う人も居るが、私はよほどのことがないかぎり使わないようにしている。
「経歴は見せてもらった。ハンター試験合格後、実地で立て続けにヴァンパイアを2体仕留めているし、その後も怪我している身でランクCの事件を3件片付けている。今年度、いや、ここ2,3年の合格者で右に並ぶ者はいない」
田坂さんはラプサンスーチョンを一口飲んで続ける。
「だが、顔写真がなかったのでね。こんなチャーミングなお嬢さんだとは思わなかった」
私はその言葉にカチンときた。まるで信用していない口ぶりだ。まあ、確かにヴァンパイアの1体は相棒であるレイの功績なのだが、腹が立つことにかわりは無い。
私は怒りをグッとこらえ、ラプサンスーチョンのお代わりをカップに注いでから、話を切り出した。
「それで、今回の依頼は、キャンセルいたします?こちらとしては、刑事依頼は儲けが少ないので、どちらでもよろしいのですが」
刑事依頼は、モンスターの絡んだ事件に対して、警察がハンターを一時的に雇う事である。場合によっては年契約のも場合もあり、モンスターを退治しても一般依頼の7割程度、長所は必要経費が全額でる事ぐらいと、警察という公的機関の評価はハンター協会の評価よりも上で、活躍できれば知名度はうなぎ上りだ。しかし、ハンターに依頼の拒否権は無い。つまり、協会から指名されたら依頼主である警察がキャンセルしない限り引き受けなければならない。
「まあまあ、葉月さんもそう尖らないで、坂田さんも、口が悪いんだから」
佐藤さんが、慌てて仲裁するが田坂さんはまったく意に介さない。
「今から新しいハンターを探す時間も無いのでな。銃の腕前だけでも見せてくれないか?」
「田坂さん!」
「佐藤。俺たちは、今からこのお嬢さんに命を預ける事になるのだが、こんな書面だけで納得できるか?」
佐藤さんは黙り込んでしまった。
あう。結局この人も見た目で判断するのね。そう思うと、またふつふつと怒りが湧き上がってきた。
「佐藤さん…… 田坂さん…… 」
私は、二人を睨んだ。
「上等よ!ハンターが見た目じゃないと言う事、見せてあげる!」
私の怒鳴り声で、『リーフ』にいた人間の視線が私に集まった。
怒れる秋穂ちゃんで終了でした今回、秋穂の外見について書いたのって初めてな気が(汗
基本的に秋穂の視点ばっかりだからしょうがないといえばしょうがないのだけど。
次回は秋穂の大立ち回りが入る予定。敵は弱いですけどね。
ではまた来週水曜日に。